活動から活躍へ

子どもたちを受け身にさせない。学習内容を定着させたい。そのためには子どもたちの活動量を増やす必要があります。友だちの意見を聞くことも立派な活動ですし、問題を解くことも、グループでの話し合いもすべて活動です。ここで意識してほしいことは、子どもが活躍することです。

友だちの意見をしっかり聞いていても、発表の後「いいですか?」「いいです」では、聞いたことが活かされとは感じません。
頑張って問題を解いたあと、挙手をしたが指名されない、指名された子が答えて、「いいですか?」「いいです」「はい、○をつけて」で終わってばかりでは、だんだんやる気をなくします。
グループの話し合いが終わった後、各グループで一人ずつ発表して終わる。発表しなかった子は自分の考えや意見を評価されたと感じるでしょうか。

子どもが活発に活動しても、ただ活動して終わりでは、子どもの学習意欲は高まっていきません。子どもが「活動する」ことから、「活躍する」に視点を変えていくことが求められます。活躍するとは、他者に認められると言い換えてもいいでしょう。

友だちの意見を聞く場面なら、「今の意見を聞いてどう思った」「なるほどと思った人いる」など聞いたことが活かされる場面や評価される場面をつくることが大切です。時間がなければ、同じ考えの人に挙手させるだけでもよいでしょう。
問題を解いたり、作業したのであれば発表者をできるだけ増やすとよいでしょう。正解が出ても「正解」と言わなければ何人でも指名できます。言葉が足されたり、考えがつけ加えられればそのことを大いに評価するようにすることで、発言意欲も増します。また、机間指導の際に、声をかけながら全員に○をつけることも効果的です。
グループ活動であれば、友だちの意見を互いにポジティブに評価するように指導しておくことが大切です。また、発表の時には、結論を聞くだけでなく、「どんなこと話した」「誰の意見が参考になった」など発表者以外も評価できるような問いかけも必要です。

子どもの活動量を増やすことはとても大切です。その上で、全員が活躍する授業、活躍したと感じられる授業を目指してほしいと思います。

中学校の入学者説明会で講演

先日、中学校の入学者説明会で、保護者の方に子どもの中学期をどう支えるかについてお話をさせていただきました。

今回は、中1ギャップについて多くの時間を割きました。
小学校から中学校への変化は、概ね次のようなものがあります。

学習
・トピック的な学習から体系的な学習へ
→求められる学習量の増大、家庭学習の比重が増す
・定期試験の存在
→大きなプレッシャー、はっきりと評価される

部活動
・部活動が新たに加わる
→体力的に負荷がかかる
・先輩後輩の関係が加わる
→精神的に負荷がかかる

コミュニケーション
・複数の学校から人が集まる
・学級担任中心から教科担任中心
・横の関係中心から縦の関係が加わる

この変化にうまく対応できないと

・学習、部活動についていけない
・支えていた人間関係がなくなる
・新しい人間関係がうまくつくれない
・周囲の仲間から認めてもらえない

といったことが起こり、結果、「自己有用感の喪失」につながります。

学校も小中連携などでこのギャップを埋めようとしていますが、家庭では、子どもの居場所をつくることを大切にしてほしいと伝えました。

・ここにいていい
→存在を無条件に認めてあげる
・自己有用感
→自分の行動が他者にとって良い結果を与えたことが生きがいにつながる
→自分の役割がある

いい子だから愛しているのではなく、何があっても大切な子どもであることを伝える。「あなたの仕事は勉強よ」などと言わずに、家庭内での自分の役割を持たせて、家族の一員としての存在を認める。おこずかいなどの報酬でつったり、「えらいね」と上から目線でほめるたりするのではなく、「○○してくれてありがとう」の一言を大切にする。このようなことを特にお願いしました。

また、保護者と学校が互いに聞き合い、わかってもらう努力をすることで、信頼関係を築き連携することも大切です。お互いの共通の願いは「子どもの幸せ」です。行き違いがあっても、このことを忘れなければ、必ず理解し合えます。このことを強くお願いしました。

限られた時間でどれほどのことを伝えられたかわかりませんが、家庭での子どもの居場所をつくるのに少しでもお役にたてば幸いです。

模範授業から大いに学ぶ

先週末の算数・数学の授業力アップの研修講座でのT先生とW先生の模範授業から多くのことを学びました。

T先生はICT活用でも有名な方です。今後の授業の方向性を考えるということで、デジタル教科書の活用を見せてくださいました。T先生は小学校の経験は少ないのですが、教材の都合で小学校3年生のグラフの授業に挑戦されました。小学校であろうが中学校であろうが、授業の本質は大きく変わりないことがよくわかる授業でした。
デジタル教科書でも教材研究の大切さは変わりません。この教材は風邪を引いた子どもの体温の変化を題材に、グラフの一部分を省略、拡大して変化を見やすくするというものです。体温を題材にしているのは、どの子どもも熱を出した経験があり、何度なら体温が高いという感覚があるからです。その経験から体温が上がっていると感じるのに、グラフからはそう読み取れないというズレを子どもから引き出し、グラフの一部を拡大する必然性を持たそうという展開です。
用意したワークシートにグラフを書かせます。一人ひとり全員に○つけをし、その上で隣同士確認をさせます。
「どう思った」というあいまいな聞き方で、いろいろな言葉を引き出します。子ども役の言葉をしっかり受容しながら、広げる言葉と捨てていく言葉を選んでいます。子どもから、値に対して目盛りの間隔が大きすぎる、グラフの変化がわかりにくいことにつながる言葉を意図的につないでいきます。「あまり違わない」というような発言であれば「何の違い」と問い返します。教師が子どもの言葉をまとめるのではなく、子どもたちに整理させながら、何人にも発言させることで全員に理解させます。

ここで、発問です。教科書は「変わり方がもっとよくわかるようなグラフのかき方を考えてみましょう。」となってグラフが準備されています。これを完成させてから違いを考えさせることになります。これに対して、デジタル教科書はグラフを動的に拡大していく機能があります。T先生はそれを活かして、「変化がわかりにくいから工夫をした」とグラフを動的に拡大して、工夫した人のアイデアを言わせます。子どもの言葉を引き出しながら、何度も見せます。動きを活かして興味を持たせ、出てきた言葉をつなげます。一人が気づいたことをもう一度動かして見せることで確認させます。こうして、全員にどのような工夫がされて、どのようなよさがあるかを共有化させました。

わずか10分余りの授業場面でしたが、デジタル教科書のよさを活かしながら、子どもの言葉を活かす授業とはどういうものかを見事に教えてくださいました。
私の解説で、この素晴らしさを伝えきれたかはわかりません。しかし、解説などなくてもその場で見ていた受講者の方はきっとその素晴らしさを感じ取っていただけたと思います。

W先生の授業は3年生の1より大きい分数でした。自身の経験から子どものつまずくところを意識した、教科書とは少し違う導入を見せくださいました。
子どもは数直線を意識しすぎて、1の長さを等分した最初の部分だけを単位分数として認識しがちです。3等分した最初だけが1/3と考えるのです。そこで黄色のテープとそのテープと同じ長さで3等分の線を引いておいた白いテープを3本用意します。1/3がどこにあるかを問いかけ、左端だけでなく、真中も、右端も1/3であることを押さえます。印をつけたそれぞれを切り離し、黄色のテープに続けて重ねて1となることを確認します。こうすることで、どの部分も同じ1/3という量を表すことを押さえました。
続いて、もう一度黄色のテープを用意し、続いて、今度は1より長いテープ3つを並べたもの(5/4、4/3で4等分の線を引いたもの、5/4で5等分した線を引いたもの)を貼ります。ここで、このテープは1のところで折ってあり、それを広げて見せながら貼りました。1を意識させた動きです。
子ども役から「1より大きい」を引き出しました。この後、何を何等分するということにこだわり、子どもから5等分だけど、単位量である1は5等分でなく4等分されているから、1つは1/4、それが5つだから5/4を丁寧に引き出しました。
子どもの言葉で、ねらいにつながる言葉を復唱し、他の子どもにつなげる。特に大切な言葉は何人にも言わせる。教師のねらっているものが何かがとてもよくわかるものでした。どの子も全員受容はするが、広げる、深める、つなげるものとそうでないものは明確です。また、言葉を引き出すための仕掛けはいたるところにちりばめられています。子どもの言葉で進めているため、一見すると子ども任せにも見えますが、完全に授業をコントロールしています。いつ見せていただいても、くやしいくらい計算されています。

解説のO先生は、その部分を柔らかい口調でわかりやすく、見事に浮き彫りにしてくださいます。一つひとつの場面の意図がとても明確になりました。

お二人の授業を見て、共通点がたくさんあります。子どもの発言の価値づけや、拾う拾わないの判断が実に的確なのです。どうつなげるかの切り返しの言葉もとてもシャープです。T先生はデジタル教科書、W先生はテープ。デジタルとアナログの違いはありますが、その利用の意図も明確です。個性は違ってもよいと思える授業には実に多くの共通点があるのです。今回、研修会10年目の特別企画ということで、とても贅沢な時間を持つことができました。受講者だけでなくスタッフの私たちにとっても学びの多いとても有意義なものでした。T先生、W先生、解説のO先生、そして見事な子ども役を演じてくれたスタッフの皆さんありがとうございました。
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