授業や研修の相談を受ける

私立の中学校高等学校で授業や研修について相談を受けてきました。

英語のベテランからは担当している高校生の基礎力不足について相談を受けました。
表面的に英語を日本語に直すことができても、何を言っているのか理解できない。英語で表現をしようとしても、そもそも日本語力が足りないためにその手前でつまずいてしまうというのです。基礎的な言語能力を鍛える必要があるということです。
言語能力の問題だから国語や英語で解決すべき問題と考えてはいけません。思考の基本は言語ですから、すべての教科で意識する必要があります。
中学校では言語技術を特別の授業枠を取って学校全体で取り組んでいますが、高校ではそこまでのことはできていません。カリキュラムマネジメントが強く言われるようになってきましたが、学校全体の課題として学習の前提となる言語能力などの基礎学力をどのようにして子どもたちつけるかに取り組む必要がありそうです。

高校を担当している数学の若手からは、ある学級で子どもたちの発言が減ってきたことについて相談されました。これまで子どもたちはよく育ってきて、授業中に意見を言えるようになっていたのが、最近になって発言量が減ってきたと言うのです。子どもたちの人間関係がぎくしゃくしてきたように感じているようです。数学の授業だけでどうこうできることではないので、担任や他の先生方と連携を取りながら対応することが大切ですが、とりあえずできることとして、子ども同士が互いに認めあう場面を意図的につくることをアドバイスしました。学年の始めにやってきたことを初心に帰ってやり直すのです。発表された意見に対して「今言ったこと理解できた?」と他の子どもに確認したり、「なるほどと思った人」と問いかけ「どこがなるほどと思ったの?」と聞いたりして子ども同士をつなげることをていねいに行うのです。
子どもの意見を笑顔で受け止めることができる先生なので、意識的に子ども同士をつなぐことで関係をよくすることができると思います。

高校3年生の英語を担当している若手の先生からは、英文の大意をくみ取れる力を子どもたちにつけたいのだが、なかなか上手くいかないことを相談されました。
「どのような課題を与えるのか」と「課題解決のためにどのような活動をするのか」という2つの視点があると思いますが、お話を聞いているとまずは前者がポイントになるように思いました。子どもたちに応じた課題を考えることが大切ですが、英語であるというだけで文を読む力というのは本質的に国語と同じですので、国語の読解の課題を参考にするとよいと思います。まずは、小学校程度の課題から始めてみるとよいでしょう。「主人公の気持ちは?」「それはどの場面でわかるの?」といった物語の簡単な読み取りから、次第に説明文の要旨を問うといったものに難易度を上げていくのです。
また要約を課題にすると、文全体を読み取ってまとめることができずに、一文ずつの逐語訳になってしまったりするそうです。こういう場合は条件を意識するとよいでしょう。要約であれば字数制限をすることで、例え逐語訳をしても、どの文がポイントになるのか意識せざる得なくなります。こういう仕掛けを考えることをアドバイスしました。

国語の若手の先生は前回の授業公開が転機になったようです。
授業公開前のアドバイスを受けて、子どもたちの発言を引き出すことを意識して授業に取り組み、教材研究を続けたようです。その結果、自分なりに子どもたちの言葉を引き出せたという実感を持てたようです。この先生には、小さくてもよいから成功体験が必要であると思っていましたが、それを手に入れたようです。「教材研究の大切がわかった」「まだまだしゃべりすぎることが多いが、授業が終わった後、しゃべりすぎたかどうか自分で気づけるようになった。意識できるようになった」と話してくれる表情からも、そのことが読み取れました。きっかけをつかんだようです。これからの成長が楽しみです。

中学校担当の数学の若手は、昨年までは高校の担当でした。
「高校生は自分から質問をなかなかしてくれないので、一方的に説明する授業になっていたが、中学生はわからないと言ってくれるので、それに対応することで授業のやり方を変えなければならなくなった」と話してくれました。子どもに寄り添って授業をすることの大切さと難しさを感じてくれています。中学校担当になったことがよい刺激となったようです。
授業の視点が、「どう教えるか」から、「どう活動させて、考え、気づかせるか」に変わってきています。その結果、授業づくりの難しさがわかってきたと同時に、授業を組み立てるために必要な数学の基本的知識や力のなさを感じています。例えば実数とはどういうものかを教師がわかっていなければ、子どもの「実数って何?」という疑問に対してうまく対応することはできません。詳しく教えるかどうかは別として、バックボーンとなる数学の知識が必要なのです。残念ながら、最近の数学の先生は、数学の基礎的なことを学ぶことなく教員免許を手にし、教壇に立っている方が多いようです。現場で忙しく過ごしていると体系的に学習し直す時間を確保することは難しいかもしれませんが、子どもの疑問に出会った時に、一緒に考え解決していくことで知識を増やし、力をつけていってほしいと思います。

研修担当の先生と来年度の研修のテーマについて打ち合わせを行いました。
先生方が授業を工夫してきたことで子どもたちの学習に対する姿勢もよくなっていますが、意欲的に学習に取り組もうとしているからこそ、基礎学力の不足が今まで以上に課題として浮上してきているように思います。
基礎学力をつけるといった抽象的なテーマでは、的がはっきりしない研修になってしまうので、「言語技術」「情報活用」に絞ってはどうかと提案しました。「言語技術」「情報活用」と言ってもまだ抽象的ですので、どのような力かをできるだけたくさん例示するとよいでしょう。その上で、教科にこだわらず、学年や校種ごとに子どもたちにつけたい基礎学力を明確にし、教科横断的に取り組むことで実効性のあるものにしていくとよいと思います。どのような案になるか楽しみです。

教師のかかわり方の大切さ実感した研究会

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幾何ツールを活用した中学校数学の授業の研究会に参加しました。1度授業を行った後、検討会を行い、別の学級で再度同じ教材で授業をするというものです。
教材は三角形の各辺上に正方形をつくり、隣り合う正方形の頂点を結んだ図形でどんな性質を見つけられるかというものです。グループに1台ずつiPadが用意され、幾何ツールを使って元の三角形をいろいろと変形させることができます。

最初の授業では、子どもたちに「大発見してほしい」と言って時間を与えます。元の三角形が正三角形の時に残りの三角形が合同になるという性質を見つけたグループをすぐに取り上げて、全体に発表させます。この時、発表に興味を示さないグループもあります。自分で調べることを優先しているのです。授業者は「なるほど」と受けて、他の性質を見つけさせます。一人紙の上で考える子どもいますし、相談しながら考える子どもいます。中にはiPadを一人で独占してしまう子どももいました。多様なかかわり方があるのはよいのですが、独占していることは気になりました。
授業者は図形の性質を考えるときに注目したことは何かを子どもたちの作業中にしゃべります。注目することとして面積も示し、ソフトで面積を測定すると何か見つかりそうと続けました。子どもたちに三角形の面積がすべて同じであることに早く気づかせたいという気持ちが前面に出ていました。
そのこともあり、子どもたちは三角形の面積が等しくなることを割と早く発見しました。すぐに発見したら何が必要かと問いかけ、本当に成り立ちそうかを全体で確認することなく、証明を考えることを課題としました。課題に取り組む前に、根拠として使えそうなことは何か整理して、合同条件、面積の公式、平行線の性質などを出させます。ゴールに向かって一直線です。この日の目標である三角形の面積がすべて等しいことの証明をこの時間内に終わらせようとして先を急ぎ過ぎているように感じました。
しばらくして、三角形の面積を考えるために頂点から垂線を下ろすことをしたもののその後どうするか困っている子どもを指名し、どこで困っているかを発表させ、ポイントを焦点化しようとしました。困り感を共有するのはよいことなのですが、自分で考えている子どもの顔が上がりません。速く進めることを優先したため、子どもたちが十分に自分の考えを追求できていなかったことが原因だと思います。子ども同士、授業者と子どもがつながらない授業になってしまいました。他の学級で事前に行なった授業で、うまく子どもたちから考えが出なかったので、研究授業では子どもたちを誘導しすぎてしまったようです。
子どもたちをとても柔らかく受け止めることのできる方なので、かなりいつもと違う授業だったようです。検討会では、予想通り焦って子どもたちを誘導したため、課題が子どもたちのものとなっていなかったことや子ども同士で考えを深めることができなかったことが指摘されました。授業者もそのことに気づいていたようです。

検討会を受けた次の授業は大きく様子が異なりました。
まず、大発見という言葉は使わずに、「いろいろ見つけて」という表現にしました。そのせいでしょうか、前の授業と比べて子どもたちが幾何ツールに向かって自由にいろいろと試しているように見えました。
今回はここに時間をかけます。子どもたちは飽きることなくさまざまなことに気づいていきます。授業者は子どもたちの動きを見てこの時間でこの時間内で証明まで行くことをやめたようです。
十分に考えさせた後、気づいたことを発表させます。三角形の形に着目するグループや元の三角形の内角とその頂点で接する他の三角形の内角は補角の関係(角の大きさを足すと180°になる)になっていることに気づいているグループもあります。最後に、三角形の面積が等しいことに気づいている子どもを指名しました。「辺の長さが広がると高さが縮む」と感覚的に理由を説明しますが、子どもたちは納得しません。おかしなことを言うという空気が流れましたが、確かめてみると確かに等しくなっています。「えー」「あっ」といった声が上がりました。どのグループもすぐに確認を始めます。面積が等しくなることを確認したあと、「どうしてなの?」と一気に子どもたちの課題になりました。もちろん授業者は意図的にこの意見を最後に出させたのですが、見事に決まりました。
前回の授業と違って、授業者の誘導はほとんどなく、子どもたちの発言が中心で進んでいきます。友だちの考えや説明をどの子どもも集中して聞いていました。補角の関係に気づいた子どもたちは、三角形を回転して元の三角形とくっつけると、それぞれができた三角形を中線で2分したものになることに気づいていました。時間をかけていろいろな性質を見つけたことが活きています。子どもたちの考えが広がりつながる授業となりました。
これがこの授業者の本来のスタイルだと思います。最初に子どもたちに考える時間を多く与えて多様な考えを引き出したことが、授業の深まりをつくり出しました。幾何ツールが多様な考えを引き出すのに役立つことがよくわかる授業でした。

同じ教材でも、進め方の違いで子どもの動きは変わります。あらためて、教師のかかわり方の大切さを実感させられました。授業者にとっても、参加者にとっても学びの多い研究会でした。

工夫あふれる若手の授業

私立の中学校高等学校の研修に参加しました。先生方が子ども役になって模擬授業を行い、その後検討会を行うというものです。

模擬授業は中学校の理科の天文分野で行いました。PCや自作の教材を使った工夫あふれるものです。
最初に天文シミュレーションソフトでスクリーンにこの日の夜空を映し、牡羊座を探させます。星占いでなじみのある星座ですが、実際に意識して見たことがある人は稀です。ソフトの機能を使って星を結んで星座を表示して確認します。自分の誕生日の星座をこの日の夜空で見つけるように指示し、夕暮れから朝までの南側の空を早回しで映しました。見えた人、見えなかった人を挙手で確認して、見えなかった星座は夜空のどこにあるのかを考えさせます。「北側にある」といった意見が出ますが、受容するだけで正解か不正解は言いません。「いつ見えるだろう」と見る月日を変え、5月では見えなかった星座が見えたことを確認しました。しかし、この日には牡羊座は見えません。そこでこの日のテーマを決めました。
身近な星占いの黄道12宮とシミュレーションソフトを上手く使い、あまり星を見ない今の子どもたちでも十分に興味を惹きつけることができそうな導入でした。
授業が始まる前から、黒板の左側には「テーマ」「予想」「検証」と間を空けて書いてあります。これは、理科の実験は、この3つのことを考えるのだということを明示的に示しています。理科の見方・考え方がしっかりと意識されています。
テーマを「11月に見えた牡羊座が5月に見えないのはなぜか?」として、予想を立てさせます。子ども役の先生方も素朴に考えを口にします。導入で自分の星座が見えたり見えなかったりしたことで「なぜ?」と疑問に持てたことが自分の課題になることにつながっているように思います。大人ですので、「見る月によって変わるから公転が関係している」「昼に出ている」といった答が返ってきますが、実際の子どもたちならもっと素直な面白い考えが出てくるのではないかと思います。

実際に検証してみようということで、授業者が用意したモデル(模型)を使って考えます。1日の太陽の動きを理解するために前時に使った道具です。太陽に見立てた電球と日本の位置にくぎが打ってある小さな地球儀です。平面を表わす紙に立てた人形を磁石で地球儀のくぎに貼り付けます。授業者が準備した台紙には月ごとの地球の位置を地球儀の台座の位置で表わしてあります。そこに地球儀を、真ん中に電球を置いて考えるのです。地球儀の台座は地軸の向きを間違えないように長方形の四隅の一つを切り落としています。台紙の地球の位置を表す五角形に台座をピッタリと当てはめると地軸が正しい向きになるのです。余計な間違いを避ける工夫です。授業者の指示で牡羊座の位置を決めてから、検証に入ります。
授業者の指示に従って活動すれば、間違えたり混乱したりしないような工夫がされています。言い換えれば、子どもたちを正解に導き、わからせる授業になっています。時間がかかるのでなかなか挑戦はできないかもしれませんが、あえて不親切にして、子どもたちに地軸の向きを間違えさせるのもよいと思います。中間発表をさせて地軸の向きに焦点化してから再度考えさせることで、正しい向きを判断するためにはどのような事実を根拠にするとよいのかといった科学的な思考を身につけるきっかけになります。

子ども役の先生方の動きは、本当の子どもと似ているように思いました。わかった人は説明したくなっています。身体全体で一生懸命に説明していました。すぐにわかってしまった子ども役は、人形の位置をいろいろ変えてみています。自主的にいろいろと試すことで、新たな疑問がわき、深い学び、探求につながると思います。実際、検討会ではハワイで見た星空の違いと今回の活動を結び付けて疑問を持ったという発言がありました。体験と結びつけて考えるという学習指導要領のねらいが実現されていました。

授業者は子ども役から出てきた考えをそのまま板書していきますが、最後に「公転と位置に注目」「見える夜空が変わる」まとめました。考えるための視点を意識しているはよいのですが、授業者が最後にまとめると、結局それを待つ子どもが出てきます。「みんなの意見をもとに、自分でまとめて」と子ども自身でまとめさせたいところです。

この後、演習問題に取り組ませるのですが、子ども役は自然に先ほど使ったモデルに目がいっていました。相談する姿も見られます。検討会では、モデルが手元にないとできないのではまずいのではないかという意見も出てきました。確かに試験の時には困るかもしれませんが、まずは理解することが先でしょう。モデルが手元にあればわかるのであれば、モデルなしでも考えられるようにするのは経験です。具象と抽象を行き来することは数学などの教科でも重要なことです。様々な場面でこのような経験を積むことが大切だと思います。

今回の授業は授業者の引いたレールの上を子どもたちが進んで実感するものでしたが、授業者が子どもたちとやりとりしながらモデルを使って説明し理解させてから、北極と南極、赤道で見える星座を考え、「共通して見られる星座はあるのか、あるのならどこにあるのか」といった、より難しい課題にグループで挑戦させるともっとよかったのではないかと思います。
単なる演習ではなく、手に入れた知識やモデルを使って新たな課題を解決するような場面をつくると子どもたちがより深く考えると思います。

先生方は、模擬授業をもとに授業検討をするという研修に以前より積極的に参加してくれるようになってきました。今回の授業者の工夫やよさなど、前向きな評価がたくさん語られました。授業を改善することが教育現場に求められていると意識していただけるようになったと思います。先生方の意識の変化が子どもたちの授業評価にポジティブな形で表れてくれば、先生方の授業改善に弾みがつくと思います。12月に行われる授業評価アンケートが楽しみです。

教員生活2年目の授業者でしたが、勢いを感じさせる授業でした。今後どのように授業が変化していくのかとても楽しみです。この先生の授業を次に見る機会がとても楽しみです。
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