算数で計算の結果の解釈を考える

算数で現実に即した問題を解くときは、計算の結果をどう解釈するかが大切になります。

たとえば、「15個のリンゴを1人に2個ずつ配るとすると何人に配れるでしょうか」と「15個のリンゴを2人に同じ数だけ配るとすると1人何個になるでしょうか」を考えてみましょう。式としてはどちらも15÷2となります。答を7あまり1と計算すれば、「7人に配れて1個あまる」、「1人7個で1個あまる」となります。しかし、7.5と計算したらどうでしょう。7.5人には配れませんが、リンゴは7.5個と考えることもできます。1個を半分に割ればいいわけです。現実にはよくある対応です。子どもは小さいから半人前と考えて、大人7人と子ども1人といった答も考えられなくはありません。算数の答としては「?」ですが・・・。「15人が2人掛けの椅子に座ります。2人掛けの椅子は何脚必要ですか」という問題なら、7あまり1で、1人あまるからもう1脚必要で7+1=8で8脚が答です。7.5と計算して、0.5脚は1人掛けと考え、「2人掛けの椅子は7脚で1人用の椅子が1脚」というのも、算数の答としては正しくないかもしれませんが、現実問題としてはありかもしれません。
屁理屈に思えるかもしれませんが、計算の結果は、現実問題として考えるといろいろな解釈が存在するのです。

では、このような問題はどうでしょうか。「35人が椅子に座ります。3人掛けと2人掛けの椅子があります。それぞれ何脚必要でしょうか」。空きなく座るには、(3人掛け,2人掛け)=(1,16)、(3,13)、(5,10)、(7,7)、(9,4)、(11,1)の6組が答えですが、先ほどの2人掛けの椅子の問題の答からすれば、(2,15)、(4,12)、(6,9)、(8,6)、(10,3)、(12,0)も1人分空きますが正解と言えないこともありません。ですから教科書にはこのような問題は出てこないはずです。

今回の指導要領の改定で、算数・数学をリアリティのあるものにしようとする動きが出てきました。計算の結果出てきた答をどのように解釈するかはとても大切な問題です。中学校では方程式の解をどのように解釈するかはとても重要なことです。算数・数学は物事を抽象化していく教科です。それを逆に現実という具体に当てはめるとなると、その解釈がとても難しいのです。その高度な例は物理学における解の解釈ですが、簡単な算数でもわからなくなることがあります。たとえば、リンゴ2個とミカン2個、合わせて4個といったとき、この4個の解釈はとても難しいとは思いませんか。リンゴはリンゴ、ミカンはミカン、異なったものが4個というのは意味があるのでしょうか。もちろん教科書にはこんな問題は出てきませんが。

先ほど述べたようなことを授業で扱えと言っているのではありません。しかし、子どもたちからそのような考えが出てくるかもしれないのです。教師は子どもの考えにきちんと対応することが求められます。子どもの考えを否定するのではなく、できるだけ肯定的にとらえて、子どもが算数・数学への興味・関心を失くさないようにしてほしいのです。そのためには、計算の結果に対してどのような解釈ができるか子どもの視点でいろいろと予想し、その対応を考えておくことが必要になるのです。

教科、分野の「見方や考え方」を明確にする

各教科で身につけさせたい力に、その教科における「見方や考え方」があります。授業を見ていて、その「見方や考え方」を意識した発問や活動になっていないと感じることがよくあります。教科の「見方や考え方」とはどのようなものか明確にして教材研究する必要があります。

たとえば理科の実験で身につけさせたい科学的な見方や考え方はどのようなものでしょうか。知りたいこと、疑問を解決するためには、どのような実験をおこなえばよいのか考える。仮説があれば、どのような結果が出るか予想する。結果から何が言えるか、言えないか考察する。その結果新たな疑問が見つかれば、その疑問を解決するためにどんな実験をすればいいのか考える。こういったものです。
地理的な見方や考え方であれば、国や地方の人々の生活や活動を地形、気候、時には歴史的な背景と関連付けて考えるといったことです。

その上で、教材を通じてこのような「見方や考え方」を身につけるために、どんな発問や活動が必要かを考えることが必要です。これらは、教材ごとに異なるのではなく、その教科、分野ごとにある程度共通のものにできるはずです。
一部の例ですが、理科の実験であれば、「どんな実験をすればこのことが確かめられる」「このほかにどんな実験をすればいい」、地理であれば、「どうしてこの地方ではこのような生活をしているのだろう」「同じような地理的条件のところに共通するものはなんだろう」、また数学であれば、「いつも成り立つの」「どうすればそのことが言える」「成り立たないのはどんなとき」、国語であれば、「本文のどこに書いてあるの」「この表現で筆者が伝えたいことは何」といった発問とそれに伴う活動です。

各教科の授業を通じていろいろな「見方や考え方」を身につけさせることが求められています。まず教科、分野ごとに身につけさせたい「見方や考え方」は何かを明確にし、それを身につけるための発問や活動を具体化してほしいと思います。教科、分野を通じて軸となる発問や活動ができることで、教材研究もよりスムーズに進むようになると思います。

用語や抽象的な概念を理解するための活動

子どもたちにとって、用語や抽象的な概念を言葉の定義だけから理解することはとても難しいことです。試験のために定義をそのまま覚える子どももいますが、それでは身についたとは言えません。本当に理解し活用できるようになるためにはどのような活動が必要なのでしょうか。

1つは具体例からその用語や概念の必要性に迫ることです。
たとえば、正三角形や二等辺三角形といった用語を教えるとき、いきなり定義から始めるのではなく、仲間分けから始めます。活動を通じて、いくつかのグループに分かれることに気づき、それぞれに特徴があることがわかります。これらを区別する必然性ができるので、用語を定義することが自然な流れとなります。子どもの視点で仲間分けの規則も見えているので、それを整理して用語を定義します。

ある学校で、野外活動にむけて、TPOを踏まえた行動をとることを考えさせる場面に出会いました。この時、TPOとは何かから始まっていたのですが、「時(Time)、場所(Place)、場合(Occasion)に応じたふさわしい服装(行動)を選ぶこと」といってもなかなかピンときません。「電車の中で友だちとおしゃべりするときはどんなことに気をつける?」「じゃあ、休み時間の教室では?」「何が違うのかな?」といった具体的な場面での行動を問いかけ、子どもたちが何を意識して行動を変えているかを取り上げます。自分たちが意識していることを整理していくことで「TPO」という考え方にたどり着けます。このようにすることで、自然に用語や考え方を理解することができるのです。

もう1つの方法は、逆に定義を具体的な場面に適用することです。
先ほどの三角形の例であれば、いろいろな三角形を提示してその名前を問います。ここで、大切なのは、ただ名前を言うだけでなくその根拠を示させることです。

「この三角形は何三角形? ○○さん」
「二等辺三角形です」
「理由は?」
「この辺とこの辺が同じだからです」
「何が同じなの?」
「長さ」
「もう一度言ってくれる」
「この辺とこの辺の長さが同じだから」
「同じだから?」
「二等辺三角形です」
「なるほど。だから二等辺三角形になるんだ」
「二等辺三角形ってどんな三角形のことだった? △△さん」
「2つの辺の長さが等しい三角形」
「なるほど、だからこの三角形は二等辺三角形になるんだ」
・・・

中学校の社会科で「ファシズム」の説明を求められた子どもが教科書をそのまま読んでいる場面に出合いました。「反民主主義、反自由主義を掲げる全体主義の政治」といった教科書の言葉を読むだけでは本当にわかっているかどうかは疑問です。こういう場合も、具体的にナチスやファシスト党のおこなったことを取り上げ、どれがファシズムと言えるものなのか、それはこの定義のどこがあてはまるかを考えさせることで、より理解が進みます。その上で、もう一度子どもの言葉で定義し直すと自分のものとなっていきます。抽象化された概念を具体に当てはめることで理解させ、自分の言葉で再構成するのです。

いずれにしても抽象と具体に関連をつけて行き来することがポイントとなります。具体例をもとに抽象化する、抽象的な概念を具体的な場面で活用する。このような活動を大切にしてほしいと思います。
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