若手教師がチームで伸びる

昨日は小学校で若手6人の授業アドバイスをおこなってきました。今年度7回目で最後になります。この日は時間割を工夫して互いに授業を見合うこと中心にしました。

授業がうまくなっていたのももちろんですが、授業を見る力が育っていることに驚きました。完全な授業などありません。どの授業にも課題はたくさんあります。しかし、そんな課題を指摘するのではなく、それぞれのよいところを見つけて、自分に取り入れようとする姿勢で全員が授業を見ていたのです。
子どもたちの関係がうまくいかず苦しんでいる先生もいます。そんな状態の学級を見られたくはありません。しかし、それでも公開してくれました。授業を参観する先生も、この状態ではダメと批判的に見るのではなく、もし自分の学級で子どもたちがこういう状態になったらどうすればいいのだろうと、自分のこととして考えてくれました。彼らがチームとして機能し始めているのです。

彼らと一緒に見た授業で気づきの多かった場面を書き出してみます。

3年生の算数で、問題が解けた子どもに前で○つけをする場面がありました。(前で○つけをするのはあまりよいことではないのですが、)できた子どもたちはうれしそうに先生のところへ向かいます。○をもらった子はうれしそうにしています。間違えた子どもは急いで席に戻りやり直します。中には立ったまま直している子もいます。並んでいる子どもたちもごそごそせずに静かに待っています。学級規律がよく保たれています。授業者は気になる間違いが何人かにあったので、○つけを一旦止めました。次の順番の子どもは○をつけてもらえずにとてもがっかりしていました。説明が終わって再び○つけが始まると一番に○をもらい、今度はにこにこしていました。子どもにとって○をもらうのはとてもうれしいということがよくわかります。前での○つけが続く中、子どもたちに変化が起こり始めました。あちこちで、子ども同士が聞き合っているのです。授業者が何か言ったわけではありません。実に自然な姿です。子どもたちの人間関係がよい証拠です。列が途切れた後、授業者は「まだ○をもらっていない人」と、全員に○をつける姿勢を見せました。これもとてもよいことです。そして、できていない子に個別指導を始めました。その間、○をもらっていなかった子が一生懸命手を挙げて、○をもらえるのを待っています。結局最後まで授業者は気づかずに、時間が来てしまいました。その子はとてもがっかりしていました。
一緒に見ていた先生は、○つけの効果と○をもらえなかったときの子どものがっかりした様子を見て、「○つけをいかす」「必ず全員に○をつける」ことの大切さをあらためて感じたようでした。

4年生の理科の対流の実験で、温めると水の動きはどうなるかを予想する場面のことです。おがくずの代わりに味噌を使うのですが、「温めると味噌が上にいく」、それにつけ足して「味噌がどんどん上にたまっていく」という意見が出ました。もちろん間違いではありますがよい意見です。先生はきちんと取り上げ、「味噌が上がって下がる」という意見ときちん比較しました。もう少し根拠を話し合うとよかったのですが、どんな意見もきちんと受け止めようとする姿勢は立派です。

3年生の音楽の時間の活動量の多さはとても素晴らしいものでした。私が見ていた間、休む間もなく子どもは歌い、リコーダーを吹いていました。すごい密度です。日ごろから活動量が多いのでしょう。子どもたちの演奏も4年生としてはなかなかのものでした。これだけの活動量なので、具体的な目標を明確にして即時評価を意識するともっとよくなると思いました。

6年生の国語の時間では、特に印象深い場面がありました。朗読を聞いた後、各自で読みの練習をするのですが、一人みんなからかなり遅れて読み終わった子がいました。早く読み終わった子は、彼が遅いので少しいらいらしていました。全員が読み終わった後、「さっき朗読聞いたけど、早かった、遅かった?」と聞きました。「遅かった」「そうだったよね。早く読むより、ゆっくり読んだ方がよかったのかもしれないね」と笑顔で語りかけました。最後だった子は、とてもうれしそうにしました。ちょっと集中力に欠けていると感じた子どもだったのですが、私が見ている間ずっと笑顔で集中を切らしませんでした。
また、ペアで音読した時、ペアの相手の読み方をほめる場面がありました。このペアは女の子がちょっと嫌そうにしていたのですが、隣の男の子がほめた時、とてもうれしそうな表情を見せました。こういう場面があることで子ども同士の人間関係がよくなっていくのです。
授業者はとにかくネガティブではなくポジティブにとらえる、ポジティブな言葉に言い換えることを念頭にいつも授業をしているようでした。随所にそのことを感じさせる言葉が出てきます。居心地がよくて、いつまでも居たくなるような学級をつくっています。

1年生の図工の時間です。グループで、友だちの作品のよいところをワークシートに書く作業をしている場面です。なかなか鉛筆が動かない子どもがいました。授業者も気づいたようです。その子のそばに近寄っていきました。どのように注意をするのだろうと見ていたのですが、その子を注意せずに、その場所からグループの他の子に対して支援を始めました。手のついていない子どもも友だちと先生の会話を聞き、鉛筆を動かし始めました。まだ2年目とは思えないとてもよい対応でした。

授業後、全員でこの1年を振り返りました。前向きな言葉がたくさん出てきます。
今までの指摘をきちんとノートに整理し、できたこと、まだできていないことチェックしている先生もいます。教材研究の大切さ、難しさを感じて、しっかり教科書を読み込もうとしている先生もいます。今年はうまくいかなったけれど、その経験を活かして4月に何をしなければいけないのか一生懸命に考えている先生もいます。こういったことを仲間の前でしっかりと言えるのです。
彼らが伸びている理由がよくわかります。チームの形になってきました。校長のフォローもうまくいっている大きな要素です。これからも互いに授業を見せ合い、一緒に教材研究をすることで、もう一段高いレベルに到達してくれると思います。

この1年、私も本当によい学びの機会をいただき、彼らの姿にたくさんの元気をもらいました。ありがたいことです。このような出会いをもたらしてくださった校長にあらためて感謝します。1年間本当にありがとうございました。

学校の到達した場所と次の課題が見えた授業

昨日は中学校の授業研究に参加しました。若手の道徳の授業です。

子どもたちと授業者、子ども同士の関係がとてもよいことがすぐにわかります。参観者にとってもとても居心地のよい教室です。この学校はどの学級もこのようなよい雰囲気になっています。授業研修のお手伝いをさせていただいて4年がたちました。この4年間で授業の基本となる人間関係がきちんと確立されたと思います。先生方の努力の成果だと思いますが、特に教務主任が自らも一生懸命勉強しながら、方向性を持って授業改善に取り組んできたことが大きな力となっていると思います。

この日の授業は、子どもたちに「向上心」を持って生活してほしいという授業者の願いが込められたものでした。人間関係のよい学級ですから、何をやっても授業が破たんするようなことはありません。それだからこそ、何が子どもの中で起こっているかを注意してみないと、授業を見誤ってしまいます。

最初に、自分のあこがれの人を思い描かせた後、相田みつおの詩から、「そこにいるだけでまわりを明るくする人」とはどんな人か、その人は「頭」「口」「手」「足」でどう行動するか、グループで話し合わせました。子どもたちは、どう答えればいいのか戸惑っています。しかし、一生懸命考え、ワークシートを埋めていきます。しかし、一通り意見が出ると活動が止まってしまいました。漠然とどんな人と聞いても、ただ思いついて話すだけになってしまいます。話し合う視点が明確ではないのです。全体の発表の場面では、授業者は一人ひとりをしっかり受容しています。学級がよい雰囲気であるのもよくわかります。しかし、子どもの発言をつなごうとするのですが、子どもたちは自分が書いたことを発表するだけで、なかなかうまくつながりません。友だちの意見は、「そういうのもあるよね」と互いに認めるだけのものであって、それ以上深く考える必然がないのです。そういう状態ですので、なかなか授業者がねらうようなところまで、考えが深まりません。いきおいどうしても発言をまとめようとする切り返しが多くなります。子どもたちは、先生が求める答があるのではないかと、探るようにもなりかねません。

では、どうすればよいのでしょうか。道徳では自分に引き付けて考えることが大切です。ここで問題にしている「そこにいるだけでまわりを明るくする人」が子どもたちとって意味のない人であれば、そもそも話になりません。たとえば、まず、「そういう人ってあこがれる?」「なりたいと思う?」と全体で確認します。その上で、ではそうなるために「あなた」はどのような行動をとるかと問いかけるようにすれば、自分の問題としてとらえることができます。友だちの考えを聞いて、最終的にどういう行動をとるか考え、発表させることで友だちの意見は意味を持ってきます。

最後に、自分はどんな人間になりたいかとその心をワークシートに書いて、何人かに発表してもらって終わりました。子どもたちは、その前の活動に引きずられたのか、深いところからの言葉少なかったように感じました。
前半の「そこにいるだけでまわりを明るくする人」については全体で何人かに発言させ、自分はどんな人間になりたいかを中心にグループ活動をした方がよかったのかもしれません。

授業検討会は柔らかい雰囲気で進みました。この4年間で検討会の雰囲気もずいぶん変化しました。ベテランと若手がうまくかみ合ってきています。若手の授業を見る力もずいぶん上がってきたと思います。
私からは、道徳の授業は「自分に引きつける」「相手の気持ちになる」「自分はどう行動するか考える」ことを大切にして課題や進め方を考えるとよいということ、つなぐためには、その視点を明確にしておくこと(根拠、結果・・・)を話させていただきました。また、学校全体で教室の人間関係ができているから、一つひとつの授業から学ぶことがとても多い。だからこそ、たくさんの課題も見えてくる。これからは今まで以上に授業研究が求められることを伝えました。

今回の授業からは多くの気づきがあり、授業者への個人アドバイスは何時間でもできるほどでした。それは、授業が悪いのではなく、子どもたちがとてもよい状態で、授業者が一つひとつの場面で真剣に考えて進めていたからです。ちょっとした切り返しの言葉にもどうすればもっと子ども言葉を引き出せたのだろうということを考えさせるものがあったのです。今回は前半部分を中心に細かく話をしながら、一緒に考えてみました。通常はこのような細かいアドバイスはしません。指摘や課題があまりに多くなると消化しきれずに落ち込むからです。しかし、授業者が非常に謙虚で、向上しようとする意志を見せてくれたので、指摘が多くても消化しきれると思い、一つひとつの場面を丁寧にアドバイスしました。1時間近い時間、本当に真剣に授業を振り返ってくれました。基本となる部分がしっかりでき上がってきました。次の課題はレベルの高いことですが、きっと乗り越えて素晴らしい教師に成長してくれると思います。

今回の授業は、この学校の今を的確に表してくれるものであった気がします。ベースはできた、次はもう一段上の課題にチャレンジする。そういう段階なのです。しかし、来年度は人事異動がかなり多くなりそうだということです。ひょっとすると今の状態を維持することに追われるかもしれません。多くの学校が苦しむ問題です。
うれしいことに、来年度もこの学校のお手伝いをさせていただくことになりました。私もできる限りのお手伝いをさせていただくつもりです。いろいろな障害があるかもしれませんが、この学校はきっと次の段階に上がってくれると信じています。

教務主任・校務主任会で講演

昨日は、教務主任・校務主任対象の研修会で「授業力を高める校内研修の進め方」というテーマで講演をおこないました。

校内研修では、学校として目指す姿を具体的にすることがスタートであり、そのためにはまず学校の状態をきちんと把握することが大切です。授業をよく見て、子どもの姿から課題を見つけ、学校として目指す姿を明確にし、そこへどうアプローチしていくか考えることが必要となります。
全体での研修を中心にするのか、グループや個人を単位として考えるのか。学校の規模や課題のありようで変わってきます。いずれにしても、受け身ではなく、積極的に参加できるように仕組むこと、一人ひとりの行動につながることが求められます。そして、行動の結果が具体的な成果として見えるようなものでなければ継続的なものにはなりません。そのためには、実践を引っ張る立場の人間がどうすれば目指す姿をつくれるかを知っていなければなりません。

そこで、後半はサブテーマである「学ぶ意欲を引き出す授業」をどうつくるかという具体的な話をしました。
学ぶ意欲を持つ子どもの具体的なイメージをどう考えるかですが、「自ら考えようとする子ども」であり、それは「他者の考えを聞こうとする子ども」「自分の考えを聞いてもらいと思う子ども」でもあります。別の視点で言えば自己の存在が認められていると感じる「自己有用感を持てている子ども」につながります。
そのために授業に求められるのは、「子どもを受け身にしないこと」「子どもの活動量の確保」「考えるための課題」です。そして、意識してほしいことは「聞く」「ほめる」「切り返す」ことです。
これらについて、できるだけ具体的にお話をさせていただきました。

当初の予定よりも時間をいただいたのですが、それでも少し延長してしまい大変申し訳ないことをしました。よい反応をいただいたので、つい余分なエピソードを話しすぎたせいです。伝えたいことを絞って、思い切ってカットするのも大切なことです。授業ではこのことをよくアドバイスするのですが、お恥ずかしい限りです。1度きりの機会ということで入れ込みすぎているのかもしれません。参加された方々に伝えるべきことがきちんと伝わったでしょうか。またの機会があれば、もう少し課題を絞ってより具体的な話ができればと思っています。これからリーダー、管理職として活躍する期間もたくさんある方たちへ話す機会をいただいたことは、私にとってもうれしいことでした。ありがとうございました。

「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の事前検討会

先週末は、愛される学校づくり研究会に参加しました。今回は2月25日(土)に開かれる「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」の第1部のパネルディスカッションの事前検討の会でした。

当日のパネリストの中で参加できる方が集まり、会員が聴衆となって本番と同じように進行をしながら、問題点や事前準備が必要な事柄を洗い出すことが目的です。予想よりも皆さんヒートアップせずに、穏やかな雰囲気で進んでいきます。具体的な実践、エピソードを交えての話は説得力があります。この日の話だけでも十分聞く価値があったと思います。しかし、テーマが「学校のお荷物(学校HP&学校評価)を切り札に」となると、どうしても話が管理職やリーダー向けの話になりがちです。そうではなく、どの立場の人にも納得性のある話にする必要があるという反省が出ました。当日はこのあたりのことを意識した流れになると思います。
各自が事前に用意する資料もほぼ決まりしたが、当日の流れがどうなるかは全く予想がつきません。今回事前に話したことで、当日はあえて違った側面から話をする方もいるはずです。一くせも二くせもあるパネラーと司会者です。どんな挑発があるやもしれません。うっかり乗ればヒートアップすること間違いなしです。会場に隠し玉が仕込まれているかもしれません。
当日はライブ感あふれるパネルディスカッションになることは間違いありません。

検討会の後、当日のスタッフをしてくださる方を交えて打合せです。たくさんの方にこのフォーラムが支えられていることをあらためて感じました。ありがたいことです。
おかげさまで、フォーラムも定員を超える申し込みをいただきました。事務局の方で座席の調整を試みてくれています。若干の定員増が可能かもしれません。興味のある方は問い合わせてみてください。

フォーラム当日まであと3週間を切りました。来場される皆様にとって楽しく、有意義で刺激のある会にするべく、最善を尽くしたいと思います。ご期待ください。

中学校の入学者説明会で講演

先日、中学校の入学者説明会で、保護者の方に子どもの中学期をどう支えるかについてお話をさせていただきました。

今回は、中1ギャップについて多くの時間を割きました。
小学校から中学校への変化は、概ね次のようなものがあります。

学習
・トピック的な学習から体系的な学習へ
→求められる学習量の増大、家庭学習の比重が増す
・定期試験の存在
→大きなプレッシャー、はっきりと評価される

部活動
・部活動が新たに加わる
→体力的に負荷がかかる
・先輩後輩の関係が加わる
→精神的に負荷がかかる

コミュニケーション
・複数の学校から人が集まる
・学級担任中心から教科担任中心
・横の関係中心から縦の関係が加わる

この変化にうまく対応できないと

・学習、部活動についていけない
・支えていた人間関係がなくなる
・新しい人間関係がうまくつくれない
・周囲の仲間から認めてもらえない

といったことが起こり、結果、「自己有用感の喪失」につながります。

学校も小中連携などでこのギャップを埋めようとしていますが、家庭では、子どもの居場所をつくることを大切にしてほしいと伝えました。

・ここにいていい
→存在を無条件に認めてあげる
・自己有用感
→自分の行動が他者にとって良い結果を与えたことが生きがいにつながる
→自分の役割がある

いい子だから愛しているのではなく、何があっても大切な子どもであることを伝える。「あなたの仕事は勉強よ」などと言わずに、家庭内での自分の役割を持たせて、家族の一員としての存在を認める。おこずかいなどの報酬でつったり、「えらいね」と上から目線でほめるたりするのではなく、「○○してくれてありがとう」の一言を大切にする。このようなことを特にお願いしました。

また、保護者と学校が互いに聞き合い、わかってもらう努力をすることで、信頼関係を築き連携することも大切です。お互いの共通の願いは「子どもの幸せ」です。行き違いがあっても、このことを忘れなければ、必ず理解し合えます。このことを強くお願いしました。

限られた時間でどれほどのことを伝えられたかわかりませんが、家庭での子どもの居場所をつくるのに少しでもお役にたてば幸いです。

模範授業から大いに学ぶ

先週末の算数・数学の授業力アップの研修講座でのT先生とW先生の模範授業から多くのことを学びました。

T先生はICT活用でも有名な方です。今後の授業の方向性を考えるということで、デジタル教科書の活用を見せてくださいました。T先生は小学校の経験は少ないのですが、教材の都合で小学校3年生のグラフの授業に挑戦されました。小学校であろうが中学校であろうが、授業の本質は大きく変わりないことがよくわかる授業でした。
デジタル教科書でも教材研究の大切さは変わりません。この教材は風邪を引いた子どもの体温の変化を題材に、グラフの一部分を省略、拡大して変化を見やすくするというものです。体温を題材にしているのは、どの子どもも熱を出した経験があり、何度なら体温が高いという感覚があるからです。その経験から体温が上がっていると感じるのに、グラフからはそう読み取れないというズレを子どもから引き出し、グラフの一部を拡大する必然性を持たそうという展開です。
用意したワークシートにグラフを書かせます。一人ひとり全員に○つけをし、その上で隣同士確認をさせます。
「どう思った」というあいまいな聞き方で、いろいろな言葉を引き出します。子ども役の言葉をしっかり受容しながら、広げる言葉と捨てていく言葉を選んでいます。子どもから、値に対して目盛りの間隔が大きすぎる、グラフの変化がわかりにくいことにつながる言葉を意図的につないでいきます。「あまり違わない」というような発言であれば「何の違い」と問い返します。教師が子どもの言葉をまとめるのではなく、子どもたちに整理させながら、何人にも発言させることで全員に理解させます。

ここで、発問です。教科書は「変わり方がもっとよくわかるようなグラフのかき方を考えてみましょう。」となってグラフが準備されています。これを完成させてから違いを考えさせることになります。これに対して、デジタル教科書はグラフを動的に拡大していく機能があります。T先生はそれを活かして、「変化がわかりにくいから工夫をした」とグラフを動的に拡大して、工夫した人のアイデアを言わせます。子どもの言葉を引き出しながら、何度も見せます。動きを活かして興味を持たせ、出てきた言葉をつなげます。一人が気づいたことをもう一度動かして見せることで確認させます。こうして、全員にどのような工夫がされて、どのようなよさがあるかを共有化させました。

わずか10分余りの授業場面でしたが、デジタル教科書のよさを活かしながら、子どもの言葉を活かす授業とはどういうものかを見事に教えてくださいました。
私の解説で、この素晴らしさを伝えきれたかはわかりません。しかし、解説などなくてもその場で見ていた受講者の方はきっとその素晴らしさを感じ取っていただけたと思います。

W先生の授業は3年生の1より大きい分数でした。自身の経験から子どものつまずくところを意識した、教科書とは少し違う導入を見せくださいました。
子どもは数直線を意識しすぎて、1の長さを等分した最初の部分だけを単位分数として認識しがちです。3等分した最初だけが1/3と考えるのです。そこで黄色のテープとそのテープと同じ長さで3等分の線を引いておいた白いテープを3本用意します。1/3がどこにあるかを問いかけ、左端だけでなく、真中も、右端も1/3であることを押さえます。印をつけたそれぞれを切り離し、黄色のテープに続けて重ねて1となることを確認します。こうすることで、どの部分も同じ1/3という量を表すことを押さえました。
続いて、もう一度黄色のテープを用意し、続いて、今度は1より長いテープ3つを並べたもの(5/4、4/3で4等分の線を引いたもの、5/4で5等分した線を引いたもの)を貼ります。ここで、このテープは1のところで折ってあり、それを広げて見せながら貼りました。1を意識させた動きです。
子ども役から「1より大きい」を引き出しました。この後、何を何等分するということにこだわり、子どもから5等分だけど、単位量である1は5等分でなく4等分されているから、1つは1/4、それが5つだから5/4を丁寧に引き出しました。
子どもの言葉で、ねらいにつながる言葉を復唱し、他の子どもにつなげる。特に大切な言葉は何人にも言わせる。教師のねらっているものが何かがとてもよくわかるものでした。どの子も全員受容はするが、広げる、深める、つなげるものとそうでないものは明確です。また、言葉を引き出すための仕掛けはいたるところにちりばめられています。子どもの言葉で進めているため、一見すると子ども任せにも見えますが、完全に授業をコントロールしています。いつ見せていただいても、くやしいくらい計算されています。

解説のO先生は、その部分を柔らかい口調でわかりやすく、見事に浮き彫りにしてくださいます。一つひとつの場面の意図がとても明確になりました。

お二人の授業を見て、共通点がたくさんあります。子どもの発言の価値づけや、拾う拾わないの判断が実に的確なのです。どうつなげるかの切り返しの言葉もとてもシャープです。T先生はデジタル教科書、W先生はテープ。デジタルとアナログの違いはありますが、その利用の意図も明確です。個性は違ってもよいと思える授業には実に多くの共通点があるのです。今回、研修会10年目の特別企画ということで、とても贅沢な時間を持つことができました。受講者だけでなくスタッフの私たちにとっても学びの多いとても有意義なものでした。T先生、W先生、解説のO先生、そして見事な子ども役を演じてくれたスタッフの皆さんありがとうございました。
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