初任者の授業をもとに考える

昨日は小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環で、今年度第1回目の訪問でした。3人の先生の授業を中心に学校全体を見せていただきました。各学年1学級の小規模の学校です。全体としては落ち着いたよい状態でした。

1年生は、ちょっと大変な子どもたちでした。すぐに集中力が切れる子どもがとても多いのです。また、テンションが上がりやすい子どもが多いのも特徴です。いわゆる、グレーゾーンの子どもたちです。誰かがちょっと声を上げると、それがすぐに伝染してあちらこちらで声が上がります。うっかり、注意をしたりするとモグラたたき状態になって、収拾がつかなくなりそうです。担任はとても力のある先生です。子どもたちの声を上手に無視しています。
ICT機器を利用したりして、場面を変えると子どもたちは集中します。ただ、それが長くは続きません。活動を短いサイクルで変えることが求められます。子どもたちの様子を見て、集中が切れてきたら活動を止めるといったことをしながら、少しずつ集中力をつけていくようにするとよいでしょう。もちろん気になる子どもばかりではありません。よい子どももたくさんいます。彼らは、気になる子どもたちに声をかけてくれたりもします。先生一人で気になる子どもすべてに対応できるわけではありません。こういった子どもの助けを借りることも必要です。とはいえ、声をかけても無視をされることもあるでしょう。そういった時に、気になる子どもを注意するのではなく、声をかけてくれた子どもに「ありがとう」と声をかけることで、よい行動を後押しをすることが大切です。
担任はこういったことをきちんと理解し、意識して学級を経営しています。次回訪問時には、きっとよい状態になっていると思います。

2年生は担任との関係もよく、授業規律も徹底できています。算数の筆算の授業でしたが、ノート指導もとてもしっかりできていました。授業者は実物投影機を使って、計算の解答を子どもに前で書かせます。板書させるよりは効率的なのですが、わざわざ書かせる意味がよくわかりませんでした。解答を書く過程を見せて、途中で止めながら授業を進めるのならよいのですが、書き終ってから見せるのであれば前で書かせる意味はあまりありません。ノートはきちんとかけているので、それをそのまま映せばよいのです。
また、正解を確認するだけで終わるのですが、それでは間違えた子どもは何がいけなかったのかよくわかりません。もし机間指導で全員の正解を確認しているのなら、全体で確認する意味はありません。この場面の位置づけを考え直す必要がありそうです。わからない子ども、間違えた子どもが、わかる、できるようになる場面を意識してほしいと思います。

3年生は初任者が担任です。子どもとよい関係をつくれていることがうかがえます。社会科の「私たちの市のようす」の授業でしたが、地図記号の復習の場面では子どもたちはとてもよい表情でフラッシュカードに答えていました。授業者もこの場面では子どもたちをよく見ていました。
この日の課題は、土地利用図と衛星写真を使って、この市の特徴を考えるというものでした。授業者は2枚の拡大コピーを黒板に貼りますが、同じものが副読本にあります。そこで子どもたちに副読本を開かせます。しかし、これでは拡大コピーを使う意味があまりありません。せっかく黒板に貼っても子どもは下を向いてしまいます。拡大コピーだけを使って授業を進めることができるのであれば、副読本を開かせる必要はないのです。できるだけ子どもの顔を上げることを意識してほしいと思います。
最初の課題が土地利用図の色分けの意味を考えることでした。副読本には凡例があります。考えると言っていますが、結局、凡例を見つけることが課題になってしまいました。子どもたち説明を求めますが、誰の手も上がりません。仕方がないので、凡例を全体で読み上げさせました。子どもたちが挙手をしないのは、凡例そのままで本当に考えたことになっているのかよくわからなかったこと、間違えても大丈夫という安心感がなかったことが原因のように思えます。授業者は子どもの外化に対して受容と評価があまりできていません。間違えてもその発言を受容すること、最後は必ず正解を言わせてほめること意識することが必要です。
授業者は、全体で色分けの確認をする時に、地図を見ながらしゃべっていました。体が一方向を向いて死角ができています。子どもを見ないので、説明に集中しない子どもが目立ってきます。常に全体を見ると同時に、一人ひとりに目線を落とすことが大切です。
市を北、真ん中、南に分けて気づいたことを班で考えさせます。司会と3人の発表者の担当を決めて話し合い活動に入ります。結論を一つにまとめる、まさに班活動でした。また、担当を決めれば、自分の担当以外には興味を示さなくなります。友だちの考えを聞き合って、なるほど思ったら自分の考えに付け足すといった、一人ひとりが仲間の助けを借りながら自分の考えを深め、まとめるグループ活動にする必要があります。結論は一人ひとり違ってよいのです。無理やりまとめると、強い子どもの意見ばかりが通ってしまいます。それでは、人間関係も悪くなってしまいます。初任者ですので、こういったグループ活動の基本を知らなかったのだと思います。初任者研修などで早目に伝えておく必要があると思います。
せっかく衛星写真が用意されていたのですが、ほとんど活用されていませんでした。子どもたちにとっては、気づいたことを発表するといっても、そもそも3つに分けることの意味がわかっていません。逆にそれがわかっていれば、特徴がわかっているということです。課題の設定がおかしいのです。
3年生ですので、資料を見ることにまだなれていません。「気づいたこと」という質問は、授業者からすれば何でも言いやすく、答えやすいように思えますが、聞かれた方は何を答えていいかわかりません。「気づいたこと」で答えられるのは、本当に何を言っても安心な学級と、子どもたちの視点が育っている学級なのです。
土地利用図の色分けを考えさせるのであれば、土地利用図だけを貼って、まずその説明をします。資料を活用する時は、資料の名前や、いつの作成と言った基本情報を伝える必要がありますが、今回は、資料の見方を教えるためにあえて情報はあまり与えないという方法もあります。
「この地図に何が書いてある?」といった問いかけは、資料について子どもにいろいろなことを気づかせやすいものです。習ったばかりの地図記号がありますので、そこにはすぐに気づくはずです。地図記号以外にも、鉄道、駅、といったいろいろなものに気づくはずです。「なるほど」「いいね」と言いながら、どこにあるかを地図で確認します。前に出させて直接示させる方法もあります。言葉で説明させて、先生が指で示す方法もあります。その時「上」といった言葉が出れば、天井を指したりしてぼけて見せるとよいでしょう。地図ですから「北」と方角で言うことを教えるのです。この活動を重視するのであれば、手元の地図を使って隣同士で確認し合う方法もあります。互いに一つずつ言い合って2人でいくつ見つけたかを確認するのです。こうすることで子どもの活動量は増えます。今回の授業で言えば土地利用図の色分けに注目させたいので、そこまでの必要はないかもしれません。
色に気づく子どもが出てきたら、「あっ、確かに○色が塗ってあるね。○色だけ?」と問い返し、全部の色を挙げさせます。「いろいろな色で塗られているけど、それってどういうことかな?」と聞くことで、子どもが発見したことから課題をつくることができます。こうすることで、子どもにとって、自分たちの課題になるのです。この地図では、黒も使われています。気づきにくい色なので、すぐには出てこないと思いますが、出てきたら、「何もないから黒いんじゃないの?」「本当に塗ったのかな?」などと注目させておくと、次の展開が楽になります。この黒で塗られたところはこの市の特産である金魚の池だからです。「黒いところは何もないのかな?調べてみよう」と言って、衛星写真を見せます。「Google Earth」を使って、拡大してもいいでしょう。そうすると、黒いところは池で、その中が区切られていることに気づくと思います。そこで、「黒いところは全部池だね。じゃあ、他の色のところには何かあるのかな?」と衛星写真を使って調べさせるのです。
子どもたちに発表させた後、副読本の地図の凡例を見せて、「ここに色分けの説明が書いてあるね」と言って、「これを凡例と言います」と凡例という社会科の用語と、凡例を見れば、すぐにわかるようになっていることを教えるのです。子どもたちが「金魚」の池だと気づいていなければ、凡例に「金魚の池」と書かれているので、「金魚の池だったんだ。凡例を見ればわかるんだね。中が区切られていた理由がわかったかな?」といったことを言って凡例のよさを伝えるといいでしょう。そして、「このように、その場所が何に使われているかを表わす地図を“土地利用図”と言います」と土地利用図という用語を教えるのです。
「家が多いところにはどのあたり?何がある?」「田んぼが多いところは?」「工場は?」といった発問で、市の特徴を考えさせます。住宅地は駅があることに気づけば、町の発展の仕方がわかります。田畑のそばには川があることに気づけば、農業における水の大切さにつながります。工場は海のそばにあること気づけば、工場の立地条件の学習への布石になります。その上で、「駅はどこにある?」「川はどこを流れている?」「海はどこにある?」といった発問を重ねて、「住宅地は北」「工場は南」「田畑は真ん中」といったこの市の特徴をまとめるのです。こういったことが、私たちの市の「特徴」だと教え、「みんな、たくさんのことに気づいたね」と、気づくとはどういうことかを経験を通じて教えていくのです。
とはいえ、初任者にこういった授業を求めるつもりはありません。まずは、いつも笑顔で子どもたち一人ひとりを見守り、ポジティブに評価することからです。子どもたち全体に対して何をほめたいか、一人ひとりの何をほめたいかを考えることをお願いしました。
素直でエネルギーのある先生です。次回は進歩した姿を見せてくれると思います。

この続きは次回の日記で。
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31