授業力向上研修

一昨日は市の授業録向上研修会の講師を1日務めました。この夏2回目です。半数ほどの方が前回に引き続いての参加でした。今回の私の講演は「学習規律」をテーマにしましたが、模擬授業は特にテーマを決めずにおこないました。

講演では、まず子どもたちが安心して暮らせる学級をつくることをお願いしました。そのためには、目指す姿を具体的に伝える必要があります。具体的でないと、子どもがよい行動を取ろうとしてもどう行動してよいかわかりません。子どもがよい行動を取ってくれなければ、そのことをほめて学級全体に広げることができません。結果的にできていないことを注意することが多くなってしまいます。これでは人間関係を悪くしてしまします。
叱り方は、個人的な問題なのか、学級全体の問題かによっても異なります。個人的な問題を全体の前で叱っても、本人が恥をかくだけで他の子どもは他人事です。ムダな時間を過ごすことになった原因の子どもに対して悪い感情を持ってしまいます。また、謝らせ方も注意が必要です。多くの場合、教師は自分に対して謝らせます。しかし、学級に迷惑をかけたのであれば、友だちに謝る必要があります。こういうことも意識する必要があります。
子どもを認める・ほめることが学級規律をつくるための基本になります。最近は「できない子どもを減らすのではなく、できる子どもを増やす」こと大切にしてほしいとお願いしています。そのための方法が、子どもを認める・ほめるということです。
また、子どもが安心して話せる雰囲気づくりもとても大切です。否定されない保障がなければ、子どもは安心して発表できせません。どんな発言でも必ずポジティブに評価する。たとえ間違えても最後は自分で間違いを直させて、失敗で終わらせない。こういうことが大切です。
このようなことを、具体的な場面を通じてお伝えしました。

この後各グループで、午後の模擬授業の検討です。前回の参加者も多いため、どのグループもスムーズに進んでいました。1つの授業をみんなで力を合わせてブラッシュアップすることは、とても新鮮に感じていただけているようです。皆さんとても熱心に、かつ楽しそうに取り組んでいただけました。

最初の模擬授業は、小学校3年生の道徳でした。学級で仲間外れになっている子どもがいたことを意識しての授業です。ある子どもが耳の不自由な子どもを助けたことで、友だちになっていくという話を元に授業を進めます。この教材を使うにあたって難しいと感じたことがあります。障害のある人とのかかわりが焦点化されると、授業者のねらいとずれてしまうことです。
冒頭で仲間外れになっている人を見かけたらどうするかを考えさせます。それに続く「耳の不自由な子に、あなたならなにをしますか」という発問がちょっと引っかかりました。一つは、授業者は資料の登場人物を「耳の不自由な子」と言ったのですが、世間一般の「耳の不自由」な人のようにも聞こえることです。もう一つは、「耳の不自由」ということを意識させることになるので、「耳の不自由な子」だから、特別に○○するという考えが出てくることです。あとで、仲間外れになっている子どものことを考える時、下手をすると「仲間はずれ≒障害者」というような意識を子どもが持つ心配あるのです。
授業者は前回も参加してくれた方です。子ども役の発言に、意識して「なるほど」と言葉を返していることがよくわかります。「同じ意見の人」と同じ考えの子ども役に挙手をさせます。子ども同士をつなごうとしています。ここで、同じ意見の人にもう一度発言させればもっとよかったと思います。また、机間指導中には余計な言葉を発しません。前回学んだことを素直に活かそうとしています。このような姿勢であれば、授業力は伸びていくことと思います。
この授業の最後の課題が、「これから友だちを増やしたり、もっとなかよしになったりするためには、なにをすればいいでしょう」となっています。たしかに、資料のテーマにそうのであればこれでいいのですが、今回の授業者のねらいとは少しずれています。もう一度冒頭と同じ発問をして、子どもの変化を取り上げると、授業者のねらいに近づけると思いました。変化した、変化しなかった、その理由などを「なるほど、あなたは○○だから、考えが変わったんだ」と教師が評価をしないで復唱し、互いに聞き合うことで、子どもの内面の変化を促すのです。

2つ目は、小学校4年生の国語「ごんぎつね」の授業でした。
子どもに「ごんの行動」と「ごんの気持ち」を表わす場面にそれぞれ線を引かせて、最終的にはごんが「つぐない」をし続けた理由を問うものでした。
気になったのが本時のめあてです。「つぐない」の気持ちを・・・と、「つぐない」という言葉が最初からでています。しかし「つぐない」という言葉はこの段落の途中で初めて出てきます。子どもに本文から読み取らせたうえで、このめあてを出したいところです。
気持ちを表す部分を発表する場面で「・・・あなへ向かってかけもどりました」という一文が発表されました。他の子ども役は「えっ」「?」といった反応をしています。しかし、授業者は「他には」と他の意見を求めました。ここは、「今の意見を聞いてどう思ったか教えて」と聞くべきところです。授業を止めて聞いてみたところ、「この部分が気持ちを表すとは思っていなかった」「そう読み取れるんだ」といった言葉が出てきました。こういうつなぎが子どもの読みを深くしていくことをお話ししました。
授業者は、ごんが栗や松茸を何度も持って行ったのは「つぐない」の気持ちだけでなく、兵十に共感や同情を持っていたからだと気づかせたかったのですが、時間がなくてそこまでは進めませんでした。最後に、確認のため私が「このことはどこでわかるか」と子ども役に聞いたところ、「おれとおなじ、ひとりぼっちの兵十か」という部分をすぐに示してくれました。さすがは先生です。「ごんぎつね」の授業では、「つぐない」ではなく「ひとりぼっち」「さびしい」といったごんの気持ちをきちんと読み取ることが大切です。本文冒頭のごんの様子の描写とあわせておさえておきたいところです。ここで、「ごんぎつね」という作品の読み取りについて少し解説しました。中にはこのことに気づいていない方もいたようです。教材研究の大切さをわかっていただけたのなら幸いです。

3つ目の模擬授業は、小学校5年生の国語の授業です。伝記を読んで自分が「すごい」「見習いたい」と思ったことを書かせた後の、グループでの話し合いの場面です。めあては、「主人公の生き方や考え方について自分の考えを深めよう」です。授業者は「友だちのよいところをたくさん取り入れて、自分の意見をスーパー意見にしよう」と目標を伝えます。残念ながらこの時点で、子ども役はどうしていいかわかりません。自分の考えを発表することはできますが、そのあとどうすれば「スーパー意見」になるのかがまったくわからないからです。「すごい」「見習いたい」と思ったことと、「考えを深める」、「スーパー意見」が全くつながらないのです。授業者の感覚的な言葉だけで明確な評価の基準がありません。このような話し合いはするだけムダというより、してはいけないのです。子どもがただ活動しればそれでよいと考えるようになってしまうからです。「活動あって学びなし」という授業です。
申し訳なかったのですが模擬授業はここで止めて、課題と目標、評価のあり方についてお話をすることにしました。

最後の模擬授業は、中学校の道徳でした。授業者は、給食の配ぜん係が一生懸命やる者とそうでない者に分かれてしまい、両者の関係が悪くなっている状況を何と変えたいと思ってこの授業を考えたそうです。
「明かりの下の燭台」という読み物資料を使います。東京オリンピックのバレーボールで金メダリストを輩出したニチボー貝塚の、選手からマネージャーに転向した人物の話です。
主人公の気持ちを問いかけますが、ただ問いかけただけでは他人事のような意見しかでてきません。子どもが主人公の着ぐるみを着るような発言をすることを目指すことが必要です。そのためには、主人公の立場や状況をできるだけ子どもたちに印象付ける必要があります。教師が範読しながら、「めちゃくちゃ悔しいよね」「こんなんだったらもうチームにいてもしょうがないと思うよね」というように、主人公の気持ちを代弁するような言葉を足したりすることが時に必要です。また、「あなたは、マネージャーで頑張るといったけど、何もいいことないんだよ。それでもやる意味がある」というように子どもの言葉に対して揺さぶることも必要です。しかし、「いい考え」「疑問だ」といった評価は決してしてはいけません。たとえ揺さぶっても子どもの考えはそのまま受け止める必要があります。
大切なことは、「同じ状況でも人によってとらえ方が違うんだ」「ああ、そういう考え方もあるんだ」と子どもが友だちの考えに触れて、自分の考えを見直すことです。授業者のねらいを考えると、最後に資料から離れて子どもたちに本当に考えてほしい場面を設定するとよかったかもしれません。「あなたならどうする」と全員に問いかけて、互いの考えを共有して終わるのです。
道徳とは直接関係ありませんが、この授業者の学級のような状況をつくらないためのヒントを話しました。係活動の結果をポジティブに評価する場面をつくる。友だちから「ありがとう」と感謝される場面をつくる。こういうことを心がけるとよいことを伝えました(係活動の指導参照)。

どのグループも全員がしっかりと授業を検討したことがよくわかりました。自分のグループの模擬授業を見る姿勢や解説を聞く姿勢が、他のグループの時以上に真剣だったからです。皆さんの模擬授業から私もたくさんの課題をいただき、また学ぶことができました。参加した皆さんとこのような機会を与えてくれた教育委員会に感謝です。
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31