互いに学び合えた現職教育(長文)

昨日は、小学校の現職教育に参加しました。模擬授業とグループを活用した「3+1授業検討法」(楽しく授業研究しよう【 第4回 】グループを活用した「3+1授業検討法」参照)による授業検討をおこないました。模擬授業は3年目の先生の算数の授業でした。1年生の1?の数−1位の数で繰り下がりのある場合です。
この学校では模擬授業は初めての経験です。授業者も子ども役も少し緊張気味でした。特に子ども役は、自分は知っていることを知らない立場で演じるのが難しそうと悩んでいます。どうなることかと思っていましたが、ふたを開けてみれば皆さんとても楽しそうにいきいきと子ども役を演じてくれました。どなたも、「こんな子どもいるいる」と思わずうなずいてしまう演技力でした。先生方が日ごろ子どもをよく見ていることがわかります。

授業の導入は実物投影機を使って、予め取り込んでおいた教科書のイラストを提示しました。パン喰い競争のイラストです。ICTを活用することで素早く授業に集中させました。さり気ないですが、理にかなった使い方です。「気づいたこと」と子どもたちに問題の把握をさせます。「とってもいいですね」「早かったねえ」と子どもたちをほめる言葉がとても自然に出てきます。「12」と答えた子ども役に対して、「何が?」と聞き返します。「そうだね、『パン』が12個だね」と授業者が補いたいところですが、ちゃんと子どもに問い返しています。基本がきちんとできています。
パンを7個取った残りの数の計算がこの日の課題です。問題文を全員で読みました。ちょっと声がそろいませんでした。「声がバラバラだったけど」ちゃんと読めたとほめて、次に進みました。全員の口がちゃんと開いていたのでよしとしたのか、時間がもったいないと思ったのかはわかりませんが、もう一度やり直しはさせませんでした。しかし、後であった全員で読む場面では、「今度は声をそろえて読みましょう」と文字を指でさしてリズムを取りながら読ませました。なかなか見事な対応です。もちろん今度はちゃんとそろいました。
何算になるか子どもたちに問います。引き算、足し算に分かれました。それぞれに理由を聞きます。どちらの説明にも「なるほど」と笑顔でうなずきます。「増えるか減るか」を確認します。「もらえる」と取った人は増えることを言う子ども役がいます。軽く受け流して、「減るね。減るときは引き算だね」としました。ここに時間を使いたくなかったのでしょう。「もらえる人は増えるね。じゃあ残りはどうなるかな」と切り返してもよかったかもしれません。また、勇気はいりますが、足し算と答えた子どもに引き算になることを納得したか直接確認したいところでした。

ブロックを使って12−7を計算させます。黒板にブロックの図を貼り、12を並べるように指示します。子どもたちが全員並べ終わるまで待ちます。10の横に置く2個の並べ方が黒板の図と同じになっているかにもこだわっていました。指示の徹底が意識されています。
ブロックを使って計算させた後、どうやったかを実物投影機を使って前で説明させます。最初の子ども役は、10から順番に7個を抜き取りました。次の子ども役は10から5個を一気に抜き取り、それから2個抜き取りました。授業者は「何が違うかわかった」と問いかけます。この授業のねらい、「10から7を引く」という意味では同じです。しかし、子ども役は自分のやり方は違うと考えているのですから、それをちゃんとわかってあげる必要があります。7の中の5をまず取ったことを全体で確認しました。その上で「10のかたまりから取った」ことを押さえました。
黒板に貼ったブロックの図を使って操作しながら、「10から7を引いて、3。3と2を足して5」を全体で言わせます。最初は黒板に貼った話型「□から□を引いて□。□と□を足して□」の紙に数のカードをはめて練習します。続いて、数のカードを取り、最後は話型を見ないで言えるように練習します。そこまでしておいてから、隣同士で説明の練習をさせました。ここで、先生と同じ説明をすることを言ったのですが、押さえが弱かったようです。自分の考え方を説明する子ども役もいました。授業者は困っている子ども役のところにいっていたため、全体の様子が見えません。このあたりの対応が課題でしょう。

練習が終わった後、考え方の確認をしました。「2から7は引けません。大事なところは10から7を引くことです」と押さえます。しかし、「2から7が引けないから」ということはこれまであまり強調していませんでした。10から引くことばかりが頭に残ってしまうと、繰り下がりがないときでも10から引こうとしてしまう恐れもあります。
ここで、一人ひとり順番に説明をさせました。言えた子どもには拍手をします。スラスラ言えない子どもに対しては、うなずきながら待ってあげます。子どもたちを受容することがとてもうまくなっていました。
10−7を計算して3で終わってしまって、3と2を足すことを忘れてしまう子ども役がいました。これもよくあることです。「そうだね。10−7は3であっているよね。今計算したいのは12−7だね。何が足りない」というように、3に何を足すかにこだわるのではなく、何を計算したのかにこだわるとよかったと思います。このとき、他の子ども役が「3と2」と助けました。それを聞きながら答えたのですが、「自分の力でできたかな」と優しく言いました。口調は優しくても、これは非難しているように感じます。そうではなく、「助けてもらってよかったね。じゃあ今度は助けなしで言ってみよう」というような対応ができるとよかったでしょう。

15−6をさくらんぼ図で計算した後、ノートに計算の仕方を書かせます。説明と子どもが写すタイミングをうまくとっていました。授業全体を通じて指示のうまさが印象的です。子どもをよく見ていることが要因の一つだと思います。
10から6を引いて8といったような間違いを子ども役がしても、「10から6を引くと」と復唱して自分で修正させるようにしています。終始笑顔なので子どもが安心して答えることができます。間違えても笑顔で受け止めてくれるので、修正ができるのです。

今回低位の子ども役が多かったせいか、挙手が少なくて指名しようかどうしようかと迷っている場面が多くありました。わかっているけど自信がなくて挙手できない子どももいるはずです。まわりと確認しあって安心させたあとで発表させる。挙手に頼らない指名をして、子どもを受容しながら言葉を引き出し、ほめることで自信をつけさせるといった方法にも挑戦してほしいところです。
とはいえ、まだ3年目でこれだけの授業ができるとはたいしたものです。学ぶべきところがたくさんあります。検討会が楽しみです。

今回のグループを活用した「3+1授業検討法」による授業検討も初めての試みです。皆さんがどのような姿を見せてくれるかとても興味がありました。20分ほどのグループ検討ですが、そのようすはとても素晴らしいものでした。先生方が頭を寄せ合って、互いにしっかり聞き合っています。話を聞きながらうなずいている姿や、笑顔もたくさん見られます。大きな声は聞こえません。皆さんがよく聞き合っていることがわかります。中にはこの授業の話から、日ごろ困っていることに話題が移っているグループもあります。この時間だけでもたくさんのことを学び合っていることがわかります。
発表は、授業者のつくりだす雰囲気のよさ、指示のよさ、ICTの自然な活用、ブロックの図の使い方など多くのよさが発表されました。課題としては、子どもたちが多様な意見を言って整理がつかずに混乱してしまった場面があったことがあげられました。どうすればいいか答えてほしいという私への要望にもなっていました。また、指を使って順番に数を引いていく「数え引き」からなかなか離れられない子どもをどうするかも話題になりました。

私からは、この2点と挙手が少ないときの対応などを話させていただきました。
多様な意見が出てくるのは悪いことではありません。できればすべて活かしたいのですが、授業者としてまず押さえたいものがあるときには、脇道にあまりそれたくはありません。そいう時にはいったんその意見を棚上げするのです。「いい考えだね」「すごいね」とほめた上で、もし扱う予定がなかったら「すごい考えだけれど、ちょっとまだ全員でやるのは難しいね。みんなが今のやり方を完全にマスターしたらやろうか」「これは1年生の考え方じゃないね。すごい。これはもう3年生ぐらいの内容だからその時にやろう」というように先送りしてしまうのです。もし、後からでも扱いたいのであれば、「後でやるから、ちゃんと今言ったこと覚えておいてね」と言っておき、扱う時には、「○○さんがすごい考えを言ってくれたけれど、覚えているかな。○○さんもう一度言ってくれる」と全体に対して発表させて共有化するところから始めるとよいでしょう。大切なのは、たとえ捨てる意見でもポジティブに評価しておくことです。こうすることで、子どもたちが積極的に意見を言うようになっていきます。
「数え引き」の問題ですが、たとえ「数え引き」でも1けた同士と10からの引き算がきちんとできれば、問題はありません。要は10から引こうとするようになればいいのです。ですから、計算をスモールステップに分解して「10−7を計算して」と問いかけます。「10−7で3」「3と2を足して5」というスモールステップごとにまず計算をさせてから、12−7を問うのです。また、1けたの計算と10からの引き算はそれほど組み合わせがあるわけではありません。音声計算練習のようなものを使って、1けた同士と10からの引き算をたくさん練習すれば体が覚えてしまいます。分解して簡単な計算に帰着させることを指導する。簡単な計算をたくさん練習させることで「数え引き」に頼らなくてもできるようにする。この2つを意識するとよいでしょう。

検討会終了後、今年新しくこの学校に赴任された先生方とお話する時間を取っていただきました。この学校のように、子どもを受容しほめることで「できない子どもを減らすのではなく、できる子を増やす」ことを目指している学校では、指示して動かすことが上手な先生ほどうまくいかないことをお話ししました。子ども役を通じて、教師が子どもを受容することのよさ、大切さは感じていただけたようでした。ある先生の学級では発達障害や自閉症を疑われる子どもが多くて苦労しているということでした。20人ほどの学級で5人も6人もいるということです。統計的にはそれほどの割合で発達障害が現れるのは異常です。教師の対応を変えることで随分と落ち着く可能性があることをお伝えしました。具体的には、子どもを叱るのではなく、よい行動に変わったところをほめるペアレントトレーニングを意識すること。指名されたいと盛んに手を挙げたり、先生にかまってもらおうとしたりするような子どもに対しては、何回くらいは我慢できるかを知っておいて、それまでは無視をすること。自分一人で完結している時は無視してもいいが、まわりの子どもにちょっかいを掛けるようであれば、きちんとやめさせることなどです(Dr.横山から学ぶ参照)。すぐに対応を変えるのは難しいかもしれませんが、夏休みをはさむので、比較的やりやすいはずです。ぜひ挑戦してほしいと思います。

模擬授業も検討会もとてもよい雰囲気で進みました。この学校がよい方向に変わっていることの理由がわかった気がしました。授業に対して前向きなだけでなく、授業を楽しもうとしている先生が増えていると感じました。2学期以降、どのように学校が変わっていくかとても楽しみです。私にとっても学びの多い、そして何よりとても楽しい時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
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