終業式前日の授業研究(長文)

先週、終業式の前日に小学校の授業研究に参加してきました。ICTの活用の研究発表を秋に控えている学校です。授業者は3年目の先生です。この時期に研究授業を引き受けることからもわかるように、とても意欲的な先生でした。

授業は6年生の、「順序よく調べ、ちょうどよい場合を見つけよう」でした。
導入にムダな時間を使わず、すぐにデジタル教科書をスクリーンに映しました。子どもたちには教科書を開かせないので、どの子どもも顔が上がっています。問題文を読ませて、問題把握に入ります。大福に2個入りと3個入りがあり、全部で35個買うときの買い方をすべて見つけるのが問題です。買えるかどうかを子どもたちに問いますが、すぐに反応できません。「予想をする」という言葉を授業者は使いました。1組でも条件を満たすものが見つかればそれは答です。「予想をする」という言葉には、1組だけでは正解ではなく、全部見つけて初めて正解だという授業者の意識が感じられます。しかし、この時点で答えが複数出ることはわかっていません。教科書も「それぞれ何個ずつ買えばいいですか」という問いかけで、答が複数あることには触れていません。違和感があります。
首を振っていた子どもがいたので、授業者は指名しました。子どもの反応をよい形でとらえています。後で聞いたところ、この子どもはなかなか発言ができない子どもなので、きっかけをつくりたいと思っていたようです。

3個入りを11個、2個入りを1個と答えた子どもに、どうやって考えたかを問い返します。「なんとなく」計算したという返事でした。この「なんとなく」をもう少し明らかにしたいところです。「35個を3個で割ってみた」「残りが2個だからちょうど買えた」といった言葉が出れば、あとで表をつくるときに活かすことができます。
足して考えて7個と7個という答も出てきました。授業者は「なるほど」と言って他の子どもを指名します。発表した子どもは「違うの」とちょっと心配そうでした。同じ答の人がいるかどうか確認するとよかったところです。7個と7個の説明に「足して割る」という発表もありましたが、授業者は「2つと3つをセットにして」という言葉を使って説明をしました。何を「足した」、何を「割った」と問い返せば、うまく子どもの言葉を活かすことができたと思います。

授業者からキーワード「もれなく、正確に」が出てきました。この言葉を出す前に、「11個と2個でも7個と7個でもいいね。これで全部かな、他にはないか」と「もれなく、正確に」を意識させるような問いかけの場面がほしかったところです。このキーワードはとてもよいと思ったのですが、ここで1度使われてそれで終わってしまいました。「もれなく、正確に」するために、「順序よく調べ、ちょうどよい場合を見つけよう」をねらいとしました。子どもにとっては唐突で、その関連がよくわかりません。「もれなく、正確に」を意識して取り組んだ結果、「順序よく調べる」とうまくいったという流れで授業をつくりたかったところです。よいキーワードを提示しただけに惜しいところでした。

「順序よく調べるために何を使うか?」ということを問いかけます。一部の子どもしか挙手をしませんでしたが、指名しました。「表」という答が出た後、「手は挙げなかったが心の中でそう思った人」と声をかけました。かなりの数の手が挙がります。なかなか面白い対応です。少しでも子どもたちの参加意識を上げようという方法です。しかし、できれば手を挙げなかった子どもが発言できるような機会を設けたいところです。たとえ答が発表された後からでもこれだけの手が挙がります。であれば、最初に挙手させた後、すぐに指名せずにまわりと確認させてもよかったでしょう。きっと自信を持って手を挙げる子どもが増えると思います。
今まで表を使って考えた問題をスクリーンに手際よく映します。この手法は以前この学校での国語の授業で使われたものです。ICTの活用方法としてこの学校で定着していることがわかります。ここでは表の例を見せて、「どんな表にする?」と問いかけたのですが、算数としては、どんな時に表を使うとよかったのかを確認したかったところです。「数がいろいろ変わるとき」「いくつかの値があるとき」「片方が変わるともう一方が変わるとき」といった、表のよさをまず全体で確認し共有したいところです。時間の問題もあるとは思いますが、スクリーンに映した問題を見て、なぜ表を使うとよかったのか、何を表にしたのかを確認できるとよかったでしょう。

どんな表にするかについては、予め授業者が用意した表を黒板に貼って進めていきました。3個入りの数を上の行、2個入りの数を下の行に書き込みます。3個入りが1個のときの2個入りの数を考えます。16という答が出てきます。その説明を子どもに発表させて、35−3=32 32÷2=16と板書しました。ここで、式の説明はしますが黒板には何も書きませんでした。それぞれの数が何を表わすか、ていねいに子どもに問いかけることが必要です。その上で、35に対して「(全部の)大福の数」、3に対して3個入りが1個で3×1として、「3個入りの大福の数」、32に対して「残りの大福の数=2個入りの大福の数」、2に対して「2個入りだから」、16に対して「2個入りの数」ときちんと黒板に残しておきたいところです。授業者は、すぐにそれぞれの箱の大福の数が必要だと、黒板に貼っておいた表を広げました。折りたたんであったところには、「箱の数」とは違った色で、それぞれの「箱の大福の数」の行が隠されていました。表の新しい項目を、式を確認しながら埋めました。
表の項目を何にするかは、とても大切です。3個入りが2個のときはどうなるか、先ほどの式に当てはめて考えさせてみるといいでしょう。「(全部の)大福の数」は35で変わらない。「3個入りの大福の数」は3×2で変わる、「残りの大福の数=2個入りの大福の数」も変わる。2は変わらないが、「2個入りの数」は変わる。3個入りの数が変わるとそれに伴って変わるものは、「3個入りの大福の数」と「2個入りの大福の数」、そして「2個入りの数」です。「変わるものを表にすると見やすい」ことを理由に項目を決めるという進め方もあったのです。この他にも式を確認しながら、「2個入りの数」を知るためには利用する値は、「3個入りの大福の数」と「2個入りの大福の数」であることを理由に項目を決めるという進め方もあります。いずれにしても、表の項目を決める考え方を子どもたちに明確にしておくことが、他の場面でも表がつくれるようになるためには重要です。

ワークシートを使って子どもたちが表を埋めます。一概にワークシートが悪いとは言いませんが、表の項目を自分でつくる、何列にするか自分で考えるといった、表の本質部分をワークシートで与えてしまっているので、子どもたちは表の穴を埋めるという計算をするだけになってしまいました。

子どもたちに表がどのようになったか確認します。3個入りが2個の場合の、他の値を確認します。2個入りの数が14と15に分かれました。その他にも14.5という答が出ます。残り29個で偶数にならないから買えないという声もありました。ここはそれぞれの理由をていねいに子どもたちに確認したいところでしたが、授業者が買えないと説明して終わりました。14の時には1個足りない。14余り1という割り算の余りの意味がよくわかります。15にすると1個余りますが35個は買うことができます。他に方法がなければこれが正解です。しかし、35個をピッタリ買う方法が少なくとも2つ確認できているのですから、これは答としてはふさわしくありません。14.5の0.5の意味を考えると1/2ということです。半分で売ってくれる、つまり1個をばら売りしてくれるのならこれも正解です。普通の和菓子屋さんでは、1個でも売ってくれそうです。しかし、教科書の絵は箱だけが並んでいてばら売りはできそうもないように描いてあります。ばら売りしてくれないようだからかダメだということなのです。せめて、このようなやり取りはしたいところです。

表を同じ項目ごとに横に埋めていた人がいたことを取り上げました。どうやって埋めたかを問います。指名した子どもは、「3個入りの大福の数」を埋めるのに、3と3倍という言葉が出てくるのですが、上手く説明できません。3ずつ増えることと3倍していることが混乱しているようです。授業者はその子ども考えがわかる人と問いかけました。なかなかよい対応です。実際には他の子どもを指名する前にその子どもが、「3倍ずつになっている」と整理しました。それを受けて授業者が、最初が3で次は6で次々3倍していると説明しました。ここは「何が3倍になっている」と確認して子どもに説明させたいところです。授業者は横にしか注目させませんでしたが、「3倍ずつ」ということは「3個入りの数」の「3倍」ということですから、上下に見ているのです。「3個入りの数」が1、2、3、・・・と1ずつ増えているので「3個入りの大福の数」が3、6、9、・・・と「3倍ずつ」となっているのです。先ほど述べたように式を見ながら変化する値は何かを押さえていれば、それを使って各項目を横に埋めていくことの説明がしやすかったと思います。時間のこともあって、3ずつ増えるという考えは取り上げずに終わりました。

表を埋めて、答の組み合わせは(1,16)、(3,13)、(5,10)、(7,7)、(9,4)、(11,1)の6組であることを確認しましたが、「もれなく、正確に」という「もれなく」の確認はしませんでした。「本当にこれだけ?」「他にない?」「絶対?」という押さえがなかったのです。3個入りの数が12以上は調べる必要がないことを確認していないのです。このことが次の展開にも影響しました。
授業者は最初の予想の時には2個入りを上に、3個入りを下にして、1と11、7と7を書きました。しかし、表は3個入りを上に、2個入りを下に書いていました。その理由を問うたのです。これはかなり無理のある展開です。表をどれだけ書けばいいかということをそれまで全く論じていないのに、「大きい数を上に書くと表が小さくなる」ということに気づくことは難しいからです。結局結論だけを言って、その理由はきちんと説明しませんでした。3個入りを元に考えれば、11≦35÷3<12だから11まで調べればいい。2個入りを元に考えれば、17≦35÷2<18だから17まで調べればいい。このことをきちんと押さえなかったのです。これでは、子どもたちは表を書くときは大きい数を上に書くと覚えてしまいます。全体的に、考えることではなく、解き方を覚える授業になっていたのが残念です。
授業者は、ここで3個入りを上に書いた(元にした)表と2個入りを上に書いた(元にした)表をスクリーンに同時に映しました。その大きさの違いは一目瞭然です。ICTの使い方としては有効なものですが、このことを実感させるのであれば、2種類の表を子どもたちにつくらせて実際に自分で確認した方がよかったように思います。

練習問題を始める前に、教科書を開かせました。その後スクリーンに教科書を映しました。問題の説明をしますが、最初と違って子どもたちの顔はあまり上がりません。手元に教科書があるからです。問題把握を全体でするのであれば、教科書を開かずに進めたほうがよかったように思います。
授業者はすぐに表を書くところから始めましたが、まず問題を解いてみることで表の必要性を確認することが必要です。今日は表を使って解いているから表をつくるでは、問題解決能力はつきません。まず、問題を解くにはどのような計算をすればよいかを確認し、変化させて考える必要がある要素を見つけて、表をつくる必然性を押さえる。その上で、表の項目を決めて、式を元にして効率的に表を埋める。そういう流れを大切にしてほしいと思いました。

算数的にはいろいろと注文もありましたが、子どもをとてもよく見て授業を進めていました。子どもの発言に対する対応もなかなかのものです。しっかりと聞き、子ども同士をつなぐことも意識しています。「○○さんの考え方、やり方」といった固有名詞を使った表現も意識して使っていました。子どもの考えを活かしたいという気持ちの現れです。残念なことは、挙手する子ども、発言する子どもだけで授業が進んでいく傾向が強いことです。また、友だちの考えを全体で共有できていないと感じる場面もありました。隣同士で確認したり相談したりする場面などをつくることで、どの子どもも参加できるようにして受け身の場面を減らしてほしいと思いました。

授業権検討会の前の時間に学校全体の様子を見せていただきました。
全体的にちょっとしたことで子どもたちのテンションが上がる傾向を感じました。一方では、読書をするといった場面では落ち着いています。注意をして規律を保とうとする先生が多いように感じました。
特にテンションが上がりやすそうに感じた学年の全体集会があったので、見学させてもらいました。学年主任が全体進行していきます。予想に反して子どもたちはとても落ち着いて話を聞いています。見事なものでした。柔らかい表情と子どもたちをほめることで、上手に規律を保っていました。こういった姿勢が学校全体に広がっていけばとてもよいと思います。

授業検討会では、授業者の子どもの発言に対する対応のよさやICTの活用が効率的でわかりやすかったことが話題になりました。
私からは、笑顔で子どもを受容することの大切さやポジティブに評価することの意味について。子どもの挙手が少ないときにはすぐに指名せずに、子ども同士のかかわり合いをうまく利用してほしいこと。ICTの活用に関しては、何をねらうかをはっきりさせて使うこと。算数の授業としては、どのようなときに表を活用するとよいのかといった、メタな知識を意識することなどを話させていただきました。どなたにもとても集中して話を聞いていただけました

検討会終了後に授業者と長時間にわたって話をすることができました。課題意識を持って授業に取り組んでいます。積極的に質問もたくさんしてくれました。前回私が見たときと自分の授業が変わっているかを訊かれました。もちろん、多くの進歩が見られました。だからこそ、指摘することがたくさんあったのです。ICTの活用についても積極的に取り組み、それが故に悩んでいることも多いようでした。ノートの一部分を実物投影機で見せて、友だちの考えを想像する、理解するといった使い方を紹介したところ、とても興味を示してくれました。これに限らず、話の中で挑戦したいこと、研究してみたいことがたくさん見つかったようです。夏休みの課題が見つかったと喜んでくれました。夏休み明けには、きっといろいろなことに挑戦してくれることでしょう。どのような変化を見せてくれるかとても楽しみです。授業者の前向きな姿勢に私もたくさんの元気をもらいました。ありがとうございました。
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