学校が変化する兆しを感じる

中学校で授業参観と授業研究に参加しました。3年ほどおつきあいしている学校ですが、今年度初めての訪問でした。初任者、異動者を中心に授業を見せていただきました。

全体的に教師がしゃべりすぎる傾向が強くありました。一問一答で、子どもが答えるとすぐに説明を始めたり、板書したりする。そういう授業が多いのです。子どもたちはムダ話などしませんが、集中力は続きません。受け身の時間が長いと、みるみる集中力が落ちていくのがわかります。
指示をしても、徹底するまで待たずに進んでいきます。数人しか挙手をしないのにすぐ指名し、正解であれば説明をして次に進む場面にも多く出会います。一部の子どもだけで授業が進んでいき、傍観者になってしまう子どもが目立ちます。また、受け身の反動か、順番を決めるのにじゃんけんをするといった、考えなくてもいい場面で異様にテンションが上がったりもします。
たまたま異動者の授業を多く見たからかもしれませんが、全体として昨年度と比べて授業があまりよい方向に変化していないことが気になりました。

授業研究は1年生の数学の授業です。分配法則を使った文字式の計算の場面でした。指導案の単元についてには、子どもたちにどうなってほしいかが細かく書かれています。授業者の思いがよくわかります。実際に子どもたちの姿がどのようになっているか楽しみです。
授業は、音声計算練習を一つの柱にしていることがよくわかりました。4月から続けているのでしょう。子どもたちもスムーズにおこないます。通常、音声計算練習は、1枚の紙の上下に問題と答が印刷してあるのですが、この学級では1枚の裏表に印刷したものを使っていました。それを、チェックする側が手に持って、相手に見せて進めています。面白いやり方です。ペアでおこなう必然性があります。互いにかかわり合わなければ成り立たないように仕掛けられています。紙を持つ側が下から覗き込むようにしている姿もたくさん見られました。相手に見やすいように紙を傾けているからです。子ども同士がよい関係にあることがわかります。相手の読み上げる答をペアがしっかり確認している姿が見られました。目標達成したかどうかをペアの相手が挙手します。これもよい方法です。この学級の雰囲気がよい理由がわかった気がします。
3x×5を「どうやって計算しますか?」と前時までの復習をしました。「どうやって」は(3×5)xという計算の手順なのか、結合法則と交換法則を使うというその根拠なのか曖昧な問いかけです。ここでは計算の手順を求めていたようです。できるだけ、何を求められているか明確にした問いかけを心がけるとよいでしょう。
割り算での分配法則の例を説明する場面で、指名された子どもが上手く説明できませんでした。ここで他の子どもに説明させたのですが、全員が理解したかどうかよくわかりませんでした。子どもたちから拍手が起こったので次に進めていきましたが、これは危険です。全員が拍手したわけではないし、またまわりにつられて拍手しただけかもしれません。拍手した子どもを指名して、どこで納得したか説明させるべきです。
他の子どもが自分の考えを説明するのではなく、「○○さんの考えを代わりに説明できる人」と上手く説明できなかった子どもを助けるように働きかけ、「○○さん、今の説明であなたの考えにあっている?」と本人に確認するとよかったと思います。
この授業の主の活動は、自分たちで音声計算の問題をつくることでした。個人でつくった問題をグループで共有し、その問題を使ってで音声計算練習をするというものです。日ごろ自分たちが一生懸命取り組んでいる音声計算練習です。子どもたちはとても集中して取り組みました。答に自信のない子どもはペアだけで確認するように指示します。あえてペア「だけ」と限定したころに、授業者の思いを感じます。まわりの人とすると、どうしても話しやすい人に声をかけることになります。座席を変えて日が浅いこともあり、あえて限定することで人間関係をつくろうというのです。授業で人間関係をつくろうとしていることがよくわかります。
グループになって、互いの問題をまわしながら写していきます。グループの形に移動する動きが素早かったのが印象的です。子どもたちのやる気を感じました。時間を切って友だちの問題を写しますが、作業の時間に差があります。時間内で終われない子どもがいたので1分延長しました。これは、すでに終わっている子どもにとってはムダな時間です。1回りするまでは時間で区切って、最後に時間を与えればよかったと思います。子どもたちの関係はよいので、写せていない子どもは友だちに見せてもらえばいいのです。終わった子どもはその時間で完成した問題を練習すればムダな時間はありません。
自分たちの問題での音声計算練習は、とてもよく集中していました。中には、とんでもなく計算が面倒な問題をつくった子どももいたようです。子どもから不満の声が上がります。しかし、決して作者を非難するような声ではありませんでした。一度、グループで音声計算練習にふさわしいように修正する作業を入れてもよかったと思います。他のグループと問題を交換しての練習もとても集中していました。子どもたちが興味を持って、互いにかかわりながら集中して授業に参加していました。授業者の願った姿を見ることができました。
私には、1学期間続けた音声計算練習と、それを元に育てた子どもの姿を見てほしい。そういう授業に見えました。数学の授業として、この単元ではもっと別の活動もあったのではといった意見もあるかもしれません。しかし、子どもたちのこのような姿を学校全体で共有したことに大きな意味があるのだと思います。授業者は、昨年は小学校から異動されたばかりで、中学校での授業に戸惑いを見せていた方です。自分の目指す授業の方向性が明確になったのだと感じました。
今回の指導案は、潔いと言っていいほど余分なものが削ぎ落されていました。人に見せる授業であれば、もっといろいろな活動を入れたいと思うのが人情です。それをここまでシンプルにするには、かなりの時間を指導案の検討に割いたはずです。聞けば、数学の教科部会だけでなく、研修部会も一緒になって検討した結果だそうです。チームワークのよさが授業からも伝わりました。
授業の最後に校長が子どもたちに話をしました。この日は、この学級だけが残って1時間授業をしましたが、とても集中して頑張ってくれたので、次の定期試験の前に1時間早く帰れるようにするというのです。子どもたちはとても喜んでいましたが、それは早く帰れることよりも自分たちの頑張りが評価されたことに対してのように見えました。即時評価の大切さを知っている校長の粋な対応でした。

授業検討会では、若手・中堅を中心に、この授業のよさを子どもの姿を通じて具体的に指摘する声がたくさん上がりました。先生方の授業を見る視点が変わってきているのを感じました。子ども同士のかかわり合い大切にしようという姿勢を感じます。中身の濃い検討会だったと思います。
私からは、全体に対して、友だちの発言を聞くより先生の説明、先生の説明より板書を写すことの方に価値があると子どもが考えていること。指示に対して確認が甘くなっていること。わかった子どもだけで授業が進んでいること。何がゴールかという目的・目標が子どもたちにとって明確でないままグループ活動が進んでいること。子どものプライベートな発言を取り上げすぎることなどをお話ししました。

この日は、懇親会を催していただいたのですが、それまでの間に何人もの方がアドバイスを聞きに来てくれました。
初任者には今何を学ばなければいけないのかについて少し時間をかけて話させていただきました。夏休みは勉強のよい機会です。積極的に学ぶことをお願いしました。
初任者以外に来てくれた方は、みなさんアドバイスを求めるというよりも、現状の報告でした。昨年度に時間をかけてお話した方ばかりでしたが、皆さんその後自分の課題を意識して授業に取り組んでいただいたようでした。どなたも「授業が楽しい」ということを言ってくれました。子どもたちがよい方向へ変わってきている手ごたえを感じているからのようです。そのことをとてもうれしく思いました。それぞれにまだまだ課題がありますが、前向きに向かおうとしてくれています。この姿勢で授業に取り組んでいただければ、間違いなく授業力は高まっていきます。
授業参観では授業の変化があまり感じられませんでした。しかし、授業研究といい、この先生方の報告といい、この学校がよい方向へ変わっていく兆しを感じさせてくれました。

懇親会では、とても楽しい時間を過ごすことができました。
先ほどの数学の授業者からは、音声計算練習やフラッシュカードを使って授業を組み立ているが、どうしても教科書の問いや練習問題の時間が足りなくなってしまうという悩みを相談されました。せっかく音声計算練習をしているのですから、それを活かすことをアドバイスしました。具体的には、教科書の問題で授業中に取り上げるものを精選するのです。どの問題ができれば理解したといえるかを考えて選ぶのです。教科書をしっかりと読み込むことが求められます。その上で、授業中に扱わなかった問題を音声計算練習に入れるのです。そのことを伝えれば子どもたちは授業中にすべての問題を扱わなくても不安に感じませんし、より音声計算練習に力を入れると思います。
これ以外にも授業についてたくさんの方と話す機会を持つことができました。改めて授業に前向きに取り組んでいる先生が多いことを実感することができました。

校長は今年異動したばかりですが、学校の授業力向上にとても意欲的な方です。積極的に授業を見る姿勢からもそのことがよくわかります。また、教務主任は、昨年は新任ということでなかなか思うよう動けていないように見えたのですが、今年は自分のなすべきことが明確になっているように感じました。授業検討会などでも積極的にまわりをリードするような動きを見せてくれました。異動して来られた校務主任は、初任者の指導員も兼ねておられました。初任者と共に授業を参観している時に、初任者が悩んでいることを私への質問の形で上手に取り上げてくれました。育てようという意識を強く感じます。教頭は派手な動きではありませんが、しっかりと学校全体を支えています。今後、4役がよい形で連携していけるのではないかと感じました。

個人が頑張るのではなく、チームとして、組織としての動きが感じられるようになってきました。この学校が変わるための基礎ができつつあるように思います。これからどのように変わっていくのかとても楽しみです。先生方と充実した時間を過ごすことができたことを感謝します。
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