教科で練り上げた授業から大いに学ぶ(長文)

前回の日記の続きです(小学校で授業アドバイス参照)。
中学校で授業参観をしていて感じたことは、指示がまだ徹底できていない場面が目についたことです。「手を止めて」「鉛筆を置いて」と区切りをつけることは意識しているのですが、全員ができるのを待てずに進んでしまいます。待たなければいけないことはわかっているのですが、時間のことを考えると待ちきれないのです。しかし、全員に徹底できないと指示が通らなくなっていきます。ただ待つのではなく、素早い行動をうながすことが必要になります。早くできた子どもをほめる、遅い子ども、気づいていない子どもにまわりが声をかけるようにうながすといったことです。子どもが声をかけてくれたときは、「気づいたね、ありがとう。声をかけてもらってよかったね」「声をかけてくれてありがとう」と双方をほめることを忘れないようにしてほしいと思います。子ども同士の人間関係をポジティブなものにしたいからです。

グループ活動で子どもたちがムダなおしゃべりをしている場面が目につきました。グループで活動する必要を感じていないからです。理由はいくつかあると思いますが、この課題を考えることが何につながるかという目的・ゴールが明確でないことがその一つです。指示されたことをやっているがどこに向かっているのかわからない、ミステリーツアーが多いのです。また、グループ活動が終わったあと、子どもたちに答や結果だけを聞いて、どのようなことを話した、聞いたというグループ活動の中身を問わないことも理由のように思います。答しか問われなければ、それを説明したり、理解したりといった活動は低調になってしまうからです。
グループ活動の目的やねらいを授業者が明確にして、グループ活動を子どもたちにとって必然性のあるものにする必要があります。
また、グループ活動の時に子どもたちの机が離れている学級がありました。どのグループにも1人か2人、机をぴったりくっつけない子どもがいるのです。子どもたちの人間関係に何か問題があることがうかがえます。授業者が机をくっつけるように指導するとともに、子ども同士のかかわりをうながすことが必要です。グループ活動にこだわらず、子どもたちが友だちとかかわってよかったと思うような場面をつくることを心がけてほしいと思います。

主となる課題に取り組までの時間が長い授業をいくつか目にしました。子どもの授業に対する意欲は授業が始まった直後が一番高いと言われます。その一番いい時間をムダに使わないためにも、課題に取り組むにあたって事前に押さえておかなければならないことを、授業者がきちんと整理しておくことが必要です。

子どもを受容しようとする姿勢を感じられる先生が増えてきました。子どもの発言を評価したり、うなずいたりする場面に出合います。しかし、まだ笑顔が少ないように感じました。教師の表情が柔らかくなると子どもの表情はもっとよくなると思います。
子どもの発言を受容するのですが、発言を受けてすぐに教師が説明して板書をしてしまう、一問一答が目立ちます。また、同じ考えの人とつなごうとしても、うまく発言がつながらないと我慢できずに教師がしゃべりだす場面にも出合いました。発言がつながらない理由の一つに、最初の発言を全員で共有できていないことがあります。聞く姿勢をつくる、時には丸ごと復唱するなどして、まず友だちの発言をしっかり理解させることが大切です。
挙手が少ないままに指名することも気になりました。数人しか挙手しないのであれば、ちょっと考える時間を与える、まわりと相談させる。挙手した子どもに「どこでわかった?」「どこに注目した?」といったヒントを出させるなどの対応が必要です。子どもたちが受け身で教師の発する正解を待っていることのないようにしたいものです。

個別にはよい授業、よい場面がたくさんあるのですが、それがまだ学校全体のものになっていないのが残念です。

面白い授業がありました。理科でメダカの血流を観察するための実験です。
実験はいくつかのステップに分かれています。わかりやすくするために、指示をステップごとに示して拡大コピーしたものを準備していました。それをもとに1つずつ説明したので、実験での子どもたちの動きがスムーズでした。一番肝心となる観察の視点を、「血液に関連することを3つ以上見つけなさい」と学習の目的と関連付けてきちんと与えていました。
実験が始まってしばらくして、授業者がメダカの動きを固定するために適度に水を抜くことを再度説明していました。もちろん事前に強調していましたし、黒板に貼ってあった拡大コピーにはそのことが書いてあるのですが、上手くできていないグループがあったようです。確認が甘かったようです。しかし、実験中に指示を再度出してもなかなか伝わりません。一旦作業を止めてから説明すべきですが、メダカを水の少ない状態で固定するので、観察は5分間が限度です。そのことを意識したために止めることができなかったのでしょう。コピーの該当部分を色で囲むなどして強調しておき、「おっ、このグループはうまく水を調整してメダカを固定している」と大きい声でほめるといったことをするとよかったでしょう。
授業の一部分しか見ることができなかったのですが、授業者がアドバイスを聞きに来てくれました。
実験の結果、子どもたちから出てきた主なものは、「血液が流れていること」と「血球が見つかった」だったようです。すこし、物足りません。とはいえ、メダカは5分しか観察できないので再度実験できません。ビデオを使って説明し補ったそうです。ビデオで補うのは悪いことではないのですが、せっかくですから自分たちで観察させたかったところです。
メダカは2人に1匹でしたが、4人で1匹にする方法もあったかもしれません。取り敢えず実験したあとで、子どもたちから出た「血液が流れている」を取り上げ、「流れているだけしか気づかなかった?川の観察で川が流れていると言っているようなものだね」と、もう一度挑戦させるのです。時にはこういう挑発も大切なことだと伝えました。

6時間目は、学年ごとの授業研究でした。私は3年生の理科の授業を参観しました。
遺伝のハイブリッド(優性と劣性それぞれの遺伝子を持っている物)の第2世代がどのようになるかの問題です。通常はえんどう豆を例に考えるのですが、この授業ではトウモロコシを扱っていました。トウモロコシは1つの実にたくさんの種があります。黄色と白の粒が並ぶことで形質が分離することが視覚的にわかりやすいのです。なかなか面白いアイデアです。理科の教科部会で指導案を何度も検討し練り上げたようです。
授業は粒の色が、黄色が優性、白が劣性というところの説明から始まりました。時間の問題もありますが、ここは復習を兼ねて、「全部黄色の種ができるトウモロコシと全部白の種ができるトウモロコシがある。それを交配させたら(どうやって交配させるかも話題にしても面白いかもしれない)、全部黄色の種のトウモロコシが採れた。どういうことか説明して」と問いかけても面白かったと思います。
遺伝子がAaで表せることを確認して、この種からどのようなトウモロコシが採れるかを問いかけました。「種が混じる」とつぶやいた子どもがいました。この種が混じるという子どもの発言を活かしたいところですが、授業者はそのことをあまり追求せずに「種がどのようになるかシミュレーションすること」を課題として提示しました。
同じ数の「A」と「a」のカードを混ぜたものがペアにつき2組用意されています。シミュレーションは、ペアでそれぞれ1組ずつのカードから1枚を選び同時に見せ合い、その組み合わせで色を決定し、その色のシールを用意した6×5のマスに貼ります。マスが埋まったら色別にシールの数を数えて終了です。子どもを1組選んで前で試させることで、シミュレーションのやり方はよく把握できたようです。どのペアもスムーズに進めていました。しかし、子どもたちにとっては単なるゲームであって、何をシミュレーションしているかがよくわかっていなかったように感じます。ミステリーツアーになっていたのです。できた黄色と白のモザイク模様を黒板に並べて貼っていきます。視覚的にトウモロコシの実をシミュレーションしたことを実感させたかったのでしょうが、無理があったようです。最初に、種が混じったトウモロコシの実物か、せめて写真を見せて、「黄色が多そう」「白が黄色の半分くらい」といった発言を引き出しておけば、このシミュレーションとモザイク模様にリアリティが出てきたと思います。
各ペアの黄色と白の数を順番にコンピュータに入力していきます。リアルタイムに変化する様子をグラフで表すようにしています。母数が多くなるに従って収束していきそうだと感じさせたかったのでしょう。しかし、統計の基礎的な知識がまだなかったこともあり、子どもたちにはこのグラフの変化が何を意味しているのかよくわかっていなかったようです。このソフトの説明がもう少し必要だったと思います。この学級の結果に、他の学級の結果を足します。これがまた、子どもたちの理解を妨げました。今までは30ずつ母数を増やしていたのに、いきなり全数を入れたのです。これでは、子どもたちから3:1になりそうといった言葉は生まれてきません。授業者は、「本当は3:1になる」と結論づけて、「その理由を考えて」と課題を提示しました。これでは、子どもたちがシミュレーションした意味はありません。理科としては、「本当」という言葉はとても危険な言葉です。理科に本当はないのではないでしょうか。モデルとしては、3:1になりますが、実際はそんな保証はありません。人間の男女比も1:1ではありません。「本当」ではなく、大体3:1になっている。または、実際に数を調べてみたら、3:1だったと事実がシミュレーションの答と近いことから、このシミュレーションが正しそうだと考えるのが理科的な思考です。であれば、シミュレーション(考え方)が正しいのなら、3:1になる説明を考えてというのが課題の提示として妥当だと思います。
子どもたちはグループで考えるのですが、今一つ盛り上がりません。ワークシートにはAとaを縦横に書いた表が用意されていて、1行目にAA、Aa、2行目にAa、aaを書き込んで黄色が3(純血とハイブリッドが1:2)、白が1(すべて純血)となることが説明できるようになっています。しかし、この表と自分たちがおこなったシミュレーションによる比率の関係がよくわからなかったのです。全体での発表で、ある子どもが表を使って説明しましたが、シミュレーショとの関係は語られません。この子どもも単に知識としてわかってはいますが、きちんとシミュレーションと連動して考えてはいなかったのです。子どもたちは表での説明は何とか理解しますが、それとシミュレーションの関係はよくわからないままでした。シミュレーションを使う時は、「事実と比較してその考えの妥当性を確認する」「妥当性が確認されていることをもとに予想する」のどちらかですが、今回はこの部分を押さえきれていなかったのです。シミュレーションを始める時に、何をシミュレーションしているのかをきちんと示しませんでした。「A」と「a」のカードが同じ数であることも確認していません。
まず、一人がおしべ、他方がめしべと役割をはっきりさせます。その上で、このおしべ、めしべの遺伝子「Aa」がくっついたカード(ミシン目が入っているのが理想です)を必要数用意し、それぞれをAとaの2つのカードに分ける作業をさせます。減数分裂でおしべとめしべの遺伝子がどうなるかをシミュレーションするのです(めしべに関しては正しいシミュレーションとは言えませんが、本質的な間違いではないので中学校ではよしとしましょう)。こうすることで、このゲームが何をしているのかがよくわかるはずです。表も、上の行におしべ(Aa)、左の列にめしべ(Aa)と書いて、遺伝子を分離した、Aとaを記入させれば、シミュレーションとの関係が明確になるはずです。
「妥当性が確認されていることをもとに予想する」という考え方の例として、ハイブリッドと白の純血を交配させることで黄色と白が1:1のトウモロコシができそうだと予測させ、その写真を見せるというのも面白いかもしれません。
課題にリアリティを与えるのであれば、「種苗会社が売る種はハイブリッドであるのはなぜか」(種をまた買ってもらうため)とするとよいかもしれません。理科に対する興味もわくのではないでしょうか。
理科の教科部会がいろいろと考えて挑戦した授業だったので、私にとってもとても学びの多いものでした。

授業検討会は、学年単位でおこなっているので話しやすい雰囲気を感じます。気になったのが、誰かが意見を発表しても、すぐに次の意見に移る場面を多く見たことです。じっくり話し合うべき話題かどうかを司会者(コーディネーター?)が判断して、焦点化したり、他の先生へつなげていったりすることが大切です。検討の深まりが少ないように感じました。

授業検討会終了後、たくさんの先生が話を聞きに来てくれました。時間の関係もあり十分なアドバイスができませんでした。申し訳ありませんでした。多少時間がかかるかもしれませんが、意欲的な先生が多いので学校がよい方向に確実に変化していくことと思います。何人かの先生の授業にその兆しを感じました。研究発表までにもう1度訪問する機会をいただきました。その時、どのような変化が見られるかとても楽しみです。
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