小学校で授業アドバイス

文部科学省の研究指定を連携して受けている中学校と小学校の授業アドバイスをおこなってきました。

小学校は5年生の社会と国語、2人の若手の授業を見ました。
社会の授業は、新潟県はなぜ米の生産量が日本一なのかを考えるものでした。前時に都道府県別の米の生産量を調べた時に、北海道ではなく新潟県が米の生産量日本一だったことが子どもたちには意外だったようです。そこで授業者は新潟県を扱うことにしたそうです。授業者は考えるための資料として、新潟県と東京都の月別平均気温、月別日照時間、月別降水量と新潟平野の写真を用意しました。資料を配ってから、黒板に拡大コピーを貼って、日照時間などの説明をしますが、子どもの視線は上がりません。手元に資料があるからです。せっかく拡大コピーを用意したのですから、配る前に説明をすれば子どもはしっかり前を向いて聞くことができたはずです。
子どもたちは資料から気づいたことをワークシートに書き込みます。気づいたことを1つ書いて満足している子どももいます。続いてグループで意見の共有を図りました。
資料を使った授業をする時には、必要な資料を見つける、資料を読み取る、読み取った内容をもとに考えるという3つのステップを考える必要があります。今回は2つの目の読み取るからのスタートですが、読み取ると考えるが一緒の課題になっていました。これはかなり高度なことです。子どもたちが鍛えられていないとなかなかできません。実際には資料で新潟と東京の違いを見つけただけの子どもがほとんどです。日照量が東京より多いからといって、米の生産量日本一になるというのは飛躍がありすぎます。
東京と比較する意味もよくわかりません。子どもたちは、北海道ではなく新潟県が日本一なのが疑問だったのですから、もし子どもたちが資料を探そうとすれば北海道との比較だったと思います。子どもたちは前時の学習で、米が北の方でよく作られていることを知っています。そこで、米作りにちょうどよい気温があると考えています。しかし、温かい方が本来よいとは知りません。間違った知識を元に考えています。米の生産限界は8月の平均気温が20度以上という知識を与えておかなければいけません(資料と知識の関係参照)。こういった、考えるために必要な知識が意識されていなかったのも問題です。
必要な知識を与えておき、全体で資料を読み取ることをした後で、新潟県が米の生産量日本一である理由を考えさせるというステップを踏んだ方が、子どもたちの現状にはふさわしいと思いました。
子どもたちの発表の後、授業者が結論をまとめていました。そのまとめが正しいかどうかはさておき、まとめは、授業者があらかじめ用意したカードを貼って整理しました。これでは子どもたちが教師の求める答探しをするようになってしまいます。せめて、板書した子どもたちの意見を丸で囲むなりして、子どもの言葉から結論を導き出すようにしてほしいと思います。
今回、教科書の例(秋田)を離れて、子どもたちの疑問から新潟を取り上げたのはとてもよい挑戦です。しかし、子どもの疑問を活かして授業を進めるためには、どんな資料が必要か、どんなステップで進めていくかといった教材研究が求められます。教師自身が、米作りについてもっと知識を持つことも求められます。資料を読み取ることについても、読み取り方というメタな知識が大切です。比較して違いを見るだけでなく、数や量が一番大きい(多い)、小さい(少ない)、変化が大きい、小さいところに注目するといった視点を身につけさせることが必要です。授業者がそのことに気づければ、今後の授業づくりが大きく変わると思います。
また、授業中に子どもを指導するのに、どちらかと言えば「叱る」ことが多かったように思いました。自身もそのことに気づいているようです。ほめて育てることも考えてほしいと思います。お話ししていてとても素直で、やる気のある方だと感じました。これからきっと大きく成長していくことと思います。

国語の授業は、夏の季語を意識して俳句をつくって発表する場面でした。
授業者は笑顔で子どもたちに接しています。子どもたちとの関係はよさそうですが、少し気になることがあります。俳句を書く用紙を配っている間に、子どもたちが緩みます。個人作業に移った途端、私語が増えるのです。子どもにとって個人作業はプライベートの感覚のようです。妙にリラックスして、授業者にちょっかいをかける子どもも目立ちます。たとえ注意をされたとしても教師に相手してもらえば、子どもとしては満足です。授業者が一々反応するのはよい対応ではありません。こういうけじめのない状況は、教師が授業のような公的な場と休憩時間のような私的な場をきちんと区別していないと起こることです。授業中に私的な場面を持ち込まないようにすることが必要です。極端に言えば、子どもの言葉が授業の内容に直接関係ないときは無視してもよいのです。無視をすると人間関係が崩れそうだというのなら、唇に指を当てて静かにするように伝え、口を閉じれば、うなずきながらOKとサインを送ればよいのです。
作業時間が残り2分だと授業者が伝えると、空気が変わりました。完成させようと集中しだします。やる気がないわけではないのです。最初からこの状態をつくることを意識してほしいと思います。
作業が終わったあと、子どもたちに前を向いて次の場面への準備をするように指示をします。こういう場面が変わるところでのけじめはきちんとつけようとしています。しかし、なかなか全員が準備できません。授業者は、すぐにできた子どもを数人ほめるのですが、あとはひたすら待っているだけです。待つことは大切なのですが、早くさせることを意識する必要があります。「何秒でできるかな」と意識させたり、「後何人だね、もう少しみんな待って」「みんな待ってくれてるよ」と遅い子どもに行動をうながしたり、「まわりの人教えてあげて」と子ども同士で声をかけあうようにしたりすることが必要です。全員できたら、「早くできたね」とそのことを確認し、「みんな待っててくれてありがとう。○○さん、待っててもらってよかったね」と子どもをほめてつなぎます。こういうことを地道にやり続けることが必要です。
子どもたちは自分の作品を全体に対して発表することにとても意欲的でした。友だちの発表も聞こうとする姿勢があります。しかし、無責任な感想を勝手にしゃべる子どもも目立ちます。授業者も個人的に受け答えしたり、容認したりしています。感想であれば、まず「みんなに聞かせてよ」と全体で共有し授業の舞台に乗せる必要があります。こういうことが起きやすい理由に、この俳句を聞くための共通の土台がないことがあります。誰が読み(聞き)手で、この俳句で何を伝えるのか、ちゃんと伝わったかといった、活動の目的・目標、評価の基準を明確にしておく必要があります。これは、先ほど述べた、作業の集中度にも影響することです。
まだまだ、経験の少ない授業者ですが、子どもを笑顔で受容する、指示を徹底するといったことを意識して授業に臨んでいます。もちろん、意識したからといって、すぐに完璧になるわけではありません。しかし、意識することが第一歩です。少しずつ精度を上げていけばよいのです。課題もたくさんありますが、素直に修正しようという意志を見せてくれます。この先生も確実に成長していくことと思います。

2人の授業には工夫したり、意識したりしていることが明確にあったため、課題がよく見えました。今回の気づきを自分たちだけでなく、他の先生にも伝えてほしいと思いました。
中学校での様子は、日を改めて(「教科で練り上げた授業から大いに学ぶ(長文)」参照)。
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