提案授業を通じて多くのドラマがあった

「愛される学校づくりフォーラム2012 in東京」での国語の提案授業の撮影に出かけました。提案授業の撮影もこれが最後です。野口芳宏先生の授業にどこまで迫れるか、楽しみに出かけました。

小学校6年生、「うとてとこと」を題材にした詩の朗読の授業です。指導案を見るとずいぶんすっきりしていました。ポイントだけに絞られています。あまり書きすぎるとそれに縛られるので、子どもたちの反応に自由度を持って対応できるように、意識すべきことだけに絞ったと、コーディネータの先生が教えてくれました。それはとてもよいことですが、授業者に臨機応変に対応する力が求められます。どうなるのだろうと期待と少しの不安を持って参観しました。
最初の5分で不安は吹っ飛びました。それどころか、感動で体が震えるような衝撃が走りました。子どもの言葉しっかり受容して、つないでいます。一人ひとりの発言や活動をしっかり評価しています。それも、ただ「いいね」と言うのではなく、具体的にどこがいいのか、Iメッセージも意識して伝えています。子どもの言葉に応じて進めています。素晴らしい成長です。この3か月間、模擬授業や個別の指導でたくさんのアドバイスを受けています。半端な量ではありません。消化不良になるだろう。どれか1つでもできるようになればいい。そう思っていたのですが、ほとんどのことを自分のものとして使っていました。
ICTの活用も模擬授業の時とは比べ物にならないほどスムーズです。ワイヤレスのポインタの動かし方に慣れるため、前夜まで練習していたそうです。
用意した資料も、子どもたちがそれを知っていたとわかれば、使わないという割り切りも見事です。最後に、コーディネータの先生も知らない、ちょっとした仕掛けがあって、「おっ」と言わせてくれました。
言葉に詰まった子どもを他の子どもが助ける。聞けていない子どもがいれば、その子どもの隣の子どもを指名して、復唱させる。授業のどこを見ても、授業者がこの提案授業を通じて何を学んだか、成長したかがよくわかります。本当に子どもたちの言葉で進む授業になっていました。最後まで子どもたちの集中力が切れない素晴らしい授業でした。子どもたちが力を120%出してくれましたという授業者の言葉がそのことを物語っています。

授業後、授業者と話をさせていただく時間を持てました。
たくさんのことをほめさせていただきましたが、よい授業だったので敢えて改善のポイントを3つ話しました。

1つは、テンポの問題です。
前半じっくり考えた後、中盤で前半と同様のことを考える場面がありました。そこでも、同じように時間をかけていたので、子どもたちがちょっとだれ気味になりました。次々に迫りながら、着席したままどんどん答えさせても彼らは反応できるはずです。常に起立して答えさせるという形にとらわれる必要はありません。場面ごとのテンポを意識してほしいことを伝えました。

2つ目は、子どもの声です。
今回は本格的な撮影機材が入ったため、子どもが緊張して発表の声が小さくなっていました。それでも、子どもたちは集中しているのでよく聞きとっています。しかし、今回のテーマである朗読に関してはもっと大きな声になってほしいと思いました。一人ひとりの朗読をポジティブに評価した上で、「声が大きくなるともっといいね。次の人はどうかな」とそのことを意識させるようにすればうまくいくことを伝えました。

最後は、特定の子どもが指名されすぎたことです。
多い子は6回指名されていました。意見が出ない、誰か答えてくれないかと苦しくなってできる子を指名したのではなく、反応してくれたのでつい指名してしまったようです。意見がある子はよく反応します。また、ちょっと気になる子が、答えてくれそうだと思うとチャンスと指名したくなります。このようなことが原因のようです。これは、子どもをよく観察しているから起きることでもあります。「今、○○さんがうなずいてくれたけれど、どういくことかわかるかな。だれか○○さんの代わりに答えてくれるかな」というようなつなぎ方を覚えるとよいと伝えました。

授業者からは、この数か月のことをいろいろ聞かせてもらいました。
最初、野口先生の授業技法の意味がよくわからなかった。なぜ、○×をつけさせるのか。なぜ全員書いたか確認するのか。わからないことだらけのようでした。しかし、実際にやってみて子どもの変化からその意味がわかってきた。撮影の前日にあらためて野口先生の本を読みかえしてみて、書かれていることが自分の胸に落ちた。子どもたちが教えてくれたと語ってくれました。この先生は素直に受け止める力があったのです。このことが成長できた一番の理由でしょう。そして、教師の変容を促す、後押しする一番のものは子どもの姿です。子どもたちの姿から学べる教師は確実に成長するのです。

そして、この先生の成長を支えたのが、学校の同僚とコーディネータの先生です。
勤務時間後に何度もおこなわれた模擬授業や勉強会では、多くの仲間が参加してくれました。2時間以上にわたる模擬授業は、いつも若い先生がしっかりと記録を取っていました。この学校は記録係も指名していると思っていたら、新任の先生が自ら記録係をかって出たのだそうです。詳細な記録があるからこそ、あれほどたくさんの指摘を消化することもできたのでしょう。勉強会の後、個人的に意見を言ってくれた先生、逆になぜこのような発問や指示をするのか質問してくれた先生、この提案授業を通じて多くの仲間が共に考え、支えてくれました。互いに学び合う雰囲気が学校にできたようです。この日の授業もたくさんの先生が見に来てくださいました。授業者は自分自身の成長だけでなく、学校の変化も手ごたえとして感じ、この授業がきっかけとなったことを嬉しく思っていました。

また、あらためて話を聞いて、コーディネータの先生が本当に多方面にわたって支えていたことがよくわかりました。野口先生の授業の解説、資料の提供、ICTをわざと使わない条件で同じ授業をやって見せる、具体的に授業を見てのアドバイス・・・、表には出ませんがありとあらゆる面でサポートしています。国語の授業の達人で、私の国語の授業の師匠と尊敬している先生ですが、若手を育てる達人にもなっていることがよくわかります。彼の学校で若手が次々に育っているのは当然のことなのでしょう。
それでも、授業者がわずか3カ月余りでここまでの成長を遂げたのは、本人の努力があってのことです。修学旅行や学芸会、行事が目白押しの2学期です。学年の中心となって進めていく行事もたくさんあったはずです。先輩から無理することはない、苦しかったらやめればいいとアドバイスされても、やりますと言いきったと聞いて、その強い思いに感動しました。今回の授業で見せてくれたいろいろなことは、一朝一夕でできるようなレベルのものではありません。この間、日々意識して実行してきたからこそ身についたものです。この先生の姿勢に、私も多くのことを学び、元気をいただきました。

授業者の成長と、この提案授業が、学校が変わるきっかけになってくれたことを校長がとても喜んでくださいました。今回の授業ビデオをもとに、校内で勉強会を開くことを決められ、私も呼んでいただけることになりました。来年度は授業について学び合うための仕掛けをいろいろ考えられるようです。

今回でフォーラムの提案授業がすべて出そろいました。どの提案授業でもさまざまなドラマがありました。この企画が単なる提案でなく、多くの方の成長のきっかけになったことを本当にうれしく思うとともに、その現場に立ち会う機会を得たことを心より感謝します。
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