若手が伸びる学校で授業アドバイス(長文)

先週末に中学校で若手4人の授業アドバイスをおこなってきました。この学校へは1年ぶりの訪問です。先生方の進歩が楽しみでした。

3年目の国語の教師の授業は、熟語のなりたちでした。昨年見せてもらった時もその進歩に驚きましたが、今回はそれ以上の進歩を見せてくれました。
自信に満ちた、教室の隅々までよく聞こえる声で、とても表情が豊かです。導入で4文字熟語などを考えさせる場面は非常にテンポよく、また、子どもたちに考えさせる場面では、じっくりと時間を与える。テンポがよいということはどうあるべきかよくわかっている進め方です。同じ意味の漢字を重ねた熟語と反対の意味の漢字を重ねた熟語を比較して、どう違うかと問う課題からは、子どもたちが考えることを大切にしていることがよくわかります。子どもたちのつぶやきもしっかり拾い、うまくつなげています。よい発言をする子どもがたくさんいるので、子どもの発言で授業が進んでいきます。ただ、中には課題や発言のレベルが高いため、ついていけない子どももいます。授業者はこの子たちがわかるように、説明や切り返しの言葉を工夫していましたが、最初に課題を提示された段階で参加できないために、なかなかうまくかかわれませんでした。
とはいえ、これだけの授業ができる教師はそれほど多くはありません。とても3年目とは思えない素晴らしい授業でした。

授業後、本人に課題を聞いたところ、この学級では上位と下位の学力差が激しく、どこにターゲットを当てていいのかがわからないことをあげてくれました。
これだけ子どもたちが活躍する授業ができていると、反応してくれる子どもたちに目がいき、よい授業ができていると満足してしまうことが普通です。そうではなく、参加できていない子どもにも意識を向け、全員が参加できる授業を目指そうとしている姿勢はとても素晴らしいものです。このような意識で子どもを見て授業を続けていればうまくなるのは当然です。とてもうれしく思いました。
この先生にはこうしろといったアドバイスは無用のものだと思いましたが、考え方のヒントをいくつか話させてもらいました。

レベルの高い課題をそのまま生かすのであれば、グループを活用するのも一つの方法です。力のある子がたくさんいるので、教えてと聞ける雰囲気があれば子ども同士でかかわりながら理解していきます。

いきなりメインの課題に取り組むのではなく、解決するために必用な知識や考え方につながる活動、作業を入れることの一つの方法です。ゴールに到達するためのスモールステップを意識することです。たとえば、今回の課題であれば、熟語のなりたちを考えるために、個々の漢字の意味を考える、漢字を訓読みするといった活動や作業を入れることです。といっても、この漢字はどう読むと聞いては意味がありません。一つひとつの漢字の紙を用意して、熟語を示す時に1枚ずつ貼る。2枚目を貼るときにはすこし時間をとって、次に何が来るかなと問いかければ、自然に漢字の読みを意識します。また、漢字をばらばらに示して、これらを使って熟語をつくるといった作業をさせもいいでしょう。

過去の学習とつなげるという方法もあります。この授業の前に漢文を学習しています。漢文の書き下し文、返り点のところで、漢字には意味と働き(品詞)があることを意識して押さえておけば、授業の最初にこのことを復習することで多くの子どもが漢字の読み方を意識します。この熟語は漢文だったらどう読むのかなといった発問が有効になります。

道具を使う方法もあります。時間的に難しいかもしれませんが、漢和辞典を用意しておけば、低位の子どもも辞典を引くという手段を持てるので、授業に参加しやすくなります。

きっとこの先生はこのような考え方を参考にして、自分の授業に合った方法をつくりだしてくれることと思います。またの機会がとても楽しみです。

2年目の英語の教師の授業は、子どもたちがよく声を出すハイテンションなものでした。授業者はコミュニケーション能力が高く、明るく楽しいキャラクターなので、子どもたちとの人間関係もよく、とてもよい雰囲気で進んでいきます。しかし、子どものテンションがこのように上がるときは、気をつける必要があります。子どもが考えるシーンが少ないのです。教師のあとについて読む、話す。新しい文も、教師が話して、それを繰り返して話す。聞いておうむ返しにすればよいので、だれでも参加でき、テンションが上がるのです。じっくり考える場面があればテンションは下がるはずです。
また、問いに対してほとんどの子どもの手が挙がります。指名した子どもが正解しても、正解と言わずに他の子につなぎます。基本はできているのですが、手を挙げていなかった子どもにはつなぎません。私が見ている間、1度も手を挙げず参加しない子どももいました。

この教師のように、天性のコミュニケーション能力が高い教師は、経験が少なくても雰囲気良く授業をすることができます。素晴らしい長所であり、武器です。しかし、これが諸刃の剣となって、教師としての成長を妨げもするのです。なんとなくやれてしまう、うまくいっているような気がする。こうなると、授業を改善しようと工夫をしなくなってしまいます。厳しいかもしれませんがこのことを伝えました。もう1段レベルの高い授業をするために、子どもが考える発問、課題、活動を授業に取り入れることと、参加できない子どもをどう参加させるかを考えるようアドバイスしました。今の殻を破ってくれることを期待します。

新任の社会科の教師は、学び合いを進めている学校で講師経験があります。子ども同士をどうつなげる授業をしてくれるのか期待して見せていただきました。この日の授業は、不平等条約の解消についてでした。たしかに、資料を見せて子どもに考えや気づいたことを言わせる。子どもの発言を否定しないなどの表面的なことはやれるのですが、本質がわかっていません。教師の期待するような答が出てくるはずのない、根拠となりえない資料提示、にもかかわらず正解が出た瞬間すぐに教師が解説する。期待した答えが出なくても否定はしないが、次に期待する答えが出たら、すぐにそれを拾う。これでは、否定したのと同じです。
講師時代によい授業を見せてもらっているはずなのですが、その本質は理解していなかったようです。よい授業を見れば力がつくというわけではないということです。教師の持っている知識にそって、教師の求める答に誘導しようとする授業でした。

指摘すべきことはたくさんありますが、まず社会科の教師としての根本、単なる点の知識を教えるのではなく、資料や史実・事実をつないで線にする、線を広げて面にすることから始めるようにお願いしました。やる気のある真面目で前向きな先生です。薄っぺらな知識ではなく、しっかりした土台を作るための勉強を始めてくれることを願っています。

最後は別の中学校から異動してきたばかりの理科の先生です。ある程度経験を積んでいるので、子どもたちとのコミュニケーションはとれています。子どもを受容することもできています。しかし、理科の授業で大切にすることは何かがわかっていないようでした。ある事実から何を推論するのか、どのような仮説を立て、それを確かめるためにどのような実験を考えるのか、もし、仮説が正しければどのような結果になるのか。こういった理科の基本的な考え方や活動とはまったくずれた授業でした。
今回は実験ができないので、実験を最初から一つずつ手順とその意味を説明して結果を想像させます。仮説は明確にしていません。子どもたちは、なんとなく結果を想像するか、知っている子があらかじめ持っている知識から答えるだけです。
たとえ実験できなくても、仮説から出発して、どんな実験をすればいいのか、どういう結果が出れば仮説が正しいといえるのかと考えさせ、結果を論理的に推測させることはできます。
逆に、説明をせずに実験とその結果だけを提示して、このことから何がいえるかを論理的に推論させる。そして、実験の方法や結果のどこからそれがいえるのか根拠を聞く。
こういった授業の展開にする必要があります。

前任校は子どもたちとのコミュニケーションを取ることが強く求められる学校だったのでしょう。コミュニケーションは意識してきたが、理科の授業はどうあるべきだということは意識することも指導されることもあまりなかったようです。
今回、理科の授業はどうあるべきかということをしっかり考えるようにお願いしました。話をしていて非常に素直な方です。新鮮な気持ちで、一から授業を考え直してくれることと思います。

初任者でどのような学校に赴任するかは、その後の教師人生を大きく変えます。この日は授業を見ることができませんでしたが、素晴らしく伸びた4年目の音楽教師もこの学校にはいます。3年目の素晴らしい国語教師と共通していることがあります。2人とも1年目は本当に苦労をしていて、教師として続くのかと心配になるほどでした。成長したのは私のおかげと言いたいのですが、そうではありません。本人が一生懸命努力したからです。そして、その努力を支えたのが、教頭を中心とする管理職や主任の方々です。チャンスがあれば自分の授業を見せる。ただ、見せるだけでなく、意図的に彼らに必要な技術や要素をわかりやすく授業に盛り込む。また、授業を見にいっては教科を越えて具体的にアドバイスする、勉強法や情報の提供をする。時には他の学校へ授業を見に行く機会をつくる。若手が伸びるために必要と思えることをとにかくしっかりやっているのです。私の授業アドバイスなどはそのほんの一つに過ぎないのです。

この学校だからこそ、他の学校では言えないような厳しいことも言えます。私に任せっぱなしにするのではなく、管理職や主任のフォローがあるからです。若手が成長するために何が必要かを私に教えてくれる学校です。どの先生もこれからますます成長してくれることと楽しみにしています。
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