新しく赴任した方の授業

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。今年度赴任した方の授業を中心に参観しました。

高校1年生体育のテニスの授業では、子どもたちは積極的に授業に参加していました。選択制を取り入れた結果、子どもたちの参加意欲が高まっていると感じます。ここで意識したいのがコートでプレーをしていない子どもたちの活動です。サーブ・レシーブの練習を行っている時、コート外の子どもは単にボールの行方を目で追っているだけです。サーバーのトスやインパクトの位置などは意識して見ていません。また、ナイスサーブ、ナイスレシーブといった声もあまり聞くことがありません。プレーの様子を見ていない子どもも目立ちます。個人競技の場合は仲間のプレーが他人事になりやすいので、プレーしていない時にも役割を持たせ、意識してプレーを見守るようにすることが大切です。タブレットでフォームを撮り合って、互いにフォームを修正するといった活動が必要だと思います。単に練習すればうまくなるわけではありません。上手くなる仕組みを授業に組み込むことが大切です。
全員を集合させて、授業者がポイントの説明を行う場面がありました。子どもたちは最初のうちは顔を上げてよく聞いていましたが、一方的な説明が続くので次第に顔が下がっていきます。ちょっとしたやり取りでよいので、意識的に子どもたちとの対話を組み込むとよいでしょう。
後半はゲームを行いました。プレーしていない子どもも勝負の様子をよく見ています。ボールがインかアウトかといった、勝敗に関係することはよく声が出ていましたが、プレーの質に関する声はなかなか聴くことができませんでした。勝敗ではなく、プレーの内容を意識させることが課題だと思います。授業者が意識してプレーをほめることで子どもたちの視点を育てるようにするとよいでしょう。

高校2年生の数学の授業はΣ記号を使って数列の和を記述する練習でした。
授業者はスクリーンに教科書の内容を映して説明しますが、子どもたちと目が合いません。以前から指摘をしているのですが、なかなか改善されません。一方的に説明するばかりで、どうしても対話をしながら授業を進めることができないようです。他の先生の授業を積極的に観るなど、子どもとのかかわり方を学ぶことを意識してほしいと思います。
数列の和をΣ記号で表現することとその逆の練習をしますが、なぜこのような記号を使う意味があるのかを子どもたちが理解する場面がありません。機械的な練習ばかりで、単にやり方をなぞっているだけです。あまり意味のある時間ではありません。この学習内容が数学的にどのような意味がある、どのような考えや応用につながるといったことをきちんと意識して授業をする必要があります。教材研究とは何をすることなのかからもう一度しっかり考えてほしいと思います。

高校3年生の家庭科の授業は、金銭教育の一環で税金の学習でした。YouTubeなどのネット上の動画を積極的に活用して授業を組み立てていました。所得税や住民税、ふるさと納税など、今後生徒にとって身近になると思われる税について、具体例をもとに扱っていました。ただ、子どもたちが自分で考える活動がなく、わかりやすいとはいえ動画やネットの情報からの一方的な説明を聞いていることが中心です。実際の給与の情報を与え、アルバイトの時と、就職1年目、2年目の手取り金額を計算させて比較させるといった活動をするとよいでしょう。また、教科横断を意識して、ふるさと納税の制度がなぜできたのか、誰にとってメリットがあることなのかを考えさせることも意味があると思います。税を多面的・多角的にとらえることも大切でしょう。

高校1年生の家庭科の授業は調理実習でした。子どもたちは楽しそうに取り組んでいるのですが、全体的にテンションが高めなのが気になります。作業している子どものテンションが高いと刃物で手を切ったりしやすいのですがその心配はあまりなさそうです。どちらかと言えば作業していない子どものテンションが高いようでした。全員が一度に作業できないため、手持ちぶさたな子どもが調理と直接関係ないことをしゃべっているのかもしれません。仲間の作業を見守ったりアドバイスしたりできるとよいでしょう。そのためには、工程ごとに意識することや目標を明確にすることが必要です。最終的な目標ではなく、工程ごとに時間や質の目標を設定させるとよいかもしれません。

中学1年生の数学は問題演習の場面でした。既に問題を解き終わった子どものテンションが高いことが気になりました。時間を多く与えれば、進度の差が広がります。その差をどうするかを考えておくことが大切です。わからない子どもに教える役目を与えるのも一つの方法ですが、自分から教えに行かせると上から目線になりやすく、テンションがどうしても上がってしまいます。わからない子どもが自分から聞きに行くことが原則です。聞かれれば教えることを優先しますが、時間が余った子どもに取り組ませる問題を事前に用意しておくとよいでしょう。個別に演習するのではなく、グループで難しめの問題を解く(背伸びとジャンプ)のも一つの方法です。一人ではできない問題を考えることで互いにかかわり合う必然性につなげていきます。
授業者は一部の反応する子どもにかかわりすぎる傾向がありました。先生に声をかけたり、質問したりする子どもを好ましく思い、相手をしたくなる気持ちはわかりますが、子ども同士のかかわりが薄れていきます。また、先生の注意を引こうとテンションを上げることにもつながります。個別に対応するのではなく、子ども同士をつなげることを第一に考えてほしいと思います。

中学2年生の国語はプレーゼンテーションの時間でした。新課程になって発表形式の活動が増えましたが、目的が何かが明確になっていないことがよくあります。発表の目的がはっきりしなければ、目標も定まりません。結果、評価も具体性がなくなります。
授業者はずっと発表者を見ていました。その理由は、発表を評価するためですが、発表場面では発表者一人を除いては、全員が聞き手です。大多数である聞き手の活動を意識することがとても大切です。発表にコメントをすることが聞き手の課題として与えられていますが、上手、うまいといった感覚的なものになっていました。ただ聞いて書くだけでは、力はついていきません。発表ごとに評価を共有して、それをもとに自分が発表する時に意識すべきことを考えさせることが必要です。この場面で威力を発揮するのがタブレットです。リアルタイムにコメントを共有し、必要に応じて授業者が整理することでコメントの質を上げることができます。また、1回発表して終わりでは、評価を次に生かすことができません。グループで事前発表して修正するといった活動が必要でしょう。
もう一度発表の目的、目標からきちんと整理して授業を組み立ててほしいと思います。

中学3年生の理科の授業は実験でした。
グループでの実験は、一部の子どもが仕切って他の子どもが見ているだけになりがちです。全員を主体的に参加させるための仕掛けが必要になります。モデル化する前の実験であれば、結果を取り敢えず予想させるとよいでしょう。自分の立場ができると、結果が気になるので、主体的に取り組むようになります。モデル化ができているのであれば、モデルをもとに論理的に結果を予測させるとよいでしょう。また、いくつかの仮説を持たせることができていれば、仮説に基づいて結果はどうなるかを考えさせてから実験に取り組むとよいでしょう。いずれにしても、実験を行う前に何らかの予測をすることが大切になります。
授業者が過去の実験と比較することを指示していましたが、3年生であれば、子ども自身で比較することに気づかせたいところです。仮説が正しいかどうか知るためにどのような実験が必要かを常に問いかけることが大切です。

中学3年生の家庭科はフェアトレードの授業でした。
フェアトレードの活動を紹介した上で、消費者にとっては値段が高くなるといったデメリットがあることも教えています。その上で子どもたちに、フェアトレードの商品を選ぶか選ばないかを問います。授業者は素直な気持ちで選ぶようにと指示しますが、ここで気をつけなければいけないのは道徳と同じで、授業者が子どもの考えをよい悪いと評価をしないことです。子どもの意見を授業者がよいと判断すれば授業者がそういう意見を言ってほしかった、そういう考えをしてほしいと思っていると子どもは感じ取ります。この授業でも、授業者はある子どもの意見を、無意識に「いい意見」と評価してしまいました。他の子どもにその意見についてどう思ったか、納得したかを問いかけて、子どもたち自身で評価判断させたいところでした。クラウド環境があるので、クラウド上でみんなの意見を見てどう思ったか、自分の考えが変わった、変わらなかったかを振り返るような活動を組み込むとよいでしょう。

この先生方が赴任されてから半年余りが過ぎました。どの先生方も着実によい方向へと変化しています。授業改善に前向きに取り組んでいただけているのがわかります。それぞれの課題を明確にして、一つずつクリアしていってほしいと思います。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31