若手の成長を感じた1日(長文)

私立の中学校高等学校で若手教師中心に面談と授業アドバイスを行いました。

中学校の国語担当の先生からは、子どもとの接し方や授業規律について相談を受けました。
1学期は子どもとの関係づくりを意識してきたので、そこそこよい関係になってきたと手ごたえを感じているようです。しかし、子どもたちに優しく接しようと意識するとそのことを見透かしたような態度をとる者もいるようです。寝ている子を下手に起こすと関係が悪くなるのではと気になり、どのタイミングで注意すればよいのか迷ってしまったりするようです。ほおっておくと、このくらいなら規律を乱してもいいというヒドゥンカリキュラムになってしまい、結果的に授業規律が緩くなってしまいます。とは言え、何度も注意すれば関係が悪くなる危険もあります。ペアレントトレーニングの考え方を取り入れるとよいでしょう。よい行動をとった時に、ほめることで、よい行動を強化していくのです。寝ている子どもにはそのことを注意するのではなく、起きたことをほめるのです。1時間中寝ている子どもは稀です。顔を上げた時に、笑顔で目を合わせる、時には「やる気が出てきたね」と声をかけることで、見守っていることを伝えるのです。授業者は寝ていることを知っていても注意をせずに起きるのを待ってくれていると、子どもに気づいてもらうのです。チェックする目ではなく見守る目で見ていることを伝えれば、次第に関係もよくなっていきます。起きるのを待っていられないというのであれば、簡単な問いをわかりやすい順番で指名して、その子どもが何番目かに当たるようにすればよいでしょう。たいていはまわりの雰囲気で気づいてくれるでしょうし、もし気づかなくてもまわりの子どもが起こしてくれるはずです。もしだれも起こそうとしなければ、学級の中で人間関係が上手くいっていない可能性があります。そうであれば起こすことよりも、学級での人間関係について担任と情報を交換して対応を考える必要があると思います。
特に授業規律を乱すようなことはしないが、受け身でなかなか積極的に参加していない子どもへの対応も相談されました。基本的に自分が授業に役立っているという実感を持たせることが大切です。子どもの考えが授業の展開に反映されようにするとよいでしょう。一人一台のiPadをノート代わりに使えば、全員の考えや意見を見ることが可能です。挙手による指名に頼らなくても、子どもたちの意見を取り上げることができます。その際に「〇〇さんの考え」と個人を特定してもいいですし、名前を言われるのが嫌そうな子どもには「こんな意見もあるね」と匿名で扱ってもいいでしょう。匿名でも本人は自分の意見が取り上げられたことがわかりますので、参加意欲が高まると思います。
また、指名してもなかなか発言してくれない時にどのくらい待てばよいのか困ってしまうということもあるようです。子どもが答えようとする姿勢を見せていればしばらく待ってあげることも大切です。しかし、授業のテンポが悪くなると思えば、「いいよ、あとからもう一度聞くからね」といって次の子どもを指名し、少し時間をおいてからまたその子を指名するようにするとよいでしょう。必ず再度指名されることがわかれば、その間に自分で考えたり、友だちの答を聞いて答を見つけようとしたりします。他の子どもに助けてもらうという発想もありますが、注意しなければいけないのは「助けて」と言って代わりに答を言わせるのは避けることです。代わりの子どもが活躍しただけで、本人が答えられなかったことには変わりはないからです。そうではなく、まわりの子どもに、困っている子どもが自分で答えられるようなかかわらせ方をさせることが大切です。自分で答えることで、「助けてもらってよかったね」「助けてくれてありがとう」と双方を認めることができます。
子どもとの関係、子どもの授業への参加を意識するようになったからこそ出てきた相談ばかりです。次の成長への一歩をまた踏み出してくれたのだと思います。

中学校の家庭科の先生は、裁縫の実習課題に対する子どもたちの意欲の差をどうしたらよいかと悩んでおられました。
事前にここまで仕上げるように指示しておいても取り組まず、作品も学校に持って来ない子どもたちが一定数いるようなのです。仕方がないのでワークシートを与えて授業中に取り組ませるのですが、まじめに取り組まずおしゃべりをしたりするので、つい怒ってしまうそうです。怒ったことについては反省されているのですが、ではどうすればよいのか困っています。その一方で指示された以上に取り組み、作品を完成して時間を余している生徒もいるようです。子どもたちの取り組みの差をどう埋めていくのかは難しい問題です。
やってこないのは、当然ながら家庭科の課題に前向きでない子どもたちです。その原因の一つに裁縫が苦手ということがあると思います。ワークシートをやらせるのではなく、やってみよう、やれそうだと前向きになるようなことをさせることが必要です。一例として、じゃまをしないように友だちの作業を観察して、いいところやポイント、コツをレポートとしてまとめるといった取り組みがあります。自分でポイント見つけることがやってみようという気持ちにつながると思います。
完成した子どもにはもっとよくするような活動をさせるとよいでしょう。作品に装飾をつけることなどを、時間があれば取り組んでみようというオプション課題として設定してもよいと思います。完成した者同士で互いのよさを伝え合うといった活動に取り組ませてもよいでしょう。
実習の場面では、どうしても子どもたちの取り組み意欲の差が出てきます。前向きに取り組むようにするための活動を事前にいくつか考えておく必要があると思います。

中学校の数学の先生は、グループ活動についての相談でした。
一学期は子ども同士のかかわり合いを増やそうと積極的にグループ活動を取り入れたようです。問題演習の場面では子ども同士がけっこうかかわり合ってしゃべれるようになったようです。しかし、この日の授業もそうだったのですが、話し合いを通じて考えを深めるような課題の時にはなかなか口を開いてくれないので、授業者としてどう対応すればよいか困っているようです。
子どもたちが口を開かないのは、真剣に考えているときか、何を相談すればよいかわからない時がほとんどです。前者の場合は、しばらくすれば話したくなる子ども、聞きたくなる子どもが出てくるはずです。にもかかわらず口を開かないは、後者の場合も含めてどのようにしてかかわり合えばいいのかがよくわからないのです。これまでにそういったかかわり合いの経験がないと、単にグループにして相談しなさいと言ってもなかなかできるようにはなりません。グループ活動に取り組む前に、全体の場面でかかわりながら考えを深める経験を積ませることが大切です。「問題文を読んで困ったことない?」「よくわからないことは何?」と問いかけ、困ったことを共有させることでグループになった時に話すきっかけができます。困ったことを聞き合うようになるだけで、グループは動き出すと思います。
今回の悩みは、グループ活動中のかかわりを意識して子どもたちを見ているからこそ気づいたことだと思います。進歩したからこそ生まれてきた課題です。あせらず一歩ずつ前進してほしいと思います。

高等学校の数学の先生は、以前指摘したことを意識してくれていました。具体的には自分が話をしている時に子どもの顔を上げること、子どもを受け身にしないために話す量を減らすといったことです。しかし、授業進度のこともあり、どうしてもしゃべりすぎてしまい、その結果子どもたちが受け身になって顔も下がってしまうと悩んでいました。
進度を意識した時、単元や1時間の中で本当に何が大切なのか、きちんと教材研究をする必要があります。説明すべきことは最小限に絞って、子どもたちが考え、活動することを中心に授業を組み立てる必要があります。先生が話す場面でも、一方的に説明するのではなく、できるだけ細かく問いかけをして、子どもたちが考え出力する場面を増やすことが必要です。
問題に取り組む前には「何が使えそう?」「何がわかれば解けそう?」と問いかけて何人かの考えを共有させてから取り組ませるとよいでしょう。その際、どのやり方や考えがよいという結論は示さず、問題を解いた後、子どもたちにどれがよかったか評価させるようにすることで、次第に数学的な考え方が身についていくと思います。最終的には、問題に取り組む時に、授業者が問いかけなくても、自分で自分に問いかけるようになるのが理想です。

中学校の理科の先生は知識の定着について困っておられました。
前年までに学習した知識を前提として新しいことを学んでいきますが、その知識が定着していないために復習に時間を取られてしまうことが悩みのようです。最初は少し時間がかかりますが、分野ごとに小さい単位で知識を整理した資料や解説動画をクラウド上に準備しておくとよいでしょう。個人の状況に応じて、必要な知識をすぐに得られるようにしておくのです。必要なものを自分で探す癖をつければ、主体性が育っていくと思います。毎時間の学習内容に合わせて作りためていけば、次の年度からは手間なく活用ができます。
また。自分の苦手な分野についてどうしていけばよいのかも悩んでいました。苦手な分野があることは教師としてマイナス要素ではありません。子どもたちと一緒に先生も学んでいけばよいと考えてほしいと思います。先生がよくわからないことは、当然子どもにもわかりません。子どもたちと同じ目線に立って疑問を解決していく姿勢で授業をつくっていけばよいのです。理科として分野を問わず身につけてほしい共通の見方・考え方を意識すれば、苦手な分野でも自然と授業の形が見えてくると思います。モデル化を意識して考える場面をつくることや、実験で「仮説を検証するためにどんな実験をする」「仮説やモデルに従えばどんな結果になるか予想をする」といったことを意識して授業を組み立ていくようにアドバイスしました。

高等学校の家庭科の2人の先生とは、主に金銭教育についてお話をしました。
まだ若い先生なので、自身もお金についてはいろいろと失敗したりしながら学んでいる状況です。なかなか教えるだけの知識がないことを気にされているところもありましたが、そこは問題ではないことを伝えました。今まで想像もしなかった仮想通貨が出現したり、新しい金融・投資商品がでてきたり、税金の制度も変わったりと私たちを取り巻くお金の状況は日々変わってきています。今の知識はすぐに通用しなくなります。自分で情報を得、それをもとに考え、自分で判断する姿勢を育てることが大切です。時代が変化しても通用する力をつけることを意識して授業を組み立てるようにお願いしました。

今年度から高等学校を担当している国語の若手教師からは、子どもたちが自分の成長を感じていないために授業に対する意欲が下がってきていることを悩まれていました。
先生は子どもたちの発言や学習態度、振り返りなどから成長を感じているのですが、子どもたちは従来型の筆記試験の点数などを指標として自己評価しているので、そこにずれが生じているようです。
振り返りで子どものよい気づきを取り上げて評価するなど、いろいろな場面で意図的に子どもを評価し価値付けすることをアドバイスしました。子どもの成長を具体的にほめる場面を授業の中に組み込むのです。授業の中で子どもたちのどんな姿が見たいのか、どんなところを価値付けしたいかを意識して授業をデザインしてほしいと思います。

中学校の社会科の先生とは子どもたちの授業態度のばらつきに関することを中心にお話ししました。
一学期の間に授業規律を身に付けさせて、そこから少しずつ指示を減らしながら、子どもたちが自律することを意図した学級経営をしているようです。しかし、特段何もしなくても問題が起こらなかったので、授業規律を意識しない教科担任の授業ではだんだん子どもたちが自分勝手な行動を取るようになっているようです。学級担任が教科担任の先生に意識を変えてもらうようにすることはそれほど簡単ではありません。視点を変えて、教科担任にかかわらず子どもたち自身で自分を律することができるように育てるという発想があります。具体的には、「どんな先生であっても、君たちが自分たちでよい状況をつくって学び合えるようにできるはずだ」といった言葉をかけ、先生よりも高い視点から自分の行動を決定することを意識させるのです。対象となった先生には申し訳ありませんが、先生の意識を変えるより。子どもの意識を変える方が早いと思います。子どもたちをちょっといい気持ちにさせて頑張らせるというのも一つの方法です。
教科の授業については、子どもたち自身に課題を見つけさせようとしています。段階を踏んで育てていくことを意識するとよいでしょう。最初は課題を見つける視点を授業者が与え、ある程度経験すれば、これまでどんな視点があったかを整理してから課題を見つけるようにし、次第に授業者が何も言わなくても自分たちの視点を持てるようにしていきます。一気に高いところを目指すのではなく、少しずつ段階を踏みながら、時間をかけて育ててほしいと思います。

学校全体の授業を見る時間が少しありました。
高等学校では全体的に子どもたちは落ち着いていますが、相変わらず穴埋めや講義形式の受け身の授業が目立ちます。新型コロナウイルスの流行以降、この状態からなかなか復活しません。特に一部の講師の方にこの傾向が顕著です。特定の教師の問題とらえずに学校全体の問題とらえた対応が求められると思います。
中学校は授業中に子どもたちが見せる姿がバラバラになっています。先生によって態度が異なっていたり、同じ授業でも生徒によって集中している、していないが大きく異なっていたりします。子どもたちに授業中どのような姿になってほしいのかをきちんと中学校全体で共有することが必要だと思います。

この日は多くの若手教師とお話しすることができました。若いからこそ悩みも多いと思いますが、悩むことが成長への第一歩です。先生方の成長する様子を感じることができる楽しい1日でした。
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