いろいろな課題が見えてくる(長文)

私立の中学校高等学校で公開授業の参観を行いました。

この日は授業を絞って参観しました。
高校1年生の古文の授業は面白い課題を試みていました。
題材となる物語の落ちが伝わるような紙芝居をつくり、合わせてそれに関するクイズをつくるというものです。子どもたちは真剣に取り組んでいましたが、この活動の評価をどうするかが課題となります。発表して相互評価するというのが一般的なやり方ですが、評価の視点を明確にすることが必要です。古文の授業でつけたい力と活動の内容・評価をどう連動させるのかが問われるのです。わかりやすい形で評価の観点を提示することで、子どもたち自身で自分の活動を評価でき、学びが深まっていきます。
作品の落ちをわかりやすく伝えることが目標であれば、古文の読解ができなくてもネットで現代語訳を読めばそれで取り組むことができます。表現方法に重点を置いた評価になるでしょう。古文を正しく読む力をつけるのであれば、その場面に対応した本文を明記し、登場人物、主語や述語の関係が明確にわかるような絵にするなどの条件を付ける工夫が必要です。文化としての古文を意識するのであれば、当時と現代との感覚の違いや、文化として現代にまで引き継がれていることなどがわかるような場面を選んで描くといった条件を付けても面白いかもしれません。また、子どもたちが育ってくれば、何を目標として取り組むかを子どもたちにゆだねるといったやり方もあると思います。
新学習指導要領では表現が重視されていますが、表現することが目的ではなく、表現することを通じてどのような力をつけるのか、逆にどのような表現力をつけたいのかを意識した取り組みにすることが大切です。
意欲のある若手ですので、こういった新しい形の授業に挑戦し授業を振り返えることを繰り返すことで、大きく成長してくれることと思います。

高校1年生の英語の授業では英語検定のスピーキング形式の試験対応の場面をみました。授業者はネイティブで、授業は英語で行われます。日本語なら簡単にわかる説明もすべて英語なので集中して聞かないと理解できません。子どもたちの集中度がとても高かったのが印象的でした。
授業者は、時々簡単な質問を全体に投げかけ、指名で発表させますが、指名された子どもは自信がないのか小さな声で授業者に向かってしゃべります。子どもたちは授業者の説明は真剣に聞いていたのに、仲間の発言は積極的に聞こうという姿勢を見せません。発表が聞き取りづらいせいもありますが、聞こうとしない大きな理由に、授業者が発表者の声を聞き取って”Good!” “Excellent!”と発言の正誤を判断、評価してすぐ次に進んで行くことがあげられます。このやり取りは指名された子どもと授業者だけで閉じているので、他の子どもが参加する余地はないのです。そうではなく、”Good!”と評価した後、全員に向かって聞こえるように再度発言させるとよいでしょう。”Good!”と肯定されて自信を持つことができるので、より大きな声を出してくれるはずです。その上で、その発言に対して他の子どもに何らかの発言を求めるようにするのです。
ペアでQ&Aの練習する場面では、子どもたちは自分の言葉を紡ぎ出そうと真剣です。しかし、一通りやりとりが終わるとそれで活動は止まります。しばらくすると、子どもたちのテンションが上がっていきます。頭を使って考える活動が終わってしまったのです。授業者は個々のペアに、”One more question!”と続けて活動するように指示していきますが、活動を始める前に指示しておくべきでした。

保健の授業に関して、体育の先生からどうしてもしゃべりすぎてしまうと相談を受けました。事前にスライドをつくって映しながら説明すると、事前準備したことをどうしても全部しゃべりたくなるのが人情です。また、試験のことを考えると知識を教えないといけないので、考えさせるような課題に取り組む時間が取れないことも悩まれていました。知識を問うという試験の形式がよいか悪いかは置いておいて、説明すれば知識は身につくというのは教師側のアリバイ作りの発想以外の何物でもありません。説明すれば子どもたちに知識が身につくのならだれも苦労はしません。考え方を変える必要があります。子どもたちにどのような知識をつけたいのか、それを活用することでどのような課題を解決できるのか。その逆に課題を解決するためにどのような知識が必要となるのか。こういった視点で授業を再構成する必要があります。知識は活用することで定着します。教師が説明しなくても、知識を必要とする課題に取り組ませれば定着していきます。このことを意識して授業づくりをしてほしいと思います。

高校2年生の歴史の授業では、子どもたちが、時代の流れに沿って史実を構造化して整理するという課題に取り組んでいました。1年時に学習してきたことが積み上がってきているのを感じます。例えば政変であれば、複数の政変を時系列に並べ、フェイズごとにいくつかの視点で比較し、構造化して整理していました。子どもたちの力を信じて、活動と振り返りのスパイラルを回してきた成果が表れつつあります。卒業までに子どもたちがどのような力をつけるのかとても楽しみです。

中学校は子どもたちのよさを強く感じました。困難を抱えている子どもも一定数いるのですが、そのような子どもが集団の中でなんとか居場所を持てているように思います。逆に授業中に目立たなくなっているので、教師が寄り添うことを意識して接しないと、何とかつながっている糸が突然切れてしまう心配もあります。今まで以上に子どもたちをよく見てあげてほしいと思います。
「一方的に授業者がしゃべり続ける授業」「一部の子どもの反応だけで進んで、他の子どもが離れていく授業」でも成立していると錯覚している先生がかなりいるように見えます。この点を意識して改善する必要があると思います。

授業者のリクエストで、中学校1年生の社会科の授業を1時間参観しました。アフリカの自立について考える授業でした。
授業者は、開始の挨拶の前に机を整理させ、目についたゴミを拾わせました。挨拶も一人ひとりと目を合わせてきちんとさせています。授業規律がしっかりしていました。授業者は以前と比べると、空気感が柔らかくなっているように感じました。ただ、指示して子どもたちを動かすという指導だったので、そこを変えていくとよいと思いした。
例えばゴミを拾わせるにしても、「ちょっとそこを見て。どう思う?」と子どもたちにゴミに気づかせ、「ちゃんと気づけるね。どうする?」と子どもたちをほめながら自分からゴミを捨てるようにさせたいところです。ゴミを捨てたら、「ありがとう」と笑顔で声をかけ、その間待っていた子どもたちにも「ちゃんと待っててくれてありがとう」と全員をほめるようにするのです。
これまでの学習の振り返りを授業者が口頭でします。できれば子どもたちの口から言わせたいところです。テンポよく指名していけば、何人も指名してもそれほど時間はかかりません。子どもたちが、ノートや教科書を振り返ってくれれば、その行為をほめることで、主体的に振り返る姿勢を教室全体に広げられます。
個人で前時までの授業で問題と感じたアフリカの課題を書かせましたが、1つ2つ書くとそれで手が止まる子どもがほとんどです。最低3つ以上書き出し、その中で一番問題だと思うものを選ぶといった条件を付けることで、考える場面を組み込むことができます。予定時間が過ぎても書けない子どもがいるので時間がほしい人と声をかけ延長しましたが、延長しても作業が進んだり、内容がよくなったりすることはあまりありません。時間を増やしてもとりあえずの浅い考えしか出ないので、途中でも時間を切った方がよいと思います。自分の作業が完了していないから、かえってペアやグループの作業で仲間の言葉を聞いて完成させようという気持ちにもなります。
ペアで互いの選んだものを聞き合いますが、タブレットのワークシートを読み上げたり、画面を見せ合ったりする子どもが目立ちます。情報を交換するだけで思考が深まるわけではありません。互いの考えをデジタルのカードに書き、オンラインでグルーピングするといった作業にすると視点が整理され考えが深まると思います。
アフリカの自立とSDG’sを絡めた解決策を考えさせた上で、グループで聞き合います。聞き手にメモを取ることを求めますが、発表の内容をメモするだけで、互いの考えが深まっていくわけではありません。質問もあまりでず、面倒くさくなってタブレットを見せて済ませる子どもも目立ちます。1年生なので、グループで学び合う力がまだ育っていないのです。
課題に取り組む前に、「そもそも何で自立しなければいけないの?」「援助してもらった方が楽でいいじゃん?」といた揺さぶりをしておくことも必要でしょう。グループで争点が生まれるような仕組みも必要です。例えば、「まずこれから先に手をつけるべきだと思うものを発表して」と条件を付けるだけで、質問や疑問が生まれやすくなります。
授業者は常に教室全体が見える位置でグループの活動を見ていました。質問で盛り上がっているグループがあったことにも気づけていました。「盛り上がっていたけど、どんな質問が出たの?」と全体の場で発表させて共有することで、どんなことを質問すればよいか気づかせてもよかったでしょう。
授業者は、子どもたちの考えが浅いところで止まっていることを自分の授業の課題ととらえていました。単に時間だけかけても浅い状態から考えが勝手に深まっていくわけではありません。考えを深めるためには、とりあえずの考えから課題を焦点化するといった働きかけが必要となることを伝えました。また、ちょっとした条件を付けるだけでも活動の様子は変わります。こうするとうまくいくという正解があるのではなく、その時々の子どもたちの状況に応じて対応できるように、いくつかの手立てを準備することが必要です。やる気のある先生なので、子どもたちと一緒に成長してほしいと思います。

ある教科主任の先生から、振り返りシートの運用について相談されました。
全校で、毎授業後振り返りシートを書かせてチェックしていますが、その負荷に対して効果が見合うものなのか悩んでいるということでした。チェックしてアンダーラインを引くだけでもよいということですが、それでも毎時間だと負荷は大きいのです。「単元ごとに振り返るのではいけないのか?」、「毎日の授業にフィードバックするのが目的ならば、個々にチェックするのではなく、よい振り返りを毎回紹介する方がよいのではないか?」といった疑問をお持ちでした。
負荷なくやれる方法をみんなでつくっていくことが大切です。単元が何時間完了かにもよりますが、振り返りのサイクルは短い方がよいでしょう。単元が終わった時には、これまでの振り返りをもとに、単元での自分の成長を振り返るようにするとよいと思います。意識しなければならないのは、振り返りの第一の目的は、子どもが成長することです。子どもが調整力を働かせ、毎日の学習を進化させていくような仕組みを考える必要があります。子ども自身が仲間の振り返りから学ぶような仕掛けがあるとよいと思います。子どもが他の子どもの振り返りを見たくなるようにするためにどうするか。授業中にいくつかの振り返りを紹介するのもその方法の一つでしょう。
今全校で行っている振り返りでは視点をあえて指定していませんが、あらかじめ、視点をいくつか指定することで、振り返りの質を上げることができるのではないかという指摘もありました。多様な視点で振り返えられることが理想ですが、「楽しかった」「よくわかった」といった浅い振り返りが続くのであれば、「具体的にどのようなことがわかった」といった視点をいくつか与えることは悪いことではないと思います。指定された視点にとらわれずに書くことができるようにしておけば、それは一つの方法だと思います。1年間、3年間ずっと同じ形式である必要はありません。子どもたちの成長に合わせて、最後は枠だけのシートになればよいと思います。
今は過渡期ですので、できるだけ多くの方とオープンに相談して、よりよいものにしていくことを願っています。とてもよい話し合いの時間が持て、私にとっても参考になることがたくさんありました。

ICTの活用に関して、この日も前回同様のことを感じました。
先生方は教師の道具としてのメリットを享受できているのですが、子どもたちは自身の学びの道具としてのメリットを十分に享受できていないのです。教師の目線でみれば、現状はICTを活用できていて、困り感は感じていないのです。子どもたちの目線に立って、今後どのようなことが必要になっていくのかを考えてもらうことが課題です。次回以降このことの解決に向かって何ができるかを考えていきたいと思います。
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