第2回授業深掘りセミナー(その2)

前回の日記の続きです。

2つ目の提案模擬授業は神戸和敏先生(授業と学び研究所フェロー)による中学校数学の発展的学習でした。
3×3の魔方陣を扱った授業です。今回は魔方陣が見つかった次の時間という設定です。「どうしてそうなるの?」「本当に?」「絶対?」といった言葉にこだわった授業です。
簡単に魔方陣の説明をした後、できあがった魔方陣を見せて、「どうしてこうなったのか?」を説明することを課題として提示します。30分という短い時間なので、いきなり何に注目したのから始めます。大人だからついていけるかと思いましたが、意外と戸惑っている様子です。「真ん中の数が5になる」「縦、横、斜め、それぞれの合計が15になる」が出てきますが、魔方陣をつくる作業をしていないので、今一つピンときていません。すぐに「縦、横、斜め、それぞれの合計が15になる」説明をしてくれた子ども役がいましたが、なるほどと軽く受け流します。他の子ども役が十分考えていないところで正解を説明されても困るからでしょう。ただ、なんで軽く流されたのかがわからないと発表者はちょっと不満に思うかもしれません。「○○さんは、もう説明できそうだね」といった言葉を足してもよかったでしょう。
ここで、ペアで相談させます。「どうしてそうなるの?」に対して、「真ん中の数が5になる」「縦、横、斜め、それぞれの合計が15になる」がどうつながるのかがよくわからずに、モヤモヤしているペアがあるように見えました。神戸先生は「わからない」というペアが「わかればいい」と、「わかった」ではなく「わからない」から出発します。「真ん中の数が決まると、上下に入る数が決まってくる」という意見に対して、「納得しました」と返ってきます。それに対して「どういう風に?」と返します。「はさむ数が決まる」と少し言葉が変わって返ってきました。「はさむ」というのは「上下」よりも広い言葉です。真ん中が決まれば「上下」「左右」「斜め」の4組の組み合わせが決まることに気づいた(気づきつつある)ということです。私ならば、「はさむ」という言葉を取り上げて「どういうこと?」と聞き返して、このことを確認します。これをしないところに、神戸先生らしさを感じます。
真ん中の数が決まれば、4組の組み合わせが決まることは、「縦、横、斜めの合計が15になる」ことから決まります。そこでどうして15になるかに焦点化します。「15じゃなければいけないの?」と揺さぶります。神戸先生は、ヒントとなることをあえて言わないようにしています。子どもたち自身で手がかりを見つけて考えさせたいからです。ただ、子ども役の方は魔方陣をつくる作業をしていないので、「1から9までの整数をすべて使って」という条件を意識できていません。「1から9までの整数をすべて使って縦、横、斜めの合計を同じ数にしようと思うと、15じゃなければいけないの?」と言葉を足すという方法もあったかもしれません。

「3マスだから3の倍数」といった面白い(?)考えが出されます。最初に説明できていた子ども役の方をここで活躍させてもよかったかもしれません。
合計が15になるというのは、全部のマスを合計すると1から9までの合計が45になるので、各列の和は45÷3となるからですが、「ななめはどうなるの?」という声が出てきます。必要条件と十分条件がわかっていません。もし、魔方陣がつくれるとすれば、各列の合計は15にならなければいけない。魔方陣の定義から斜めの合計も15にならなければいけない。こういう論理展開です。このことを説明したくなるところですが、ここもあえて神戸先生は口を出しません。子ども役をつなぐことや揺さぶりはしますが、自分からは説明はしないのです。簡単なことに見えてこれはなかなかできることではありません。この我慢が素晴らしいと思いました。

「(合計が)奇数なので残り2マスは15=□+奇数+□で合計が偶数」ということが出てきます。奇数、偶数という感覚はおもしろのですが、真ん中の奇数がどういうことかよくわかりません。どうやら、真ん中は5ということが前提で考えているようです。ここでも、余計な切り返しをせずに、子ども役につなぐことを続けます。「5が基準にあれば、1と9、2と8、……と上手くいく」という意見が出ます。これは十分条件です。真ん中が5でなければいけないという必要条件にはなっていません。「真ん中が5より小さいと残りの合計が10より大きくなる。1とペアになる数がない。5より大きいと残りの合計が9より小さくなるから9のペアがない」といった説明が出てくればいいのですが、そこにはなかなかつながりません。「5には相手がいない」と言った言葉は出てくるのですが、そこから進みません。私なら「5でなければいけないの?6だったら?」といった言葉をだして気づかせたいという気持ちになっていたところです。

「5は4回使う」という言葉が出てきます。これは縦、横、斜め(2つある)の4組の合計をすると、真ん中の5は4回使われることになるということに気づいたということです。他の数は1回ずつですから。15×4は1から9までの合計45に5を3回足した60になっていると言いたいのでしょう。この説明ではあくまでも十分条件ですから、論理的には真ん中の数がわからないという前提で考える必要があります。真ん中の数をxとすると15×4=(1+2+・・・+9)+3xという方程式になります。これを解けば5が出てきます。しかし、「4回使う」という発言に対して、神戸先生は「だって」とここでも子どもに戻すだけにします。

ここで時間切れとなりました。子ども役にとっても、まわりで見ている方にとっても結論の出ないスッキリしないものになったようです。しかし、休息時間になってもまだこの課題に取り組んでいる人がたくさんいます。知りたい、わかりたいという思いがあふれています。このことが、この授業を読み解くカギだと思います。

「深掘りトークセッション」では、結論が出なかったことや課題が子ども役にとってのものになったかどうかが話題になりました。この授業は、子どもたちに考える力をつけるためにどうすればいいのかを提案した授業だと思います。1つ目の佐藤先生の授業を「電車道」とするならば、その真逆の授業に見えます。しかし、教師がヒントを出すことや説明することをできるだけしないというのは、思考力をつけるための「電車道」なのかもしれません。この授業では時間がなかったためその場面がありませんでしたが、「どういうところに目をつけたか」「どうやって考えたか」ということを価値付してメタ認知する場面が必要だと思います。ただ思考する経験を積むのではなく、それを思考の方法として意識することが思考力につながっていくからです。正解が示されると「当たった」という子どもがいますが、こういった子どもは思考を意識していません。自分は考えたのだということを意識させたいと思います。和田裕枝先生(豊田市立小清水小学校長)は「私は答を聞きません。『何考えたか聞かせてくれる?』と聞きます」と発言されました。子どもの思考力をつけることを意識したやり方だと思います。

ゴールが何で、そのためのステップとして今回の課題があるという全体像が意識されていなかったことが、子ども役にとっての課題になりきっていなかった一因のように思います。時間が短かったことと、子ども役が自分で魔方陣をつくる作業をしていなかったことも、影響しているでしょう。しかし、子ども役が授業後もこの課題に取り組んでいたということは、解決したいという気持ちになったからです。それは、神戸先生があえて解決への道筋を見せなかったことが大きく影響していると思います。教師が教えずに我慢して子どもに任せることの意味がよくわかったのではないでしょうか。子どもたちが考える授業の一つのあり方を見せてくれたと思います。

小学校なら、統計的な切り口で子どもの課題にするという意見が和田先生から示されました。子どもたちがつくった魔方陣はいくつかの種類がある(回転や対称を考えると本質的には一つ)はずだが、どれもみんな真ん中が5だということに気づかせて、その理由を考えさせるというのです。なるほどと思いました。単にこうするというのではなく、「統計的」という視点を示されたことに感心しました。

司会の玉置先生(授業と学び研究所フェロー)から、「先生方の授業が、子どもたちが考えるのではなく、答えや解き方を教えるものになってしまうのはなぜか?どうすればいいのか?」という質問をいただきました。私は、あえて「先生方に考える力がないからだ」と挑発的な言葉を発しました。先生方は、授業で扱う問題の解き方を知っています。知っているから教えようとします。しかし、先生方も解き方を知らない問題にぶつかるとそう簡単には解けません。知らない問題を解く力がない、意識できていないのです。「解き方を知らなければどうやって考えるだろう」「どんな課題を与えれば子どもたちは解き方を見つけることができるだろうか」と考えて授業を組み立てることが必要です。子どもたちの様子や反応をよく見て、どのようなかかわり方をすればよいかを考えて毎日の授業をつくっていくことが、進化につながると思います。

神戸先生の授業は一見するとその本質や価値がわかりにくい授業だったかもしれませんが、玉置先生の司会とパネラーの考察で深掘りされることで、参加者の皆さんに十分にその意味が伝わったのではないかと思います。

最後に、「教育情報知っ得コーナー」で反転授業について私からお話をさせていただきました。これについては、次回の日記で。
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