子どもたちに考えさせるためには、与えておく知識が大切

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は若手4人の授業アドバイスを行いました。

6年生の社会科の授業は、満州事変を扱う時間でした。
前時の復習で、第2次世界大戦前の日本の社会の様子を確認します。第1次世界大戦でよかった景気が不景気になってきたこと押さえました。そこで、子どもたちにリットン調査団の写真を見せて、何をしているところかを書かせます。授業者はあまり時間をかけません。子どもたちに何か根拠があるわけではありませんから、考えてもムダです。よい判断だと思います。子どもたちに発表させますが、例え正解が出ても資料の読み取りとしてそれほど意味のあることではありません。子どもたちは、自分の考えを発表してくれますが、あまり興味を持っているようには見えませんでした。何をしているかを考えることの意味がよくわからないからです。そうであれば、教師主導で子どもとやり取りしながら、早く満州事変の説明に移るべきだったと思います。
授業者は日本軍が自作自演の南満州鉄道の爆破(柳条湖事件)をきっかけに満州事変を起こしたことを伝えますが、子どもたちはワークシートの穴を埋めることに意識がいって、授業者の話を集中して聞きません。ワークシートを使う時は、穴埋めの答を授業者が書かないようにするとよいでしょう。もし答を写させたいのであれば、そのための時間を別に取ることが必要です。

日本軍がなぜ満州事変を起こしたのかを考えさせることがこの日の主課題です。不景気や農村の窮状を示す写真、中国の資源分布図などの資料をたくさん用意して、教科書とこれを元に子どもたちに考えさせます。これだけの資料を読み取るだけでも時間がかかるはずですが、活動を始めると、子どもたちがすぐに鉛筆を走らせます。これはとても気になります。正解と思われる教科書の記述をほぼそのまま写しているのです。教科書は使わず、資料の簡単な読み取りだけはしておきたいところです。
個人作業の後、グループでそれぞれが考えた理由を聞き合います。授業者は、最低3つは意見を持つように指示しました。聞く必然性をつくるにはよい指示です。しかし、そうなると子どもたちは友だちの意見をそのまま写してしまいます。グループ内で友だちの意見の根拠を確認している姿はあまり見られませんでした。日ごろの授業では結論が重視され、根拠や思考の過程はあまり意識されていないようです。

全体での発表では、授業者は子どもの意見をしっかりと受け止めますが、すぐに板書をするので、子どもたちは発表者を見ません。ここでも子どもたちはすぐにワークシートに板書を写そうとするのです。
授業者は子どもの発表に対して、根拠となった資料を聞くこともしますが、そこで終わってしまいます。他の子どもにもその資料を見させて、そこから考えさせることをしたいところです。理由という考えた結果ではなく、どの資料を根拠にしたのかを発表させるというやり方もあります。その資料が示していることを全体で共有して、他の子どもにも考えさせるのです。最初に指名した子どもの考えを聞いて自分の考えと比べさせると面白いと思います。

賠償金がほしかったという意見が出てきます。日清戦争での賠償金のイメージが強かったのでしょう。「生活が苦しいので給料を上げる」という発言に対して、「戦争すると給料が上がるの?」というつぶやきがありました。残念ながら授業者はその言葉を取り上げることができませんでした。この疑問について考えることで、戦争と経済の関係が見えてきたと思います。「戦争を起こして輸出額を上げる」という意見もあります。おそらく第1次世界大戦での日本のことを想起してのことだと思います。その時輸出が増えた理由がわかっていないので、このような意見が出たのでしょう。続いて「鉱山で儲ける」「武器を見せつける」といった意見が出てきました。少しずれている意見が多かったのですが、それに対して切り返すことや子ども同士をかかわらせながら考えを深めるといった場面がありませんでした。
子どもたちは、日本の不景気、農村の困窮といった状況を解決したいことが理由とわかっても、満州事変を起こすことでそれらが解決するというロジックはわかっていません。あまりにも経済の知識が少ないからです。

授業者は「最後にどういうことをしたか、一言でまとめるとしたら?」と問いかけ、「手に入れたい」とまとめました。(お金、土地、資源、……を)手に入れることで当時の日本の抱えている問題を解決しようとしたとまとめたのですが、その根拠に触れることがなかったので、子どもたちは今一つ腑に落ちていません。答を探しただけで、「不景気だから、農村が困窮していたから、お金や土地、資源を手に入れようとした」という表面的な因果関係を覚えるだけになってしまいました。「お金」「土地」「資源」といったキーワードを元に、それが当時の日本の抱えている問題とどのように結びつくのか整理することが必要だったでしょう。また、「市場」に関する考えが子どもたちからは出ませんでした。このことも何らかの形で押さえておきたかったところです。結局、子どもたちの活動は、資料から日本が不景気だった、中国(満州)には土地と資源があったということを結びつけただけでした。

リットン調査団の報告をきっかけに日本が国際連盟を脱退したことに触れました。小学生では難しいところもあるのですが、国際社会との問題という面では、ブロック経済にもどこかで触れる必要があったかもしれません。不景気に対してどのような対策が考えられたのかを先に押さえておいてから、満州事変を学習するという進め方もあったかもしれません。植民地をほとんど持たない日本の置かれている状況を背景として知っていないと、なかなか理解できないと思います。

小学生に何をどこまで考えさせるのかは難しい問題です。考える活動をさせるのであれば、それに必要な最低限の知識は教えておく必要があります。この授業では、どのような知識を前提としていたのかがよくわかりませんでした。逆に言えば何を考えさせたいのかが明確になっていなかったのだと思います。このあたりを整理すると、資料も厳選でき、子どもたちの考えも焦点化しやすかったと思います。

最後に満州事変の説明の動画を見せたのでしたが、かなりの子どもがまとめの板書をワークシートに写していて、動画には目を向けていなかったのが印象的でした。

授業者は、子どもたちに資料を読み込んで考えを深めてほしいと考えています。目指すところはとてもよいと思いますが、具体的に資料を読み込むとはどういうことか、考えを深めるためにはどのような視点で考えるとよいのかといったことを、教えたり気づかせたりすることが必要です。今回の授業であれば、日本が抱えていた問題をまず整理しておくことが必要です。「日本軍のとった行動は、このどれを解決しようとしたのだろうか?」「なぜ解決できると思ったのだろうか?」「そして本当に解決したのだろうか?」「新たな問題は起こらなかったのか?」といった視点で組み立てるとよかったでしょう。こうすることで、子どもたちの統計資料の見方も変わってくると思います。また、このことを考えるためにどんな資料が必要かも意識するようにもなると思います。
こういった視点で持って授業の組み立てを考えることで、きっと目指す授業に近づいていくと思います。

この続きは、明日の日記で。
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31