愛される学校づくり研究会

★日々行われている授業には、私たち教師に「元気」や「気づき」を与えてくれるすばらしい風景がたくさんあります。そんな風景を体全体で感じる時、そこには必ず素敵なほほえましい子どもの姿があります。大成功を収めた授業、大失敗に終わった授業、意外な展開に胸が高鳴った授業など、それぞれの教師が伝えたい心に残る授業の一コマや、授業があることで輝く学校現場の風景などを紹介します。

【 第6回 】「大好き」を育てる
〜春日井市教育委員会 学校教育課 指導主事 田中雅也〜

小学校の担任をして3年目、5年生の担任をしていた頃のことである。

算数の授業。子どもたちそれぞれが問題を解き、一通り授業のねらいに近づくような解き方の発表があった後、O君がいつもどおりその場面の終盤に挙手して発言する。まわりの子どもたちは「またか」と受け止めながら、顔はニコニコしている。
「僕は、こうして考えました。○○さんの考え方のように0.7+1.3=2、2×6=12として1度に6かけて12もいいけど、1.3を0.7と0.6にわけて、はじめの0.7も含めてそれぞれに6をかける。すると0.7×6+0.7×6+0.6×6となるから((0.7×2)+0.6)×6=12というようにまとめてみました。でも、このまとめたものをさらに数字を分解すると、……」
と熱のこもった説明。まわりの子たちからは、「なるほど」や「それはそうだけどね」などのつぶやき。これもいつもどおり。でも「もうやめてほしい」などは、一度もなかったはずである(問題や数値は当時のままではありません)。

通常、算数では式を少なく解く、美しい解き方・答えなど、数学的なよさをみんなで共有・習得し、既習内容を次の学習にいかしていくところである。しかし、O君は、それにとどまらず、もっと複雑に、もっと手間ひまかけて、と自分で納得いくまで取り組んでいくのが日常。そして、このO君の発想や考え方をクラス全体が当たり前のこととして尊重しているのである。これは、5年生の時に担任であった私の力ではない。それ以前の2年間、算数の授業を大事にしてきた前担任の元で、思う存分算数の楽しさを学んだことが、高学年の算数の授業でも当たり前になっているだけのこと。算数での彼に対する私の役割は、彼がずっと算数が大好きであるようにしていくことだった。そのために、何度も先輩であるその前担任の先生から、算数の授業について話を聞く機会を頂いた。私自身の算数の授業に関する認識や指導技術の向上に大いにつながった。

一方、私は体育科の授業研究に継続して取り組んでいたので、自然と体育の時間に力が入った。幸いなことに、担任をしていた2年間は、「さぁ、体育だ!」とクラスのみんなが教室から飛び出し、休み時間にすべて準備を済ませた状態で、授業に臨むことができたかなと、独りよがりだが認識している。果たして、子どもたちがそれ以降、長きにわたって体育が大好きであったかどうか定かでないが…。

今は指導主事として、学習規律の徹底やICTの有効活用をもとに、全ての子どもたちの学力保障をめざした日常的なわかりやすい授業につなげる授業改善について、春日井市内全体への還元・浸透に取り組んでいるところだが、今でも当時のことをよく思い出す。

(2014年10月14日)

準備中

●田中雅也)
(たなか・まさや)

昭和60年4月より春日井市の中学校を皮切りに教員生活をスタート。その後、名古屋、春日井市の小学校、4年間の市教委指導主事を経て、平成23・24年度研究委嘱校の出川小学校の教頭。平成25年度より再び市教委指導主事として勤務し、出川小の研究成果の発信・還元に取り組んでいる。