愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第6回 】模擬授業を積極的に活用する

愛される学校づくり研究会では、模擬授業を元に授業研究をおこなっています。参加者から何人かの子ども役を募り、実際の授業と同じように進めていきます。研究会ですので、子ども相手に授業をすることができないからです。学校でも夏休みに授業研究を行おうとすると、模擬授業かビデオによるものになります。ビデオの場合ずっと定点で授業者や子どもを写しつづけたものになることが多く、知りたい情報が手に入らないこともあります。一方模擬授業は、教師の説明や指導過程は実際と同じでも、大人による子ども役なので子どもの反応に関しては模擬でしかありえません。いずれの方法にしても、実際の授業の代替という感はぬぐえません。しかし、そうではなく積極的にこれらの方法を選ぶ理由もあるのです。今回は、模擬授業を利用した授業研究について考えてみたいと思います。

模擬授業のよいところは授業を好きな時に止めることができることです。面白い場面、ちょっと気になる場面があれば立ち止まって検討することができるのです。授業者が「この対応はうまくないな」と思っても実際の授業ではやり直すことはできません。しかし、模擬授業であれば、いったん止めて違う対応を考えて参加者と一緒にどちらがよいか検討することもできます。子ども役の立場で「その説明ではわからない」と感じれば、そのことを伝えてどのように説明すればよいかその場で一緒に考えることもできます。もちろん、授業後の検討会でも、話し合うことは可能なのですが、発表する機会がなかったり、そのことを忘れてしまったりすることもあります。指摘されてもその場面を思い出せないこともあります。即時に検討できることは、模擬授業の大きなメリットです。このよさを活かすためには、模擬授業を止めることが必要ですが、この止めるタイミングがなかなか難しいところです。実際に進行している授業を止めるというのは、かなり勇気がいります。このやり方に慣れていないとなかなか自ら声を上げて授業を止めることができません。慣れないうちは、教務主任などの全体をコーディネートする立場の方に意図的に止めてもらうことが必要になります。コーディネート役に「授業検討を通じてどのようなことを学び合うのか」「今回は何をテーマとして扱うのか」といった視点で模擬授業をコントロールする力が求められるのです。

模擬授業のもう一つのよいところは、子ども役を通じて学べることです。子ども役をやっていただいた方は子どもの気持ちを想像しようとすることで、普段はなかなか意識できない子どもの視点で授業を考えることができます。実際の模擬授業を見ていて、子ども役の上手い下手はその方の授業力とかなり関係があるように思います。日ごろよく子どもを見ている方は、こんな場面では子どもはこういう反応をするということをよく知っているからです。ところで、私たちの研究会では一般の企業の方も参加しています。当然子ども役として模擬授業にも参加していただきますが、実によい反応をしていただけます。余計なことを考えずに素直に子どもの気持ちになってくれるからです。これは教師にも当てはまります。経験の多い少ないにかかわらず、素直に子どもの気持ちになれる方は、子ども役を通じて自然に子どもが授業中にどんなことを感じるかを学んでくれます。このことは、次の模擬授業のよさにつながります。

実際の授業では、子どもがある場面で感じたことを直接聞くことはまずできません。しかし、模擬授業であれば子ども役から聞くことができるのです。ちょっとした教師の言葉づかいが子どもにどのように受け取られるのか、教師の指示はどのように理解されるのかといったことを知ることができるのです。大人だからといって子どもと比べて大きく異なった受け止め方をするわけではありません。なるほどと思える答が返ってくるのが常です。このよさをより活かすには、子ども役を各グループに割り振ってグループによる授業検討を行うとよいでしょう。子ども役の感じたことをしっかりと聞くことができ、授業を外から見ていた参観者の視点と比較しながら話し合えるからです。また、中学校では教科の専門性が強いので、他教科の方は授業検討会ではなかなか教科の内容についてコメントしづらいものがあります。しかし、子ども役を通じて感じたことであれば素直に意見が言えます。苦手な教科の子ども役をされた方は、子どもがわからない時の気持ちがよくわかったということをよく言われます。「その発問では、何を答えていいかわからなかった」「指示されたことの意味がわからなかったが、隣を見てわかった」といった、とても参考になる意見を言っていただけます。

こういった模擬授業のよさは、研究授業の事前検討にもとても有効です。模擬授業形式で検討をすると、その教科の教師だけでなくいろいろな教科の教師が参加しやすくなります。模擬授業は少人数でも可能です。意欲のある教師が集まって一緒に考えることで、授業者の精神的負担を減らし、参加者の研究授業への参加意識を高めることができます。また、子ども役をやった教師は、本番の授業での子どもの様子をより意識して観察するようにもなります。自分の反応とどう違うか気になるからです。一つの授業からより深く学ぶことができるのです。

実際に子どもを使って授業ができないからといって行われることの多い模擬授業ですが、そのよさを活かして積極的に活用することをもっと考えてもよいのではないでしょうか。模擬授業が終わったあと、「楽しかった」という言葉が必ず聞かれます。特に子ども役は、「子どもの気持ちがよくわかった」と楽しそうに話してくれます。このことが模擬授業のよさを教えてくれているように思います。

8月の愛される学校づくり研究会では、来年2月のフォーラムに向けて本番と同様の時間で授業研究を行います。フォーラムではICTを活用した授業研究の提案もする予定です。次回は、この報告を中心にしたいと思います。

(2013年8月26日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。