愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第3回 】「3シーン授業検討法」は使えるのか?!

今回は、4月の愛される学校づくり研究会で「3シーン授業検討法」を使って授業検討をおこなった報告です。

会員の一部を生徒役にして読み物資料を利用した道徳の模擬授業をおこない、検討しました。「3シーン授業検討法」は授業を観ていてその時に気づいたこと感じたことを経過時間とともにメモしていきます。私のメモを見てみると、道徳の教科内容とは直接関係のない子どもの言葉の受け止め方、聞く姿勢といった授業技術に関することと、子どもへの発問と子どもの発言の焦点化という内容にかかわることの大きく2つのグループに分かれていました。
 実際にどの場面を取り上げて議論するかは、全員の考えで決まります。今回選ばれた3シーンは、すべて発問と子どもの発言、そのやり取りの場面でした。多くの方の心が動いた場面といっても、何を感じたかは聞いてみなければわかりません。早く考えを聞きたいところですが、いきなり検討に入ってしまえば、選ばなかった人は自分の考えが持てていないので参加しづらくなります。ここで、ビデオが活きるのです。場面ごとにその前後数分間を再生します。様子を見ていると、その場面を選ばなかった人の方が真剣にビデオを見ていることがわかります。

全員がその場面を共有化したところで、検討に入ります。まずは、この場面を選んだ方の意見を聞きます。それぞれが何を感じ、考えたか、次々に発表されます。授業者の視点、生徒の視点、よいと思うところ、疑問に思うところ、同じ場面といっても、出てくる意見は多様です。
 「発問に対して何を答えたらよいかわからなかった」
 「読み物資料だが、登場人物の気持ちを想像させる問いでよいのか、それとも自分ならどうするかと自分に引き寄せて考えさせるような工夫をすべきなのか」
 「生徒役の発言に対してどう切り返せば、より深く考えただろうか」
 多くの方がすでに自分の考えを持っているので検討すべき材料はたくさん出てきます。この場面を選ばなかった方もビデオでその場面を共有しているので、議論に参加できます。「この場面を選ばなかった理由」を聞くことで、また別の視点を得ることもできます。「何か意見はありませんか?」といった散漫になる時間もなく、1時間ほどの授業検討はとても密度の濃いものになりました。研究会には教師ではない一般企業の方も参加されています。しかし、それぞれの立場、視点でしっかりと話し合いに参加できていました。

また、「3シーン授業検討法」におけるコーディネーター(司会者)の重要性を強く感じました。場面が焦点化されているのでそれだけ深い議論になりやすく、当然論点の整理をきちんとしないと、迷走する危険性があります。今回の授業検討が密度の濃い有意義なものになったことには、コーディネーターの果たす役割も大きかったように思います。

研究会の後半は、「3シーン授業検討法」が有効な授業検討法かどうかの検討です。授業検討で気になるのは授業者の感想です。たとえ参加者にとって有意義なものであっても、授業者のやる気がなくなるものでは困ります。今回授業者、参加者のレベルが共に高いからこそ多くの指摘があり、逆に授業者の優れた授業技術については当然のこととして話題に上りませんでした。授業者がネガティブに感じたのではないかと心配になりました。しかし、参加者の手が多く挙がった場面は、事前に生徒に対して授業をした時にも課題に感じていた場面だったので、納得できる。ぜひリベンジしたいと前向きに語ってくれました。とはいえ、納得のできる意見であれば、どの先生でも前向きに受け止めてくるかどうかは少し気になるところでもあります。

「3シーン授業検討法」について話題になったのは、「わざわざ手を挙げなくても、通常の話し合いの中で場面を絞ることができるのではないか」「取り上げられなかった場面にも学ぶべきことが多い、その時間を確保すべきではないか」ということでした。この検討法の根幹にかかわる指摘です。それに対して、「忙しい時間の中でおこなうのであるから、限られた時間をできるだけ多くの人が関心のある場面を話題にすべきだ」「参加者のレベルによっても関心のある場面は異なるが、だからこそ参加者に応じたことを話題にすべきだ」ということが言われました。
 もし今回若手の参加者が多ければ、おそらく授業技術の素晴らしさが話題になったことと思います。具体的にどのようにすれば子どもたちを引き付けられるのか、受容するとはどういうことかといったことについて深く話し合うことになったと思います。通常の検討会は、ベテランの意見で話し合いが進み、若手の意見が取り上げられなかったりします。その点「3シーン授業検討法」は参加者の公平性が保証されています。また、話し合いの中で焦点化するといっても、その場面を意識していなかった人は参加できません。焦点化されてからビデオを見せるのでは遅すぎます。今回自分がチェックした場面が取り上げられなかった方も、場面を共有でき、議論が深まるにつれて自分の視点とつながることが話題となったので、十分に参加できたと語ってくれました。全員参加という視点でも有効な方法と言えると思います。

また、「3シーン授業検討法」のねらいの一つに「授業を見る視点を育てる」ということがあります。先日ある会員の方からこんなことをお聞きしました。生徒役の動きをずっと追っていたが、皆さんがチェックしたことには気づけなかった。再生される場面を見てから参加することで教師の発問の意図といった視点があることに気づけた。後日、参加できなかった方とビデオをもう一度見ながらチェックしてみたら、前回と全く違う場面にチェックしていた。授業を見る視点が少し広がった気がする。
 教師ではない方です。授業経験のない方でも新たな視点を持つことができたようです。「授業を見る視点を育てる」ために有効な検討法と言えそうです。

「3シーン授業検討法」は、参加者の関心の高い場面に絞り、ビデオで場面を共有することで全員が参加しやすく密度の高い検討を可能にしてくれました。また、授業を見る視点を育てることもできそうです。一方、場面を絞るので学びの多い場面であっても検討されない可能性も否定できません。今回のように指摘が多いときは、授業者がネガティブになる心配もありそうです。しかし、こういった点に留意して活用すればとても有効な授業検討法だと言えるでしょう。ぜひ試してほしいと思います。来年の愛される学校づくりフォーラムでは「3シーン授業検討法」を実際にご覧いただく予定です。

次回は、グループを活用した、今回課題となった、授業者をポジティブにする、よい場面をたくさん話題にすることを目指す授業検討法を紹介する予定です。

(2013年5月27日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。