愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第13回 】「愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」での学び(その2)

愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」の午後の部の「楽しく授業研究しよう」の3つ目は「ICTを活用した授業検討法」による中学理科の授業検討でした。授業者は岩倉市立岩倉中学校校長の野木森広先生、司会者は私が務めさせていただきました。

「ICTを活用した授業検討法」の基本的な考え方は、「3シーン授業検討法」に準じています。授業を見ていて「心が動いた」場面でタブレットPCのボタンを押すことで、サーバーにはいつ、誰がどのボタンを押したかが記録され、1分ごとに集計されます。今回は、子ども役の8グループ、授業者、黒板をボタンに設定しました。ボタンが押されると同時に、それぞれの端末には今どのボタンが押されたかが色で表示されます。一定期間にたくさんの人がボタンを押せばそのボタンの色が濃くなっていきます。時間が経てば消えていきます。端末を見ることで、今授業検討者がどこに注目しているかわかるようになっています。授業はPCと接続されたビデオカメラを使ってサーバーに録画されます。検討会では、集計されたデータをもとに検討すべき場面を決定し、その場面を再生しながら検討をおこないます。

模擬授業は、豆電球の明るさの違いの理由を仮説と実験の結果と比較することで、抵抗の正体について考える授業でした。1分ごとのボタンが押された数の合計をもとに、検討する場面を決定する予定だったのですが、たくさん押された時間帯がどうも偏っています。詳しくデータを見てみると、特定の方が子ども役の様子を見てたくさんボタンを押しているのです。それぞれのグループを見ながら何かしらの発見がありボタンを押されたのでしょう。一方、絶対数はそれほどではなくても、ほぼ全員が押している時間帯もあります。従来の「3シーン授業検討法」では時間帯ごとに1回しか挙手しないのでこういうことは起こりません。押されたボタンの種類、押された実数や延べ数といった得られる情報が多いからこそ、指標として何を使うか、どう加工するかという課題が見えてきます。今回はプロトタイプということもあり、数字による集計だけでしたが、会場からは、こういった情報を見える化することで、どのような司会者でも検討すべき場面を適切に決定できるはずだという意見をいただきました。その通りだと思います。どのように見える化するかを考えることは、授業検討の指標として何が有効かを見つけることと同じことだと思います。この点に関して今後も続けて検討していきたいと思います。

「(抵抗となる)針金を熱すると豆電球の明るさはどうなるか、それはなぜか説明しよう」という課題に対して、「明るくなる場合と暗くなる場合の両方の場合の理由を考えさせる」場面が後半にありました。とても面白い進め方です。この場面は多くの人の心が動くと思ったのですが、それほどボタンが押されていません。この場面だけでなく、ボタンが押される絶対数が後半になると急激に減っていました。最初の内は授業検討者がこのツールに慣れていないため、使わなくてはとたくさん押したが、後半はその勢いが減った。授業が興味深く進んだため見ることに集中してしまい、ボタンを押す余裕がなかった。どうやらこういうことのようです。前者については、このツールを何度か使うことで解決されるでしょうが、後者は難しい問題です。一つの解決方法は、後からさかのぼってボタンを押せるようにする機能をつけることです。この方法にこだわらず、どのような対応があるか、これも今後検討していきたいと思います。

後半にボタンが押された数が少ないことに関連して、企業会員の授業検討者から次のような言葉を聞くことができました。「授業をどのように見るかよくわからなかったので、途中からボタンがたくさん押されたところを見るようにした」というのです。経験の少ない若手に置き換えて考えればなるほど思わせる発言です。注目している視点を共有できることは、授業を見る力をつけることにもつながるということです。

検討の中で、特定の子ども役の様子が話題になりました。その子ども役の変化を追っかけていた検討者から、他の場面での様子が紹介されました。今回、記録係に「○○の課題が提示される」「個人追究開始」「意見発表」「実験ビデオを見る」といった場面ごとの説明を入力してもらいましたが、こういったコメントを入れる機能がとても役に立ちました。このコメントをインデックスにして、紹介された場面をすぐにビデオ再生できるので、簡単に共有できたのです。授業記録ツールとしてだけ見ても、議論と連動してダイナミックに授業を振り返ることができるので大きな可能性を持っていると思います。

授業検討ツールの研究はまだ始まったばかりです。今回のフォーラムでわかった課題も含め、今後もよりよいものにするように研究を続けていきたいと思います。13回にわたり授業研究について書かせていただきました。4月からは、新たに授業研究だけでなくより広い視点で授業改善の方法について考えていきたいと思います。 最後にフォーラムの資料として掲載した「授業検討法に関するQ&A」も公開したいと思います。今までこのコラムでお伝えしたことをQ&A形式でまとめたものです。参考になれば幸いです。

(2014年3月24日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。