愛される学校づくり研究会

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★愛される学校づくり研究会では、この1年間「どのようにすれば楽しく授業研究ができるか」を研究していくことになりました。このコラムでは、そこで取り上げられる授業研究の手法や取り組みの様子、そのよさや課題をお伝えしたいと思います。授業研究がテーマですが、「授業で大切なことは何か」「教師が成長するために必要なことは何か」「授業研究が愛される学校づくりとどうかかわるのか」といったことにも触れていきたいと思っています。

【 第12回 】「愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」での学び(その1)

2月9日に開催された「愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」は、おかげさまで大変盛況のうちに終了しました。午後の部の「楽しく授業研究しよう」を通じて学んだことを今回と次回の2回にわたってお伝えしたいと思います。
 フォーラムでは、このコラムで取り上げた3つの授業検討法を紹介させていただきました。検討会ごとに、愛される学校づくり研究会の会員による20分の模擬授業とその授業検討会で構成されています。

1つ目は「3シーン授業検討法」による中学国語の授業検討でした。授業者は一宮市立尾西第一中学校教頭伊藤彰敏先生、司会者は小牧市立小牧中学校校長玉置崇先生です。松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」の句を、五感を意識して読み取る授業です。
 この授業で皆さんの心が一番動いた場面は、この俳句はどのような感覚が中心であるかを個人で書かせた後の発表でした。「心の視覚」という子ども役の言葉を受けて、授業者が言葉をつなぎながら「水の音だけを聞いて想像した」という言葉を引き出したのです。「『心の視覚』という言葉を投げかけることで、共通の問題意識を持ち始めた」と子ども役の変化をとらえる意見。「『心の視覚』を『聴覚』に結びつけたことが素晴らしい」といった子どもの言葉を上手く活かしてねらいにつなげた授業者の対応に対する意見などが発表されます。皆さんの心が動いたところですが、いくつかの異なる視点で語られることが印象的です。場面が焦点化されても、そこから気づくこと、学ぶところは多岐にわたります。
 ここで、司会者は授業者に質問します。「『心の視覚』が子どもから出てくるとは予想はしていないはず。実際にはどのような展開を予定していたのか」というものです。なるほどと思う質問です。「静かさを表現している句なのに、なぜ『水の音』と音なの?」という疑問から考えさせるつもりだったという展開案が語られます。説得力のある案だからこそ、その案を捨てて「心の視覚」を取り上げた判断の理由が気になります。授業者は、「心の視覚」というわけのわからない言葉だからこそ、この言葉を出発点として取り上げることで、全員をかかわらせて考えさせることができると判断したのです。授業を子どもと作っていく過程が、司会者の質問から浮かび上がってきました。授業検討者からこのような疑問が出てくればいいのですが、そうでなければ、今回のように司会者の判断で積極的に質問することも必要になります。参加者の考えや気づきがたくさん発表された後だからこそ、授業者の意図がよくわかるのです。司会者の力量によって検討会での学びが深くなることがよくわかります。

玉置先生は、司会者の役割の重要性を説明しながら進行していきます。「司会者の特権で」と、子ども役がずれた意見を言った時、どんなことを考えたのかを授業者にたずねました。「3シーン授業検討法」の問題点として、取り上げるに値する場面が多数決の結果もれてしまうことが研究会では指摘されていました。その点に対する玉置先生なりの解答だったと思います。「正直困った」という授業者の本音と、「『なるほど、・・・と考えたんだ』と子どもの言葉を受容している間に、どうしようか考えたが、無視してそのままにして次にいくことにした」という対応の実際が語られました。授業では子どもからの思わぬ意見にどう対応していいか戸惑うことがあります。そのような時、まず受容して時間をつくるというのも立派な授業技術です。このことを共有することができました。

多くの人の心が動いた場面を取り上げることで発言を引き出す「3シーン授業検討法」から、私たちが目指す全員参加の授業研究がどのようなものか伝わったと思います。司会者が発言を焦点化し、授業のよさを引き出し、授業者の意図とつなぐことでより多くのことが学べる検討会になりました。玉置先生は、「検討会を授業としてみれば、全員参加をさせなければならない」という言葉で司会者の重要性を伝えて終わりました。

2つ目はグループを活用した「3+1授業検討法」による小学校社会科の授業検討でした。授業者は奥州市立常盤小学校副校長の佐藤正寿先生、司会者は小牧市立岩崎中学校校長石川学先生です。「モンゴルの人々のくらし」を考えることを通じて、「モンゴルの今」を学ぶだけでなく「1つの国を見る時には、多面的に見ることが大切である」という社会科としての見方・考え方を学ぶ授業でした。
 今回、授業検討者は2色の付箋紙に、「よかったところ、参考になったところ」「疑問に思ったところ、改善点」と分けてメモを取りながら授業を参観しました。その付箋紙をもとに「よかったところ、参考になったところ」を3つ、「疑問に思ったところ、改善点」を1つにグループでまとめて、模造紙を使って全体で発表するという進め方でした。

グループでの話し合いが途切れることはありません。全体ではグループの結論が発表されるだけですが、「3+1」にまとめる過程では多くの意見が話されていました。傍観者になる人がいません。これも、私たちが考える全員参加の形です。まとめには反映されなかった意見でも、若手、中堅、ベテランとそれぞれの立場で参考になるものがたくさんあったはずです。グループでの個々の学びが中心となる検討法です。
 とはいえ、全体発表も大切な要素です。ここでも司会者の重要性がクローズアップされました。表現は異なりますが、「資料の提示のタイミング」「説得力のある資料」と「資料」という言葉を共通とするよいところが、それぞれのグループから発表されました。石川先生は、この「資料」に注目して、「どこから資料を探すのか」と授業者に質問しました。ICT活用でも有名な佐藤先生ですので、インターネットという答を予想した方がたくさんいたかもしれません。しかし、佐藤先生の口から出たのは、「文献を探す」でした。文献には新しいものがないので、そういうときはインターネットを使うが、信用できないデータも多いので基本は文献ということでした。ICTを活用されている佐藤先生だからこそ、文献に当たることの大切さを肌で感じておられるのでしょう。司会者が質問したからこそ聞くことができた、とても大切なことでした。

この検討法について授業者の佐藤先生の感想を聞かせていただきました。若い人やベテランの授業者にとってはよい方法だということです。若い人は自信がない。よいところをたくさん言われれば元気が出る。一方ベテランはプライドがあるから、批判的なことが多く出れば授業者になろうとしない。そういう点で価値があるということです。しかし、佐藤先生個人としては、「『3+1』ではなく、『3+3』でも『3+10』でもいいから、改善点や課題をたくさん言ってもらった方がいい。その方がたくさん学べる」ということでした。たしかに、「3+1」にこだわる必要はありません。「よいところと改善点の比率を設定することで話し合いの中身をコントロールする」という仕組みを活かせばいいのです。その比率は授業者や学校の集団の状況に応じて柔軟に対応すればいいことです。佐藤先生の言葉から、このことを確認することができました。

フォーラムの舞台で実践することで、あらためて多くのことを学ぶことができました。次回は最後の「ICTを活用した授業検討法」の実践からどのようなことを学んだかを報告したいと思います

(2014年2月24日)

大西貞憲

●大西 貞憲
(おおにし・さだのり)

愛知県で公立中学・高校教諭を経て、民間企業で学校向けソフト開発に携わる。2000年教育コンサルタントとして独立。現場に出掛けての学校経営や授業へのアドバイスには「明日からの元気が出る」との定評があり、愛知県を中心として、全国の小中学校や自治体から応援を求められている。また、NPO法人「元気な学校を支援し創る会」理事として「教師力アップセミナー」「愛される学校づくりフォーラム」を通して実践に役立つ情報の共有化・見える化に注力している。