愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第19回 】教育の「人財」たらん!

自分の「思い出となる授業」を実践できたでしょうか。「スポーツの秋」「芸術の秋」「読書の秋」「勉学の秋」などとキャッチフレーズは多々ありますが、教師にとって最も心すべきは「授業の秋」です。2学期は、体育大会や各種スポーツ大会、文化祭や学芸会など各種行事が目白押しです。そんななか、「授業で勝負」を自認する教師にとって、目の前の子供たちと正対し、明確な目標をかかげて注力した単元の授業実践は不可欠です。発掘した教材について、とことん研究して教具を開発し、単元を構想して授業を構成したという、教師にとって思い出の実践を残せたでしょうか。

子供の「達成感のある授業」となったでしょうか。教師が一生懸命になって教材研究に注力すれば、単元や授業での目標も焦点化し、子供も自己評価しやすくなります。授業展開の幅も広がり、課題追究の奥行きも深まります。教師の「発問」や「切り返しの言葉」、「板書事項」も的を射たものになり、子供たちは、授業に集中でき、知的追究の面白さを体感するようになります。授業での達成感が生まれ、自ら学ぶエネルギーが蓄積されていきます。子供が予測できる範囲の変哲もない授業を行っていたのでは得られない確かな手ごたえがあります。

1年間に最低1単元は全力を傾注した授業実践をしましょう。年間を通して100パーセントの力を傾注して全ての単元を実践することは難しいことです。子供たちの実態に応じて軽重をつけることも必要ですし、教師の得意不得意の分野を考慮することも大切です。また、学校行事や出張の多少なども関係してきます。それでも専門職の教師としては、本分である授業において、年に最低1単元は、全力を傾注して実践したいものです。その実践が、5年、10年、20年と積み重なったとき、教科指導の専門力のある教師として、授業力のある実践人として成長することができます。

単元終了で終わらせない教師の「あと一歩」の努力が大切です。授業の「やりっぱなし」になりがちなのが、多くの教師が陥りやすい結末です。実践を終えたという満足感で自分に妥協してしまうのが人間の弱さです。周囲の管理職や同僚も同じです。当該教師が頑張ったからという甘やかしの論理で終止符を打とうとします。しかし、それでは、せっかくの実践の成果が中途半端で終わってしまいます。そこに不足しているのが検証の作業です。実践の見直しが的確にできれば、成果も課題も明確になります。この「あと一歩」の動きができるようになりたいものです。

検証作業の一つとして教育実践論文があります。「論文」という言葉を耳にするだけで頭から拒否する教師がいます。「論文」は作文で虚構だと言う教師もいます。多忙を理由に書く時間がないと言う教師もいます。いずれも単なる自己弁護に過ぎません。確かに「科学的論文」は、仮説に基づいて実験を繰り返し、データーを積み重ねて結論に至るものですが、小中学校現場における「教育論文」は、単元および授業の「実践記録」を主とするものです。授業実践さえあれば、書式にしたがってまとめるレポート形式の事実の記録ですので、誰でも書けるはずです。

教育実践記録は「自己研修」の最適の場です。教育基本法第9条に「教員は、自己の崇高な使命を自覚し、絶えず研究と修養に励み、その職責の遂行に努めなければならない」とあります。教師は授業において子供たちに「ふりかえり」の重要性を説いています。教師においても同様です。授業実践の「ふりかえり」こそが授業力を高め、教師力を磨くことになります。「ふりかえり」を文字化してまとめることが教育実践記録です。「書く」ことには膨大なエネルギーを要しますが、「書く」ことで実践を振り返って考えることができ、成果と課題が明確になり、自身の成長の糧となります。

最大の教育環境と言われる教師が「人財」であることこそが教育の要です。一人の教師の、全力を傾注した授業実践の蓄え、その実践をふりかえり検証した教育実践論文の蓄え、それこそが教育専門職として立つ教師の「財産」です。授業の構成要素としての単なる「人材」でなく、教育財産を蓄えて授業力や教師力を発揮することができる「人財」をめざしたい。「人財」への精進により、自らの授業実践が深まり魅力が増すことは無論のこと、他者の授業についても明確なアドバイスやサポートをすることができるようになります。「人財」は「教育の宝」です。「愛される学校」への近道は、学校を構成する「教師チーム」の一人ひとりが「魅力ある人財」をめざす構えをもった教師になることです。

新任のころから「実践記録は当り前」と言える教師になりたい。民間企業においても「自己研修」は「当り前」の時代です。「職場改善」「専門知識や技能」「一般教養」「英語語学力」など、日々研鑽努力していると言われます。確かに学校現場は過密日程で、在校時間中に「実践記録」を書くことは不可能です。ただ「自己の崇高な使命を自覚」したとき「絶えず研究と修養に励む」気構えでの「自己研修」は不可欠です。全力を傾注した授業実践さえあれば、あと一息の努力で「実践記録」を書くことができます。そこで検証を行い、次の実践に取り組むことで、教育の「人財」として成長することができます。小中学校の現場で「実践記録は当たり前」の雰囲気を創りたいものです。そうすれば多忙感あふれる職場の改善にも本腰を入れる構えが生まれてくるようになるでしょう。

(2014年12月22日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。