愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第17回 】教師も学テ「小国B」に挑戦!

愛知県の教師には、ぜひチャレンジしてもらいたい。何と言っても、全国一を達成した全国学力テストがいかなるものかを、自分の目と頭で確かめてほしいのです。全国最下位といったら、某県、某市の首長ならば、学校の校長はどんな教育をしているのかと声高に叫ぶところでしょう。愛知県は、その後の中学校での学力の伸び、大学進学の状況などで、それなりの結果を出しているので、泰然と構えている感じがします。はたして、それでいいのでしょうか。

授業や学習改善に生かすという本来の目標からすれば、もっと変化があっていいはずです。しかし、全国学力・学習状況調査が、2007年の第1回から数えて8回目を迎えるというのに、全体の傾向にあまり変化がみられないと感じるのは、私だけでしょうか。愛知県の学力テストの傾向をみても、多くは、小学校は全国並みかやや低く、中学校になって全国並み以上という結果になっています。とくに、私が注目している「学習状況調査」については、その傾向性の改善が進まない。家庭での生活態度、家庭学習の習慣、読書習慣など、各学校では努力していると思うのですが、時代や社会の反映でしょうか、願うようには遅々として進んでいません。学習態度や生活環境が好転すれば必ず学力も向上すると思われますが、家庭や地域とともに、粘り強く取り組むほかはないようです。

あなたは「国語B、書く」についての結果を知っていますか。対策が必要です。愛知県の国語Bの結果は、国語A、算数A、数学A、算数B、数学Bと比べても、格段に正答率が低いという結果でした。全国公立の正答率は、国語Aが「72.9%」、算数Aが「78.1%」、算数Bが「58.2%」です。これに対して、国語Bは、「55.5%」です。全国最高が秋田県の「67.3%」、最低が愛知県の「52.4%」とのことです。その差「14.9」のなかに47都道府県がひしめいています。 なかでも、「書く」ことについての正答率は、極端に低くなっているといっても過言ではありません。この現実を教師としてどう受け止め、どう授業改善に生かすかが肝心です。学習指導要領から「作文」という言葉が消えて久しくなりますが、この間、授業で「書く」ことの指導がきちんとなされて、子供の「書く力」を伸ばしてきているでしょうか。

夏休みの宿題に多くの作文が出されます。読書感想文、生活体験作文、課題作文、説明文など、多くのジャンルのなかから選択課題として出される場合が多いようです。しかし、宿題をもらった子供や親は、ずいぶん困惑しています。学校の授業でも扱われたこともないので、何をどう書けばいいのかわからないままに宿題にとりくまなければならないというのが現状です。教育的に、こんな無謀で無責任なことはないと思わざるを得ません。子供のチャレンジとすることもいいですが、発達段階のどこかできちんとした指導がなされるべきです。

「作文」の言葉は消えても、「作文力」は生涯必要です。「作文」という端的な日本語があるのに、なぜ学習指導要領では「書くこと」などと表現するのでしょうか。国語教科書でも、単元末の課題として、目的や条件にかなう短い作文を書かせる場面はありますが、本格的な作文単元は消滅したかのようです。「書く」という活動は、「読む」「話す」「聞く」活動に比べて、多くのエネルギーを必要とします。持てる言語能力を総動員しないと「書く」学習は始まりません。学習に入る前にチャレンジ精神が不可欠です。「書く」ことで考えが深まります。深まることで新しい見方・感じ方や価値を発見できます。「書く」ことで認識が広がり、感性や表現が豊かになります。戦前には「書く」ことに特化した「綴り方」という教科さえありました。それほど大切な学力にもかかわらず、学校現場で何人の教師が「書く力」の要素を理解して、子供の力を伸ばす授業を展開しているか、心配です。

「書く力」の要素を見定めて授業を構想することが大切です。簡単に紹介します。「主題を決める」「取材する」「構想する」「記述する」「推敲する」「鑑賞・批評する」力を育む具体的な授業を展開すれば、確実に子供の「書く力」は伸びます。そうした授業研究を現場で見かけなくなったのは、寂しい限りです。日頃からの懸念が、今回の全国学力テスト「小学校国語B 書くこと」の結果で、残念ながら的中してしまいした。

教師自身が文章を書き、筆まめな子供を育てることが第一歩です。愛知県のこの現状を打破することは、子供たちの「生きる力」「考える力」を育むためにも不可欠です。そのためには、教師自身が文章を書くこと、そして、子供の生活を耕し、日記指導などをとおして、筆まめな子供を育てることです。根気のいる指導ですが、必ず成果が生まれます。さらに、はっきりとした指導目標をもって確かな手だてで作文の授業を実践することです。愛知県の学校現場でこの実践ができれば、確実に「国語B」の正答率は高まります。何より子供の生きる力が伸びます。

なにはともあれ、先生、あなたが小学校国語Bの学力テストを行ってください。そのうえで、自分の学校の子供たちの「書く力」の正答率を確かめて現実を把握してください。そうすれば、授業をどう改善すればいいか、生活環境をどう改善すればいいかが見えてくるはずです。

(2014年10月6日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。