愛される学校づくり研究会

桜梅桃李を愛す

★今回から寄稿させていただくことになりました新城市教育委員会教育長の和田守功と言います。「桜梅桃李(おうばいとうり)」とは、ありのままの個々「子供の姿」です。作為的なはたらきかけによってつくられた姿ではなく、無作(むさ)の、もともと一人ひとりの子供のもつオンリーワンの命の輝きが表出された姿です。そんな姿をこよなく愛し続けていきたいというのが私の思いです。そうした考えから、タイトルを「桜梅桃李を愛す」としました。私の教育に対する拙い思いの一端を皆様方にお伝えすることができればとの思いでペンをとらせていただきます。1年間、よろしくお願いします。

【 第13回 】「英語教育」の本音

「R」と「L」の発音の識別が難しい。日本人なら当然のことだと思います。そもそも日本語の音韻体系に存在しないからです。したがって、脳の発達過程において、これらの音を識別する脳神経が構成されていないと考えるのが妥当ではないでしょうか。ほかにも、「V」と「B」、「TH」と「S」、「F」と「H」など、現代日本語には無い音を、類似している日本語の音と、耳で聞いて識別することは困難です。また、耳で聞いたこともない音を口で発音することは難しいことです。日本人が、中学・高校・大学と、学校で英語を学んでも、ネイティブとコミュニケーションするとき、心のどこかでコンプレックスを感じている要因は、こんなところにあるのではないかと推測しています。

なぜ英語が話せるの? 学校で習ったから。母国語が異なっていても多くの外国人は英語を話すことができます。新城市では、世界各国の「新城」という名前の市町と交流しています。「世界新城会議」という名称で、今年もチェコの新城市(ノブェハラディ)に10か国の12市町村が集まり、会議を行います。一昨年、イギリスの新城市(ニューキャッスルアポンタイン)で行った時もそうでしたが、どの会議でも英語でディスカッションがなされ、日本を除いて、どの国の市民も通訳は必要なく、積極的に議論に参加していくのです。まさに、日本人だけが通訳を必要とするガラパゴス状態です。休憩の折に、母国語がドイツ語やフランス語の市民に尋ねてみました。「なぜ、あなた方はそんなに英語を流暢に話すことができるのですか。」と。すると、異口同音の返事が即座に返ってきました。「学校で英語を勉強してきたからです。」と。日本人だって同じじゃないか。中学から大学まで、10年間も学校で英語を勉強しているではないか。それにもかかわらず、多くの場合、自信をもってコミュニケーションできないのだ。

日本人の英語コミュニケーション能力不足の言い訳を言い続けてきました。主語・述語・目的語の語順の違いをはじめ文法体系が異なるから、英語が不得手なのは当り前である。学校での授業が文法中心の受験英語になっているから会話能力が育たない。単一民族で日常生活において英語を使う機会が少ないから英語を身に付ける必要性がない。世界でも優れた言語である日本語に堪能になれば、英語は教養程度でよい。日本語も満足に読み書きできない段階で、英語を学習すれば子供にとって大きな負担である等々。それぞれ一理はあるでしょうが、日本人の英語不得手の理由を並べて、もっともらしく自己弁護し続けてきました。

聴き耳をつくる英語学習は、年齢が早いほどよいのではないか。英語指導の素人である自分が主張するのもおかしな話ですが、私は、そう思います。自分が中学1年で初めて英語を学んだとき、「TH」や「R」「V」の発音練習を何回も繰り返ししたことを記憶しています。日常、耳にしない口にすることもない音を、聴いたり発音したりするのに苦労したものでした。大脳の聴音神経回路も、舌や口蓋の動きもストレスを起こします。それに比べ、読み書きには、こうした壁がありません。ひっきょう、「聴く・話す」より、「読む、書く」の英語学習のほうが、学習時間が多くなってしまいました。そうならないためにも、聴くための脳神経回路が未発達なうちに、舌や口蓋の動きが柔軟なうちに、早期に英語を耳にする環境をつくることが効果的であると思います。

小学校低学年でも、帰国子女たちは日本語と英語の両方を上手に話します。市内の小学生でも、親が国際結婚だったり、本人が帰国子女だったりという理由で、家庭で幼いころから英語と日本語を使って生活してきた子供たちの様子をみると、実に自然に両国語を使い分けています。混乱の様子はみられません。この厳然たる事実に対して、学校現場の教師たちはどう説明するでしょうか。中国や韓国でも英語を話せる人口は、日本と比較にならないほど多いようです。外国に留学する若者の人数も同様です。日本の将来を考えるとき、例えば、生活の必需品である食糧や石油を輸入するにしても、世界との絆なしでは生きられません。現在のような言語的ガラパゴス状態では、孤立はあっても進展はありません。1日も早く、早期からの英語学習の可能な教育環境を整えるべきです。

(写真は若者のまちづくり集会運営風景。イギリスのニューキャッスルHPに掲載)

若者のまちづくり集会運営風景

(2014年5月12日)

準備中

●和田 守功
(わだ・もりのり)

人間・日本文化・日本酒(やまとごころ)をこよなく愛し、肴を求めて、しばしば太平洋に。朝一番に煎茶を飲み、毎朝、自分で味噌汁をつくる。山野草を愛でる自然派アナログ人間。現在、東三河ジオパークを構想中。自称、新城市観光広報マン。見どころ・秘所を語らせたら尽きない。
教育では、新城教育で「共育(ともいく)」を提唱し、自然・人・歴史文化の「新城の三宝」や、読書・作文・弁論の「三多活動」を推奨している。
新城市教育長をはじめ、愛知県教育委員会など教育行政に16年間携わっている。また、中学校長をはじめとして、小学校で13年間、中学校で11年間、学校現場で教職を務めてきた。