愛される学校づくり研究会

分かりやすい学校サイト・デザイン講座


★このコラムは、「愛される学校づくり研究会」にて発表された、「わかりやすい学校サイト・ポイント講座」を元に、具体例を追加しながら、デザインにつてい解説していくシリーズです。

【第10回】印象派から学ぶ

■写実からポスト写実へ

前回、ルネサンス時期に油絵の具や、グリザイユ技法・遠近法といった基本的な技術が発明されたという話をしました。美術と宗教、社会にまで広げすぎた感がありますが、時代背景と芸術は切っても切りはなす事はできません。
 今回、日本人の大好きな印象派に時代をすすめますが、19世紀におこった写実から抽象絵画への変革期に活躍した「印象派」についても、もっとも影響を与えているのはやはり技術革新だと思います。
 印象派の中心的な活動というのは短く、19世紀の後半、20年程の短期間に起こった活動です。そして19世紀末にはポスト印象派に引き継がれていきます。
 写実のための絵画技法が確立されて、ヨーロッパでは写実が進化していました。絵の具がチューブ入りで売り出されるとアトリエから外へ出て自然風景を描く画家が増えます。ミレー、コローなどが有名ですね。波をリアルに描いたクールベは写実主義の代表です。
 そんな中、カメラの発明によって、絵画は写真と違った新しい表現を模索することになります。

■セザンヌとわたし

セザンヌは画学生にとってかならず勉強する作家のひとりなのですが、画集を見たり解説を読んでも理解しにくい難解な作家のひとりでした。当時も評価されだしたのは晩年、50〜60歳頃だったといいます。
 高校生くらいだと、なにがすごいのかわからずにいました。そんなわたしでも、美術館で対面した本物のセザンヌの人物像に目がくぎずけになりました。

印象派の代表といえばモネ、ルノワール、スーラなど、どちらかといえば明るい絵が多いですが、セザンヌのそれは、鮮やかな絵の具を使っていません。どちらかといえば、くすんだ褐色系の室内風景でしたが、そこには、確かにイスや机があり、そして人物が重さを持って表現されていたのです。また、浪人時代のことですが、古典から学ぶということで数枚の模写をしたことがあります。なかでもセザンヌの赤いチョッキの少年のことは鮮明に覚えています。
 セザンヌは近代絵画の父とよばれていますが、写実から印象主義、そしてポスト印象主義という流れの重要な位置にいます。その丁度中間的な位置にある絵画をとりあげて、「写す」というよりも、「伝え・表現する」という意味に置いて、この部分が上手だなという部分を、さぐってみたいとおもいます。

 ポイントは、第2回目に解説してあった、明度対比です。

■色彩を科学する

19世紀半ば、カメラの発明によって、絵描きは肖像画から開放され、遠近法や精緻な描画から開放されます。
 色はモノの色ではなく、光の要素として科学的に分析されました。 その結果、純粋に色面として再構築されます。 スーラーやモネやルノアールが、キャンバス上で混色しないで、視覚情報の処理によって、人間の頭の中で混色させてモノの色として認識させるというような作品を発表します。
 また、形は見えるものからはなれ、デフォルメすることによって、より本質を表現するようにゆがめられます。
 まさに、見た物を脳内で再構築されることが前提で絵画がつくられていくわけです。

■色彩設計とデフォルメ

「赤いチョッキの少年」

赤いチョッキの少年は、赤いということだけで目立っているのではありません。
 私は、むしろ赤は味付けだと思っています。白黒で(明暗だけで)見てみても、きちんと作者の意図した通りに鑑賞者の目が行くように計画されているのです。

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わかりやすいように白黒にして、モザイクをかけました。一番コントラストのある場所は、顔の中心にあることがわかります。そこから、肩、右手の白いシャツ。異常にながくデフォルメされた右手は、画面にうずのように動きを与えています。逆にみても、下から上へ上昇気流があるような感じにも見えます。
 前回デューラーの話でもふれましたが、コントラスト強いところに目がいくのは、人間が明度差に敏感だからです。
 赤いチョッキに目が行くと思われがちですが、少年の顔から順番に下の方へ目がいくように設計されていたのです。右の明るい手紙へとつながった視線の流れは、また少年の顔へと戻ってきます。この視線が回る(遊ぶ)ということが、新しい発見につながり、飽きのこない画面を作る基本ではないでしょうか。

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もう一枚みてみましょう。
「カード遊びをする男たち」

 ここでも同じようにモザイクをかけてみますが、コントラストの高いところはどこにありますか? 男の顔周辺とトランプです。よく見ると、机や人物の形はくずれかけて歪んでいます。このようなデフォルメは随所にみられます。
 明暗の強弱で画面の中に優先順位ができ、見る物の視線をコントロールしてます。
 このように、見えた物を写し取る写実から進化して、テーマを明確に絞り込んで、色面をつかって再構築することで見る物に、ズシンとうったえる。そんなことを実験的にやっていたのがセザンヌなのです。

■技術革命と人間

この時代の絵画に影響を与えた他の要因として、産業革命があり、パリ万博での世界中のモノと情報の交流があります。
 日本の浮き世絵や工芸品がヨーローッパに伝わり、ゴッホやマネなどが影響をうけたともいわれています。新しい技術があたらしい表現を生みだし、あたらしい人間関係をつくります。

インターネットが普及しブログが発明されて、情報発信手段が容易になった現代でも、視覚伝達デザインとしての色彩計画の基本だけは押さえておきたいと思うのです。そんなことを100年以上前のセザンヌらから教えてもらっています。

次回は、発想やテーマについてドキッとするような表現をしている20世紀の画家をとりあげます。

(2012年2月13日)

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●堀田敦士
(ほった あつし)
教育+ネットワーク+ゲームを3本柱に開発するデザイン会社勤務。若くて元気な頃は、シミュレーションゲーム「TheTower」「シーマン」などのアートディレクターとして徹夜の連続。現在はWEBサイトデザインやCMS開発で主に学校を対象にした広報支援のためのお手伝い。お手伝いがエスカレートして、息子の高校PTAのICT委員会顧問に抜擢され、ICT教育の準備で徹夜の連続。