話し合う力をつけるためには、授業の進め方が大切

新しい学習指導要領が発表されて、これまであまりグループ活動を実施していなかった学校でも取り入れようとする動きが見られるようになってきました。中学校や高等学校にその傾向が強いようです。小学校と比べて扱う知識量が多いため、これまで教え込むことが中心となっていたようですが、見直そうとしているようです。

グループ活動を取り入れ始めた学校では、とりあえずグループにして話し合うことから始めることが多いようです。しかし、いきなり話し合いをさせても子どもたちは上手く話し合うことができません。そこで、積極的に話す子どもと聞き役に回る子どもを組み合わせるといった、グループのつくり方で対応している例をよく見ます。たしかにこうすることで、活発に話し合いが進んで上手くいったような気になりますが、それでよいのでしょうか。その実態は一部の子どもが場を仕切って結論づけているだけで、子ども同士がお互いの考えを聞き合いながら自分たちの考えを深めるとは程遠い状態です。子どもの役割を固定化してしまうことにもなってしまいます。社会に出て行けば、誰ともでかかわりながら課題を解決していくことが求められます。そのためにも、グループの構成を作為的にするのはあまりよいことではありません。

また、個人で問題を解いて、わからなかったらグループで聞くという活動もよく見ます。これも注意しないと、できた子どもができなかった子どもに答を教えるだけになってしまいます。先生ができる子どもと入れ変わっただけです。大切なのは、できなかった子どもが答を知ることではなく、自分で解けるようになることです。そのためには、できなかった子どもが納得できるまで聞くことが必要です。単に受け身で教えてもらうのでは意味がありません。
友だちの説明でわからなければ先生に聞くようにという指示も耳にすることがあります。子どもたちで解決できるように支援するのが先生の仕事ですが、先生が説明を始めてしまえば、子どもたちは自分たちで考える意味を失くしてしまいます。こうなると、先生に聞けばいいので、子どももたちは自分たちで真剣に考えようとしなくなります。先生が最後にまとめる板書を写しておけば困らないのです。互いがかかわり合って納得する答を導き出す過程をどうつくりだすかが問われます。

子どもたちがかかわり合い、グループでの話し合いが成立するためには、いくつかの条件があると思います。
一つは、互いに安心して聞き合える関係です。わからないと言ったらバカにされるようでは、安心して教えてとは言えません。上から目線で説明されるのを苦痛と感じる子どももいるでしょう。「わからない」「教えて」「助けて」と言え、「わかるまで教える」「一緒に考える」関係が前提となります。

もう一つは、単に答探しではなく、互いの考えを重ねて深めるやり方を知っていることです。互いに自分の考えを主張するのではなく、相手の考えを受け止めて、その上で自分の考えを伝えることが大切です。こういった話し合いの進め方をできることが求められるのです。

もちろん、これらのことをできるようになるためにも、グループでの話し合いを経験することが大切です。ただ、「話し合いなさい」というだけではできるようにはなりません。日ごろの授業で、先生が子どもたちの意見を否定せずに受容し、わかった子どもばかりに発言させるのではなく困った子どもの困り感を共有して、教室全体に安心して発言できる雰囲気を作ることが必要です。
また、全体追究で考えをつないで答にたどり着くような経験を教師主導でさせることで、話し合いで考えを深めるための方法を身につけさせることも重要です。
話し合いでは、子どもたちの話し合いの様子を評価・価値付けして話し合う力を育てていくことが必要です。発表は結論よりも、そこまでの過程を大切にし、その過程を共有し価値付けしていきます。こういった場面で積み重ねることで、子どもたちが成長し、話し合いを深い学びにつなげることができるようになると思います。

話し合いが上手くいくかどうかは、先生の日ごろの授業の進め方が大きく影響すると思います。話し合いが上手くいかない時は、先生の授業の進め方を一度見直してほしいと思います。

指導案を作る時、何を大切にする

指導案の相談を受けることがよくあります。指導案を作る時に大切にすること、そして実際に授業をする時に注意する点について、私のアドバイスのやり方をもとに簡単にまとめてみたいと思います。

私が指導案を見ただけでアドバイスできることはかなり限定的になってしまいます。その理由は、その学級の子どもたちのことを担任のようにはわからないからです。発問に対して子どもたちがどのように反応するかで授業の展開は変わってしまいます。授業者と顔を合わせて、予想される反応を聞きながら一緒に考えることではじめて有効なアドバイスができるのです。
といっても、いきなり発問から検討するわけではありません。まず単元や教材を通じて子どもたちにつけたい力が何かを確認し、これをできるだけ具体的にすることから始めます。その力がついたということは、子どもたちがどんな発言や反応をすることでわかるのかという、ゴールとなる子どもの姿をイメージするのです。その上で、その姿を引き出すためにどのような課題や発問が必要かを考えます。まず、考えた課題や発問に対して子どもはどんな反応をするだろう、それに対してどのように切り返していけばよいだろうかと授業者とキャッチボールしていきます。いきなり目標とする反応が出てくればよいわけではありません。全員が目標とする反応を最初からするのであれば、つけたい力は既についているのですから、目標が低すぎるわけです。目標とする反応を数人がすると予想するのであれば、それを全体にどう広げるのかを考える必要があります。ねらいと異なる反応も当然予想されます。こういった言葉が出てきたら、「こう返そう」、いや「ちょっと相談する時間を取ろう」とその対応をシミュレーションし、どうしてもねらった言葉や反応を引き出せそうもなければ、課題や発問を変えることになります。指導案には書かれることがないかもしれませんが、予想される子どもの反応とその対応をできるだけ多岐にわたって想像するのです。説明をいろいろと考えることより、予想される子どもの反応とその対応をシミュレーションすることが、指導案の検討の第一だと思います。

実際に授業を始めると、子どもたちが授業者にとって都合のよい反応だけをしてくれるとは限りません。思わぬ反応に戸惑わないためにも、いろいろと予想しておくことが大切になります。とはいえ、事前に予想をしても、子どもたちは思いもよらない反応をしたり、すぐには理解できないような発言をしたりします。指導案の流れにこだわると、反応を無視したり発言を修正したり、追加で説明を始めたりすることになります。余裕がなければ難しいとは思いますが、子どもが思わぬ反応をした時に、指導案の流れはいったん忘れて、「面白い」「どういうことだろう」「もっと考えを聞きたい」という気持ちになってほしいと思います。そういう姿勢で接することで、子どもたちが安心して自分の考えを言ってくれるようになります。「○○さんの考えわかる?」と子どもたちにつないでいくことで、ずれた意見も子どもたちが修正してくれます。主体的、対話的に学ぶことにつながります。

指導案を作る時はできるだけ子どもたちの反応を予測し、その対応をシミュレーションする。実際に授業をはじめたら、予想外の子どもの反応も、指導案にこだわらず、できるだけ活かすことを考える。このことを大切にしてほしいと思います。

子どもの発言が増えて来た時の落とし穴

1学期後半に訪問した学校に共通して感じたことは、子どもの発言が増えてきたために、かえって全員参加ができていない場面が増えているということでした。
共通しているのは、先生がよい表情で発言を聞いてくれるので発言意欲が高まっている子どもが増えてきていることです。また、先生がつぶやきを拾ってくれるので、自信のない子どもでも、つぶやくことで意見を言うことができるようになっています。
ここからが問題になります。多くの先生は自分の願うような意見やつぶやきが出てくるとそれを受けてすぐに説明を始めたり、不完全な説明に対して補足をしたりしてしまいます。問い返すことで考えを深めようとする方も、多くは発言者に対してのみ問いかけます。基本的に発言者と先生の1対1の関係で、挙手して意見の言えない子どもはなかなか参加することはできません。発言者と先生だけで授業が進み全員参加からは遠ざかっているのです。
一方で、積極的に発言をする子どもが増えてくると、一人だけではなくもっと多くの子どもの意見を聞こうと、他の子どもに意見を求めるようになる方もいます。次々に手が挙がり活発に意見が飛び交い、子どもの言葉で授業が進むようになったと先生も手ごたえを感じます。これは一見するととてもよい状態のように見えるのですが、そこにも落とし穴があります。よく見ると活発に意見を言っているのは一部の子どもだけで、他の子どもは次第にその話についていけなくなっていて、聞くこともしなくなっているのです。そういう子どもたちは友だちの話を聞いて理解することはあきらめて、先生のわかりやすい説明や最後のまとめを待っています。子どもたちが活発に見える授業が全員参加からどんどん遠ざかっているのです。

ではどうすればよいのでしょうか。一つは、先生と子どもではなく、子ども同士のかかわり合いを強めることです。まずは子どもたちが発言をきちんと聞けているか、理解できているかを見極めることが大切です。そのためには、発言を聞いている子どもたちの様子を観察することが必要になります。発言を聞きながら子どもたちの様子を見ることが難しいのであれば、発言が終わった後少し間を取って、子どもたちの反応を見るとよいでしょう。子どもの様子を見て、「○○さんの意見なるほどと思った?」「似たような考えの人いる?」「よくわからなかった人はいる?」と問いかけたり、挙手に頼らず「○○さんうなずいていたね。それってどういうこと?」と反応した子どもにつないだりします。

発言に正解を求めないことも大切です。正解を言わなければいけないというプレッシャーがあると、ある程度自信がないと挙手して発表することはできません。学年が上がるにつれてそのハードルは高くなっていきます。根拠なく答えることができるような、正解がないような問いに対して子どもたちがテンションを上げて挙手をするようであれば、正解を答えなくてはいけないという空気が学級にあるということです。正解や結論ではなく、困ったことや途中の過程を問うようにすることが必要です。「答えは?」ではなく、「困ったことはない?」と聞くことで、自信のない子どもも発言しやすくなります。
子どものつぶやきを拾う時は、「○○さんいいことを言ったね。みんなに聞かせて」「みんな○○さんの話を聞こう」とつぶやきを公的な発言にして聞き合うことが必要です。全体に対して自分の意見を言う機会を与えて、自信をつけさせるのです。

また、発言ではなく聞くことを評価・価値付けすることも重要です。「今○○さんの言ったことをもう一度言ってくれる?」といった、聞いていないと答えられない、聞いていれば答えられるような問いかけをし、聞いていたことをほめることで、友だちの意見を聞いていれば活躍できるようにするのです。
正解や結論だけにこだわっていると、よくできる子どもも自分はわかっているからと友だちの発言を聞こうとはしなくなります。そういう子どもたちには、友だちの考えを代わりに説明させるようにするとよいでしょう。「○○さんの考え代わりに説明してくれる。あなたの考えじゃないよ」とすれば、友だちの説明を聞いていなければ答えることはできません。説明した後、「うまく説明できたね」と先生が評価するのではなく、最初に説明した子どもに「△△さんの説明でよかった?」と確認することが重要です。考えが同じかどうかを本人ではなく先生が判断すれば、結局先生の言わせたいことを言えばいいのだなと、先生の求める答探しをするようになってしまいます。「あなたの考えをわかってもらえてよかったね」「○○さんの考えをよくわかったね」と子ども同士が理解しあったことをほめてつなぐようにすることが大切です。

子どもの発言を全員が理解する時間を取ることも必要です。発言に続けてすぐに先生が説明したり、次の子どもを指名したりするのではなく、少し咀嚼する時間を与えるのです。説明が長くてついていけなくなっているようであれば、説明が終わった後、もう一度説明をさせます。この時、適当なところで止めながら、子どもたちがそこまで理解したかスモールステップで確認するとよいでしょう。こうすることで、子どもたちが友だちの発言を理解し全員が授業に参加できるようになります。

子どもの発言が増えてきたからこそ、そこで止まらずに、全員参加を目指して授業改善を進めてほしいと思います。

グループ活動の前に自分の考えを持たせることを考える

グループ活動に入る前に個人で考える時間を与える授業をよく目にします。自分の考えを持たないとグループ活動で意見を言えないので参加できないと考えるからです。かつて私もそのように考えていた時期がありました。
しかし、実際の授業では、課題がよく理解できなかったり、手がかりがなかったりして、途中で考える意欲をなくしてしまう子どもをよく目にします。そういう子どもはグループで「発表」や「話し合い」する場面で自分の考えを発表することができませんので、ますます参加意欲を無くしてしまいます。

では、どう考えればよいのでしょうか。
一つは自分の考えを持てるようにすることです。「どの子どもも自分の考えや意見が持てるような課題や発問にする」、「興味をもって主体的に取り組むような活動にして、参加意欲を高める」というように課題や活動を工夫することが大切になります。また、最初からグループの形にして、手詰まりになった子どもが他の子どもに相談できるようにするのもよい方法です。授業者は困っている子どもに教えるのではなく、「友だちに聞いてごらん」と子ども同士をつなぐようにするのです。子ども同士の関係ができていれば、教師が声をかけなくても自然と相談する姿を目にします。

これとは逆の発想もあります。個人の考えを持つためにグループを使うのです。課題を与えた後、まずグループで相談させます。自分の考えを主張しやすい、比較的学力の高い子どもも、すぐに自分の答を持てるわけではありませんので、「こうかな?」「○○を調べるとわかるんじゃない?」と主張ではなく相談モードになります。友だちの考えや意見を聞き合うことで考えるための足場ができます。そこで、「では、聞き合ったことをもとに自分の考えをまとめて」と個人の活動に切りかえるのです。こうすることで、例え友だちの意見をもとにしたとしても、自分の考えを持ちやすくなります。
この後は、もう一度グループにして結論を聞き合ってもよいでしょうし、全体で個人の考えを聞き合い、「どんな考えが参考になった?」「何をしたら上手くいった?」とメタ認知を働かせるような場面を作ってもよいでしょう。

どのやり方が正解というわけではありません。子どもたちの実態や学習内容に合わせて使い分ければよいのです。グループの話し合いの前には自分の考えを持たせなければいけないと思い込まずに、引出しを増やして柔軟に対応してほしいと思います。
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