「ほめる」と「甘やかす」

以前は、子どもたちをほめるようにしてくださいとお願いすると、今一つピンとこない表情をする方がよくいらっしゃいました。最近では少なくなりましたが、それでも納得されない方が時々いらっしゃいます。話を聞いてみると、どうも「ほめる」ことを「甘やかす」と勘違いされているようです。悪いことをしても叱らないのでは、子どもがダメになってしまうと考えているようなのです。
悪いことをしてもほうっておけと言っているのではありません。子どもによい行動をとるように仕向けて、よい行動をとった時にすかさずほめるのです。そのためには、強く叱って反省させるのではなく、次にどのような行動をすればよいのかを考えさせるのです。そして、よい行動にかわったらうんとほめるのです。

悪い行動を叱っても、他の子どもは他人事です。そのため、叱って矯正しようとすると、どうしても見せしめ的にならざるを得ません。悪い行動をしないように考えるようになるかもしれませんが、嫌な思いをすることを回避するだけで、ポジティブにはなりません。結果的に、よい行動には結びついていきません。
一方ほめられることは子どもにとっては、望ましいことです。友だちがほめられるのを見て自分もほめられたいと思います。ほめられるような行動をとろうとするのです。よい行動が増えていきます。
遅刻を例に考えてみましょう。叱ることで遅刻が減ったとしても、子どもは時間までに集合するだけです。それに対して、早く来て準備をして待っている子どもをほめると、早く来ようとするようになります。結果として遅刻がなくなるだけでなく集合も早くなります。子どもたちの行動がよい方向へ変わっていくのです。

「甘やかす」のは、ただ放任しているだけです。「ほめる」ということは、ほめるような行動を子どもたちがするような働きかけをすることです。ほめる観点を持って、子どもたちがそのような行動をしてくれるのをよく見ることです。そこには教師の積極的な関与があるのです。

教科内容以外のことをきちんと教える

以前は家庭で教えていたことを学校で教えなければいけなくなってきています。掃除の仕方などはその典型でしょう。今や箒のない家庭は珍しくないかもしれません。床の雑巾がけもあまり目にしません。雑巾の絞り方も知らない子どももいます。また、外庭の掃除などもマンションの子どもにとっては縁遠いものでしょう。挨拶だって、親がきちんと教えていなければ、頭を下げてきちんとすることはできません。食事の作法なども同様でしょう。学校で教えなければならないことは、実に増えているのです。ここで注意をしなければいけないことは、授業で教える教科の内容については、指導方法も含めてよく研究されていますが、こういった教科内容以外のことはきちんと体系立てて教えることがあまり意識されていないということです。

掃除であれば、机の移動の仕方、箒の持ち方、ごみの集め方、隅の掃き方、雑巾の洗い方、絞り方、たたみ方、拭き方など、教えなければならないことはたくさんあります。中学生だから大丈夫ということはありません。かえっていい加減になっていることもよくあります。
子どもたちの挨拶でも、個人差はあるのですが学校ごとに傾向があります。しっかりと目を合わせて明るい声で挨拶する学校、大きな声はだすけれどろくに目を合わせずこちらが挨拶した時にはもう後ろの方に行ってしまう学校、頭だけを下げて声も出さず目も合わせない学校いろいろです。挨拶の仕方も、場面別にきちんと教える必要があると思います。もちろん、教えることとそれを徹底させることはまた別ですが。
こういった学校生活における基本的なスキルをきちんと教えることを意識する必要があると思います。まず先生自身がきちんとやり方を整理して指導できるようにならなければいけません。

この時期、掃除をきちんとしよう、挨拶をしっかりしようとルールやマナーの徹底を意識している先生は多いと思います。しかし、細かいやり方まで確認していない方もいるのではないでしょうか。一度教えたから、教わっているはずだから大丈夫ではなく、基本だからこそこの時期に、「机の移動の仕方は?」「箒の使い方は?」「雑巾の使い方は?」「廊下ですれ違うときの挨拶は?」「職員室に入る時の挨拶は?」・・・と一つひとつ実際にやらせながら確認することが大切です。きちんと指導することを意識してほしいと思います。

今は子どもたちをほめる時期

ほとんどの学校で新学年が始まったことと思います。黄金の3日間、1週間という言葉があります。今まさにその真っただ中でしょう。子どもたちとの最初の出会いで、よい人間関係をつくる。子どもたちに学級のルールをきちんと伝え徹底させる。そういう時期です。

子どもの言葉をよく聞いて人間関係をつくるようにアドバイスをすると、子どもたちに迎合する「友だち先生」になることと勘違いをされることがあります。子どもたちの言葉を聞くとは、子どもからの発信を無視せずに受容するということです。そして、ポジティブに評価することです。子どもたちの言いなりになることではありません。人間関係をつくるとは、友だちになることではありません。子どもたちと信頼関係をつくることです。言い換えると子どもたちに安心して学校生活を送れる環境を保障することです。そのためには学級のルールを明確にし、それを徹底させることが必要です。このことに最大限のエネルギーを使うのが今なのです。

子どもとの人間関係をつくるために、この担任は面白そうだ、話を聞いてくれそうだと思ってもらうことから始めます。自分の人となりが伝わるようなエピソードを話すことも必要ですが、子どもの反応をしっかりと受け止めることがとても大切です。特に意識してほしいことは、Iメッセージでほめることです。子どもたちが自分の話に反応して笑ってくれたなら、「笑ってくれたね、うれしいな」「反応してくれたね、ありがとう」とIメッセージで返します。
同じことが学級のルールの徹底でも言えます。学級のルールを伝えたならば、そのルールを守ってくれた子どもを探します。そして、その子どもをほめるのです。「○○さん、みんなの見本になるようなとても素敵な挨拶をしてくれたね。ありがとう」と具体的に固有名詞を出してほめることで、「自分もほめられたい」「このようにすればほめられるのか」と、子どもたちがルールを守ろうとするようになります。できていないことを叱り続けても徹底したことにはなりません。徹底するとは、きちんと守らせることです。そのためには、守れたことをていねいほめて、よい行動を広げることが必要なのです。また、ほめるときは「いい挨拶だね。えらいね」とYOUメッセージになりがちです。YOUメッセージは上から目線に感じます。くどいようですが、この時期は人間関係をつくることを考えて、「ありがとう」「うれしい」とIメッセージでほめるように意識してほしいと思います。

教師が自分のことやこうなってほしいという学級への想い、みんなが守るべきルールをたくさん発信する時期です。それと比例して、子どもたちの反応やよい行動をたくさんほめる時期でもあります。思いを伝えることばかりにエネルギーをかけて、子どもたちをほめることを忘れないようにしてほしいと思います。

忙しい時期だからこそ学べる

初めて担任を持った方は、入学式・始業式に向けていろいろな準備に追われていることでしょう。職員会議や学年会などで連絡、指示された事柄をこなすだけでも目が回っていることだと思います。初任者などで担任を受け持たない方も、何かと慌ただしく過ごしていることと思います。
経験の少ない若い方に伝えたいのは、忙しい時期だからこそまわりを見るということです。隣の席に座っているベテランは何をしているのだろう、他の分掌はどんな仕事をしているのだろうとちょっとした時間の隙間にのぞいてみるのです。こまかい内容までわからなくてもいいのです。何のためにどんな仕事をする必要があるかを意識するのです。ベテランは先を読んで仕事ができます。今自分が手一杯でとてもそこまでやる余裕はなくても、すぐに必要となることです。この先何があるかが見通せているだけで、ずいぶんと違うものです。忙しい時期だからこそ、どんな仕事があるのか、必要なのかが見えてくるのです。

なかなか余裕がないかもしれませんが、時々は息抜きを兼ねて校舎内を見回るといいでしょう。教室の様子も学級によって異なっているはずです。いつでも子どもたちを迎えられるように掲示物などの準備が整えられている学級もあるはずです。一方、あえてほとんど何もしていない教室もあるかもしれません。新学期が始まってその教室がどのように変わるか見ることもよい勉強になります。自分たちでやらせるために、あえて担任が何もしていないのかもしれない。そんなことを想像しながら観察するのです。
新学期は最初の1週間が大切だとよく言われます。その貴重な時期に何をしなければいけないのかを学ぶ一番の機会なのです。書類作成や整理などの事務的な作業もたくさんあります。それと同時に子どもたちとかかわるために必要なこともたくさんあります。しかし、この学級経営に関することは経験がないとなかなかわかりませんし、具体的に教えてもらえません。5月になってどうも学級がうまくいかないと思っても、一番大切な時期はもう終わってしまっているのです。
ちょっと立ち止まってまわりの先生がどんなことをしているか観察してみてください。学級開きの時には、どんな話をするのか、またしたのか教えてもらってください。そこから、学級経営のヒントをたくさんもらえます。

また、担任を受け持たない先生は自分が所属する学年の先生が何をしているか、それこそ真剣に観察してください。自分が担任を持った時に必要なことの多くを学ぶことができます。若いころ、副担任をしている学級の担任の後を金魚の糞のようについてまわり、とにかく何をしているのか盗もうとしたことを思いだします。その先生から学んだおかげで、初めて担任を持った時、子どもたちのためにいつ何をしなければいけないのか、先を見通して学級経営をすることができました。

忙しい時期だからこそ、他から学ぶよい機会だととらえてください。この時期にしか学べない貴重なことがたくさんあることを意識してほしいと思います。
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