子どもから学ぶ

若い先生方に「子どもから学びましょう」とアドバイスすることがあります。その時に教師になったばかりのことをよく思いだします。当時、自分としては一生懸命に教えているつもりでも、子どもたちの成績はあまり伸びず、その原因を「これまでの学習が定着していないから」「きちんと家庭で復習していないから」と自分以外に求めてしまいました。しかし、本当にそうであれば、これまでの学習を定着させる活動や家庭学習をするように仕向けることをする必要があります。責任回避をするだけで、そのための行動を起こしませんでした。ある単元で子どもたちの成績が悪いと「この単元は、子どもたちは苦手なんだ」と子どもたちのせいにして諦めたこともありました。
しかし、先輩が、具体的にここがわかっていないからと、そのための問題練習をさせているのを知って、自分が子どものつまずきを本当にはわかっていないことに気づいたのです。
「なぜこの単元は苦手なんだろう?」「どこでつまずいているのだろうか?」と本当の原因を見つけてその具体的な解決策を考える必要があったのです。そのためには、問題ができたできなかったという結果ではなく、その過程をしっかりと見ることが必要です。
このことに気づいてから、机間指導ではどこでつまずいているかを意識して見るようにしました。また添削問題を自作しました。問題の内容や順番を工夫して、例え白紙に近い解答の問題があっても、その他の問題の正誤でつまずきの原因が見えるようにしたのです。添削の時に簡単なアドバイスを書き込んでからやり直させることで、どのようなアドバイスが効果的かも知ることができました。こうしたことを積み重ねて、子どもがどこでつまずくのか、それを解消するためにどのようにすればいいのかを知ることができました。
子どもたちは添削問題に真剣に取り組めばわかるようになることに気づくと、積極的に取り組むようになりました。わかるようになると授業の集中度も変わってきます。子どもの問題ではなく、私の問題だったのです。子どもたちのわからない、できないという事実を素直に認めて、そこから学ぶことをして初めて授業が改善されたのです。私を成長させてくれたのは間違いなく子どもたちでした。

子どもたちから学ぶということが言われます。それは、子どもを見て、単に何ができた、何ができないという事実を知ることではありません。その事実から子どもの目線でその原因を考えることが必要です。また、その原因や対策を知るために、意図的な働きかけも必要になります。子どもから学ぶということは受け身ではありません。積極的に働きかけ、それに対して子どもがどう反応し変化したかを知ることで初めて学ぶことができるのです。このことを意識してほしいと思います。

子どもたちの安心感

授業を考える時のキーワードの一つに「子どもたちの安心感」があります。この安心感について少し考えてみたいと思います。

子どもたちは、授業に安心して参加できることを望んでいます。不安な状態でいることは、子どもでなくても苦しいものです。では、安心感を持たせるためにはどのようなことに注意すればいいのでしょうか。
一つは、授業のゴールを明確にすることです。今からどこに行くかわからないのにただついてきなさいと言われれば、大人でも不安になります。行先は常に明確にすることが大切です。授業のめあてや、それを達成するためにどういう順番でどのようなことをやるのかステップを明確にすることが必要です。わかりやすく黒板の横に書いておくのも一つの方法です。それにもとづいて、今どこのことをやっているかを子どもにきちんと伝えておけば、授業の見通しと自分の位置がわかるので安心して授業を受けることができるのです。

子どもが恥をかく心配がないということも安心して授業に参加するために大切なことです。間違ってもバカにされない、何を言っても大丈夫という雰囲気をつくることを意識しなければいけません。例え間違った答でも笑顔で「なるほど」と受け止めることが大切です。同様に、まわりに認められることも大切です。「今の意見、なるほどと思った人?」「納得した人?」と友だちに認められる場面をつくったり、「同じ考えの人?」と子ども同士をつないで関係をつくったりすることが求められます。ペアやグループの活動で互いに認め合う場面をつくることも有効な方法です。子ども同士だけではありません。教師が子どもをほめて認めることもとても大切です。学級に子どもたちの居場所をつくることが求められるのです。

忘れてならないのは、子どもが授業の内容をわかることです。学習内容を理解できなければ、自信を失くし不安になるのは当然です。わかる授業を心がけるのは、安心感を持たせるという視点でも大切なことなのです。課題に取り組む時などは、どうしても差が出てきます。わかった子ども、できた子どもを中心に答を聞くのではなく、わからなかった子どもに寄り添うことが大切です。そのために意識してほしいのがスモールステップです。一気に答を求めさせるのではなく、細かく分けることで一つひとつのハードルを低くするのです。こうすることでハードルをクリアさせやすくできますし、例え自力でクリアできなくても次で挽回する機会を与えることができます。達成感を持たせやすくできるのです。

「子どもたちの安心感」をキーワードにして、ここに挙げた3つのポイント「授業に見通しを持つ」「学級に居場所がある」「授業の内容がわかる」を大切にすることで、どの子どもも安心して参加できる授業をつくることができると思います。ぜひ、このことを意識してほしいと思います。

クイズの有効な使い方

子どもたちはクイズが好きです。ちょっとしたクイズですぐに盛り上がります。しかし、根拠なく無責任に答を想像しているから盛り上がるということも言えそうです。知らなければ答えられないような、単に知識を問うようなクイズは子どもたちが深く考えないことが多いので、授業では多用しない方がよいと考えています。
しかし、すべてのクイズを否定するわけではありません。クイズを効果的に使っている先生もたくさんいらっしゃいます。私が面白いと思う使い方や場面を紹介したいと思います。

既習事項の知識を定着させる場面では、クイズは有効です。既習事項ですから答えられてあたりまえです。子どもたちは積極的に参加してくれます。知識ですので、考える時間は不要です。1問に時間をかけずにテンポよく次々に出題するのがコツです。授業の最初にこのようなクイズをすることでウォーミングアップにもなります。ただし、子どもたちのノリがよいからといってあまり時間をかけてはいけません。あくまでも知識の定着や確認であって、思考しているわけではないからです。

この日学習する事項について、初めにクイズを出すことも授業を活性化するのに有効です。例えば、理科の実験などで、結果を2択か3択のクイズにします。根拠となるものがないので考える時間を与える必要はありません。直感でいいので選ばせるのです。答は実験すればわかるので教えません。子どもたちは選択することで、自分の選んだ答が正解かどうか気になります。当事者意識を持って実験に取り組みます。
また、子どもたちで答を確認することができないようなものはすぐに答を与えて、「えっ、どうして」と疑問を持たせることもよい使い方です。疑問や興味を持つことで、その理由を知ろう、考えようとするので、積極的に授業に参加します。

子どもたちが知らない知識や、根拠もって考えられないようなことは、教えることが基本になります。しかし、それでは子どもたちはただ説明を聞くだけで受け身になってしまいます。例えば、社会科で資料の絵を見て、○○となっている理由を考えさせたいとしましょう。知識が不足していることもあり、子どもからはなかなか意見が出てこないかもしれません。そこで、クイズにするのです。一から考えることは難しくても、選択肢を用意することで、答を吟味することができます。この場合は少し時間を与えて子どもに相談させます。選択肢が糸口になって、子どもなりに根拠を持って考えることができるからです。理由を発表させてもよいでしょう。この後で答を提示すれば、正解をただ受け入れるのではなく、その正解を選んだ根拠も自然に意識されます。積極的に思考するとともに、強く印象付けることができるのです。

クイズは一つ間違えると子どもたちのテンションばかりを上げ、学習への集中を乱すことにもなりかねません。有効な場面や使い方を意識して上手に活かしてほしいと思います。
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