課題解決の手段を考える

子どもたちに与える課題を考えるときに、意識してほしいのはその課題解決の手段です。いきなり課題を与えて解決できる子どもはそれほど多くはありません。その課題を解決するにはどのようなアプローチがあるか考え、それぞれの手段を具体的にするのです。

個人ではなかなか解決できない課題であれば、友だちと相談するというアプローチがあります。「グループで考えて」「まわりと相談してもいいよ」とその手段を子どもたち与えます。

過去に取り組んだ課題の考え方や知識を利用するというアプローチであれば、基本的に子どもたちはその手段を持っています。子どもが自分で気づくのを待つというやり方もできますし、教師が働きかけることで手段として意識させる方法もあります。「似たような問題を解いたことない」「これに関してどんなことを勉強したかな」と思いださせたり、課題提示前に復習したりすることで、手段として意識させることができます。

根拠となる資料や情報をもとに考えるというアプローチであれば、その情報にアクセスできる手段を与える必要があります。資料集や辞書、インターネットなどをがいつでも使える状況であるのなら、利用するかどうかを子どもたちに任せておいたり、「資料集を見ている子がいるね」と気づかない子に手段を意識させたりすればいいでしょう。そうでないのなら、準備をしなければなりません。この場合、教師がわざわざ用意しているので、特に言わなくてもこれが課題解決の手段になることがわかります。

これらのアプローチや手段はどれか一つだけである必要はありません。互いに組み合わせることも可能です。一つに絞るのか、自由に取り組ませるのか。教師が与えるのか、子どもに気づかせるのかといったことも考えておく必要があります。「どうやったら解決できそう」「何か使いたいものはある?」と最初に問いかけてプローチや手段を意識させたり、途中で「何を使って考えた?」と聞くことで手段を共有化させたりする方法もあります。

子どもたちは課題解決の手段を持っていなければ、すぐに行き詰ってしまいます。あらかじめどのようなアプローチや手段があるかを明確にして授業にのぞむことで、子どもが行き詰った時の対応の幅が広がります。課題を考えるときは必ずその課題解決のための手段を意識するようにしてほしいと思います。

算数・数学で大切にしたい問いかけ

算数・数学では数や図形のいろいろな性質を考え、見つけます。その時に大切にしてほしい問いかけが、「いつも」「どれでも」「たまたま」「・・・だけ」「他にはない」「これで全部」などです。

子どもが見つけた性質がたまたまなのか、常に成り立つことなのかは大きな違いがあります。いつも成り立つこと共通なことを見つけることが算数・数学では大切です。そのことを意識させる問いかけが、「いつも」「どれでも」「たまたま」です。

「平行四辺形でどんなことに気づいた」
「向かい合う角が等しい」
「それっていつも言える?」
・・・

「連続した数を2乗したとき、1つとばしの差はどうなる」
「8の倍数だ」
「どれでも成り立つ?」
「ダメだ」
「じゃあ、たまたま?」
・・・
「奇数のときは8の倍数になる」
「いつでも言える?」
・・・

たまたま成り立つような時でも、そこからうまい条件を見つけることができれば、いつも成り立つ性質を見つけたことになります。

逆に同じことが他でも言えるのか、他に成り立つものがあるかも大切なことです。そのことを意識させる問いかけが、「・・・だけ」「他にはない」「これで全部」です。

「四角形をどうやって分けた」
「対角線の長さで分けた」
「それってどういうこと」
「対角線の長さが同じものは正方形と長方形で、他のは違う」
「なるほど、対角線の長さが同じもので分けたんだ。対角線の長さが同じものはこれで全部?」
・・・
「あっ、あった」

この例のような、対角線の長さに注目する視点はとてもよいものです。しかし、正方形や長方形、平行四辺形などの辺に注目した分類とは整合性が取れません。こういったことに気づかせる問いかけです。

数学的には「いつも」は十分条件を、「他にない」は必要条件を意識させる問いかけです。いつも成り立ち、その他に成り立つものがなければ、必要十分条件、同値であるということです。

ふだんの授業で常にこのような問いかけがされていることで、子どもたちは自分自身で問いかけるようになり、数学的な視点が身につきます。意識してこれらの問いかけをするようにしてほしいと思います。

国語の授業で大切にしたい問いかけ

国語の授業では明確な答えがないと言われることが多いようです。しかし、子どもたちが勝手に意見を言って、「どれもいいね」で終わっては学びになりません。だから難しいとも言われ、だから面白いとも言われます。国語での問いかけについて考えたいと思います。

国語の授業で考えるよりどころは素材となる本文です。本文に書かれていること正しく読み取り、それをもとに、小説や物語では「気持ち」や「心情」を、評論や説明文では筆者の「意見」や「主張」を考えます。したがって、子どもの考えに対して、常に根拠となる本文の記述を問いかけることが大切になります。「それはどこに書いてある」「本文のどこからそう考えた」と「どこ」で聞くのです。

本文を根拠にするという視点でよくつかわれる指示が、「・・・が書かれているところに線を引きなさい」です。線を引いたところを共有して、そこから、心情や主張を考えるのです。こうすることで、「どこ」の対象を明確にできます。

では、子どもの考えを聞き、どこを根拠にしたかを発表させたあと、どのようにすれば考えが深まり、答が明確になっていくのでしょうか。
根拠とした文が重要な文だと考えるのであれば、その文をもとに考えを深め、広げるとよいでしょう。「この文をもとに考えた人、意見を聞かせて」、「この文からどんなことがわかるか、他の人の考えを聞かせて」と文をもとにつなげます。
発表された考えがねらいにつながると思うのであれば、その考えをもとに、深め、広げるとよいでしょう。「同じように考えた人、どこでそう思ったか聞かせて」と考えをもとにつなげます。どの文が重要なのか、どのような子どもの言葉が出てくればねらいにつながっていくのか、教材研究をしっかりしておく必要があります。
こうしていくことで、本文を根拠に考えを深めていけるので、意見がかみ合い明確になっていきます。

しかし、本文に直接根拠となる記述がないことを問う場合は難しくなります。
たとえば、主人公の気持ちを考えさせたいが、本文に主人公のことが書かれていないような場合です。授業名人の野口芳宏先生は、「書いてあることから書かれていないことを合理的に推論する」とおっしゃっています。
「何があった」「だれがどんなことをした」と書かれている事実をとりあげ、そこを根拠に、「その行動はどういうことだろう」「じゃあ、どんな気持になるだろう」と迫っていくとよいと思います。

ときにあいまいな結論になりやすい国語の授業ですが、常に根拠を本文に求め、そこを起点して話し合い、聞き合うことを大切にして、子どもたちにとって、合理的で明解な結論に達することを目指してください。

理科(実験)で大切にしたい問いかけ

理科の実験の授業を見ていて、何のために実験をしているか子どもが意識せずに、ただ指示された通りに作業をしてワークシートの穴を埋めているように感じることがよくあります。

理科は疑問や仮説を実験によって解決、検証します。疑問や仮説がないまま指示されたとおりに実験をして、「気づいたことは何」「どんなことが言える」と問われても、明確な視点で答えることはなかなかできません。
まず、子どもに疑問や仮説を持たせる問いかけが必要です。
「どうなると思う」「どうしてそう思う」と予想をさせることから始めることが大切です。子どもの意見が分かれれば、それだけで実験に取り組む意欲が高まります。
その上で、どんな実験をすればいいか考えさせることで、科学的な思考が身についていきます。
また、一部の子どもだけが気づいたことがあれば、全員が追試できるような時間を取る、時間がないようであれば教師が見せることをしてほしいと思います。実際に体験する、見ることで初めて納得できるからです。

たとえば、空気鉄砲の実験であれば、
「押し棒を押すとどうなると思う」と問いかける。
子どもが「前玉が飛ぶ」と答えれば、「どうしてそう思う」と続けて聞く。
子どもが理由を答えたら、どうすれば確かめられるかを続けて問う。
答えられなければ、理由を考えながら実験するように指示する。
出てきた疑問や仮説を整理しておく。
途中で、実験を止め、飛んだかどうかなどの疑問や仮説がどうであったか確認する。
ここで、子どもから強く押すと勢いよく飛んだといった気づきが出れば、まわりに確認し、気づかなかった子どもには次の実験で確認しようという気持ちにさせる。
「強く押すと勢いよく飛ぶことを確かめたいけど、どうすればいい」と子ども問いかける。
また、理由についても子どもの考えを聞く。
いくつかの意見が出れば、どうすれば確かめられるか問いかける。
ここで出た新たな疑問や仮説を持って、再度実験をする。
・・・

時間の関係でいつもこのようにできるわけではありません。また、子どもたちの発達段階によって進め方を変える必要もあります。しかし、実験のたびにこのような問いかけをしていくことで、子どもたちの視点が育っていきます。それに伴い子どもたちからいろいろな気づきや考えが発表されるようになってきます。子どもの言葉をつなぎ、深めることでより科学的な視点で実験に取り組むようになっていきます。
疑問や仮説を持たせる問いかけによって意識的に実験に取り組ませることで、科学的な思考力を育ててほしいと思います。

社会(歴史分野)で大切にしたい問いかけ

社会科では資料をもとに気づいたことを問いかけることがよくあります。ただ、子どもたちの資料を見る視点、考える視点が育っていないと、「気づいたこと」と問うだけでは、どこを見ればよいか、どうすれば気づけるかわからなくて困ってしまうことが多いように思います。

歴史分野では、歴史的な事件や事実をつながりとしてとらえるために、ビフォアとアフターを比較するという視点を与えるとよいでしょう。ある事件、事実を境にして何が変わったのか、変わらなかったかを問うのです。原因と結果といいかえてもよいと思います。その事件、事実を挟んで比較できる資料をもとに考えさせる。原因となる事実を調べさせる。こうすることで歴史を線で結ぶことができます。

たとえば、「長篠の戦い」のようすを描いた屏風図を資料として考えさせるのであれば、これ以前の戦いと比べて、何が違う、気づいたことはないと問いかけると、視点が明確になります。それ以前の戦いのようすを描いた資料も準備しておけばよりたくさんのことに気づくことができるはずです。また、戦いの結果、何が変わったかを問いかけることで、武器の重要性、それに伴う資金の問題など戦いを左右する要素に気づくこともできるでしょう。

平安時代の「農民の逃亡」であれば、なぜ逃げた、逃げた人はどうなったと問うことで、租庸調という税の負担がどのようなものであったか、また、口分田に始まり、三世一身の法、墾田永年私財法を経て荘園の発達へ続く流れやそのつながりを整理することができます。

歴史分野の教材研究では、教科書の内容一つひとつをどう説明するかではなく、どこを中心に展開するかを考えてほしいと思います。どこを起点として歴史が大きく動いたか、変化したか、そういう視点で教材をとらえ、その前後を比較させることが、子どもたちが考える授業につながります。歴史の変化をとらえるという視点を育てることで、子どもたちは多くのことに気づけるようになると思います。

算数で大切にしたい問いかけ

どの教科にも単元にかかわらず、共通の大切にしたい視点があります。今回は算数について考えてみます。

算数ではいろいろな計算が出てきますが、共通して押さえておきたいのが、「何」が「いくつ」あるかという問いかけです。
たとえば、位取り記数法では、32は10が3つあり、(1が)2あると考えます。小数も0.4は0.1が4つあると考えます。
同様に分数も2/3は1/3が2つあると考えます。比も基準となるものがいくつあるかが基本です。
面積や体積も単位量がいくつあるかです。
このことから、かけ算を足し算の繰り返しではなく、「1つあたりのいくつ分」と定義するようになったのです。

このことを意識すると、子どもへの問いかけも非常に明解になります。
たとえば、0.3×4=0.12としてしまう子どもがいたとします。3×4を計算して、小数点をつけると考えたのです。意味を考えずに手順を覚えようとする子どもがよくやる間違いです。このとき、「0.3は何がいくつ」「3×4=12で何が12」と問いかけることで0.1が12と気づき、間違いが正されます。

この視点で教科書を眺めてみると、基本的な考え方がこの問いかけで明確になることに気づくと思います。算数の教材研究をするときに「何」が「いくつ」あるという問いかけを意識していただけたらと思います。
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