「比較」を大切にする

子どもたちの発言に対して、「なぜ、そう考えた、そう思うの」と根拠を聞いてもなかなかきちんと答えることができません。根拠を意識して考える力をつけるにはどうすればよいのでしょうか。

考えるための基本は「比較」することです。
たとえば、地理で資料からその地方の特色を見つけるのであれば、その地方のデータだけみてもわかりません。全国のデータと比較することで初めて特色が見つかります。
国語の読解でも、ある場面の描写と他の場面の描写を比較して、その違い、変化を考えることで筆者の伝えたい意図が見えてきます。
したがって、子どもたちが「比較」するという考え方に慣れるまでは、できるだけ具体的に何と何を「比べる」、「違いを見つける」という指示をすることが大切です。
「この地方の特色をみつけよう」という問いに対しては「全国平均のデータと比べて、どんな違いがある?」。
「主人公は成長したのだろうか」という問いに対して、「主人公の考え、行動について書いてあるところを抜き出そう」「どう違う?」というステップを踏むことで、根拠を持って考えることができるようになっていきます。

また、比較の対象がすぐに見つからないときでも、「もし、・・・でなかったら」「もし、・・・だったら」と仮定することで、比較の対象をつくりだすことができます。
「抜けるように青い空だった」という表現を考えるのであれば、「『青い空』でなかったら」「『抜けるように』がなかったら」どうだろうと発問することで、比較の対象がつくられます。こうすることで、根拠を明確にして考えることができるようになります。

考え方の基本となる「比較」することが子どもたちに身につくように、発問や授業の展開を工夫してほしいと思います。

ワークシートは親切な方がいい?

ワークシートを活用している授業によく出会います。手元にワークシートがあると何をすべきかわかりやすので、子どもたちの作業はスムーズに進みます。子どもたちの状況に応じて適切につくられたワークシートは授業を効率よく進めるのに効果的です。しかし、時として首をひねりたくなるようなものもあります。ワークシートはどのようなことに注意をしたらよいのでしょうか。

国語のワークシートの例です。

作者の気持ちが表れている部分を抜き出そう。
私は      と思った。

気持ちや考えは、「思った」という部分に注目するとよい。このことを意識させることを意図してつくられています。しかし、ここまで親切にすると、文章から「思った」が文末にあるものを探し、そのまま写す者も出てきてしまいます。これでは、ワークシートを埋めることはできますが、国語の力はつきません。少なくとも、「思った」という言葉がキーワードになることを意識させて、このようなヒントがなくても見つけられるように指導する必要があります。

社会のワークシートの例です。


○○条約は    年に    で、            の3国が、         をすることを目的に、             をすることを取り決めたもの。


○○条約について整理しよう。
調印した年
場所
締結した国
目的
取り決め(3つ)


○○条約について整理しよう。

この3つの例はどれが正解というわけではありません。子どもが自分で調べたり整理する力がなければ、教科書をほぼそのまま写せばできるAのワークシートでなければ手がつかないかもしれません。教科書に下線を引くのと変わらないが、せめて自分の手で写すことで少しでも覚えさせようという意図があるのかもしれません。
ここで意識してほしいのは、子どもは進歩していくことです。最初はAのようなものでなければ手がつかなかった子も、力をつければBのようなものでもきちんとできるようになります。ワークシートを通じて何度も作業をするうちに、どのような情報が大切なのかわかってくれば、Cのような指示だけでも何をすればよいかわかるのです。

4月のワークシートと3月のワークシートのレベルが同じということは、子どもたちの力が育っていないということです。最初はだれでも手がつくような親切なワークシートから始まっても、最後はワークシートに頼らず自分でできるようになっていることを目指してほしいのです。調べ方、整理の仕方、考え方といったメタな力をつけることを意識してワークシートを活用してほしいと思います。

「わかりません」を許さない

指名した子どもが「わかりません」と答えたとき、すぐ次の子を指名するのがよいのか、ヒントを出して何とか答えさせするのか迷うときがあります。「わかりません」と答えてすぐ次の子が指名されると、解放されてホッとしてしまい、そのまま集中力をなくす子もいます。また、ヒントを出してもなかなか答えてくれなくて、無駄に時間が過ぎることもあります。「わかりません」と子どもが発言したときはどのようにすればよいのでしょうか。

「前の時間学習した、○○はどういうものでしたか。△△さん、教えてください」
「わかりません」
「あっ、ノート見ている子がいるね」
ノートを見始める。
「△△さん、見つかった」
「はい、□□です」

質問内容が既修事項であれば、ノートか教科書に必ず書かれているはずですから、子どもにそれを調べさせれば答えが見つかります。教室の中に調べ始めている子がいればそのことを指摘することで、多くの子どもが動きます。そこで、本人が調べるのを待って答えさせればいいのです。それでも本人が見つけられなければ、「まわりの子助けてあげて」「どこに書いてあるかだれか教えて」と友だちに助けてもらうようにします。

「○○はどういうことですか。△△さん」
「わかりません」
「どこがわからないの」
「・・・」
「いいよ、また後で聞くからね。□□さん」
・・・
「△△さん。○○ってどういうことかな」
「××です」
「ちゃんとわかったね。えらいね」

ヒントを出してもすぐに対応できないときは、その子にかかわりすぎてもかえって追い詰められたような気持ちにさせてしまいます。再度聞くことを伝えて、次の子を指名するようにします。もう一度指名されることがわかっているので、友だちの発言をしっかり聞きます。たとえ友だちの発言をそのまま言うことになっても、自分で発言してほめられることで、達成感も味わえます。今わからなくても、友だちの発言を聞いて理解しようとする姿勢が生まれてきます。

大切なのは、「わかりません」と言えば許されると子どもたちに思わせないことです。「わかりません」を許していると、自信のない子は間違えるくらいなら「わかりません」と答えるようになっていきます。学級全体が消極的になっていきます。指名されたら、たとえわからなくても最後はきちんと答えて、ほめられて席に着く。これがあたりまえになっていくにしたがって、「わかりません」という言葉も学級から減っていき、子どもたちが積極的に授業に参加する様になっていきます。

子どもの言葉から課題を見つける

子どもの疑問から課題を見つける、子どもの言葉から授業をつくるということがよく言われます。とはいえ、あまりに子どもの発言が拡散しても扱いが大変ですし、授業のねらいに迫るような言葉が子どもから出てこなければ、これも困ってしまいます。どのように考えればよいのでしょうか。

子どもの考えを広げるような問いかけと絞っていく問いかけや活動をうまく組み合わせる必要があります。

「この詩を読んで、気づいたこと、わからないところ疑問に思ったところを箇条書きにしてください」
・・・
「それでは、グループで聞き合って、わからないことや疑問を相談しよう」
・・・
「どんなことを話したか聞かせてくれるかな」
「カタカナで書いてある」
「ボクがだれかわからない」
・・・

このような間口の広い問いかけであれば、子どもは何らかの意見や考えを持つことができますが、そのまま発表すると拡散してしまいます。机間指導で使える考えをピックアップしておいて指名することで、拡散を防ぐという方法もあります。しかし、多くの子どもは自分の考えを持てているので発表したくなります。この気持ちを無視すると、せっかくのやる気がなくなってしまいます。そこで、グループを活用します。自分の考えを聞いてもらう機会を与え、話し合うことで簡単な疑問を解決させておきます。全体での発表は整理されたものになっているので、効率的に課題を焦点化することができます。

このような時間がない時は、最初の問いかけを「この詩を読んで、どの言葉が印象に残った」「何を言っているかよくわからない部分に線を引いて」と、もう少し具体的にすることで、より早く教師のねらいに迫る言葉を引き出すことができます。

子どもにできるだけ自分の考えを持たせること、持った考えを受け止める場をつくることと、それに対して教師のねらいに迫る言葉をどう引き出すかのバランスが大切になります。こうすればうまくいくというものではなく、子どもの実態に応じてどのような問いかけや活動をするのか、どう働きかけるのかを常に考えながら授業を進めることが求められるのです。

いきなり、「○○ついて考えなさい」「△△をしましょう」と教師が迫るより、自分たちの疑問や自分たちで見つけた課題について取り組むほうが子どもたちの意欲も高まります。子どもの疑問や発言を活かす授業を目指してほしいと思います。

テンポのいい授業とは

テンポがいい、間がいい授業ということがよく言われます。ところがテンポのいい授業を目指して、次々に指名しても子どもが反応できない、かえって混乱してしまう。そこでゆっくりと間をとると今度はだれてしまう。こんなことがよくあります。テンポがいい授業について考えてみたいと思います。

テンポがいい授業というと、教師の話す技術、話すテンポに目がいきがちです。ここに目を奪われてはいけません。ベースになるのは子どもの状況を把握する力です。次の2つの例を見てください。

「どうやって考えたか教えてくれる」
「点Aと点Cを結びました」
「なるほど、○○さんは?」
「私も、点Aと点Cを結びました」
「いっしょだね。△△さんは?」
「私も2人と一緒で、点Aと点Cを結んで考えました」

と受容の言葉も簡単にして次々と指名していく。

「どうやって考えたか教えてくれる」
「点Aと点Cを結びました」
「なるほど、点Aと点Cを結んだんだ。同じように考えた人いる」
「何人かいるね。それってどういうことか説明してくれるかな。○○さん」
「点Aと点Cを結ぶと三角形ができて・・・」
「なるほど、今の○○さんの説明どう。納得した」

とじっくり受け止めて説明させる。

どちらかが正解ではありません。子どもの状況によって対応が変わるのです。
前の例はほとんどの子どもが気づいていて、確認をすればよい状態の時です。最初の発言にほとんどの子が納得しているので、丁寧にやってもだれるだけです。テンポを速くすればよいのです。
後の例は、多くの子どもが気づいてない時です。気づいていない子は発言を理解するのにも時間がかかります。一度復唱して発言を理解させ、その意味を十分納得させるためにじっくりと時間をとります。

子どもの状況を把握しないでテンポだけを速くしようとすると、多くの子どもはついていけなくなってしまいます。テンポのいい授業をしている教師は、子どもの反応や事前の机間指導、経験を通じて子どもが今どういう状況か的確に把握しているので、テンポを速くしたり、間をとるという判断を正しくできるのです。テンポのいい授業を支えているのは教師の話す技術ではないのです。
子どもの状況に応じて、速く進めるところは進めて、時間をかけるべきところにじっくり時間をかけるのがテンポのいい授業なのです。

活動の特性を意識する

例えば教科書を読むといった活動でも、音読、黙読、全員で読む、指名で読む、いくつものバリエーションがあります。漫然と活動を選んでいるように見える授業もあります。どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

大切なのはそれぞれの活動で何が身に付くか、どんな注意が必要か、何ができることが前提か、といった特性を意識することです。
先ほどの教科書を読むことで考えてみましょう。

音読は、漢字の読みや発音、文の区切りを意識して読むことにつながります。滑らかに読めるようになることは文の理解にも通じます。一方どうしても発音することに注意がいくため、内容を深く理解するには向かない面もあります。
黙読は、わかりにくいところは何度も繰り返して読むなど、自分の理解度に合わせて読めるので、内容を深く理解するのには向いていますが、字面を目で追うだけの流し読みになってしまうこともあります。「筆者の気持ちが表れている部分に線を引く」といった、内容を意識して読ませる工夫が必要になります。

また、音読も個人でするのか全体でするのか、全体でも、一斉に読むのか、指名して順番に読むのかでもいろいろと違ってきます。
個人で読むのであれば、うまく読めないところをやり直したりして自分のペースで練習できますが、自分で気づかない間違いを修正することはなかなかできません。読み終わるまでの時間もなかなかそろわないことも問題です。
全体で一斉に読む場合は間違いに気づくこともできますが、どんどん進んでいくのでその場で修正はできません。
指名して順番に読む場合は、指名された子どもはきちんとチェックできますし、またうまく読めなかったところはやり直せます。その他の子どもは、友だちの読みを聞くことで自分の読み方の確認ができます。しかし、受け身になって聞き流してしまうこともあるので、読んでいるところを指で追いかけさせるといった工夫も必要になります。

このようなことを意識すれば、「初めて目にする文章なので全体で読むことから始めよう」「しっかり読めるようになったから、黙読でしっかり内容を理解させよう」といった判断もしっかりできるようになります。

子どもたちにとって適切な活動を選ぶには、個々の活動の特性をしっかり理解し、そのことを意識することが大切になるのです。

子どもの顔を上げる

教師が話をしたり、教科書を音読したりする一斉指導の場面で、子どもの顔が上がっていないことがあります。教師にとって子どもの表情は理解しているのかどうか、きちんと参加しているかどうかを知る大事な情報源です。子どもの顔が上がっていないとその情報を得ることができなくなります。どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

子どもが板書を写していたり、まだ作業をしているのに話し始めてしまうと当然顔が上がらない子どもが出てきます。いったん作業をきちんと終わらせる必要があります。板書しながら話をするのであれば、鉛筆を置かせて話に集中させるようにします。
図を見せたり、身振りをつけるなど視覚的な情報を加えることで、顔を上げる必然性を与えることも大切です。そして、一方的に聞かせる姿勢ではなく、子どもたちの表情や反応に対して、教師もきちんと反応を返す必要があります。

「みんな鉛筆を置こう」
「○○さん。しっかり顔が上がっていていいね」
「みんな顔が上がったね。それでは、前の図を見よう」
「△△君、何か気づいたみたいだね。気づいたことを聞かせてくれるかな」
・・・
「□□さん、首をかしげてくれたけど、疑問に思ったことがあるの。みんなに教えてくれるかな」

このようにすることで、顔を上げて教師とコミュニケーションをとりながら話を聞く様になっていきます。

教科書の音読のように何かを見なければならないときは、どうしても下を向きやすくなります。教科書であればきちんと両手で持って目の前に置くことで顔が上がります。
「○○君、しっかりと読めているね」とほめることもしやすくなります。

何かを見て一斉指導するような場面では、ICT機器の活用がとても有効になります。デジタル教科書を使ってスクリーンに写すことで、顔を上げて音読することが可能になります。資料も手元に置いて見るのではなく、実物投影機を使うことで簡単に顔が上がります。
このとき注意してほしいのは、つい教師も一緒になってスクリーンを見てしまうことです。せっかく子どもたちの顔を上げているのですから、教師が子どもたちを見ようとしなければその効果は半減してしまいます。

大切なのは子どもの顔を上げて、表情を見ようとする意識を持つことです。このことを意識すれば、子どもたちの顔を上げるようにすることはそれほど難しいことではありません。子どもたちの表情や動作から子どもたちとコミュニケーションをとろうという姿勢を持ってほしいと思います。

足場をそろえる

子どもたちに複雑な問題取り組ませると、最初の方でつまずいてしまい、答えの確認が始まるまで動きが止まってしまうことがあります。また、確認が始まっても最初の部分の説明を理解しようとしているうちに先に進んでしまい、ついていけなくなっていることもよくあります。
どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

複雑な問題は答えに到達するためにいくつかのステップがあります。最初の段階でつまずいてしまうと何ともなりません。教師は半数くらいの子どもがゴールにたどり着くまでは自力で解決させようとしますが、その間手がつかない子とそうでない子の差はどんどん広がっていきます。このまま答えを確認しても学級全体に理解させるのは難しい状態になっています。
教師が個別に対応しようとしても、つまずいている子が多ければ対応できません。友だちに相談するにしても、相手がまだ解いている途中であればなかなか声をかけづらいこともあります。

このような時は、いったん個別の活動を止めて最初のステップだけを全体で確認します。答えではなく、どこに目を付けたか、何をやってみたかを発表させるのです。例えば図形の問題ではどこに線を引いたか、資料を使う問題であれば資料のどこに目を付けたかを聞くのです。こうすることで学級全体を一つ次のステップに到達させることができます。子どもたちの足場がそろい、開いていた差も縮まります。
ここで再び個別に取り組ませます。場合によっては、何度かこれを繰り返します。
このようにすれば、たとえゴールに到達できなかったとしても、全体の確認の場面ではクリアすべきステップは減っていますので、より理解しやすくなります。

複雑な問題は、一気にゴールに到達しようとせず、一つひとつのステップを学級全体でクリアして、子どもたちの足場をそろえながら進めることで、より多くの子どもが積極的に取り組み、理解できるようになります。

考えるための足場をつくる

子どもたちが考える授業をしたいと誰もが思っていることでしょう。しかし、問題を提示して、「考えてごらん」と言えば考えられるわけではありません。子どもが考える授業にはどのようなことが必要なのでしょうか。

大切なことは、考えるためには知識が必要だということです。授業中に考えさせたい問題に対して、どのような知識が必要かまず教師がしっかりと押さえておく必要があります。その上で、子どもたちがその知識を使える状態にあるのかどうかを確認しなければなりません。
既修事項であっても全員が身についているわけではありません。授業の最初に復習したり、整理をすることから始めなければなりません。考えることに時間を使いたいのですから、この時間はできるだけコンパクトにしたいものです。そのために必要な知識を絞り込んでおくことが大切です。
必要な知識が未習であれば、どのようにして身につけさせるかを明確にしておく必要があります。原則、知識は教えるか、調べさせるかのどちらかです。授業の組み立てで、どの程度の時間を割けるかによって判断する必要があります。

教師は、どうすればこの問いに答えられるのか、考えることができるのかを意識していないことがよくあります。考えるにあたって、無意識のうちにいろいろな知識を活用していますが、そのことを意識下から掘り起こす必要があります。そして、この考えるための足場となる知識を子どもたちが利用できるようにすることが大切になります。この足場をつくるという発想を持つようにしてほしいと思います。

個人作業にこだわりすぎない

自分の考えを持たせようとグループでの活動の前に一人で考える時間をとったり、一人で問題を解かせるようにすることがよくあります。すぐに人に聞いたり、答えを写しては力がつかないと考えるからです。しかし、行き詰って何も考えずにじっとしていたり、手遊びを始めている姿を目にすることもよくあります。個人での作業はどのように考えればよいのでしょうか。

大切なことは、グループでも個人でも子どもたちがきちんと活動することです。たとえ手が止まっていても、思考していれば立派な活動です。しかし、何も考えず時間をつぶしているようでは困ります。それくらいなら友だちに答えを教えてもらった方がよほどプラスになります。
「どうしてもわからなかったら相談したり聞いてもいいよ」と自分の判断で相談できるように指示しておくとよいでしょう。注意してほしいのは、たずねられていないのに勝手に教えないように強く言っておくことです。自分で考えているのに横から教えられるとやる気をなくしてしまうからです。
また、一人では手がつかないような子は、なかなか自分からは相談できないものです。教師が子どもの様子に注意して、動きが止まっているようであれば、相談したり聞くように促す必要があります。

さて、私たちは答えを写しては力がつかないと考えますが、子どもは自分で答えを出せなかったことを悔しく思い、何故そうなるかを考えようとするものです。友だちにたずねたり、その答えになる理由をなんとか自分で考えようとします。また、確認の場面では、必ず理由や過程を発表させるようしましょう。こうすることが、答えを写すだけでなく理由も考えようとする子どもたちの姿勢を育てます。

個人作業は大切な時間ですが、一人でやることにこだわりすぎて子どもの活動が止まってしまわないように注意してほしいと思います。

ほとんどの子が挙手するとき

ほとんどの子は挙手しているが、数人の子が手を挙げていない。そんな場面によく出会います。「わかった人」と確認したときであれば、多くの教師が次に進んでいきます。復習の場面であれば、指名します。このような進め方でよいのでしょうか。少し考えてみたいと思います。

ほとんどの子どもが手を挙げているときは、本当にわかっている場合と周りにつられて手を挙げている場合があります。そのような場合、指名するにしてもちょっと不安な子にするべきでしょう。
わかったかどうかの確認の時も、念のために指名することは大切になります。
しかし、それよりも挙手していない子たちはどのような状態なのか考える必要があります。ほとんどの子が挙手しているのですから、わかっているけど、授業に参加する気がない、かかわりたくないという状態なのでしょうか。それとも本当にわからない、自信がない状態なのでしょうか。

このような時はちょっと時間がもったいないような気がしますが、隣同士や周りの子と確認させるとよいでしょう。挙手をしている子どもはわかっているのでしゃべりたいという気持ちがあります。指名では数人しか発表できないので、挙手した子どもたちにとっても意味のある活動です。
このとき、挙手しなかった子どもの様子をよく観察してください。友だちの説明を聞いて納得できているようであれば大丈夫でしょう。周りとかかわれていないようであれば、全くわかっていないのか、授業に参加する気持ちがないということです。この場合、その場ですぐに対処できることは少ないので、機会をつくって、わかっているかどうか確認したり、声掛けをしたりしてフォローする必要があると思います。

ほとんどの子の手が挙がっているからよいと思うのか、だからこそ手の挙がらない子に注意を向けるのかが、授業の分かれ目になると思います。少数の子のために時間を割きすぎるのは問題があります。だからこそ、大多数の子も少数の子もともに活かすような工夫が教師には求められるのです。

子どもが話を聞いていないと感じたとき

子どもたちに対して、静かにはしているが話をちゃんと聞いていないと感じるときがあります。集中力が落ちていると言い換えてもいいでしょう。話を聞かせようとするあまり、教師の声がどんどん大きくなり、それに反してますます子どもは聞く気をなくしていく。そんな場面もよく目にします。このようなとき、どのような対応をしたらよいのでしょう。

もともと子どもの集中力は受け身の状態では長くは持たないものです。一方的に教師が話し続けていることに原因があることが多いように思います。
話の内容について子どもたちに問いかける。ちょっとした活動を入れる。こうすることで集中力は戻ってきます。

「・・・になるんだけど、納得した。納得した人手を挙げて。○○さん説明してくれる」

「・・・ということが起こったんだけど、君たちならどうする。周りの人と少し話してごらん」

このように、ちょっとした問いかけや活動を入れると、受け身の状態から解放されてまた話を聞けるようになります。

話をしていて子どもたちの集中力が切れたなと感じた時は、一方的に話していないか振り返ってみてください。受け身の状態を続けさせていた場合は、一旦その状態から解放してあげてください。そうすることで、子どもたちの集中力は戻ってくるものなのです。

子どもの発表に対する教師の動き

指名した子どもが発表する時の教師の視線や表情、立ち位置などを見ているとおもしろいことに気づきます。子どもの発表に対する教師の動きについて考えてみたいと思います。

多いのは、発表者をしっかり見て発言を聞いている教師です。子どもの言葉をしっかり聞こうという気持ちがあらわれています。この時、教師の表情が変わらないと、自分の考えが間違っているのではないかと不安に思う子もいます。逆に、笑顔でうなずきながら聞いてもらったり、「なるほど」とあいづちをうってもらったりすると安心して話しやすくなります。教師の表情が柔らかいと学級全体の雰囲気も柔らかくなる傾向があります。

これに対して、発表者と正対せずに学級全体を見ようとしている教師もいます。子どもと視線が合うと発表者を見るように促します。子どもたちに発表者の方を向いてしっかり聞いてもらいたいからです。この時、直接発表者を見ていないので、相手を意識していることを伝えるための工夫をしています。手のひらを上に向けて、発表者に向けてさしだしたり、ちゃんと話を聞いているよとうなずいたりしています。膝を折って頭の位置を下げ、子どもたちの視線に入らないようにすることで、発表者に視線が集中するようにしている方もいます。
子どもたちの聞く様子を注意して見ることで、理解度を確認したり、次にだれを指名するかを決めたりできます。

発表者と教師が二人だけの世界にはいってしまうというのは論外にしても、どちらかでなければいけないということはないと思います。大切なのは、発表者と発表を聞く子、どちらも意識して、発表者や学級の状況に応じて工夫をすることです。子どもが発言することに不安を持っているときは、目を合わせる時間を多くして笑顔で励まし、発表後すぐに全体を見回すようにする。子どもたちが発表することに慣れてくれば、聞く姿勢を意識した動きをする。このようなことが大切になると思います。

子どもの集中力が切れない授業

学習している内容が理解できないと集中力が落ちてしまうのが通常です。ところが、わからない子どもも集中して参加し続ける授業に出会うことがあります。そのような授業にはどのような共通点があるのでしょうか。

一つは、教師がその時間に子どもたちに身につけてほしいことを必ず全員にできるようにするという姿勢が明確なことです。
子どもたちは誰しもわかりたい、できるようになりたいと思っています。しかし、わからないまま次に進めばそこであきらめてしまいます。今わからなくても、ちゃんと授業に参加していれば必ずわかるはずだという安心感があれば集中力はきれません。説明を聞いてわからなくても、その後の問題練習でわかることもあります。友だちに聞いてみることで、意外とすんなりわかることがあります。子どもの集中力が切れない授業は、子どもが理解するチャンスや場面を何度も用意していることが特徴です。

もう一つの特徴は、子どもが自分はできた、わかったと実感できる場面が1時間の中に用意されていることです。
できなかった問題を教師に説明され、「わかりましたか」の問いかけに「はい」と答えても、なんとなくわかった気にはなりますが、達成感はありません。
例えば、○つけをして、必ず全員に○をつけて終わるようにする。周りの子と確認しあって、友だちから「OK」と言ってもらう。「みんながわかった」ではなく、「あなたがわかった」と伝える、個を意識した評価場面が必要なのです。

このようにして、毎日の授業で必ず達成感を味わうことで、子どもたちは授業そのものに前向きになっていきます。今わからなくても、きちんと授業に参加すれば最後には必ずわかるようになる。子どもたちがこのように信じてくれるようになれば、集中力の切れない授業に自ずとなっていくのです。

グループやペアでの相談が止まる理由

子どもたちグループやペアで相談させる場面に出会うことが増えてきました。ところが子どもたちは互いに答えを見せ合ったり、写したりするだけで、そのまま活動が止まっていることがよくあります。どうすればよいのでしょうか。

このような状態になるのは、相談するとはどういうことをすればよいのか明確になっていないことが原因です。どうしてその答えにたどり着いたのかを聞き合う。その考えに対して納得できるのか、疑問はないのかを話し合う。具体的な方法を子どもたちが知らなければうまく進みません。相談の目的は、答えではなく、そこにいたる過程を共有化することだと知ることが必要です。教師は相談という言葉は使うが、その意味をきちんと伝えていないのです。

では、具体的にどのようにして教えればよいのでしょうか。いきなりグループ活動で身に着けさせようとすると無理があります。全体の場面でどのようにすればよいのかを経験させるのです。

「○○さん、どうしてそうなったのか、考えを聞かせてくれる」
「・・・からです」
「なるほど、今○○さんが言ってくれたことわかる。なるほどと思った人」
・・・
「○○さんの意見に質問のある人はいますか。△△さん」
「私は○○さんの説明の・・・がよくわかりません」
「なるほど、△△さんの質問に答えられる人いるかな」
・・・

答えを発表させて、その解説を教師がするのではなく、その理由を子どもたちから聞く。その考えに対する意見を発表させる。自分の意見を変えてもいい。このようにして、グループ活動でやらせたい活動を具体的に経験させておくのです。

グループ活動やペア活動では、その活動の具体的な進め方をきちんと子どもたちが知らないと、ただ発表しあうだけで終わってしまいます。子ども同士のかかわり合いの基本は、全体の場面できちんと身につけさせる必要があるのです。

グループ活動と全体指導

グループ活動やペア活動を取り入れる授業が増えてきます。友だちと学び合う楽しさを知る子どもたちが増えるのはとてもよいことです。このような授業を見ていておもしろいことに気づきました。グループ活動に入るときの子どもの様子の違いです。

ホッとした表情をして一瞬ざわつくときと、素早く机を移動して、うれしそうに活動を始めるときがあるのです。前者の場合もしばらくすれば子どもたちは落ち着き、グループ活動はきちんと成立するので、決して悪い状態ではないのですが、注意して観察してみると、グループ活動に入る前の状況に違いがあるようです。

子どもがホッとした表情をするのは、教師の一方的な説明が多く、ただ聞いているだけ、ノートを写しているだけの受け身の時間が続いていたときです。グループやペアで能動的に活動する楽しさを知っているので、よけいにつらいのです。グループ活動のよさを経験すると受け身の時間の集中力が以前と比べて落ちる傾向にあります。受け身の時間からやっと解放されたとホッとした表情になるのです。

一方、素早くグループ活動に取り組むときは、自分の考えを早く話したい、友だちの考えを聞きたいと、課題に主体的取り組む状態ができているときです。

「○○ってどういうことだと思う」
「△△じゃないですか」
「今の意見どう思う。なるほどと思った人手を挙げて。どこでそう思ったか教えてもらおうか」
・・・
「手を挙げていない人の考えも聞いてみようか」
「□□だと思います」
「違った意見が出てきたね。みんなどう思う。じゃあグループで相談してみようか」

このように、教師が問いかけて子どもの考えを発表させるなど、子どもが課題に入り込むための時間をとっているのです。グループ活動に慣れていると、友だちの話を聞く姿勢が育っているので能動的に聞くことができます。聞いたことをもとにしっかりと考えるのです。自分の考えを持てているので、友だちと早く意見を交換したいのです。

グループ活動や、ペア活動が子どもたちにとって充実したものであれば、全体指導でも子ども同士がかかわり、学び合うといった能動的になる場面をつくりやすくなります。反対に受け身の場面での集中力は落ちていきます。
グループ活動を取り入れるということは、全体指導の場面でも子どもたちが能動的になるような工夫が教師に要求されるということなのです。

同じ考えを大切にする

子どもたちの考えを発表させる場面で、たくさんの意見を出させたいので、次々と指名していくことがあります。この時、注意をしてほしいことがあります。

「○○さんの考えを聞かせて」
「・・・です」
「なるほど、いい考えですね。他には」
「はい、△△さん」

教師は「いい考え」と評価しているのですが、その考えを子どもたちにきちんとつないではいません。また、すぐに「他には」と聞くことで、同じ考えの子どもたちの活躍の機会を奪っています。

「○○さんの考えを聞かせて」
「・・・です」
「なるほど、いい考えですね。○○さんと同じ考えの人はいますか?」
「たくさんいるね。□□さん、もう一度聞かせてくれるかな」
「・・・です」
「ありがとう。□□さんの考えも足してくれていたね。2人の発表を聞いて、納得した人手を挙げて」
「△△さん、どこでわかったか聞かせて」

同じ考えの人を挙手させることで、発表者以外の子どもも評価された気持ちになります。また、自分から発表できない子も授業に参加している実感が持てます。自信がなかった子も、この時点であれば指名しても安心して発表ができるはずです。
一方、自分と異なる考えを理解するには時間がかかります。1回聞いてすぐに理解することはとても難しいことです。そこで、教師が子どもの考えを説明してしまうと、それを聞けばよいので友だちの意見を聞かなくなります。同じ考えを他の子どもにも発表させることで、子どもたちの言葉で互いに理解するチャンスを増やすことができます。
また、「納得した人」と自分の考えが友だちにわかってもらえたことを実感できる場面をつくることは、子どもたちの自己有用感につながります。友だちの考えを理解したことを評価することで、より真剣に発表を聞くようになりますし、自分ではなかなか気づけない子どもにも活躍するチャンスをつくれるのです。

すべての場面でこのように子ども同士をつなぐことは、時間の関係で難しいかもしれません。しかし、教師が一つひとつの考えを大事にする姿勢を持つことで、より多くの子どもが授業に参加し、かかわり合えるようになるのです。

子どもたちの活動がばらばらになる

学校の廊下を歩きながら教室を眺めていると、子どもたちの活動がばらばらだと感じるときがあります。同じ教室内で、ノートをとっている、顔を上げて教師を見ている、ボーとしている、いろいろな子がいるのです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

気になって観察してみると、多くの場合、教師が板書をしているときです。そして、板書しながらしゃべっていることが多いのです。ひどい時は、黒板に向かってしゃべっています。
板書は写すものだと思っている子どもは、時間を無駄にしないためにすぐにノートに写し始めます。
教師が話していると聞かなければいけないと思う子は、ノートをとるのをやめて話を聞きます。
また、教師の指示がないので指示があるまでじっと待っている子もでてきます。

大切なことは、教師が今、子どもにどういう活動をしてほしいかを明確に意識をすることです。
この例であれば、
・板書を写す
・板書を目で追って考える
・板書が終わるまで、待機をする
・教師の話を聞く
が考えられます。
それぞれに応じて明確に指示を出せばよいのです。
・「黒板を写して」
・「写さなくていいよ。板書を見ていて」
・「書き終わるまでそのまま待っていて」
・「先生の話を聞いて」
また、話を聞いてほしいのであれば、一旦板書を止めるべきです。二つのことが同時に起これば子どもたちは混乱し、集中できません。
もう一つ大切なのは、子どもの様子をきちんと確認することです。ばらばらの状態に気づけば指示が必要なことはわかるはずです。黒板を見ていて子どもを見ないようではまずいのです。

教師は、授業の各場面で子どもたちにどのような活動をしてほしいかを、明確に意識する必要があります。その上できちんと必要な指示を出し、子どもたちの様子を確認することが大切です。

意味のある確認をする

子どもの発言の後、それでよいか学級全体に確認する場面をよく見ます。が、おやっと思うこともよくあります。

社会科の元寇の授業でのことです。

「元てどこのこと」
二人しか手が挙がりません。
「○○さん」
「中国です」
「みんないいかな」
ハンドサインでほぼ全員が賛成の合図をする。

以前に習っていたことなら、友だちの発言で思い出すことがありますが、もしそうだとすると、最初に手が挙がらないことが問題です。指名するより、ノートなどを確認させる必要があるでしょう。
この時は、まだ習っていなかったようです。そうならば、知らなかった子には「中国」という答えが正しいかどうかは判断しようがないはずです。にもかかわらず確認をしても意味はありません。しかも、賛成の合図を出すということは、授業の中で確認が形骸化してしまっていることを意味します。

知識などを子どもたちに確認をするときは、確認の手段を持っている必要があります。この例であれば、確認できる資料がなければ聞く意味はないのです。
そして、確認を形骸化させないためには、かならず根拠を具体的に言わせることが必要です。

「みんな○○さんの説明でわかった」
「わかった」
「じゃあ、△△さん。もう一度説明して」

子どもたちに確認して、「わかった」と言ってもらうと教師は安心して次に進むことができます。しかし、具体的に確認せずに進めばわかっていないのに「わかった」という学級になってしまいます。
本当にわかっているかどうかをきちんと確認することが大切です。

ペア活動のポイント

授業にペア活動を取り入れることがよくあります。子どもたち一人ひとりの活動量を増やすにはよい方法です。しかし、自分が活動することばかりに意識がいってしまい、互いにきちんとかかわり合えていないことがよくあります。ペア活動ではどのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

大切なことは互いに相手をしっかりと意識することです。相手意識を持つことがかかわり合うための基本となります。

例えば本読みをペアで行う場合を考えてみましょう。読む側は何を注意して読むかを相手に伝えてから読む。聞く側はそれに対してどうだったかを伝える。相手に対する自分の役割を明確にすることで、読む側は聞いてもらうことを意識して読みますし、聞き手側もコメントするために意識して聞きます。このようにすることで、きちんとかかわり合えるようになります。

また、球技のシュート練習をペアでおこなう時などは、主たる活動であるシュートばかりに意識がいき、アシスト役は何も意識せずに漫然とパスを出し続けてしまいがちです。シュートしやすいようなパスをする、シュートのフォームをチェックするなど、アシスト役の役割を明確にしておくことが大切です。

ペア活動では相手を意識してきちんとかかわりあうことが大切です。そのために、互いの役割を明確にすることがポイントとなります。特に、漫然となりやすい受け側の役割を明確にするよう意識してほしいと思います。
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