意欲的な活動と授業の目指すもの

子どもたちが元気に意欲的に活動する授業は、見ていてとても気持ちのいいものです。しかし、時々これでいいのかと疑問を持つことがあります。例えば英語の時間で、友だちに英語で質問して、その答を聞く活動があります。答を知ることが目的ではなく、正しく英語を使い、聞き取ることが目的です。しかし、子どもたちの意欲を引き出すためにそこにゲーム性を取り入れると、ゲームでよい結果を出すことが子どもたちの目標になってしまいます。肝心の英語は文も発音も適当になって、ゲームのために必要な質問の答だけがやり取りされるといったことがよくあります。質問は毎回同じパターンなため、聞かなくても、返答することができます。テンションが上がるばかりで、英語の力がつくとは思えません。この活動の教科としての目標と子どもの目標がずれてしまっているのです。
学習していない知識を問うクイズなども同様です。根拠となるものがなければ、子どもたちは何も考えずに適当に答を言うだけで、テンションばかり上がってしまいます。一見意欲的に取り組んでいるように見えますが、正解を聞くと今度は一気にテンションが下がってしまい、その後の活動は低調になることがよくあります。子どもの意欲が授業の目指すものにつながっていかないのです。

授業を組み立てる時に、子どもたちが意欲的に取り組む活動をさせたいと考えるのは当たり前のことです。しかし、その活動が授業の目指すゴールとずれてしまっていては話になりません。ゲームで意欲的になることが悪いことはでありません。ゲームに勝つために子どもが考える、工夫することが授業の目指すところにつながっていれば問題はないのです。先ほどの英語で質問して答えを聞くという活動であれば、決まりきった質問ではなく、状況に応じて質問を変えなければいけない、相手の質問をきちんと聞き取れなければ答えられない。そういう要素を組み込むことが必要になります。こうすることで英文を考えて相手に伝わるようにしゃべる、相手の英語をきちんと聞き取るという授業のねらいにつながる活動になるのです。
クイズでも、まだ学んでない知識を聞いても、知っている子どもかしか答えることができません。考えるための材料がなければテンションが上がるだけです。同じクイズにしてもその時間のゴールとなることを質問して、「じゃあ、正解はまだ言わないよ。この時間が終わった時に全員が言えるのが今日のめあて」として、子どもの意欲をその後の活動につなげるようにするといった工夫が必要です。

子どもを意欲的にすることばかりに意識がいってしまうと、時としてその活動の目指すものが何であったかを見失うことがあります。子どもたちの活動が授業の目指すものにつながっているかを常に意識して授業を組み立ててほしいと思います。

授業の展開に迷ったら、ゴールを意識する

授業の流れを考えていると、いろいろな展開が浮かんできて、どうすればよいか迷うことがあります。「資料をどう活用する」「個人作業かグループ活動か」「子どもに調べさせるか教師が説明するか」・・・。それぞれによさや問題点があり判断が難しい時があります。どのようにして、決定していけばいいのでしょうか。

授業の展開に悩んだ時は、まずゴールを確認することです。この1時間で「子どもにどうなってほしい」「獲得してほしい知識や力、気づいてほしいことは何」と自分に問いかけるのです。先生と授業の流れを検討していて、ゴールが明確になっていないと思うことがよくあります。「こちらにはこのよさがある、あちらには別のよさがある」と悩んでいるのですが、「授業のゴールはどこですか」と質問するとすぐに出てこないのです。ゴールがはっきりしていれば、そこにたどり着くのにより適切な展開はどちらだろうと考えるだけです。その判断基準が不明確なまま悩んでいるので、決定できないのです。

例えば、社会科で資料を活用する時に、資料からわかることを子どもたちから出させ、その読み取りをもとに、どんなことが言えるのか、なぜそのようになったのかと考えさせる流れを想定したとします。「資料の読み取り」と「考察」を同時に考えさせるのは、ステップが大きすぎるので、分けて考えさせたいのですが、両方を個別やグループを使って子どもたち自身で考えさせようとすると時間が足りません。一方を教師主導で進めようと思うのですが、どちらにすればいいのか悩むことがあります。どちらかが正解というわけではありません。「資料を読み取る力をつけたい」のか「読み取ったことから原因や背景を考察する力をつけたい」のか、ゴールや重点を置いているのはどちらなのかを自身に問いかければいいのです。どちらも捨て難いのであれば、授業のゴールがまだ明確になっていないのです。まずゴールはどこかをはっきりさせることが必要です。
読み取る力をつけたければ、個別の活動時間を取ったあと、どこに注目したかをまず発表させて視点を共有化する。その後は、必要な情報を教師が与えながら、その背景を説明するといった展開を考えることになります。
考察する力をつけたければ、全体で資料を読み取って共有化した後、そこから言えることは何かを考える時間をたくさん取る。教科書や資料集の関連するものを探すといった、考えるための手がかりをどのように意識させるか、どう共有化するかを工夫するといったことを考えることになります。

授業の展開は、ゴールにたどり着くことを意識しなければ迷走してしまいます。ゴールを意識して展開を考えておくことは、子どもたちの発言がずれたりした時に、目指す方向に軌道修正するのにも役立ちます。授業のゴールは何かを常に意識して授業を組み立ててほしいと思います。
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