板書計画を考える

板書計画をしっかり立てるということがよく言われます。計画という言葉にも表れているように、どのタイミングで、何を書くかが重要になります。教師がまとめて板書して、子どもがただそれを写すのであれば、プリントにして配ればよいのです。

1時間の授業の流れの中で、黒板をどのように活用するのか、その視点を明確にしておく必要があります。

言葉では消えてしまうものを、板書することで残す。
板書を全体で考えるためのツールとして活用する。
結果をわかりやすく整理する。

大きく分けるとこのようになると思います。
課題や指示などは、子どもが見ただけでもわかるような工夫が必要です。また、この時間で前提となる知識や考え方をあらかじめ板書して、いつでも参考にできるようにすることも子どもが課題に取り組む上で効果的です。

メインとなるのが全体での活動における活用です。

子どもから出た意見を板書するのかしないのか。
そのまま書くのか、教師が整理して書くのか。
どこに書くのか。
書く場所を教師が決めるのか子どもに決めさせるのか。

このようなことを、課題や授業の流れに応じて考える必要があります。
教師が子どもの発言内容にかかわりなく予定したとおりに板書すると、子どもは板書だけに注目して友だちの発言を聞かなくなります。あえて、板書しないという選択もあるのです。
子どもの発言を認めたり価値づけする道具としても意識するとよいでしょう。子どもの言葉をそのまま板書し、発表者の名前を書く。こうするだけでも認められた気持ちになります。近い意見を並べて書く。異なった意見は離して書く。どこに書くかを意識することで、互いの発言をつなぐこともできます。どこに書くかを子どもたちに考えさせることで、他の発言と比べながら聞くようになります。
似たような考えを○で囲んで、タイトルをつける。対立関係を色で示す。いろいろと工夫することで、板書を見ながら考えが整理され、新たな意見が出るようになっていきます。
子どもたちにこの場面でどのような活動をしてほしいかを考えながら計画を立てることが大切です。

授業の最後にその時間の学習内容をまとめることが多いと思いますが、板書するのがよいのか子どもたちまとめさせるのがよいのかの判断が必要です。子ども自身にまとめさせるときに、まとめの視点だけを板書しておく方法もあります。教師がまとめる場合も、あえてポイントに色をつけたりせずに、各自に線を引かせるといった方法もあります。子どもにまとめさせたときは、全体やまわりの子どもと確認し合うことで、よりよいまとめになっていきます。
また、同じ写すのでも黒板をできるだけ見ないで写しなさいと指示する方法もあります。
いずれにしても、何も考えずに子どもが写すような使い方は避けるべきでしょう。

板書計画は、大体の方向性や絶対外せないような内容は考えておく必要がありますが、あまり細かく立てすぎると子どもの考えを活かせなくなってしまいます。子どもと一緒に作っていくという視点を加えて、柔軟にとらえるようにしてほしいと思います。

学習内容の定着

子どもたちが学習内容をきちんと理解したからといって、すぐに活用できるわけではありません。2×2が4になることがわかったからといって、九九は言えるようになりません。定着させるための活動が必要になります。

反復練習が有効なものに対しては、授業時間内に時間を設けて練習する。宿題や試験というプレッシャーをかけて家庭学習させる。このようなやり方が一般的です。この場合大切になるのが、子どもたちへの動機づけです。指示されたからやる、やらなければいけないという、ネガティブな動機ではなかなか集中しませんし、定着もしません。いかにして子どもに前向きに取り組ませるかがポイントになります。
そのためには目標や指標を上手に与えることが有効です。九九が何秒で言えるといったやり方です。このとき、何秒で言えるかではなく、何秒で言えたかを計測する方法もあります。いずれにしても、合格したか、何秒だったということだけで評価するのではなく、以前と比べてどれだけ進歩したかを見ることが大切です。たとえ目標に達成しなくても、自分の努力の結果が見えることでやる気を継続させることができます。気をつけてほしいのは、1回だけやって終わってしまはないことです。そのときに結果を出せなくても、再挑戦できるような仕組みをつくってください。そうしないと、できなかった子どもは、達成感を持てないまま、次第にやる気をなくしてしまいます。

また、目標設定をグループに対しておこなうというやり方があります。例えば、グループ全員の九九にかかった時間の合計が何秒といった指標を導入します。こうすることで互いに励ましたり助け合いながら取り組むことができます。このとき、全員が何秒以内というような設定にすると、特定の子だけが達成できないという状況が生じてしまいます。できない子が非難されないような雰囲気づくりが大切になります。それぞれの能力に応じて貢献できるような目標設定を心掛けると有効な方法です。

一方、考え方のように反復練習しにくい、試験などになじみにくいものには、活用して定着するという方法があります。
例えば、資料の見方であれば、資料からわかったことではなく、そのための視点を整理しておきます。そして、別の資料をつかって練習をします。このとき、できるだけ身近な資料を用意すると子どもたちの意欲が増します。
考え方のように抽象度が高いものは、1度や2度練習したからといって定着するようなものではありません。他の課題や、単元でも意図的に活用する場面を作ることが大切です。資料の見方であれば、資料を見る場面があるごとに、子どもたちにその視点を問いかけます。こうして、意識して活用させることで定着を図ります。

教材研究はどうしても、子どもたちに理解させることに目が向きがちですが、学習内容の定着という視点も大切です。定着させるためにどのような活動が必要なのか、逆にこの課題は、どのようなことを定着させるのに有効であるか。このようなことも意識してほしいと思います。

継続的に育てる

日々の教材研究は、どうしても目の前の授業をどうするかに追われてしまいがちです。なかなか、1年間、3年間、6年間を通じて育てる力のことをじっくりと考えることができません。

例えば、読む力はどの教科でも大切な基本となる力です。1時間ごとにどう力をつけると考えるようなものではなく、継続的に育てていくものです。授業のどのような場面で、何を意識し、活動させなければならないのかを整理しておく必要があります。

国語であれば、わからない言葉や読めない漢字を見つけて調べる。すらすら読めるようになる。話の内容がわかる。筆者の主張、登場人物の気持ちを本文に沿って理解できる。・・・
算数・数学であれば、問題文の条件がわかる。何を求めればよいかがわかる。・・・
社会であれば、事実がわかる。違いがわかる。因果関係を整理できる。・・・
・・・

このように、読む力といってもいろいろな場面でさまざまな形で求められます。それを身につけるための活動も、子どもの成長や教材によっていろいろ考えられます。

初めて目にする文章であれば、黙読してわからない言葉や、漢字に線を引くという作業をするとよいのかもしれません。いきなり音読して、詰まったところを調べる方法あります。
すらすら読ませたいのなら、できるだけ早くとプレッシャーをかけた方がよいのかもしれません。ペアで読みながら、詰まったところを教え合うのもいいでしょう。
内容を理解するのであれば、「主人公の気持ちがわかるところに線を引いて」と指示をして、じっくり読ませることも大切です。
算数の文章題であれば、問題文を絵や図にすることで把握する。求めたいものと、わかっていることを別の色で線を引く。こんな方法も知っておく必要があります。
社会科で資料を整理するのであれば、箇条書きではなく、事実とそこからわかること、因果関係を線で結んで関係図をつくる。
・・・

書く、聞く、話す、調べる、・・・。多くの力が子どもたち求められます。それぞれの力をつけるため、どのような場面で、何を意識して、どのような活動が必要なのかを整理してみてください。若い先生は、ほんの少ししか見つからないかもしれませんが、意識して授業をおこなったり、他の先生の授業を見ることで見つかっていくはずです。
このことが明確になってくると、新しい教材に出会っても、時間をかけずに授業を組み立てていくことができると思います。

何をどこに残すか

教材研究で意識してほしいことの一つに、何をどこに残すかということがあります。

例えば知識や結果は、プリントやワークシートの形で子どもたちの手元に残るのか、板書を写したノートに残るのか、子どもたちの頭に残るのか、どうあってほしいのでしょうか?
考え方はどうでしょうか?
授業を見ていると、知識や結果は圧倒的にワークシートやノート、考え方は頭の中に残そうとすることが多いようです。

知識は書いて覚えるという考えが主流のように思いますが、ワークシートやノートに一度写したからといって身につくわけではありません。結局、後日試験などをするというプレッシャーを与えて覚えさせることがほとんどです。その時のために何らかの形で残しておくわけです。学校で頭を使わずノートやワークシートの穴を埋めること、家庭でそれを覚えることが学習だと勘違いしていきます。
頭に残そうと思うのであれば、そのための活動が必要になります。板書を写すのであれば、「ポイントを隠してその部分を見せずに書かせる」「黒板を見ないで書かせる」といった工夫や、隣同士で確認し合う、知識を使う活動をすることが欠かせません。

一方考え方は、説明を聞けば身につくわけではありません。また、結果を見てもどうすればそれが出てくるのかはわかりません。
算数や数学で、模範解答が板書され、それを先生が説明する。子どもは板書を写す。こんな授業をたまに見かけます。自分で解けた子どもには写すことは不要の作業ですし、解けなかった子は、後から解答だけを見直しても解けるようになりません。
考え方を頭に残すことはとても難しいことです。子どもたちに理解しやすい言葉で整理をし、何度も使うことが必要です。教師が毎時間確認し、目立つように板書して、いつでも振り返れようにする。子どもが自分の言葉で整理してノートに書く。こういうことが大切になります。

1時間の授業を考えるとき、その時間で押さえる知識や考え方があるはずです。これらは、ただ話したり説明しただけではすぐに消えて行ってしまいます。
知識であれば、この時間のうちに頭に残すのか、時間をかけて後日確認するのか。頭に残すのであれば、どのような活動で残すのか。後日確認するのであれば、プリントやワークシートの形で残すのか、板書や、子どものノートに残すのか。
考え方であれば、整理した形で板書として残すのか、整理しながらその過程を板書に残すのか、子どもが自分で整理してノートに残すのか。
このようなことを考えながら授業を組み立てていってほしいと思います。

教材研究における「足し算」と「引き算」

「授業は引き算の発想が大切」。これは20年ほど前にある先生から教わったことです。この引き算の発想は私にとっては授業を考えるときの基本となっています。しかし、最近はあまり言わないようにしています。「そもそも若い先生には引くほどのものがない」と指摘されたからです。教材研究における「足し算」「引き算」を考えてみましょう。

1時間の授業を組み立てるとき、ねらいを達成するための子どもたちの活動、それを引き出すための発問や指示を考えます。このとき、1つ2つの活動を考えついたところで終わるのではなく、他にもないかといろいろ考えることが大切です。

例えば社会科の雨温図と地域の関係の学習での子どもの活動を考えてみましょう。

A.子どもに雨温図を理解させるために、地域ごとの気温と雨量のデータだけを与えて雨温図を作る。
B.各地域の雨温図を比較して特徴を考える。
C.地域名を隠した雨温図を与え、資料集からどこのものか調べる。
D.できるだけたくさんの地域の雨温図を用意し、似た傾向のものをグループにわける。
E.地域名を隠した雨温図を与え、その特徴からどこの地域のものか考える。
F.雨温図とその地域の農産物の関係を考える。
・・・

ベテランの方であれば、もっといろいろな活動を考えつくと思います。
それぞれの活動を個人でおこなうかグループでおこなうか。また、活動ごとに発問や指示にはいくつものバリエーションがあります。
それぞれの活動は授業のねらいのどこかを達成することにつながるはずです。これらは互いに相反するものとは限りません。例えばAとB、DとEを組み合わせて授業をすることも可能です。工夫すれば、これらの活動のほとんどを組み合わせた授業も不可能ではないでしょう。
このように、いくつもの活動やそのバリエーションを考えることが「足し算」です。しかし、1時間の授業ということで考えれば、この中の2つを組み合わせることも現実には難しいでしょう。そこで、それぞれの活動につながるねらいの中で一番重要なものは何か、また、子どもたちの現状からどのような活動がふさわしいのかなどを考えることになります。ほとんどのものは引き算されて、1つか、せいぜい2つの活動に絞られます。これが「引き算」の発想です。

力をつければつけるほど、たくさんの「足し算」ができるようになります。それにともない、だんだん多くのことを授業に盛り込むようになっていきます。そこで、本当に必要なものは何かと考える「引き算」の発想が必要になってくるのです。まずしっかり「足し算」ができるようになる。そして、「足し算」から「引き算」の発想を身につけるようになってほしいと思います。

子どもの反応を予測する

教材研究で課題や発問を考えるとき、子どもの反応や発言を予測することが大切です。このとき、どうしても教師としてこうあってほしいという都合のよいものだけを予測しがちです。このイメージが強すぎると、子どもの反応を教師が無意識のうちに都合のよいものに解釈してしまいます。

「○○さんどう」
点を結んで・・・」
「いいこと言ったね。この2つの点を直線で結ぶと・・・」

子どもは「点を結んで」としか言っていないのに、「この2つの」「直線で」と、教師が自分に都合のいい言葉を付け加えています。

このようにならないために、まずどのような反応・発言が出てくるかできるだけたくさん考えておきます。理想的なもの、期待したいものと少し違うが近いもの、全くかけ離れたもの。子どもたちの顔を思い浮かべ、よく似た課題や発問のときの反応を思い出したりしながら予測します。次に、それぞれに対してどのように対応するかを考えます。

例えば、課題に対してすぐ動けないようであれば、一旦活動を止めて、再度課題の確認をする。途中で動きが止まるようならば、まわりと相談させる、ヒントを与えるなどの対応考えます。当然ヒントの内容も考えておく必要があります。

発言であれば、理想的なものに対しては、たとえよい発言であっても全員がすぐに理解できるとは限りませんから、「今言ったことわかる。だれかもう一度説明してくれる」「なるほどと思った人手を挙げて」と、全員にその考えを広げることを、期待に近いものに対しては、「・・・といってくれたけど、それってどういうこと」「・・・は、どこでわかるの」といった切り返しを、また、なかなか期待したところに近づかないときのためには、あらたな指示や発問をそれぞれ考えておきます。

また、こうすることで、予想と同じ反応や発言をするだろうかと、授業でより注意深く子どもを観察したり、発言を聞くようになります。実際には予想外の反応や発言に出会うこともありますが、これだけ準備をしているとかなり余裕を持って対応できるはずです。逆にいろいろ準備しても、ほとんど利用しないで終わってしまうこともあるでしょう。しかし、子どもの反応を考えることは無駄にはなりません。このような経験を積み重ねることが、子どもの実態をつかむことにつながり、子どもの実態に即した授業づくりにつながっていきます。子どもの反応や発言をできるだけたくさん予測することを心掛けてほしいと思います。

教科書を読みこむ

教材研究では教科書が基本とよく言われます。教科書を読みこむという言葉もよく聞かれます。教科の特性によっても違いますが、教科書には子どもが学ぶべきことが非常にコンパクトにまとめられています。教師であれば1時間の授業範囲などあっという間に読んで理解できるはずです。では、読み込むとは具体的にどのようにすることなのでしょうか。何度も読めばよいのでしょうか。

教科書に書かれていることは、まとめや結論だけではありません。課題や途中の考え、時には誤った考えも例として書かれています。限られた中で書かれていることです。無駄なものはありません。なぜこの一文があるのか、なぜこの資料があるのか、なぜこの作品が扱われているのかを考えることが読み込むことです。この課題に取り組むことが子どもの理解に必要である。途中で整理することが混乱を避ける。多くの子どもがこのように考えるはずだ。教科書はこう教えてくれているのです。授業の組み立てを考えるときに、このことは大きなヒントになります。このことを意識することで、どこに重点を置けばよいのか、何が子どもの中で明確になっていなければいけないのかわかるのです。
算数や数学では「問」の数値や配列にも注意をします。これらにも意味があるのです。何が理解できていて、どこでつまずいているのかがわかるように意図しています。
国語のように一つの教材が何ページにもまだがっている物は、教科書をコピーしておきます。並べて全体を一度に眺められるようにするためです。糊でつなげて巻物にする方もいます。こうすることで、表現の対比や文章の構成が見やすくなります。関連するものを横に並べて比べたり、線で結んだりすることで教材の理解が深まります。

教科書づくりには驚くほどの時間がかけられています。一行一行にいろいろな意図が込められています。その意図を探り、解き明かすことが教科書を読み込むことだと思います。
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