和田裕枝先生から、多くのことを学ぶ

先週末は、今年度第5回の教師力アップセミナーでした。豊田市立小清水小学校長の和田裕枝先生の「45分の授業モデルを作ろう」という講演です。和田先生は私の算数の授業の師匠のような方です。

今回はどのようにして算数の授業を組み立てるかというお話が中心でした。
和田先生は、授業の時間配分と流れを、導入は7分で子どもたちにこの日の自力解決の見通しを持たせ、5分程度で自力解決、集団解決を20分〜23分程度で行い、最後に10分間の振り返りの時間を持つといった構成で考えられています。
導入では、本時の課題解決に必要な基礎・基本を確認し、そことつなげることで、自力解決の見通しを持たせます。和田先生のすごいところは、5分程度の自力解決の場面で個別指導を行ってしまうところです。課題に対する子どもの実態把握をしながら、つまずきを見つけ、短い言葉で支援の言葉をかけます。これを全員に行うのです。私はあまり個人指導にエネルギーをかけないように先生方にアドバイスをしています。それは、多くの場合1人の子どもに時間をかけすぎて、全体を見ることができなくなるからです。和田先生は、必ず全員に声をかけます。そのためには、子どものつまずきを予想し、それに対して短い言葉でどのような声かけをするのかを考えておくことが必要になります。こういった教材研究と子どもたちの実態を素早く把握してどの言葉をかけるかを即時に判断する力があってはじめて授業時間中に個人指導が可能になるのです。
集団解決では、「学び合い」を強く意識されています。最近よく行われているグループやペア活動を活かした学び合いではありません。形や仕掛けに頼らず、子どもの言葉を拾い、つなげ、深めていくことで確かな学び合いを実現されています。ここで大切になるのは教師の方針です。どの考えを活かして授業を進めるのか?どの考えとどの考えを比較するのか?どの考えを次回に回すのか?また、受容だけして扱わないのか?こういった方向性を予め持っていないと、即時に子どもの発言を評価して、切り返したりつなげたりすることはできないのです。すぐに和田先生のような即時判断ができるようにはなりませんが、このことを意識して毎日の授業に臨むことが大切だと思います。
振り返りの時間が足りなくなる授業によく出会いますが、この日の学習内容を定着させるためにも、適用問題の演習や課題に対するまとめの時間を確保することが大切になります。数学的な思考を身につけさせるために、本時の課題に対してのまとめを「書く」ことを習慣づけることが大切です。課題からわかったことを整理、補充し、その前提となる条件や一般化などの数学的な思考をすることを求めます。具体的な数値や図を入れて「算数のノートだとわかるように書く」ことを求めるのです。高学力の子どもには、そういった数値などを使わず、より抽象化された、メタなものを書くこと求めていきます。和田先生は、全員に同じ高さを求めません。一人ひとりが成長することを求めます。低位の子どもには低位の子どもに応じたものを求めるのです。学び合いを意識される方に共通の発想のように思います。

子どもたちの実態に応じた対応することが、和田先生が授業の流れをつくる基本的な発想になっています。具体的には、その日の課題に出会った時に子どもたちがどのように考え、反応するかを予想することから始まります。その反応が授業を進めるうえで障害になるようなものであればそういったことを起こさないですむような導入を考える。本時で活かしたい考え、見通しにつながるものであれば、それをより引き出しやすいような活動を導入で行う。こういう考え方です。自力解決に取り組んだ時にどの子どもも鉛筆が動くような導入を心がけておられます。
集団解決の方向性は、子どもに言わせたい言葉は何かを意識することで決めていきます。振り返りで子どもに書かせたいことと言ってもいいでしょう。そのために、何を共有し、どこに時間をかけるかを考えるのです。解き方そのものではなく、どのような考え方をすれば解くことができるかということを子どもに身につけさせるのです。「授業でやっていないからできません」と言わせない授業、見たことにない問題を解ける力をつけることを目指すのです。

こういった話に続いて、5年「整数」の単元の最小公倍数の応用の問題をもとに具体的な授業のつくり方を考えました。教科書の課題をもとに、参加者に子どもの実態を予想してもらったうえで、和田先生の考える授業を模擬授業で教えていただきました。
今回改めて学ばせていただいたのは、子どもの学力差に応じた対応の仕方です。和田先生は全員参加を大切にされますが、それは全員が同じことをすることではありません。例えば、子どもの発言への対応であれば、言葉が足りない、上手く説明できないのが低位の子どもの場合には、質問を返したりはしません。他の子どもに言葉を足させます。中高位の子どもであれば、発言に責任を持たせます。他の子どもを納得させることを求めるのです。補助線の説明であればその説明をもう一度言わせて、それに合わせて他の子ども(低位の子どもを活躍させる)に書かせたりします。自分が考えた線を他の子どもでも書くことができるような説明を求めることで、説明する力をつけるのです。低位の子どもには、説明を理解することを求めます。高位の子どもには考え方の説明や他の子どもを助けることを求めます。それぞれに応じた役割を与えるのです。
また、和田先生の授業では常に子どもに反応を求めます。その反応を拾い、共有し、価値づけをします。「大切なことは子どもに言わせたい」のなら、子どもが反応することが必要だからです。首をかしげるといった些細な反応でも、それを拾い「どういうこと?」「何か困った?」と問いかけることで、子どもの言葉を引き出せます。その言葉をつないでいくことで、目指す考えに近づけていくのです。

今回、課題の与え方についてもよい視点をいただきました。教科書では、長方形のタイルを並べて、「できるだけ小さい」正方形をつくることが課題となっています。「できるだけ小さい」という条件は、「最小」公倍数を考えるためのものですが、この条件を空欄にした課題にまず取り組むことで、いろいろな大きさの正方形を考えさせることができます。1辺の長さが「公倍数」であればいいことに気づかせることができます。正方形をつくることは縦と横の公倍数(縦と横の長さが整数の場合)を1辺とすればいいことが基本であって、そこに「できるだけ小さい」という条件をあたえることで、「最小」公倍数の必然性が生まれてくるのです。2段階の課題とすることで、公倍数は最小公倍数の倍数になっていることも実感させることができます。条件を順番に与えることで思考を広げることができるのです。

お話を聞くたびに新たな視点が加わっていることや説明の言葉がより明解になっていることを感じます。管理職として日々先生方を育てることを通じて、ご自身のこれまでの授業を客観的に見つめて整理されていることがよくわかります。和田先生と出会ってからもう10数年になります。未だお会いするたびに新たな学びがあります。この日も、いつも以上に多くのことを学ばせていただきました。本当にありがとうございました。
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