答え合わせで意識したいこと

授業中に子どもに問題を解かせることがあります。そのとき答え合わせをどのようにしているでしょうか。教師が一方的に答を言ったり、解説したりしていることもよくあります。しかし、解けなかったり間違えたたりした子どもは答だけを聞いてもよくわかりませんし、一方的な説明ではなかなか理解できません。どのようなことを意識すればよいのでしょうか。

問題の質にもよりますが、まず全員手がついているかどうかが問題です、手もついていないのに答あわせをしても、問題を解かせた意味はあまりありません。手がつかない子どもには友だちに聞いてもいいといって、互いに聞き合うようにすることが大切です。
ほとんどの子が手がつかないようであれば、一旦手を止めさせて、再度説明したり、子どもに困っていることを聞いたりする必要があります。困っていることに対しては教師がヒントを出すのではなく、できるだけ子どもからどうすればいいかを引き出すようにすることが大切です。

では、子どもが問題を解き終わった後、どのように進めていけばいいでしょうか。
全体で解答を確認していく方法と、子ども同士で確認する方法があります。

全体で確認するときは、教師がすぐに正解かどうか判断しないことが大切です。また、「いいですか」「いいです」といった、単純に正解かどうか子どもに聞くこともあまり意味がありません。つねに根拠を問う姿勢を大切にする必要があります。

「○○さん答を聞かせて」
「・・・です」
「なるほど、・・・になったんだね。△△さんはどう」
「私も・・・です」
「なるほど、じゃあ□□さんは」
・・・
「他の答えの人はいますか。ないようだね。じゃあだれか理由を説明してくれるかな。××さん」
・・・

というように、何人かに聞いた上で、その理由を子どもに聞きます。説明に対して、補足や、他の説明がないか確認をして、自分の解答に付け足すことがあれば書かせます。
もし、いくつかの答えが出れば考えを深めるチャンスです。

「違った答えができたね。いいね。みんなで考えてみよう。いろいろな考えが出てくるから勉強になるね」
「じゃあ、それぞれの考えを説明してくれるかな」
・・・

正解を教師が判断するのではなく、できるだけ子どもに説明させ、子どもに判断させるようにします。大切なことは間違えた子どもが否定的な気持ちにならないようにすることです。

「・・・だから、こうなります」
「今の○○さんの説明になるほどと思った人。△△さんはどう」
「納得した。△△さん、間違えていたところを直して、もう一度説明してくれる」
・・・
「△△さんちゃんと説明できたね。えらいね。△△さんのおかげでみんなもしっかり考えることができてよかったね」

このように、子どもが間違えることを気にして消極的にならないように注意してほしいと思います。

子ども同士で確認するときは、答だけでなく、理由も聞き合うように指示します。間違えたら正解を写して終わりではなく、理由もきちんと言えて自分で解けるようになることを求めてほしいと思います。
子ども同士で確認できた後、できれば間違えていた子どもに説明を求めたいと思います。このとき、うまく説明できない可能性もありますが、「まわりの人に聞いてもいいよ」と友だちの助けを借りてもきちんと答えさせ、ほめるようにします。こうすることで、友だちとの関係もよくなり、わからないときに自然に友だちに聞けるようになります。

問題によって対応はいろいろあると思いますが、答え合わせは正解かどうかではなく、どうやって答を導き出したかその過程を大切にすること、正解かどうかの判断を子どもたちがすること、間違えた子どもがネガティブにならないように気をつけることを意識してほしいと思います。

プレッシャーを考える

人はプレッシャーがないと頑張れないところがあります。私たち大人でも締め切りがないとなかなか仕事に集中しなかったりします。子どもたちにとって適度なプレッシャーはとても有効です。しかし、場合によってはプレッシャーをかけることで子どもたちのやる気がなくなってしまうこともあります。どのようなことに注意をすればよいのでしょうか。

基本となるのが、プレッシャーをかけてうまくいかなった時に子どもが自分はダメだったとネガティブにならないようにすることです。

たとえば時間を区切ってプレッシャーをかける場合、「5分間で10問解きなさい」といった目標を設定すると、9問解いた場合でもダメだったということになります。「5分間で何問解けるかな」とすることで、9問解けたと評価できます。できた、できなかったではなく、どれだけできたかを問うようにするとネガティブになりにくくなります。

また、どれだけできたかを問うことで、進歩をみることもできます。5分間で5問解けた子どもが次に7問解けるようになれば「進歩」したと評価できます。
「後片付けを3分でやって」だと、3分を越してしまえば集中力が切れます。「後片付け何分でできるかな」とすることで、少しでも早くしようとします。その時の時間を記録しておけば、次にそれよりはやくなれば「進歩」したと評価できます。
進歩を求めるようなプレッシャーのかけ方をすることで、ネガティブになりにくくなります。

次に意識してほしいことが、過度に友だちと比較をしないことです。だれが1番、2番と評価すると、できない子はなかなか評価されません。プレッシャーをかけてもどうせダメだとかえってやる気に差が出てしまいます。どの子も頑張ったことを評価されるようなプレッシャーである必要があります。友だちとの相対評価ではなく、個人内の相対評価、進歩でプレッシャーをかけてほしいのです。
「速かった人」を評価するだけでなく「記録が伸びた人」も評価するのです。

プレッシャーは子どもたちに集中して取り組ませよい結果を出させるためにかけるものですが、結果が出ないと逆にやる気をなくしてしまうことにもなります。個人差を考慮しない一律のものではなく、一人ひとりの頑張りが結果につながり評価されるように意識することが大切です。

基本ができるようになった後、意識して欲しいこと

私の授業アドバイスは、当り前ですが、まず基本的なことができるようすることから始まります。ここでいう基本とは、教師が子どものようすをきちんと見る、子どもをしっかり受容して子どもたちと人間関係をつくる、子ども同士が互いに聞き合い認めあえる人間関係をつくる、その結果子どもの状態を把握でき、全員が授業に集中して参加できるようになること考えています。
したがって、アドバイスは子どもたちを見ることと、子どもたちが授業に参加するベースとなる、人間関係をつくることに集中します。「誰が授業に参加できている」「どの子が反応した」と子どもの状態を把握する、「笑顔をつくる」「なるほどと子どもの発言を認める」と受容する、「同じ考えの人いる」「今の意見、なるほどと思った人」と子どもをつなぎ、互いに認め合うようにする、こういったことが中心となります。

私がアドバイスをしている先生方の多くがこの基本をクリアしてくれるようになりますが、その後、伸びが止まる方とどんどん伸びていく方とに分かれます。子どもたちが落ち着いて授業を聞いてくれるようになったからこれで大丈夫と思うか、落ち着くことで今まで以上に子どもが見えるようになり、より多くの問題点に気づき質を上げなければと思うかの差のようです。実際、授業の基本ができてくるとアドバイスすべきことが増えてきます。基本ができていない授業では、そもそも子どもたちが授業に参加していないので、授業における問題の原因が課題にあるのか、教師の進め方にあるのか全くわかりません。子どもたちがしっかり集中しているからこそ、授業の問題点がどこにあるのか明確になるのです。

たとえば、授業の基本ができてくると多くなるアドバイスが「子どもの言葉を活かす」ことと、「教材研究」に関することです。
子どもが集中して授業に参加するようになると、当然教師の話もしっかり聞いてくれます。いきおい、教師が一生懸命説明しだすのです。結果的に子どもが受け身になる時間が増えてしまい、せっかくの集中力が途中で切れてしまう場面によく出会います。
子どもの発言に対して、「それってどういうこと」と発言した子ども自身に問い返す、「○○さんの考えを説明してくれる人」と他の子どもに説明を求める。こういうことが必要になります。よくアドバイスするのが、その日の授業で教師が一番言いたいことを子どもの口から言わせるようにすることです。このことを意識すると子どもの言葉を引き出そうとする姿勢になり、「子どもの言葉を活かす」ことにつながっていきます。

「子どもの言葉を活かす」ことを意識して問い返すようになると、期待する言葉を引き出すのに時間がかかってしまい、結局時間切れで最後は教師がまとめて説明するということもよくあります。多くの場合、子どもの発言を何でも問い返してしまうことが原因です。子どもの言葉を活かしたいといっても、すべての発言を活かそうとする必要はありません。その授業のねらいにつながる発言、言葉に対して問い返していくことが大切です。そのためには、「教材研究」がとても重要になります。授業のねらいにつながる子どもの言葉はどのようなものがあるか、どう問い返していけばねらいに近づくか。授業のねらいは何であるかと合わせて、このことをしっかり事前に考えておくのです。この「教材研究」がしっかりできていればいるほど、活かせる子どもの言葉は増えていくのです。もちろん「教材研究」はこれだけではありません。子どもたちが興味を持って自ら考える課題は何か、どのような資料を用意すればよいのか、考えることはいくらでもあります。
この「教材研究」は教材ごとに必要になるわけですから、力をつけるのにはとても時間がかかります。名人と呼ばれる方でも、常に「教材研究」に取り組んでいます。

基本ができるとできないでは天と地ほどの差があります。そのため、基本ができるようになると自分は授業ができるようになったと安心してしまうことがあります。しかし、そこから先が本当の勝負なのです。よい授業をするためには、ここで述べたこと以外にもたくさんの要素があります。子どもたちの実態を謙虚に受け止め、つねに向上心を持って授業にのぞんでほしいと思います。

自ら学ぶ姿勢をどうつくる

自ら学ぶということの大切さがよく言われます。生涯学習という言葉もよく聞きます。子どもたちに学ぶ楽しさを教えたいと思う先生がほとんどでしょう。では、どのようにすれば子どもたちは学ぶ楽しさを知って、自ら学ぶようになるのでしょうか。

学ぶ楽しさの要素の大きなものに、進歩があります。ある授業が終わった後、子どもが「むちゃくちゃ考えた。頭がよくなった気がする」と言っていたことがありました。一生懸命取り組み、考えた結果、自分が進歩したと感じたのです。この子どもは学ぶ楽しさを感じていたと思います。このような、自分が進歩したと感じる場面をどうつくるかが大切です。

進歩を感じるという視点では、授業が始まった時点ではできなかったことが、授業が終わった時にできるようになっているというのが一つの基本パターンです。
授業で一人ひとりが活動することは重要ですが、その結果どんな力がついたかを問うことがより重要になります。訓練要素の強い九九の練習でも、練習の結果、速くいえるようになった、間違えなくなった、九九ができることで何かができたと進歩を実感できる場面をつくることで、学ぶ楽しさにつなげることができます。子どもたちに活動の before after を意識させるのです。ですから、授業の最後に振り返りを書かせることがよくありますが、感想ではなく、何ができるようになった、どんな進歩をしたと書くことが大切になります。

ここで注意したいのは、努力したことが結果として表れなければ進歩した実感を持てず、学ぶ楽しさにはつながらないことです。体育などはその典型ですが、一生懸命練習してもできるようにならなければ、楽しさにはつながっていきません。結果の出る努力をさせることが大切です。教師の指導が問われるのはこの部分です。正しい努力を続けることが結果につながり、進歩する。この経験を積ませることが教師の仕事なのです。

ただ、教師から教わることが中心となってしまうと、言われたことをやればいいという受け身の姿勢が強くなる心配があります。自ら学ぶということにつなげることを意識しなければいけません。指示されたことをやったあと、「次は何をすればいい?」と教師に聞くようではいけないのです。努力が結果に結びつく経験を積ませたら、自ら考え工夫することを求めます。最初は「どれくらい練習すればいいと思う」「何問解く」と量的面を、次第に「どんなことを重点的にやればいいと思う」「何を調べればいい」「何がわかればいい」といった質的なことを意識させるようにします。評価も、「できるようになったね。どうやって練習したの?」と結果だけではなくその工夫をより大きく評価します。

子どもが自ら学ぶ姿勢をつくるには、進歩を実感させる、そのために結果につながる努力をさせる、自ら工夫することを求め評価することが大切だと思います。ぜひ、ふだんの授業の中でこのことを意識してほしいと思います。

宿題について考える

先日の学校評議員会で宿題のことが話題になりました。一部の子どもたちが家庭で宿題をしないというアンケート結果に対して、先生は提出を厳しく求めていないのかという質問があったのです。実は、先生方も提出をきちんとチェックしているのですが、そういう子たちは、学校で友だちから写しているということです。残念ながらこれでは宿題の意味はあまりありません。また、子どもたちの宿題のやりようを見ていると、ただやればいいという作業になっているという意見もありました。宿題はどのようなものにしていけばいいのでしょうか。

家庭での学習習慣をつけるという意味が宿題にはあります。出しっぱなしではいけないので当然チェックもします。そのチェックはどうしても書かれたものでする傾向が強くなります。そのため、宿題で力をつけるというのではなく、やればいいという発想になりがちです。単に作業にしないためには、結果を求める宿題にする必要があります。
たとえば「本読みを3回する」といった宿題から「すらすら読めるようにする」にし、何回読んだかを報告するようにします。全体の場で読ませて、「すらすら読めたね。何回読んだ」と聞くことで、努力と結果を両方評価します。全員読ませることができなければ、ペアで読んで互いに評価し合うことも一つのやり方です。一律に何回ではなく、結果を問うことで、自分で考えて学習する習慣をつけるようにします。
「○○を完璧にする」ために「問題集の何ページをやる」という形にして、できるまで何回やったかを問う。目的・目標を達成するために、何をするかを自分が考えるようにする。結果を問い、結果と課程を評価することで、宿題が単なる作業から学習に変わっていくのです。

一律にやればよいというものから、目的を明確にして結果を問う宿題に変えることが大切です。自分で結果を出すためにどうするかを考えることで、本当の学習習慣がついていきます。宿題のありかたをすこし見直してみることも必要だと思います。

相手意識を大切にする

授業で子どもたちが発言をする時、友だちに対してではなく教師に向かって話をしていることがよくあります。誰に対して話すかという相手意識をしっかり持てていなかったり、相手意識が教師に向いてしまったりしているのでしょう。
相手意識を持てないのは、なんとなく発言すれば、教師がそれを受けて補足したり、友だち向けて伝え直してくれたりすることが一つの理由です。
教室のみんなに伝えるという意識を持てない原因には、挙手に対して指名を教師がすることがあります。教師に指名してもらおうと子どもの意識が教師に向かうため、教師が特に意識していないと子どもは教師に向かって話そうとするのです。では、どのようにすればよいのでしょうか。

たとえば、子どもたちに相互指名させることで友だちの意見を聞く、友だちに意見を言うことを意識させる方法があります。この方法の場合は、同じような意見を聞くのか、異なった意見を聞くのかといった判断を子どもがすることは難しいことに注意する必要があります。挙手していない子に意図的に指名することも子どもにはできません。子どもに任せ切るのではなく、「同じような意見が多いけど、他の意見はないかな」と方向性を変えたり、「手を挙げていない人の考えも聞きたいな」と意図的に指名したりするなど、教師がうまく介入することが前提になります。

座席の配置で工夫する方法もあります。学び合いを意識している教室でよくみられるコの字型の机配置は、友だちを意識するにはよい方法です。前を向いて自然に話すだけで友だちの顔を見ることになります。友だちの反応もよく見えます。友だちに対して話すという意識が強くなります。この配置を有効にするためには、相手をしっかり見る、話に反応してうなずくといった、聞く側の姿勢を育てることも大切になります。また、慣れないうちは教師が黒板の前で立っていると、どうしてもそちらに目がいきます。教師が、コの字の中に入って話を聞いたり、しゃがんで発言者の視点から離れたりすることも必要です。あえて、椅子に座って子どもたちと同じ目線で授業を進めることもあります。

このような特別なことをしなくても、教師が意識してかかわることで相手意識を持たせることもできます。「○○さん、考えを言って」ではなく、「○○さん、みんなに考えを聞かせてくれるかな。みんな、○○さんの考えを聞こう」と聞き手を明確にする。「みんなによくわかるように話してね」と指示して、「今の○○さんの話を聞いて、よくわかったという人」と確認をする。教師が意図的に発言者と他の子どもをつなげて、相手を意識させるようにするのです。

友だちに自分の考えをわかってもらえる、認めてもらえることは子どもたちの学びの大きな要素です。教師が子どもを認めることは大切ですが、ともすると教師と子どもの関係が主になって、子ども同士のかかわりが薄くなってしまいます。子どもに相手意識を持たせること、相手意識を教師から友だちに変えることを意識して授業をつくってほしいと思います。
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