子どもに寄り添う

「子どもに寄り添う」「子どもの考えに寄り添う」ということがよく言われます。この言葉を口にする若い先生もたくさんいます。しかし、具体的にどうすることが「子どもに寄り添う」ことになるのかはっきりしていないことがよくあります。このことについて考えてみましょう。

授業においては、子どもの気持ちや考えを出発点として進めていくことが「子どもに寄り添う」ということの基本です。わからない子どもがいれば、その子どもの「わからない」から出発するわけです。

たとえば、「わかった人」と聞いて半分くらいしか手が挙がらなかったらどうするのでしょうか。当然、教師はわからない子どもにわかってもらおうとします。そのとき、「じゃあもう一度説明するからよく聞いて」というのは、子どもに寄り添っているとは言えません。子どもにしてみれば、何度も教師が説明するということは、わからない自分が悪いということになってしまうからです。「わからない」というのは、子どもにとって負の気持ちです。そのことを理解した上で授業を進める必要があります。

「どこがわからないか教えてくれる」
「困っていることを聞かせてくれる」

まず、子どものわからないこと、困っていることを教師が聞いて理解することから始めます。大切なことは、教師がしっかりとその困った感を受け止めてあげることです。わからないことが決して悪いことではないということを知らせるのです。

「教えてくれてありがとう。なるほど、○○がよくわからないんだ。」
「それってどういうことか、もう少し教えてくれるかな」

受け止めた上で、理解できなければやさしく聞き返します。こうして、困った感を共有した上で、そのことを子どもと一緒に解決するようにするのです。
もちろん、一人ひとりの困っていることは違います。

「同じところで困っている人いる?」
「他に困ったことはない?」

子ども同士をつなぎながら、子どもたちのわからないところ、困っていることを共有します。ここから、スタートするのです。

子どもに考えを発表させるときでも、子どもの考えに寄り添うことは大切です。教師がしっかり子どもの考えを聞き、その考えをもとに授業をつくるようにします。

「○○と考えました」
「なるほど、○○と考えたんだね。みんなわかったかな。つまり、・・・ということですね」

これは、一見すると子どもの考えを認めて、そこから授業が進んでいるように見えますが、結局教師が「つまり」と自分の言葉で説明しています。こういう授業が意外に多いのです。子どもの説明がたどたどしくて不足があっても、教師がそれを勝手に言い換えるのではなく、子どもたち自身で修正させるように働きかけるのです。

「なるほど、○○と考えたんだね。△△という言葉が出てきたけれど、それってどういうことかもう少し聞かせてくれるかな」
「今の説明がわかった人、もう一度言ってくれるかな」
「うまく説明できない? いいよ。だれか助けてくれるかな」

このような言葉でつなぎながら、子どもたちでできるだけ解決するようにします。
教師は、子どもが自分たちの考えを理解し合い、互いに深めていくようにするために、どのように働きかければいいのかを考えることが仕事になります。時には上から目線ではなく、子どもと同じ目線で、「わからない、教えて」と聞いたり、「こんな風に考えたけど、どう思う」と問いかけたりすることも必要でしょう。

授業以外でも「子どもに寄り添う」場面はたくさんあります。悩みの相談でも、子どもの気持ちや考えをまず認め、一緒に考えるという姿勢が求められます。
「子どもに寄り添う」ということは、「教師の目線を子どもと同じ高さまで下げる」と言い換えてもよいかもしれません。このことを意識してほしいと思います。

「子どもが主役」の授業を考える

授業は「子どもが主役」という言葉があります。この言葉に異を唱える方は少ないと思いますが、この言葉をどうとらえ、どう授業をつくるかについてはいろいろな見方があるようです。「子どもが主役」の授業について考えてみたいと思います。

「子どもが主役」といっても、授業の基本は教師がどのような課題を準備し、どのような活動を子どもたちにさせるかです。ここをしっかりしなければ、子どもたちは1時間活動したが、何の力もつかなったといったことになってしまいます。子どもたちに授業を通じて身につけさせたいことを明確にして、その達成のための手段を準備することが大切になります。この身につけさせたいことをどのくらいの将来に対して考えるかで、「子どもが主役」の授業のあり方も変わってくるように思います。

最終的なゴールを考えれば、「一生学び続ける人間」「社会の役に立つ人間」となるために必要なことを身につけることが大切です。そのためには、「学ぶ楽しさ」「人とのかかわりを通じた役立ち感」を知ることが重要です。教師が一方的に説明して、問題を解かせて「できた」「わかった」と言わせても知ることはできません。子どもが自分で「わかった」と感じる、互いにかかわり合って「わかる楽しさを知る」、自分の考えを他者に認められて「自己有用感も持つ」。こういう経験を授業の中でする必要があります。そのためにはグループやペアを活用するという方法もありますし、子どもの言葉をいかし、子どもの考えをつなぐような一斉指導もよいでしょう。どちらが正解というわけではありません。子どもの成長や状況によって手段は変わるべきだと思います。
ここで「子どもが主役」ということは、子ども自身の考えや子どものかかわり合いによって問題を解決していくということになります。教師の役割は、子どもが取り組むべき課題を考え、子ども同士のかかわり合いをつくりだすことになります。

長期的なゴールに至る過程を考えると、自分で考え、わかったと感じるためのベースとなる知識や考え方を身につけるということが必要になります。教師がこれを覚えなさい、この問題はこうして解きなさいと指示して練習をさせることが効率的に思えますが、子どものやらされている感が強く、達成感が持てなければ知識や考え方はしっかり身につきません。
知識は教師が教えるだけではなく、子どもが調べて見つけることも可能です。こういう活動をすることで、知識の獲得方法も身につけます。自分が見つけたと達成感も味わえます。考え方も、発問のなかにそれとなくヒントを入れたり、課題そのものを工夫することで子どもたちが気づきやすくすることもできます。
ここで「子どもが主役」ということは、子どもが自分で知識や考え方を獲得するような活動をすることになります。教師の役割は、子どもたちが身につけるべき知識や考え方を明確にして、子ども自身で見つけ気づくようにするための活動を考えることになります。

短い期間で考えると、漢字を覚える、かけ算の九九が言えるようなるといった、日々の授業の中で身につけるべきスキルのような訓練的な要素が強いものもあります。これこそ訓練でやらせるしかないように思えます。しかし、訓練させるにも、ただ「やりなさい」「試験をします」では、子どもは受け身になってなかなか身につきません。どれだけできるようになったかチェックし、自身の進歩を実感させ、ときには達成感を友だちとわかちあう。そのような工夫が必要です。
ここで「子どもが主役」ということは、子どもが目的意識を持って自主的に取り組み、達成感を味わうことになります。教師の役割は、訓練の目的を明確にし、子どもたちにわかりやすい目標を設定し、進歩を認める場面をつくることになります。

実際に「子どもが主役」の授業をつくることは、これらの要素が混じったものになると思います。教科や単元、子どもの成長によってそれぞれの比重が変わりますが、どれかの要素だけというのは不自然でしょう。

最後に「子どもが主役」というのなら、教師は何なのでしょうか。私は、「教師は演出家・プロデューサー・コーディネータ」だと思っています。主役たる子どもたちに活動を指示し、活動しやすいように環境をつくり、子ども同士をつなぐ。こういう意識を持てば自然に「子どもが主役」の授業になっていくと思います。

ペア活動の特性を意識する

ペア活動を取り入れる授業を見ることが多くなってきました。ところが、隣同士のペアで相談するように指示しているのに、後ろを向いて相談したり、黙ってしまってうまく活動できないペアが見られることがあります。うまくいかないときはどのようなときなのでしょうか。また、どのように活用すればよいのでしょうか。

教師が意識しなければいけないことは、子ども同士の人間関係ができていないときにはペア活動が難しいことです。ペアは1対1の関係ですから逃げようがありません。子どもたちにとっては緊張感が高まる関係です。年齢が進むにつれてこの傾向は強くなります。相談のような互いのかかわり合いが強く要求される活動をペアでおこなうのは意外と難しいのです。

それに対してグループは、ちょっと距離を置いて話を聞くこともできますし、声をかけやすい人がいる可能性も高くなります。また、グループで相談しているうちに、人間関係もつくられていきます。相談するといった活動は、グループの方が適していることが多いようです。

とはいえ、わざわざ席を移動してグループにするほどでもない、簡単に考えを確認させたいといったときは、ペアではなく、「まわり」と相談、確認するようにするとよいでしょう。「ペア」という逃げられない関係ではなく、「まわり」というゆるい関係を使うのです。

では、ペア活動はどのような場面で有効なのでしょうか。1対1の逃れられない関係であることを逆に生かして、互いの役割、責任が明確な活動に適しています。(ペア活動のポイント参照)
そして、注意してほしいことは活動を通じて、互いに相手に対してポジティブになるような工夫をすることです。たとえば本読みをペアでするとき、聞き役には、「間違えていないかチェックして」といった相手のミスを見つける役割ではなく、「間違えたり詰まったりしたら、正しく読めるように助けてあげてね」と相手を助ける役割を与えます。実質的に違わないように思えますが、役割の与え方の違いで、子どもの言葉づかいや態度が変わってきます。また、読み終わった後、悪いところを指摘するのではなく、よいところを指摘させるようにします。こうすることで、互いの人間関係もつくられていきます。

ペア活動は子どもたちの人間関係が大きく影響してきます。人間関係ができていなければなかなかうまく機能しません。逆に、その特性を理解してうまく活用することで人間関係をつくることもできます。このことを意識して活用してほしいと思います。

すぐに結論が出てしまったらどうする

授業で子どもとやり取りしながら考えを練り上げたいときに、いきなり結論が出てきてしまって扱いに戸惑うことがあります。こういうことを避けるために、どういう順番で指名するか注意をしている教師も多いと思います。結論が早い段階で出たときはどのように授業を進めていけばいいのでしょうか。

教師が戸惑う一番の理由は、自分の予定していたストーリーが崩れてしまうからです。一つひとつのステップを確認しながら、演繹的に進めるための準備をしているので、それが崩れて軽いパニックに陥ることもあります。結論が出たのに、無理やり教師が予定通り進めようと、あえてその発言を保留して最後に利用しようとすることもあります。
こういうときには、演繹にこだわるのではなく、帰納的に進めることが有効です。

結論やよい考えが発表されたからといって、全員がすぐにわかるわけではありません。まず、その考えがわかったか、納得できたか学級全員に確認をすることから始めます。その上で、間を埋めたりつなぐ考えを子どもたちから引き出していけばいいのです。

「・・・だから、・・・になると思います」
「なるほど。同じように考えた人いる」
「いるね。○○さんの考えを聞かせてくれる」
「・・・」
「なるほど、2人の説明でどう、みんな納得した。なるほどと思った人手を挙げて」
「いるね。じゃあ、まだよくわからないという人は」
「いるね。みんながわかったと言えるような説明を考えよう」
「さっきなるほどと思った人、どこでそう思ったか聞かせてくれる」
・・・

答を知って、どうしてそうなるのかを考える力は大切です。また、どうして気づいたのかを自分で考えたり、友だちから聞くことで視野も広がります。

「どうやって気づいた?」
「何をしていて気づいた?」
「どこでわかった?」
「何をやろうとしたの?」
「どんなことをした?」
「すぐに、できた? うまくいかなったことはない?」
・・・

「どうやって気づいたんだろう?」
「何をしたんだろう?」
「どこでわかったのかな?」
「何をやろうとしたんだろう?」
「どんなことをしたと思う?」
・・・

子どもは自分の気づく過程を明確に意識できていません。そのため、子どもの説明ではその部分はなかなか語られません。教師の説明も試行錯誤の部分は無駄として語られないことが多いように思います。そこで、教師がこのように問い返すことで、思考の過程を明確にし、その過程を教室全体で共有することができます。わからなかった、気づかなかった子もどんなことすれば、考えればよかったのかを知ることができるのです。

結論から説明を考えさせていけば、教師が考えていたストーリーの最初の一歩まで逆にたどることができます。そこまで戻れば、あとは当初のストーリーを生かすこともできます。

いつも演繹的に進めるのではなく、時には先に答えを示して、「どうしてこうなるのだろうか」と問いかけることも大切です。考えるアプローチをいくつも経験させておくと、すぐに結論がでてしまったりしても、あせることなく自然に対応することができます。
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