子どもの発言量と教師の発言量

子どもの言葉で授業を進めるということを考えたとき、多くの教師は授業の進度を心配します。子どもの発言量が増えると、それだけ時間が足りなくなると言うのです。果たしてそうなのでしょうか。

子どもにたくさん発言させて、その上教師が今までと同じだけの量を発言すれば時間が足りなくなるのは当然です。子どもの発言量を増やすのであれば、それに合わせて教師の発言量を減らさなければなりません。子どもの言葉は教師の説明と比べて拙いため、教師はどうしても自分の言葉でもう一度説明しなければ安心しません。ここが問題なのです。
実際には、子どもの言葉をつないでいけば、教師が説明しなくても子どもはちゃんと理解できるのです。教師が一方的に説明するよりも多くの子どもがきちんと理解してくれます。
また、教師の説明は子どもの説明と比べて、どうしても丁寧で長くなる傾向にあります。教師の発言量を少し減らすだけで、たくさんの子どもが発言する時間をつくることができます。

「それってどういうこと」
「それって、どこのこと」
「それって、どうやったの」
「○○さんの説明でなるほどと思った人」
「○○さんの考えを説明してくれる人」
「○○さんの考えにつけ足してくれる人」

教師は、このような言葉をうまく使いながら、子どもたちが、子どもたち自身の言葉で理解するための手助けをするのです。

一方、子どもたちも自分たちが発言した後、教師がまとめてくれると思っていると友だちの発言を真剣に聞きません。教師の発言量を減らしながら、子どもたちの発言時間を確保し、互いの言葉を聞き合って考える経験を積ませていくことが大切です。
子どもたちが育ってくると、教師の発言は、課題や発問、指示とつなぎの言葉だけになっていきます。
子どもたちの発言量が多く授業がどんどん進むので、もうすぐ授業が終わるのかと時計を見てみると、思った半分も過ぎていなかったということもあります。

「子どもが育ってくると、授業がどんどん進んで学年末には時間が余るくらいです」

こんなことを言う先生もいらっしゃいます。

子どもの発言量を増やすことで子どもたちは自分たちで理解するようになります。教師はそれに合わせて発言量を減らしていけばよいのです。子どもたちの力を信じて、教師の発言量を減らすように意識してほしいと思います。

教具や道具の使い方の説明

教具や道具を使って授業をする場面によく出会います。興味を引く教具を使うことで、子どもたちは集中して課題に取り組みます。教師は手元に実物がないと説明がわかりにくいと考えて、先に物を配ることがあります。ところが、子どもたちは物に気をとられて、肝心の説明を聞いていないことがあります。教具や道具の使い方の説明はどのようにすればよいのでしょうか。

教具や道具の類は、使う直前に配る、取り出すことが原則です。子どもにとって珍しい物が目の間にあれば、どうしてもそちらに気持ちがいってしまいます。日ごろから使っている教科書やノートであっても、使わないときはしまわせることを徹底している教師もたくさんいます。子どもの集中を妨げるものは、できるだけ排除した方がよいのです。
ですから、教具や道具の使い方は、できれば何もない状態で説明するのがよいのです。おもしろそうな教具を教師が全体に見せながら説明すると、子どもの中にはワクワク感、期待感が起こります。そこで、物を配れば一気に集中して活動します。ところが、物があまり大きくないと、どうしても全体では見えにくくなります。提示用の大きなものを用意したり、実物投影機などを活用して、見やすくすることが大切です。

では、提示用の物や実物投影機が準備できない、実物投影機ではうまく拡大して説明できないといった場合はどうすればいいのでしょうか。この場合は、実物が子どもの手元にあって触れる状態での説明の方法を工夫することが必要です。
教師が一方的に説明するのではなく、実際に子どもに触らせながら説明するのです。

「はい、○○をこのように持って。ちゃんとできているか隣同士確認して」
「次に、・・・」

こうすることで、触りたい気持ちを満足させながら、説明できます。

教具や道具を使った活動をする場合、その使い方の説明は、子どもの意欲をうまくコントロールすることを意識してほしいと思います。

授業の最後に何を振りかえらせる

授業の終わりに振りかえりを書くことが増えてきています。しかし、子どもたちの振り返りを見ると、ただ感想を書いているだけのことが多いのです。何を書くように指導すればよいか考えてみましょう。

「面白かった」
「よくわかった」
「頑張った」

このような感想だけでは、次の学びにつながっていきません。大切なことは、この授業で何を学んだか子どもの言葉で振り返ることです。
「今日わかったことはどんなこと」「できるようになったことはなに」と振り返らせるとよいでしょう。

「・・・が・・・であることがわかった」
「・・・を考えるときに、・・・に注目するとよいことがわかった」
「・・・のような問題を解くときには線分図に表すと考えやすい」

このような振り返りは、授業を通じて自分が進歩したことを確認することにもつながります。また、「・・・のような問題を解くとき・・・」というようにまとめることで、メタ認知が働くようになります。

指導すればすぐにこのような振り返りになるわけではありませんが、よい振り返りを紹介しながら、「感想」から「学んだこと」へと質の転換を図るようにしてほしいと思います。

友だちの作品から学ぶ

授業で作品をつくったときはそれで終わりでなく、展示して互いの作品から学び合う場面をつくります。しかし、ただ展示するだけでは学びはおきません。どのようなことを意識すればいいのでしょうか。

一つは必然性を意識することです。完成した作品を見て学んでも、それを活かす機会は先になってしまいます。学んだことを活かせるタイミングで見ることは、学ぶ意欲を高めます。
たとえば、下絵の構図を互いに学ぶのであれば、大体構図が決まった時点で一旦作業を中断します。ここで作品を見合えば、よいと思ったことを自分の作品に活かすことができます。また、制作ノートやワークシートに、意図したこと、工夫したことを書いておき、作品と一緒に提示することで、よさや工夫がより伝わりやすくなります。
また、互いのよさを共有する方法の一つにグループの活用があります。グループ内で自分が見つけた友だちのよさを伝えあうのです。自分が気づかなかったよさを友だちから聞くことで、視野が広がります。また、実際にもう一度作品を見て確認することもできます。

では、完成した後の展示はどのようにすればいいのでしょう。
自分の作品を認めてもらうことは、子どもの自己有用感を高めます。そこで、互いに作品を見合い、よいところをレポートにします。ちょっと大きめのメモ用紙程度のものに、作品の工夫、それがどうよかった、全体的な感想など、作品を見る視点を印刷しておいて書きこませます。全員の作品について書くのは大変なので、グループごとに一つのグループを割り当てて見る、一つのグループ内で分担して全員を見るなどの工夫をしてください。前者の場合は、グループ内で発表し合い、友だちのレポートでよいと思ったところをつけ加える、後者であれば、友だちのレポートから興味を持った作品を見に行くといった活動をおこなうとよいでしょう。
また、教室にしばらく作品を展示しておくような場合、作品とともに子どもたちのレポートもつけ加えることで、より多くのことが学べるはずです。

個人作業になりがちな作品づくりですが、作品を見あう場面をうまくつくることでかかわりを持つことができます。互いの作品から学ぶことを意識して授業をつくってほしいと思います。

友だちの発言を聞く意欲を高める

授業を見ていると、子どもが友だちの発言を聞こうとしてないと感じることがあります。授業に集中していないというわけではありません。教師が説明して板書をすると素早くノートに写します。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

一番の理由は、聞いていなくても子どもたちが困らないことです。
友だちの説明はわかりにくいので、聞かない。聞かなくても、最後に先生がわかりやすくまとめてくれる。また、算数などは説明ができなくても、手順がわかれば問題は解けるので困らない。友だちのよい気づきは先生が復唱したり、板書してくれるから先生に注目していればいい。こう思っているのです。

子どもの発言を安易に教師がまとめず、子どもの言葉を活かして、自分たちでわかった実感を持たせることが大切です。
子どもの説明が不十分であれば、「それってどういうこと」とより詳しい説明を求めたり、「だれか、○○君の考え説明できる」と友だちの考えを理解しようとすることを意識させます。
また、教師がまとめずに、子どもに自分でまとめさせることも大切です。「みんなの気づいたことで、なるほどと思ったことを自分のノートに書き足してください」「まとめたことを隣同士で確認してください。友だちの気づいたことでなるほど思うものは自分のに足しましょう」というように、自分たちでまとめる作業を取り入れるようにするとよいでしょう。

この他にも、そもそも課題に手がつかない、何をやったらいいかわからなかったというときは、手がついていないので、友だちの発言を聞く意欲が薄れてしまいます。自分の考えが持てているときの方が友だちはどう考えたのか気になるので聞こうという気持ちになるのです。解決のための見通しを持たせてから課題に取り組ませたり、できるだけ課題を具体的に提示するなどの工夫が必要です。また、活動を途中で一旦止めて、結論でなくどこに注目しているかを全体で共有することで見通しが持てることもあります。

子どもが友だちの発言を聞かないのには理由があります。聞こうとする意欲をどう高めるか、聞く必然性をどうつくるか。教師の工夫が求められるのです。

授業の最初に何をするか

授業の始まりは、多くの子どもの意欲が高い時間です。苦手な子どもも今日はわかるかもしれない、できるかもと思っています。ここで一方的に教師の話を聞かせるなど受け身の活動をさせるとせっかくの意欲がすぐになくなってしまいます。この時間をうまく使うことは子どもの授業への集中度を高めるためにとても大事なことです。

最初に復習をするのであれば、全員の子どもが「できた」「わかった」と思うようにする工夫が必要です。数人に発言させて、「みんないいですね」と確認しても、よくわからないままの子どもが必ずいます。わからないと思うと意欲はすぐになくなってしまいます。

できるだけ多くの子どもに発言させる。
わかっていない子どもには、教科書やノートを確認する時間を与えて、答えられようにする。
まわりと互いに確認させる。

このようなことを意識して、「できそうだ」「やれる」という気持ちにさせることが大切です。

また、脳の活性度を上げるために小テストなどを取り入れるという考え方もあります。この場合注意してほしいのは、できるだけ全員が満点をとれるようなものにすることです。できなかった、ダメだったという気持ちになってしまうとしばらく気持ちが下がったままになってしまいます。そこで、少しでもできるようにと多くの時間をとってしまうと、今度は先にできた子はすることがなくなってだれてしまいます。時間を決めて、時間がくればきっちり終わるようにすることが大切です。
逆に時間内でどれだけできるかという進め方もあります。問題をたくさん用意しておいて何問できるかという発想です。これであれば、自分のペースでやれるのでだれることもなくなります。また前回より何問増えたといった進歩をみることで一人ひとりの頑張りを評価することもできます。
答えを書く以外に声に出すという方法もあります。2人1組で一方が答えを言い他方確認するというやり方です。声を出すことで脳も活性化します。

授業の最初は必ず復習をしなければならないわけではありません。子どもの意欲の高い間に、本時の課題を提示することで集中度を高めることができます。このとき、一方的に教師が説明するのではなく、子どもとやり取りをたくさんすることが大切です。資料を提示して興味を持たせたり、課題に関係した、どの子も答えられる、考えられる発問をたくさんすることで課題への意欲をもたせるとよいでしょう。

授業の始まりは子どもたちの意欲の高いとても大切な時間です。この時間を有効に使うことを意識した授業づくりをしてほしいと思います。
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