オンライン研修を行うことから学ぶ

最近は研修をオンラインで行なうことも増えてきました。講演型のオンライン研修であれば、参加者の表情や反応をどう感じ取るかがポイントになります。意図的に反応を求めたりすることが通常の講演以上に重要です。また、参加者同士のかかわり合いを意識しないと受け身の状態がずっと続くので、集中力が切れてしまいます。これらのことはオンラインで授業する場合にも共通だと思います。

特に難しいと感じるのは授業研修です。現地に行って授業研究をおこなっていた他府県の学校では、今年度は新型コロナウイルスの影響でオンラインでの研修となりました。通常であれば授業を見てすぐに検討会を行いますが、私の準備も含めて数週間のタイムラグがあります。時間が経てば印象は薄れてしまいますので、デジタルデータで送ってもらった授業のビデオをポイントごとに編集し、それを配信しながら解説することにしました。
授業のビデオは教室の後ろから先生の動きを撮ったものと正面から子どもたちの動きを撮ったものを用意していただきました。それを視聴しながら授業の解説を考えていきます。
今回の研修は高校の物理の波の導入場面でした。波は変化するのでイメージしづらいので、動画やアニメーションを多用してわかりやすく教える授業でした。一通り視聴した後、授業者のねらいと授業のポイントを箇条書きで整理し、それを元に授業の場面を切り取っていく作業を行います。子どもたちが集中する場面や集中が切れる場面などを切り取るように意識しました。
編集しながら思ったのは、動画やアニメーションを上手く選び、柔らかい口調の解説と合わせてとてもわかりやすい授業なので、このまま分割してキーワードを字幕にして入れれば立派なオンデマンドの教材となりそうだということです。昨今の授業は「主体的・対話的で深い学び」が問われていますが、ベテランの講義型で教えるテクニックはオンデマンドでまだまだいかせると思います。日ごろの授業を録画して、うまく編集すれば立派なオンライン教材ができそうです。
一人一台の環境がもうすぐこの学校でも整いますが、今のうちに授業を撮りためてコンテンツ化するとよいと思いました。最近の編集ソフトはとても使いやすくなっていますので、ポイントごとに短くカットしてオンデマンド教材にするのであれば、すぐにでも手がつくと思います。すべての場面が利用できなくても、いくつかの場面だけでもコンテンツ化できればととても意味のあることだと思います。また、編集作業をすることで、授業のねらいやポイントとなる場面が明確になり、授業改善にもつながっていきます。ぜひ、挑戦してほしいと思います。

手前味噌ですが、ポイントを絞った場面を動画で見てもらいながら解説するので、通常の検討会よりも伝わりやすかったと思います。動画で事実を見せると説得力が違います。画面越しに見える先生方の視線は思った以上に集中していました。また、私にとっても事前にビデオでじっくりと授業と向き合うことで新たな発見がたくさんありました。事前準備は大変ですが、私にとっても参加者にとっても意味のある研修になったと思いました。

先生方にはこの授業のよさやICTを活用することでわかりやすい授業とするポイントを話させていただきましたが、オンデマンドの教材の充実と反転授業の可能性についても意識してほしいとお願いしました。質の高いオンデマンド教材を前提とすることで、教室では対話を重視した深い学びが実現できるはずです。これからの時代に対応する、新しい授業(学び)の形を視野に入れてほしいことをお伝えしました。

オンラインの研修を通じて、新たな発見がたくさんありました。新型コロナウイルスも負の側面ばかりでないことを感じました。

先生方の成長と挑戦意欲を感じる

小学校で先生方全員に授業アドバイスを行ってきました。1年ほど訪問しない時期がありましたが、7年間かかわらせていただいている学校です。今年度初めての訪問でした。

何よりうれしかったのが、どの学級の子どもたちも落ち着いて授業に参加していたことです。新型コロナウイルスの影響で、子どもたちの机の距離が空いていたり、気軽にまわりと相談する雰囲気がなかったりと気になるところもありますが、先生と子どもたちの関係は良好でした。学級づくりの基本が学校全体に浸透しているのを感じました。

初めての訪問の時はまだ講師だった先生が1年生の担任をされていました。見せていただいたのはこの先生の7年間の成長を本当に感じさせてくれる算数の授業でした。
△を移動して組み合わせを変えて別の形にする課題で、黒板に貼った△を、指名した子どもに移動させました。発表者ではなく、他の子どもにその動作を言葉で説明させます。1年生なので拙い言葉ですが、授業者は柔らかい表情で受け止めながら、他の子どもが聞けているかを見ています。どの場面でも一人ひとりの子どもたちの様子をしっかりと見ようとしています。2人目の子どもの説明の後に、「違った表現をしてくれたね」と表現の違いを意識させ、授業者が黒板の図形を動かしながら発表者がどんな表現をしたかを思い出させます。「ずらす」という言葉をキーワードとして共有した後、「○○さんが言ってくれた『ずらす』」とキーワードの前に発言者の名前をつけて、何度も利用しました。子どもの自己有用感と子どもの言葉で授業をつくることを大切にしていることがよくわかりました。
1年生ですので指示を徹底させるのも大変です。これからやる作業を簡潔に説明して見通しを持たせた後、「まず○○をして」と最初の活動だけを指示し説明を止めます。全体の動きを見ながらスモールステップで指示を出しながら子どもたちを活動させました。指示や行動一つひとつに明確な意図が感じられました。
教師としての基本的な力量も姿勢も十分に育っていることがわかります。自分自身で学び成長ができる先生です。今後どのような先生になっていくのか将来がとても楽しみです。

初任から4年目の5年生の担任もずいぶん成長していました。社会科の自動車産業の現地生産の授業でしたが、日本メーカーの海外でのCMを見せて商品に求められるものが市場によって異なることに気づかせようとしていました。学年主任の先生と一緒に教材研究をしっかりしていることがよくわかるものでした。初任のころは、一方的にしゃべったり、表情が動かなかったりと子どもたちとのやり取りが上手くできていませんでしたが、この授業では子どもの反応を笑顔で待つ余裕もありました。子どもたちもよく反応し、子どもたちとのやり取りで楽しく授業が進んでいます。心配なのは授業者の体の向きがほぼ固定されていたことでした。どうしてもよく反応をする関係のよい子どもたちのいる方向を向いてしまうのです。子どもたちとたくさんやり取りをする活発な授業に見えるのですが、参加できていない子どもが一定数いることを意識してほしいと思います。ペアやグループの活動が制限されているので、授業中に参加できない子どもがどうしても増えてしまいます。そういった子どもたちに意識を向け、全員参加を目指すことが大切です。関係のいい子どもたちとだけで授業をつくれば表面的には活発で楽しいものになりますが、それではいけないのです。このことを意識すれば次のステップにレベルアップできると思います。今後の成長を見守りたいと思います。

同じ5年生の学年主任の授業は社会科の自動車産業の工夫についての授業でした。これからの自動車はどのようなっていくのかを一人一台のタブレットを使って学習する場面です。GIGAスクールを視野に入れた挑戦的な授業でした。
子どもたちにこれからの自動車はどのようになるかについてネットで調べさせます。環境にやさしい自動車の特徴などをタブレット上でまとめ、ネット上にアップして互いに見られるようにします。授業者としてはこれを見ることで子どもたちが情報を共有し、考えを深めていくことをねらっていたのですが、この場面にたどり着くまでに時間を使いすぎて情報を共有するための時間を十分にとれません。そこで、授業者が子どもの書いたものをいくつか選び、それを全員で見ながら共有します。例えば、水素自動車について調べた子どもは、二酸化炭素を出さないので環境に優しいと書いていましたが、二酸化炭素を出さないとは何を意味するのか、それがなぜ環境に優しいのかはわかっていません。結局授業者がそのことを説明することになります。ハイブリッド車を取り上げた子どもはインフラの整備が必要ないことを長所として取り上げていますが、そもそも「インフラ」という言葉を、他の子どもはもとより本人もわかっていません。残念ながら子どもたちはネットで見つけたものをコピー&ペーストして解答をつくる作業をしているだけで、自分の課題や疑問として考えてはいないのです。作業に多くの時間をかけていたのですが、全員が提出できる状態になるのを待っているからです。一定数の子どもは作業を終えてネットを見ていますが、疑問を持ったり課題意識を持ったりして考えを深めているわけではありません。手がかりがつかめず動き出すのに時間がかかる子どもと、答を書き終って時間をつぶしてい子どもに分かれていて、ともに無駄な時間が多いのです。
今後、一人一台のタブレットが普及すると、子どもが調べたことをまとめて共有するという授業が多く行われることになりそうです。この授業でもわかるように単に調べたことをまとめて共有するというだけでは上手くいきません。その理由は大きく二つあります。
一つは、子どもたちはよほど鍛えていないと答らしきものが見つかるとそれで満足してしまい、それ以上は深く考えようとしないからです。とりあえず調べればわかるようなものに時間をかける必要はありません。今回の例でいえば、水素自動車やハイブリッド車の表面的な情報はできるだけ早く発表させるか、全体の場で授業者が調べて見せて共有するのです。その後、そこから見つかる新たな疑問や課題の解決に時間をかけるのです。「二酸化炭素を出さないってどういうこと?」「二酸化炭素を出さないことがどうして環境に優しいの?」「環境に優しいとどういうこと?」「ガソリンでなくて水素を燃料にするっていうけど、水素はどこにあるの?」・・・といったことを子どもたちの疑問として引き出し、「水素をつくるにもエネルギーがいるけど、本当にそれで環境に優しいの?」といった課題について考えさせることに時間を使うのです。
もう一つは共有の仕方です。学級全員の考えをネットにアップして見ようとしても、一つひとつチェックするのに時間がとてもかかります。一人一台のタブレットがあれば考えの共有が簡単にできるというのは幻想なのです。全員の考えを共有したいのであれば、一度に全部を公開するのではなく、一人の考えを全体で共有し、「○○さんと似た考えの人提出してくれるかな?」として、同じような考えを共有し違いがあればそれを確認するとよいでしょう。他の意見や考えも同様にして、取り上げていくことで効率的に考えを共有することができます。提出箱を複数作れるような環境であれば、近い考えごとに同じ提出箱に提出させるという方法もあります。書き終えた子どもからネット上に提出して少しずつでも見られるようにするという方法もあります。単に一斉に提出して共有しようというのは現実には難しいので、いろいろな工夫が必要になります。
結果ではなく、作業過程を逐次共有する発想もあります。リアルタイムに他のメンバーが書いているものを見ることができるようなサービス(ソフト)もあります。手がかりが見つからずなかなか手がつかない子どもにとって、友だちがどのような資料を見ているのか、どうやって見つけたのかといった情報はとても重要です。結果だけを共有しても、自分で結論を導き出すことができるようにはなりません。友だちの手元を覗いたりして情報を集めることもできますが、一人一台のタブレット環境ではそれもなかなかかないません。作業の途中で、「困っていることない?」「どうやって調べている?」と、手がかりになる情報を共有する時間をとることで、困っている子どもが動き出す助けになります。

今回このような授業に挑戦したことで、授業者は大切なポイントに気づくことができたようです。自分の授業を反省しながら、次の時間の授業をどのようにしようかとその場でいろいろと考えてくれました。こういう姿勢で毎日の授業に臨めば確実に力がついてきます。この経験が学校全体にとっても大きな財産となってくれると思います。

この学校では、毎回全員の授業を見せていただきます。一人わずか10分足らずしか見ることができないのですが、事前に学年の先生同士でどんな授業にしようかと相談して毎回工夫してくれています。私が授業を見てアドバイスすること以上に、これを機会に全員の先生方が毎回授業を工夫してくれることが校長のねらいのようです。私を上手く使っていただけることがありがたいです。
授業後に全員とお話をさせていただきますが、学年の先生は必ず同席して全員の話を聞ききます。先生同士の壁をなくし、チームとして学年で授業改善に取り組む雰囲気を醸成しています。ベテランも若手も関係なく、互いに学び合う姿勢ができてきているのが、この学校のよさだと思います。

次回の訪問も挑戦的で意欲的な授業をたくさん見せていただけることと楽しみにしています。
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