誰にとっても学びの多い授業

夏休みの教務主任対象の研修で利用する小学5年生の算数の授業のビデオ撮影を行いました。授業者は昨年のこの市の授業力向上研修に参加した方です。快く授業を公開してくださいました。

授業は、図と式を結びつけて考える場面でした。4列の十字型に並んだ苺の数の数え方を式から考えさせます。
何と言っても子どもたちの表情のよさが印象に残ります。授業者との人間関係が良好なことがいろいろな場面でよくわかります。授業規律もしっかりと確立しています。どのようにしてこういう学級をつくり上げているのかよくわかる、参観者にとって学びの多い授業でした。
4つずつを正方形で囲んで、4×5の式をつくります。「何の4?」と問いかけると子どもがつぶやきます。授業者は「みんなに説明して」と子どもの言葉を全体につなぎます。
子どもたちは友だちの発言に対してハンドサインで答えますが、よく見られる、大きな声で「いいです」「賛成」と言うようなテンションの高さはありません。全員がすっとハンドサインを出します。授業者が全員参加を意識して指導していることがよくわかります。「賛成」に対して、「同じでも言って」と指名します。子どもたちが指名されたいとテンションを上げずに落ち着いている理由がよくわかります。一問一答では、自分と同じ考えが発表されれば指名してもらう機会がなくなりますが、このような進め方であれば同じ考えでもまた指名してもらえる機会があることがわかっているからです。
指名した子どもが返事をしないことがありました。授業者は名前をもう一度呼んで返事を促します。返事ができると「いい返事です」とほめます。行動を修正すればほめるにようにすれば、子どもは注意されたとは思いません。認められたと感じて、よい行動をとるようになります。上手に授業規律をつくっています。
3種類の考え方の図と式を提示します。式を書いたワークシートと図を描いた紙が配られます。子どもたちは式に対応する図をワークシートに置きます。図ごとに紙の色が変えてあり、子どもの手元の色の並びを見れば、正しく置けているかどうか机間指導をしなくても一目でわかります。なかなかよいやり方です。
式と図をもとに、考え方を言葉で説明するのが課題です。算数・数学の世界では式や図も言語と考えることができます。それぞれを自由に行き来できることが大切です。両方を与えるのではなく、「図から式を自分でつくって説明する」「式から考え方を説明する図を描く」といった活動もあります。この授業ではグループ内で式を分担して説明しあうのですが、それであれば、いくつもの図や考え方がでてくるような式で考えを聞き合う方が、かかわり合いを通じて思考が広がるのでグループ活動に向いているように思いました。
子どもたちは自分の担当の説明を考えます。終わったら他の式も考えるように指示していますが、ほとんどの子どもは手をつけていません。担当を決めた時点で、それ以外は自分に関係がないと思っているようです。「全員が同じ問題に取り組む」ことや、「友だちの説明を聞いて最後は自分の言葉で書く」というように担当以外の問題を解くことに価値を与えるといったやり方もあります。
子どもが作業をしている時に、指示を出すことがありました。きちんと作業を止めてからするようにしないと徹底できません。このことを忘れないでほしいと思います。
子どもたちに、作業を終えて授業者に注目するように指示しました。「切りかえ速くなったよね」と評価します。子どもたちのいい姿を2人いると紹介します。名前を言わなかったのですが、まわりの子どもがその子どもの名前を「○○」と言います。子どもたちの間に笑顔が広がります。とても気持ちのよい場面でした。これに限らず、子どもたちの行動をよく評価しています。ここにも授業規律のよい理由があります。
グループ活動に移りますが、「声の物差しを考えて」と指示します。テンションが上がりやすいのでしょう。確かに、グループになって最初はテンションが上がりました。無責任に取り組んでいるので上がったのではなく、活動に対する意欲の表れのように見えました。すぐにテンションが下がったからです。
全体での発表です。子どもたちは友だちの発表に対して実によく反応します。「○○じゃないの」「どうして○○になるの?」「ちょっと言いたい」といった言葉が次々に出てきます。黒板の前で子どもに発表させると授業者はどうしても発表者ばかりを見てしまいます。しかし、この授業者は実によく子どもたちを見ています。こういった子どもたちの反応を見逃さずにつないできます。まだ若い方ですが、なかなかできるものではありません。
「○○さんの意見と違って」とある子どもの意見に対して違う意見が出されました。このこと自体はよいことなのですが、言われた子どもの表情は少し暗くなりました。ここは、もう一度その子どもに「○○さん、今の意見を聞いてどう?」と確認をしたいところでした。認めればそのことをほめ、もし納得しなければ自分の考えを再度発表する機会を与えるべきなのです。
同じ図と式で、異なった考え方が出てきました。1枚の紙に考え方を書き込んだために、ごちゃごちゃしてしまいました。別に図を描き直して説明させたいところでした。
教科書の練習問題に取り組みます。説明をする前に「いい姿勢になってください」と前の活動をいったんきちんと終了します。こういうところも見習うべきところです。
「(答を)書けたらいい姿勢で教えてください」と指示します。こういった指示は悪くないのですが、問題を解くような場合は速さに差が出ます。早くできた子どもはかなりの時間待たされることになります。できれば、次の課題を準備しておきたいところでした。
この問題の説明場面でも、子どもはとてもよく反応しました。「すごい」といった言葉が聞こえてきます。子ども同士がよくかかわれている授業でした。

この授業は、愛される学校づくり研究会で企業と共同開発しているICTを活用した授業検討ツールを使って撮影しました。参観された先生方には端末を持っていただき、「★ いいね」「? 疑問」のボタンを押してもらいました。この学校では毎月授業研究が行われています。この学校から授業力向上研修に参加される先生は、レベルの高い参加者の中でも授業を見る力が高いと感じる方ばかりです。この学校の教務主任は以前からよく知っている力のある方ですが、よい研修を校内で行っているのだと思います。そのことが、今回の授業検討ツールでの先生方の反応に表れていました。このツールを初めて使った方は、多くの場合途中でボタンを押すのを忘れてしまいます。しかし、この授業の参観者は最後までしっかりと反応していました。意識して授業を見る習慣がついているからだと思います。また、同じ学年の先生が全員参観していることもよかったのだと思います。自分たちもかかわって授業をつくってきたので、意識して各場面を見ていたのでしょう。
夏休みの研修に向けてとてもよい題材を提供していただけました。この学校の先生方に感謝です。

授業者と、同学年で夏以降の授業力向上研修で模擬授業と研究授業の授業者となっている先生が、次の時間をあらかじめ空けておいて、私の話を聞きに来てくださいました。素直にアドバイスを聞き、自分の授業に活かそうとする意欲と、グングン伸びていくエネルギーを感じます。この2人からたくさんのエネルギーをいただきました。次回の授業力向上研修がとても楽しみになりました。こういった機会をいただけたことをとてもうれしく思います。ありがとうございました。
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