研究発表の終わった中学校で、先生方の向上心を感じる

2月の中旬に、中学校の授業研究に参加してきました。昨年の秋に研究発表会が終わったばかりの学校ですが、まだまだ授業改善を続けなければいけないと、学年末ですが全体での授業研究を行いました。

授業研究に先立ち1時間校内の様子を見せていただきました。
3年生は高校受験で一部の生徒が抜けていて自習の教室が多かったのですが、ちょっと精神的に疲れている子どもが目につきました。これは私の想像ですが、頑張れという圧力がかかるばかりで、寄り添って支える者がいないようです。子ども同士の人間関係がよい学級では互いに支え合っているものですが、残念ながらこの日はそのような空気は感じることができませんでした。
2年生は、学級によって様子が異なっていました。先生が子どもたちをしっかりと受容している学級の子どもたちは落ち着いて集中しているのですが、先生が圧力をかけて無理に子どもを動かそうとしている学級では、子どもたちがその圧力から逃れようとしています。子どもたちは授業に積極的に参加せずに、引き気味のスタンスを取ります。取り敢えず指示されたことをやっておくという姿勢です。また、ゴールや目標が明確でなかったり、課題に魅力がなかったりするために、子どもたちから意欲が感じられない学級もありました。
1年生は、学習規律面でまだしっかりしていないと感じる学級が目立ちました。子どもたちの顔が上がらなかったり、無責任な発言が目立ったりするのです。隙あらばテンションを上げようとしている学級もあります。一つひとつの活動の区切りをきちんとつけ、子どもの視線を授業者に向けてから話し始めることを徹底してほしいと思います。

授業研究は、2年生の歴史の授業でした。明治政府が文明化開化を推し進めようとした理由を考えさせるものでした。
この日の課題が提示されます。「欧米から日本を守れ」です。これまでの授業で、明治政府が欧米の植民地政策に対抗しようとしていたといったことを学習していたのならまだよいのですが、そうでなければ子どもたちの思考を誘導してしまう危険性があります。明治政府の視点であれば「明治政府が欧化を進めた理由」、もっと広く考えさせたければ「文明開化はなぜ起こったか」といったものの方がよかったかもしれません。
明治の初期の銀座の風景画から、明治になってから入ってきたものを探させます。見つけたものを○で囲ませます。単に見つけるではなく、○をつけさせることで進捗が見える化されます。ちょっとしたことですが、日ごろからこういった活動を多用しているからこその工夫だと思います。
子どもたちに発言させ、「ほうほう」とうなずきながらしっかりと受容しています。他の子どもにも発表されたことを手元で確認させながら、ていねいに進めていきます。一通り発言させた後、何から何に変わったかを板書して整理します。しかし、ここは導入部分なのであまり時間をかける必要はないように思います。まわりと確認した後、全体でつぎつぎ指名すれば、もっと効率的になったように思います。こういった資料から見つける作業は軽く扱うかていねいに扱うかを意識し、それぞれに応じた進め方を決めておくとよいでしょう。

続いて、次の資料を配ります。2人で1枚です。こうすることで、隣同士がかかわり合う必然が生まれてきます。これもよい工夫です。机を自然に近づける子どもと近づけない子どもがいます。こういったところには子ども同士の関係や意欲が現れます。
「この絵のタイトルは何でしょうか?」と発問します。絵から子どもたちは見つけようとしますが、この時期であれば指示して探させるのはちょっともったいないと思います。「資料を見たら最初に何をする?」といった発問で、今まで学習してきた資料の見方の確認をするのです。「何の資料」「いつの資料」「出典」といったことを子どもから出させるのです。その上で活動に入ることで、資料を見る視点を整理させることができます。「開化因循興廃鏡」を確認し、「開化」「因循」「興廃」「鏡」の意味と明治6年の作品であることを説明します。ここで、明治6年ごろまでにどんなことがあったかを確認しておくとよかったと思います。世の中は同時にいろいろなことが起こっています。歴史はどうしても時代の流れにそった変化に目がいきやすいのですが、同時代の出来事の関係を見ることも大切です。年号が出てきた時にはそういった縦と横の関係を意識させるようにしたいものです。
「開化因循興廃鏡」は、西洋の物と日本の物が戦って、日本のものが負けている様子を描いたものです。説明しやすいように、それぞれに番号をつけたものを資料として使っています。授業者は、「開化因循興廃鏡からわかることを探して。いくつ見つかるかな?」と発問しました。この「わかること」というのは答えにくい問いかけです。それで子どもたちが答えられるのなら、資料の見方がわかっているということです。グループになって作業に入ります。ここでは、明治になって6年という短い時間で欧化が進んでいることを知ることが目的です。であれば、日本のものと西洋のものが戦っているということを早い時期に全体で確認して視点を与え、活動のスピードを上げたいところです。西洋のものが勝っていることを早く気づかせて、この日の主課題にすぐに移りたいところです。
授業者は、一つひとつの活動で子どもたちに考えさせ、きちんと発表させようとしています。できるだけ多くの子どもを活躍させようと笑顔で受容しながら指名しています。このことにはとても好感が持てますが、この日一番考えさせたいことに時間を多く取る必要があります。ここも時間をかけすぎです。軽重を意識してほしいのです。
西洋が勝っていることを確認しましたが、絵にはたくさんのものが描かれています。子どもたちはすべて確認したわけではありません。「本当?1つぐらいに日本が勝っているものはない?」と揺さぶっておきたいところです。うさぎと豚が戦って、うさぎが負けているといったよくわからないものもあります。当時(明治4年ごろ?)、うさぎを買うことが東京で流行していたことを知らないと理解できません(このことに触れるべきかどうかの判断は難しいですが、子どもが疑問を持つ可能性はあると思います)。
西洋が勝っていることを確認した後、「洋風の変化が広まっている」ということを授業者がまとめてしまいました。この「洋風の変化が広まっている」ということが課題の答、「この絵からわかること」です。このことを授業者が言ったしまったことは残念です。「じゃあ、この絵から何がわかるの?」として子どもたちに考え、答えさせたいところでした。
洋風に生活が変化していることを漢字四字で何というかを問いかけたところ反応が少ないので、教科書から探させました。こういう場面で子どもたちに調べさせることはよいことです。ただ、それでも挙手があまり増えません。隣同士と確認したりすることが必要だったようです。

ここで、この変化の速さの理由を問います。授業者は学制や徴兵制を例にして、社会の変化を明治政府がつくったことを示します。これまでの授業で、なぜそのような施策をとったのかの理由(強い軍隊の必要性)を押さえているはずですから、その確認もしたかったところです。そうすることで、今回の授業者のねらいにつなげることができます。ここで文明開化を明治政府が進めてきたと結論づけて、話が進みます。中学生ですので、文明開化という風潮や文化を政府主導で本当にできるのかどうかの議論をしたいところでした。
明治政府は文明開化を進めるためにどんな工夫をしてきたか、教科書や資料集からグループで探させます。子どもたちは、生活の変化をもたらすものがどのようなものかがよくわかっていないので、なかなか先に進みません。そこで、授業者はあらかじめ用意した「明治天皇の写真」「馬車だと2時間、これだと50分」といった異なるヒントカードをグループに配ります。ヒントは注意が必要です。子どもたちはヒントの示す答を見つけようとします。つまり、教師の求める答探しを始めてしまうのです。ここでは、生活の変化や流行はどうやって起きるのかを子どもたちと共有することが大切です。新幹線ができて生活はどのように変わったかを考える。芸能人のファッションが流行する例などに気づかせる。そのような活動を少し取り入れるだけで、動きがかなり変わったと思います。
子どもたちは自分たちの見つけたものを小型のホワイトボードにまとめて、発表をします。基本的には、教師のヒントをからでてきたものです。グループごとに異なるヒントなので内容はあまり重なりません。子どもたちはヒントの指すものを探しただけで、それと文明開化の関係やねらいとはまだ結び付いていません。互いの発表をつないで、そこに共通するものは何かを考えることが必要です。明治政府がこういった施策を行ったのは、庶民の生活を変えようとしてのことではないでしょう。結果的に文明開化につながった施策は何のためだったのかをきちんと押さえることが、この時間のねらいにつながるのですが、そこは結局押さえられませんでした。
この日のねらいに子どもたちが気づくためには、どのような発問と活動をすべきだったかをもう少し考えた授業展開をするべきだったと思います。活動に目を奪われて、何を目指すのかがぼやけてしまっていたように思います。

今回の授業をつくるにあたって、事前に指導案の検討や模擬授業を多くの先生方で行なっていたようです。全体での検討会でも、当事者意識を持った発言がたくさん出てきました。特に、若手がしっかりと子どもたちの様子を観察して、その事実に基づいた意見を発表してくれたのが印象的でした。
私からは、この授業以外にも学年の様子について感じたことを伝えました。検討会終了後に各学年団が学年経営に関して質問や相談に来てくれました。自分たちの学年をよくしたいという意欲を強く感じました。来年度は今よりよい状態になっていくことと思います。
若手の先生も、授業について困っていることを相談に来てくれました。向上心を感じます。

研究発表が終わると息を抜く学校が多いのです。少しで前進し続けようという先生方の意欲を感じることができました。来年度も引き続きかかわらせていただけそうなので、今後がとても楽しみです。
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