愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午後の部)(その1)

愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午前の部)(その2)」の続きです。

午後の部は「楽しく、手軽に授業研究しよう」で会員の模擬授業をもとに授業研究を行います。子ども役は、会員と会場から抽選で選ばれた先生方です。最初は、一宮市立大和中学校の山田貞二校長の道徳の模擬授業と「3+1授業検討法」による公開授業検討です。コーディネーターは私が務めました。
「いつわりのバイオリン」という資料を利用した「人の支えによって生きる喜び」を考える授業です。いつわりのバイオリンというタイトルを示し、「いつわり」という言葉から連想するものを問います。子ども役から出てくる「うそ」「だます」といった言葉を柔らかく受け止め、何人にもたずねます。「うそをついたことがあるか?」と確認したあとで、その時の気持ちを問います。「しまった」といった子ども役の言葉を上手く引き出し、罪悪感につなげていきます。「そんな時に自分を元気づける」と続けてから、この日の授業のめあて「生きる喜びについて考える」を示しました。罪悪感に対して「元気づける」と前向きな言葉でつないでいることが素晴らしいと思いました。道徳はともすると振り返って反省をさせるばかりになりがちなのですが、そうではなく、その後どうするかが大切です。さりげない一言でしたが、残る言葉でした。短い時間で子ども役にしっかりと活動させ、ゴールのイメージと期待感を持たせる導入でした。
資料は与えずに、山田先生が範読します。実に見事な読みです。地の文は抑え気味に、感情や会話は少しテンション上げます。基本はゆったりですが、場面によってテンポを速くして飽きさせません。しかし、山田先生は読むことに集中しているわけではありません。常に子ども役に視線を送っています。子ども役は受け身で聞いているだけですので、集中力が落ちやすくなります。そこで、しっかり見るだけでなく、ICTも効果的に活用します。ディスプレイに挿絵を映しているのですが、実にタイミングよく切り替え、適度な刺激を与えます。
バイオリンづくりの名人が有名なバイオリニストに依頼を受けたが期限に間に合わせることができずに、優秀な弟子の作品を自分のものと偽ってしまいます。ここで弟子の作品に手を伸ばした時の主人公の気持ちを子ども役に問いかけます。1分間目をつぶらせることで、集中させます。上手に活動を入れます。子ども役に発言をさせますが、ここは、あまり時間をかけずに次に進みます。
作品を偽られた弟子は、バイオリンの音を聞いてそれが自分のものだと気づきますが何も言いません。自分のしたことに悶々とした日々を送る師を見て、自分の存在が師を苦しめていると気づき工房を去ります。やがてほかの弟子たちもいなくなって、主人公の工房は活気を失くしてしまいました。ここで、主人公はどのようなことを考えているかが次の発問です。子ども役の発言を受容し、「裏切ってしまった」といった足りない言葉には、「だれを?」と問い返します。「後悔の念」「さびしさ」「告白しよう」といったことが、子ども役それぞれの言葉で語られます。ここでは、主人公が嘘をついたためにつらい状況になっていることをできるだけ自分に引き寄せてもらいたい場面です。山田先生は、あえて板書や整理をせずに次々指名していきます。しっかりと聞いているので、集中力を乱したくないからです。発表が終わってから整理をして板書しました。
主人公のもとに、成功した弟子から1通の手紙が届きます。師が自分の作品を偽ったことには触れず、師のバイオリンが今でも自分の目標であることを伝えるものです。その手紙を読んで涙を流した主人公の気持ちを考えるのが最後の発問でした。
自分の考えを持たせる時間をじっくりと取ったあと、4人グループで聞き合います。大人ということもありますが、素早くグループ活動に入り、落ち着いたテンションで聞き合います。この展開であれば課題にしっかりと入り込めるので、おそらく子どもたちでも同じような姿になったと思います。グループ活動を終えても、後ろ向いて話している子ども役がいますが、「体をこちらに向けましょう」と優しく声をかけます。決して否定的な言葉を使いません。子ども役にどのようなことを話したかを聞きます。子ども役の発表に対して、「力いっぱい言ってくれた」「自分の気持ちになっている」と評価します。道徳ですので、考えた内容の是非を評価するのは危険ですが、こういった態度面や視点を評価することは有効です。子ども役から「本当のことを言ってもう一度やり直す」「自分のバイオリンを評価してくれてうれしい」といった言葉が出てきます。中には「・・・澄み切った音は心が澄み切った人が・・・」といった、ちょっと子どもからはでてきそうもない言葉もあります。一つひとつの発言がある程度完結していることもあり、つなぐ場面はあまりありませんでした。途中から子どもの発言に対して、「謝って、前に進みたい」という言葉でまとめることが続きました。ちょっと強引に感じます。ここは、最後に子どもたちに言わせたいところです。時間があまりなかったこともあって、少し焦ったのだと思います。
「謝罪」「感謝」「希望」という3つにまとめられましたが、今回のねらい「人の支えによって生きる喜び」の「人の支え」がまだ弱いように感じました。本来の授業であれば、この後弟子へ手紙を書くのですが、時間がないため省略されました。おそらく、そこで弟子への思いの形で「人の支え」が浮かび上がったのだと思います。
最後に、1編の詩を朗読して終わりました。人の支えや感謝の気持ちが伝わるよい詩です。この詩が、欠けたピースを埋めてくれました。
普段から校長自ら道徳授業を行っているということです。子どもたちを自らの授業で育てたいという思いがこの授業からも感じられました。一方で、これは校長の授業だとも思いました。先生方に、授業技術を伝えることが意識されているのです。「子どもたちを見る」「子どもたちを受容する」「発言を深める」といったことの大切さや、そのための技術が明示的に示されているように思ったのです。

今回は、授業検討を会場の皆さんにもまわりの方と行ってもらいました。授業が素晴らしかったこともあり、どなたも本当に熱心に検討されていました。
壇上での検討は、研究会の会員で行いました。あらかじめ配られた2色の付箋紙に気づいたことを「よかったこと、参考になったこと」と「疑問点、改善点」に分けて書き、模造紙に貼りながら検討して、よい点を3つ、改善を1つ(3+1)に絞ってまとめます。今回の検討会は、模造紙を前に貼ってもらい、それをもとに私が質問する形で進めました。よい点はたくさんありますが、「資料の範読」「子どもたちの受容」「言葉の切り返し」といった授業技術に偏りました。改善点はほとんどないという意見でしたが、子どもの言葉を「謝って、前に進みたい」と教師がまとめようとしていたことが挙げられました。模造紙に書かれていることについて、そのグループでどんなことが話されたかを個別に聞きました。発表のための整理された言葉ではないので、話し合いの内容や考えがより具体的に伝わってきます。他のグループでも同様のことが話されていれば、それを聞くことで学びが深まっていきます。代表が全体で発表する以外にも、このような進め方もあることを知ってもらおうとこの方法をとりました。参考になれば幸いです。
この検討会では、道徳の授業にもかかわらず道徳の話題は上がってきませんでした。このことが、最後のまとめのパネルディスカッションで話題になりました。次回以降で触れたいと思います。

続きは、「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午後の部)(その2)」で。
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