愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午前の部)(その2)

愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午前の部)(その1)」の続きです。

4人目は、知多市立八幡小学校の山田純一郎校長の「授業を基盤とした学校づくり」でした。山田先生の考える愛される学校とは、「子どもが通いたい」「保護者が通わせたい」「教職員が勤めたい」と思う学校です。授業を基盤として愛される学校をつくろうと、リーダーシップを発揮されます。今年度異動して来られた山田先生は、まず学校の実態把握に取り組まれました。4月の最初の2週間、毎日学級を巡回したり、先生方と話したりしたのです。異動直後は様子見の校長が多い中、素早く行動を起こすというのはなかなかできることではありません。山田先生は、こうして学校の実態把握を行った結果、授業の課題を2つに絞り込んだのです。1つは、学習規律が先生によって違い、学校として統一されていないこと。もう1つは文章の読み取りの弱さでした。
学習規律については、全体の問題点を把握できているのはこの時点で校長しかいません。そこで、全体で話し合うということをせずに、自らルールを決めました。発達障害の子どもが多いこともあり、ユニバーサルデザインの考えを取り入れて次の5点に絞ります。
・机の中、机のまわり、ロッカーの整理整頓をする。
・授業中の机上の整理をする。
・授業を進めるにあたり、「単元」「めあて」を記入する。
・全面黒板に授業以外のことを書かない。
・背面黒板を活用する。
この内容がよかったかどうかは問題ではありません。校長が素早く判断して、この学習規律を示したことが素晴らしいのです。4月のスタート時点で共通のルールをつくらなければ間に合いません。先生方に諮って検討していては大切な時期を逃してしまいます。独善と見えても校長がリーダーシップを取ることが必要になることがあるのです。
一方、文章の読み取りの弱さの克服は、赴任以前に決まっていた現職教育のテーマ「読みを深め、自分の考えを表現する児童の育成」とも合致していたので、現職教育推進委員会に任せました。この使い分けが見事です。先生方の組織に任せられることは任せてしまうことも大切です。ここでは、校長はアドバイスだけに徹しています。そして、先生方のアシストをするために、外部の研究会や講習会、書籍の紹介を行います。また、必要に応じて外部講師を招くこともしています。先生方の学びを助けるための動きを行っています。講師の話を聞いて、すぐに活かそうとする先生がたくさんいたことに驚いたそうです。先生方は授業が上手くなりたいと思っているのです。
赴任1年目から素早く学校の課題を把握し、すぐにリーダーシップを発揮した行動力に感心すると共に、先生方のやる気を引き出そうとするきめの細やかさにも学ぶことが多い発表でした。

最後は、元校長で津市立倭小学校・拠点校初任者指導員の中林則孝先生の初任者指導の発表でした。
有田先生の「材料3分、腕7分」に対して、初任者に「腕3分、根気7分」と説かれています。小学校の初任者が対象です。小学校では、子どもたちに1度指示をしたからといってすぐに徹底できることはあり得ません。「繰り返しの言葉かけ」とその「確認」が大切になります。根気よく繰り返させることが大切だということです。このことについては、全く同感です。中林先生は、「教材研究が不十分では授業ができない」という論調に対して、痛烈な一撃を与えます。教材研究の仕方も教えずにやれと言うのはナンセンスだというのです。教材研究の大切さもやり方もわからない初任者を追い詰めても潰すだけです。バランスを意識し、まずは日常授業の質を高めることから始めるべきです。聞いていて私も大きくうなずきました。
中林先生がこだわる「全員参加の授業」「発問より受け」「子どもを常に見る」「無理のないICT活用」、どれも本当に大切なことです。中林先生の素晴らしいところは、これらを単に言葉で説明するのではなく、視覚に訴えて伝えることです。授業中にデジカメで撮った写真を見せて、どこに問題があるのかを伝えるのです。例として見せられた写真は、どれも一目で問題に気づけるものでした。教師の視線が向いている子どもたちはしっかり聞いているが、死角にいる子どもはだれている様子。教師がICT機器を使って一生懸命説明しているが、スクリーンを指さしているため、子どもを見ることができていない姿。子どもと教師の姿を見事にとらえている写真ばかりです。私は先生方のアドバイスに写真は使いませんが、利用を検討しなければいけないかと考えさせられるものでした。会場の先生方も、写真を見てうなずいています。午前の部は学校経営に関する発表が多かったので、参加された若い先生方には興味を持てなかったかもしれませんが、この発表はとても参考になったと思います。
さらに中林先生の素晴らしいところは、指導している4人の初任者をつないでいることです。こういった写真を他の初任者にも見せて考えさせます。それぞれの様子を「教室はドラマ」という新聞にして共有します。4人が仲間として一緒に成長しているのです。ともすると若い先生は孤独になりやすいのですが、そこのところも意識されています。時には、4人一緒に食事に出かけたりもしているのです。多くの若い先生が、こんな指導員に出会えていたらと思っていたことでしょう。
進行役の玉置先生は、毎回発表の後にツッコミを入れますが、中林先生には、初任者指導員で集まった時に初任者指導の仕方を話したりするのかとたずねました。残念ながら答は「ノー」です。幸いにも私は中林先生と知合いですので、しっかりとノウハウをいただいているのですが、初任者指導員が共有していないのはもったいない話です。

続いて、発表者にパネラーを加えて協議が始まります。ここからが面白いところです。進行役の玉置先生が、いきなりゲストの小牧市立小牧中学校のPTA会長の斎藤早苗さんに振ります。保護者として選べるならどの校長の学校がいいかという質問です。流石に斎藤さん、全部が一つになった学校と答えます。欲張りな答えです。でも、それが本音です。もう1人のゲストの大阪市教育委員会の山本圭作さんには、行政として校長を1人選ぶならだれかと問います。容赦ありません。新城市立千郷中学校の川本篤史先生には、どの校長のもとで働きたいか、国際大学GLOCOMの豊福晋平先生には学校評価の視点で、(株)EDUCOMの柳瀬貴夫社長には企業の経営者の視点で、津島市立南小学校の浅井厚視校長には同じ校長の視点で誰がよいか、共感するかといったことが問われます。
アンケートの理不尽な回答を公開するかどうか、学校評価の専門家である豊福先生に問いかけます。それぞれのメリット、デメリットを挙げて、素直に難しいと答えます。専門家でも即答できないことを校長は自ら判断しているのです。こういったやり取りを通じてそれぞれの取り組みのよさや独自性を価値づけしていきます。
玉置先生は、ストレートな質問で、曖昧な答は許しません。ズバリと答えてもらうことで議論がシャープになるからです。まな板に載せられる発表者も普通ならたまらないでしょう。しかし、人間関係ができているからこそ、比較されたり、切られたりしても笑顔で対応できるのです。もちろん日ごろの会で鍛えられていることもありますが・・・。いずれにしても、この研究会の素晴らしいところです。
いつも通り笑いの絶えない絶妙な玉置先生の進行で、あっという間に時間が来ました。校長や管理職だけでなく、参加されたどなたも楽しみながらいろいろなことを考えることができたパネルディスカッションでした。知り合いの若い先生方も、面白かった、勉強になったと感想を述べてくださいました。
実は、今回のフォーラムの午前の部に私の出番はありませんでした。こんなこと初めてです。純粋に観客として参加することでたっぷり2時間、本当に楽しむことができました。途中メモも忘れて聞き入っていました。多くのリピーターがいる理由を理解できた気がします。

午後の部については、「愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午後の部)(その1)」で。
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