愛される学校づくりフォーラム 2015 in大阪(午前の部)(その1)

先週末に「愛される学校づくりフォーラム2015 in大阪」が開催されました。今回は愛される学校づくり研究会の日ごろの研究の様子を見ていただくという、公開研究会というコンセプトでした。
午前の部は、「愛される学校のつくり方」と題して、会員代表の5人による提案とそれを受けてのパネルディスカッションでした。小牧市立小牧中学校の玉置崇校長の絶妙な進行で進んでいきます。

1人目の岩倉市立岩倉中学校の野木森広校長の発表は、「まずは従業員満足度」と子どもたちや保護者ではなく、教職員にスポットを当てて愛される学校づくりに取り組んだというものです。「教職員」と言わずあえて「従業員」としているところに、野木森先生の思いがあります。教師には子どものためにはどれだけでも頑張らなければならないというプレッシャーがあるように思います。これは私の想像ですが、「教師なんだから頑張ってほしい」という校長の甘えを排除し、純粋に自分のもとで学校を支えてくれる大切なスタッフ(=従業員)に「頑張ろう」と思ってもらえるような学校づくりを意識して、あえて従業員としたのではないでしょうか。
先生方の多忙感を解消して、授業を中心とした教育活動に専念してもらう。先生方の努力を発信することで、肯定的な評価を得て広げていく。公募のプロジェクトを立ち上げ参画意識を高める。こういったことに取り組んだそうです。ボトムアップを意識した公募のプロジェクトは、昨年度は「生産性向上」、今年度は「ICT活用」「将来ビジョンの作成」と続いていますが、若手を含む多くの先生方が手を挙げて参加しています。
野木森先生は教師の「多忙」ではなく、あえて「多忙感」としています。それは先生方が自分のやっていることが子どもたちのために役立っていると感じれば、どれだけ忙しくても苦にならない、逆に教育以外のことに時間をつぶされれば実際に以上に多忙を感じるからだと思います。自分の仕事に満足していれば、頑張れと言わなくても頑張るものです。教師の満足度が上がることが、教育の質の向上という形で子どもたちに還元され、愛される学校につながっていくと考えてのことだと思います。
多くの方に新しい視点を与える発表だったと思います。

続いて登場した一宮市立木曽川中学校の平林哲也校長は、校長になって現在3校目ですが、その10年間1日も欠かさず学校ホームページを更新し続けた方です。「発信なければ受信なし」が平林先生のモットーです。学校の目指す方向をシンプルな言葉で示すことが大切だと主張します。木曽川中学校では、「凡事徹底」「参画」「千人力(生徒数が約千人なので)」です。こういったキーワードは、ともするとお題目に止まり具体化されないで終わってしまうことがよくあります。その具体的なイメージを共有するためには「見える化」が必要です。平林先生はそのツールとして学校ホームページを活用されているのです。
更新されない学校ホームページは、繰り返し見てもらえません。見てもらうためには毎日更新することが欠かせません。情報発信がなく、学校の様子が見えなければ保護者や地域の信頼を得ることもできません。学校の日常の地味でベタな情報を発信し続けることが大切になります。そこに、平林先生は1つの工夫をしています。学校ホームページのトップにそれまでに発信した記事が、先ほどの3つのキーワードでまとめられているのです。それぞれについてすぐに閲覧できるので、学校の目指しているところが具体的によくわかるようになっています。学校が何を考え、何を求めているかを保護者や地域の方に理解していただくことで、平林先生の願いである「サポーターからパートナー」が実現するということです。
また、保護者や地域の方が学校に肯定的になれば、当然子どもたちにもそのことが伝わります。学校への肯定は子どもたちに対する肯定につながります。子どもたちの自発的な行動や社会参画への動きは、価値づけをして行動を強化することが大切です。その様子を発信することで子どもたちを取り囲む大人たちがそのことを認めてくれます。こういったことが安心感や自信につながり、子どもたちの意識を高めてくれるのです。
平林先生が学校ホームページの活用を通じて何を目指してきたのかがよくわかる発表でした。

3人目は一宮市立尾西第三中学校の長谷川濃里校長の学校の見える化への取り組みでした。
学校が愛されるためにはまず信頼されることが大切です。そのために、学校に対して「やや批判的な層」や「どちらでもなり層」な保護者に対して、「ああ、そうだったのか」と学校のことを「理解してくれる層」になってもらうのです。長谷川先生が考える従来の保護者は、協力層1割、理解層2割、どちらでもない4割、やや批判層2割、批判層1割という分布です。それを協力層1割、理解層6割、どちらでもない2割、批判層1割にすることを目指すというものです。保護者に、学校の子どもに対する思いは保護者と同じであることを理解してもらい、学校のことをよく知ってもらいたい。そして、職員にありがとうと言ってもらえるようになりたい。それを実現するための見える化です。特に意識をされたことが、保護者に見えないものを見える化するということです。別の言い方をするとネガティブなこともすべて公開するということです。
子どもたちの学校生活の様子などを日常的に学校ホームページやたよりで紹介するのは当然として、行事の度にメールを使ったアンケートを実施し、選択肢の集計だけでなく記述内容もすべて公開しています。ポジティブな意見ばかりではありません。ネガティブなものもあえて公開し、その上で学校の考えを示しています(すべての意見を公開することは事前に了承を取ってあります)。一宮市はコミュニティスクールとなっていますので、学校運営協議会があります。その内容も個人情報にかかわること以外はすべて公開しています。PTAや地域の会合では、学校活動の様子だけでなく、現在の問題点や困っていることも伝えています。学校ホームページでも、学校経営の考え方すなわち学校の願いを見える化することを大切にしています。
学校に対する疑問や問題提起、課題に対して改善への取り組みを見える化することで理解が深まっていきます。その結果、行事アンケートで先生方へのねぎらいの言葉も見られるようになってきたそうです。多様な意見が出て楽しいといったすべての意見を公開することに対する肯定的な言葉も見られるようです。問題点を厳しく指摘する言葉もありますが、それを「説明するチャンスととらえる」という長谷川先生の言葉が印象的でした。
学校に対するネガティブを学校の改善への取り組みも含めて公開することで、信頼を得るというのは、口で言うほど簡単なことではありません。しかし、それを実行することで保護者の目が変わってきたという発表は、先生方に一歩踏み出す勇気を与えるものだったと思います。

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