課題のよさを活かす難しさを感じる授業

前回の日記の続きです。

3年生の社会科は、経済分野のまとめ的な授業でした。
子どもたちは授業者の言葉によく反応します。授業への参加意欲を感じます。この日の課題は「日本の国別幸福度ランキングの順位を上げるためにどうするか」です。国連とOECDの国別幸福度の日本のランキングを示し、経済力に対してその低さを意識させます。
「どんな国なら幸せ?」という問いに対して、「信号の長さ(間隔?)が程よい」「就職しやすい」「税が少ない」「人間として生きていける」「助け合いができる国」というように、子どもたちは自由な発想で発言します。どの子どもも安心して発言できる雰囲気が学級にあります。ここで、国連、OECDそれぞれの幸福度を測る視点を提示します。ランキングを上げるのが目的ですから、これが考えるための根拠となります。しかし、日本に関して、各視点のどこの評価が高いのか低いのかについては、あまり詳しく触れませんでした。
グループで相談しますが、子どもたちの動きがあまりよくありません。考える手がかりがはっきりしないようです。ランキングを上げるためには、「何を」「どうやって」という2つのステップがあります。これを一度に扱っているので、少し混乱しているようです。まずどこを改善したらよいかを出し合ってから考えるとずいぶん違ったのではないかと思います。
子どもたちに発表させます。「少子高齢化の解消」という意見に対して、他の子どもとつなごうとします。それに対して、「子どもをたくさん産めない」という原因を言う子どもや「保育園をつくる」という解決策を言う子どもがいます。意見の視点がばらばらです。一部の子どもの意見が続き、どんどん拡散していきます。他の子どもは、何を話していいのかわからずに、参加できない状態です。そもそも、「少子高齢化」を解消すれば国別幸福度のランキングが上がるのでしょうか?そういった議論もありません。子どもの発表を受容するだけでは、考えは深まりません。そこに教師の適切なかかわりが必要なのです。続いて、「観光客を増やす」「就職難を解消する」といった各グループでの話し合いの結果を発表しますが、お互いの考えがつながることはありません。子どもたちは自分たちが考える幸福という視点で考えていたので、共通に議論する根拠がなかったのです。
この授業であれば、日本の幸福度が低いのは、どこに原因があるのかを考える。それに対して今まで学習したことをもとに、どのような政策がとられているかを確認する。それでうまくいくのか、それではまだ足りないのか、足りなければ何をすればよいのかを考える。こういうステップが必要です。子どもたちが育っていれば、これらのステップをまとめてジャンプの課題とできるのですが、そこにはまだ至っていないようです。
また、子どもたちは自分の視点で幸福度をとらえていました。もう少し発想を変えて、「子ども」「若者」「子育て世代」「子育てが終わった世代」「高齢者」にとって「幸福な国とは?」というように、立場を明確にして考えさせる方法もあったかもしれません。
課題は面白かったのですが、その後の展開をもう少し工夫するとよかったように思います。
授業者は初任者のころと比べるとムダな話も減り、子どもたちが考える社会科を目指して課題も工夫しています。この学校の社会科は、教科で指導案を検討します。今回ベテランからこんな課題はどうかと提示されたのですが、自分で考えたいと教材研究してこの国別幸福度に行き着いたそうです。その姿勢は素晴らしいと思います。検討会では、他の先生方もやってみたい課題だと言っていました。しかし、たくさんの視点が出てくるので、1時間で扱うのは難しいという意見もありました。それよりも、単元の導入場面で扱って、経済や福祉などの課題や政策などを学習する動機づけとした方が面白いのではないかということです。互いの授業が見て学びあっています。教科の先生方全員の力が伸びていく環境になってきたと思います。

この日は、全体に対して、私がこの学校の現状をどうとらえているかをお話ししました。
子どもの見せる姿が、学年で違うことが気になります。大規模校ですので、学年ごとに別の学校のようになってしまうことはやむを得ないところがあります。どんな教師が授業をしてもしっかり集中して授業に参加する学年もあれば、逆に教師によってその様子が大きく変わる学年もあります。そういった学年ごとの課題を客観的事実として受け止め、どう対応すればよいのかを学校として考えることが大切です。他の学年ことだからとかかわらなかったり、問題点の指摘ばかりだったりではなく、こうしたらどうだろうと互いにアドバイスしてほしいと思います。一方、他の学年からの指摘は非難されているように感じやすいものです。反論や反発をするのではなく、まず素直に受け止める姿勢が必要です。こういったことは、学級経営にも言えることです。ある学級が上手くいってない時に、あなたの学級はよくない状態だと指摘するだけでなく、どうすればよいのかを一緒に考えることもしてほしいと思います。その学級に授業に行っているのであれば、フォローすることもできるはずです。教科内も同じです。教師同士がしっかり支え合うことが大切です。
子どもたちを受容できる教師が増えています。しかし、授業の中で子ども同士をつなぐ場面がまだ少ないように思います。教師が友だちの言葉をしっかり聞くことを求め、聞いたことを評価することが必要です。子どもが友だちの考えをポジティブに評価する場面をつくることも大切です。人事異動で教師の入れ替わりが多かったため、学校全体としてこういう基本に対する意識が薄れてきているようです。

いろいろな意味で、来年度のスタートが勝負となるように思っています。そのことを意識して、残り1か月を大切にしてほしいと思います。
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