子どものよい考えを活かしたかった授業

昨日の日記の続きです。

5年生の授業は、理科の食塩水から水を蒸発させて再度取り出す実験でした。
この学級も子どもたちと先生の関係がよいことが、子どもたちの視線がしっかりと授業者に向いていることでよくわかります。
食塩水から食塩を取り出す方法を子どもたちにたずねます。「水を蒸発させる」という答が出ます。子どもたちは「いいです」と反応します。このやり取りに違和感を覚えます。実験前から子どもたちは知識としては既に知っているのです。だからすぐに蒸発させるという考えが出て、それに対して「いいです」という反応が返ってくるのです。そのことを実験して確かめるだけであれば、意欲的に取り組むことはできません。何らかの揺さぶりが必要です。授業者は、蒸発で満足せずに他の子どもを指名します。「乾燥させる」という言葉がでます。こういう言葉が出てくることはとてもよいことです。授業者も違った意見を待っていたと思ったのですが、「蒸発ということだね」と蒸発にまとめてしまいました。子どもは蒸発と同じ意味で使ったのかもしれませんが、異なっていた可能性もあります。教師が勝手に解釈して変えてしまうのではなく、「それってどういうこと?」「蒸発とどう違うの?」と本人に問い返したいところです。乾燥は「水を全部なくすこと」「蒸発は水を減らすこと」と使い分けていた可能性があります。続けて、「水の量を減らす」という意見が出てきましたが、そのまま認めるだけで、特につなぐことはしませんでした。蒸発は、水が減ることも、全部なくなることもあります。子どもたちの言葉から、蒸発の過程を意識させることができただけに、残念でした。

続いて、グループで前時までに学習したモデル図を使って、食塩ができる状態を書かせました。子どもたちは、それぞれの考えをしっかり聞き合っていました。子どもの考えは、大きく3つありました。「水が少し減って、水の中に食塩が溶けている図」「水がかなり減って、食塩が溶けているが一部沈殿している図」「水が完全に無くなって、食塩だけが残っている図」です。水が完全に無くなっている図でも、食塩が山のようになっているものと底に平らになっているものがあります。水が残っているものには湯気のようなものが書かれています。
素晴らしい子どもたちです。先ほどの子どもたちの発言が効いていたので、水が減っている状態と、完全に無くなっている状態に考えが分かれたのです。ここは一つひとつ、その違いを確認しながら、「じゃあ本当にそうなっているかちゃんと実験で確認したいね」「いつ食塩が出てくるかな?」と実験につなげ、途中の経過を観察することをしっかり意識させたいところでした。また、湯気のようなものは、「これは何?」と確認して「水」「水蒸気」という答に対して、「本当?食塩も混ざっているんじゃない?」と揺さぶりたいところです。「どうしたら食塩が混ざっていないかどうかがわかる?」とどんな実験をすればよいか考えさせたいところです。小学校では定量的な実験はしませんが、定量の食塩を溶かした食塩水を用意し、水を完全に蒸発させて重さを確認するといったことをさせることで、理科的なものの見方・考え方を育てるよい機会だったように思います。

授業者は用意した食塩水がどのようなものかをはっきりさせていませんでした。食塩が抽出するということは飽和と関連の深いことです。前時までに学習した飽和について押さえておきたいところです。もうこれ以上溶けないところまで溶かして飽和させた食塩水と少しだけ溶かした食塩水を用意して、食塩の出方がどう違うかを比較させるといったことをしても面白いかもしれません。子どもたちは真剣に取り組んでいましたが、予想通りだったという満足感や、予想と違ったという驚きを見せてはくれませんでした。

実験に移る前に机の上をきれいに片づけさせました。火を使う実験なので正しい指示ですが、黒板には実験の手順や注意事項は書かれていません。片づけたので手元にも情報は残りません。実験の手順や注意事項をきちんと確認するか、黒板に掲示して、わからなくなってもすぐに確認できるようにしておくことが必要だったと思います。
授業者は、実験が始まってから、「すぐに変化が現れます」と子どもたちに注意を促します。変化がすぐに現れるかどうかの観察も含めて実験です。教師が指摘するのではなく、見逃さないような動機づけをモデル図のところでしておくべきだったでしょう。

子どもたちは、安心していろいろな考えを発表することができています。とてもよく育っていると思います。その子どもたちのよさを授業者が活かしきれなかったのが残念でした。

先生方全員に対して、子どもたちを先生方がよく受容できていて関係がよいのだが、先生方の物わかりがよすぎることが気になったことを伝えました。先生が何でも受け止めてくれるので安心して話せます。しかし、不完全な発言も修正してもらえるので思いつきで発言する子どもが目立つのです。問い返すなどして、考えを深めることも必要です。また、発言を受容するのですが、「前の時間に学習したことを上手く使ったね」「○○に目をつけたんだ」といった価値づけが少ないことも気になりました。子どもの考えを他の子どもにつなぐことができていないことも課題です。教師と発言者だけのやり取りで終わってしまうことが多いのです。同じ考えの人に発言を求める。発言内容を他の子どもに説明させる。こういう活動も大切です。
子どもたちを受容できるようになりました。次は、深めることや価値づけ、そして子ども同士をつなぐことを意識してほしいと思います。

この市での授業アドバイスはこの学校で最後でした。1校当たり2回の訪問ですが、どの学校も想像以上によい変化が見られました。先生方がとても素直なことと、管理職の方がこの機会を上手く活かして先生方を指導されたことがよい結果につながったと思います。来年度はさらに高いところに向かっていくことが期待できます。先生方の成長は、私にとってもとてもよい経験でした。ありがとうございました。
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