教師の受容と子ども同士のかかわりについて考える

先日、1学年1学級の小規模小学校を訪問しました。市内の全小学校での授業アドバイスの一環です。今年度2回目の訪問で、残りの3人の授業アドバイスを行いました。

前回訪問した時に、子どもたちがとてもよい表情で挨拶してくれることが印象的な学校です。この日もそのよさを感じたのですが、あることに気づきました。子ども同士のかかわりが弱いのです。学年によっては、男女の関係が悪い学級もあります。理由の一つが1学級の人数が少ないことが挙げられます。そのため、どうしても教師が1人の子どもとかかわることが多くなるからです。今回の訪問では、授業でそのことを感じる場面が多くありました。

5年生の社会科の授業は、情報の陰の部分の学習でした。
授業者は前回訪問した時にとても上手に子どもに対応していることが印象に残った方です。今回も、よい表情で子どもたちをしっかりと受容しています。新聞の広告などを使って、情報が私たちにどのような影響を及ぼすかに気づかせます。ここで気になるのが、子どもたちはしっかりと反応するですが、他の子どもの言葉をあまり真剣に聞かないことです。発言者も先生に向かってしゃべります。先生と子どもの1対1の関係で授業が進むのです。子どもたちは友だちの発言に対して、反論や疑問、時には揶揄するような言葉をその場で返します。これは、この学校全体に共通したことのように感じました。先生方は子どもの言葉をしっかりと受け止めますが、基本は一問一答です。子どもたちは発言したことで満足します。同じ意見の子どもは次に発言する機会はありません。先生方はその場でしゃべったことでもよい意見はしっかりと拾ってくれます。挙手をしないでも発言すれば認めてもらえるチャンスはあります。間違えた意見でも流されるだけで、恥をかくことはありません。そこで子どもたちは、同意ではなく友だちへの反対意見や批判をその場で口にするようになるのです。また、一部の子どもの攻撃的な発言が場を支配するようになると、教室の雰囲気が悪くなります。子どものよい発言は、「いい意見だからみんな聞こう」と全員に対して再度しっかり発表させ、「同じように考えた人いる?」「今の意見なるほどと思った人」とまず同じ考えをつなぎ、共有することが大切です。また、無責任な攻撃的発言も、あえて全体の場できちんと発表させて、「どう思う?」と他の子どもにその意見に対する意見を言わせたり、「理由を聞かせて?」と根拠を求めたりすることも必要です。このように対応することで友だちと共感することを大切に思うようになり、攻撃的な発言が減っていきます。友だちのあらを探すのではなく、友だちが何を言いたいかをわかろうとする気持ちを持たせるのです。
授業者は子どものつぶやきを拾いながら上手に話を進めますが、子どもの言葉を他の子どもに広げるのではなく、自分の言葉に置き換えて説明しています。できるだけ、子どもの言葉のままで共有させることを意識してほしいと思います。

テレビ番組の納豆ダイエットのねつ造問題を題材として、間違った情報が「どんな人に、どんな影響がでるのだろう」とワークシートの課題を与えます。子どもが課題に取り組んでいる間にこの日のめあて「情報が与える影響について考えよう」を板書します。課題は陰の部分に焦点化していますが、めあては特に陰に限定していません。めあてと課題のずれが気になりました。
机間指導で子どもをほめながら、よい所に線を引いています。しかし、全員ではありません。途中の子どもでも、「いいところに目をつけているね。○○についても書いてくれるといいね」と部分肯定しながら声かけしてほしいと思います。子どもたちは先生に認めてほしいと思っているので、全員に声かけすることを心がける必要があります。その上で、ペアなどを活用して子ども同士が認め合う場面をつくることで子どもの関係がよくなっていくはずです。

子どもたちの発表をすぐに授業者が板書します。時には板書の段階で、授業者が修正することもあります。子どもの意見を修正する時は本人に修正させてから板書するようにしないと、教師の求める答を探すようになります。また、板書をあえてしないで、「番組を見た人」というように「どんな人が」に視点をあてて、その人への影響について発言をつなげ、「じゃあ、いろいろな意見が出てきたけれどまとめてくれる」とノートやワークシートにまとめさせたり、発言させてその言葉をそのまま板書したりするというやり方もあります。
他の子どもが気づかなかった視点の意見が出た時に多くの子どもが「ああ」と反応しました。とてもよい反応です。ここは、「ああ」といった子どもたちにその理由を聞きたいところです。授業に「聞くことで参加する」「反応することで参加する」ことを評価することが大切です。

続いて松本サリン事件で無関係の被害者が容疑者となったことを話題に、間違った情報が人々にどのような影響が出たか考えます。子どもたちは、それぞれの意見を発表するのですが、友だちの意見を聞いて考えが深まる場面があまりありませんでした。子どもの意見を聞いて授業者がまとめていくので、子どもはあまり考えなくていいのです。また、情報が教科書に取り入れられてから日が浅いこともあり、授業者自身がどのようにこの内容を整理していいか明確な視点がなかったこともその原因です。情報の光と陰を考える時に、情報のこちら側と向こう側を考えるという視点が有効です。情報の発信者と受信者、送り手と受け手のそれぞれの気持ちや意図を想像するのです。テレビの番組を制作する人はどんなことを考えるのだろうかと想像することで、ねつ造起こりやすいという危険性に気づけます。自分がネットに流した情報を見た人はどんな気持ちになるだろうかと想像することでトラブルを防ぐことができます。善意の気持ちで発信した情報が人を傷つける可能性にも気づけます。また、情報の外にいる人のことを意識することも大切です。SNSの中だけで情報交換していると、そこに参加していない人はどうなるだろうかといったことを想像するのです。情報を間にはさんで、その向こう側とこちら側、そしてその外側を想像するという視点を持つことで、授業の軸が明確になったと思います。

子どもが一生懸命に説明するのですが、上手く伝わらない場面がありました。授業者の表情がかたくなり、それを見て子どもの表情が曇りました。授業者はこの時の子どもの表情の変化にちゃんと気づいていました。余裕がなくなり表情がかたくなったせいだと原因も理解しています。こういった場面では、教師が何とか理解しようとするよりも、子ども同士に任せた方が上手くいくことが多いようです。「○○さんの言っていることはどういうことかな?だれか先生を助けてくれる?」というように子どもに助けを求めると、友だちの発言を一生懸命に理解しようとしてくれます。子どもの発言は子ども同士の方がわかり合えることがよくあります。すべてを教師が理解してコントロールしようとする必要はないのです。

授業者は、こういった私のアドバイスを非常に素直に受け止めてくれました。力のある方なので、子ども同士をつなぐことを意識していただければすぐに授業はよりよくなっていくと思います。今後が楽しみな先生でした。

残り2つの授業については、明日の日記で。
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