愛される学校づくりフォーラム2014 in京都(午後の部)(その3)

愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」の午後の部の「楽しく授業研究しよう」の3つ目の模擬授業は、岩倉市立岩倉中学校の校長の野木森広先生でした。中学校の理科「電流とその利用」です。コーディネーター(司会者)は私が務めさせていただきました

模擬授業は、豆電球の明るさの違いを説明することを課題としたものです。予め動画にとっておいた実験を見せながらの授業でした。授業者は、「子どもに実験をさせる」「教師が演示実験をする」などの方法を実際に試した結果、20分という制限された時間内で完結させるのは難しいと判断して動画の利用に行き着きました。動画を利用することで時間が短縮されるだけでなく、どこに注目すればよいかを画面に示すこともできます。仮説や推測を確認する目的であれば、このような使い方はとても説得力があります。

回路につなぐ金属の違いで、豆電球の明るさが変わることを動画で見せます。授業者は子ども役の反応をしっかり受け止めます。反応に対して「ありがとう」「いい反応ですね」といった言葉を返します。「技能は◎ですね」といったポジティブな評価も欠かしません。今回のフォーラムの模擬授業者は、どなたも子どもを受容し、評価するということは外しません。三者三様の授業スタイルにもかかわらず共通しているということは、このことが子どもと授業者のやり取りの基本であることがよくわかります。

他の線と比べてニクロム線につないだ豆電球の明るさが暗くなるのは、分子の中を電子が流れにくいからだという粒子モデルを授業者が提示します。こういったモデルは子どもが考えて出てくるものではありません。子どもに考えて出させようとしても、塾などで習って知識として知っている子どもが活躍するだけです。それよりも、このモデルを使って事象を説明することができるかに重点を置くことが大切だということです。
その手始めが、次の「ニクロム線を長くすると豆電球はどうなるか、それはなぜか説明しよう」という課題です。結果を予想させ、実験どうかなるかを見せます。「今見たことを言葉で説明して」と言語化を求め、「ニクロム線が長いと暗い」「長くなると電気が流れにくい」「ニクロム線が長くなると抵抗が大きくなる」と事実をより理科的な表現に変えさせ、理科用語の「抵抗」につなげていきます。教科の言語活動では、教科的な表現、教科用語と結びつけることが大切です。これも3人の模擬授業者に共通していました。

ニクロム線が長くなると抵抗が大きくなる理由をグループで考えさせ、「ニクロム線の分子の数が多くなるから」と先ほどの粒子モデルでの説明を引き出します。
モデルを使って納得のいく説明させることで「分子」に注目させてから、この授業の主課題を提示します。「針金を熱すると豆電球の明るさはどうなるか、それはなぜか説明しよう」です。ここで、明るくなる場合と暗くなる場合の両方の場合の理由ついて考えさせます。どちらか一方の立場で考えさせるのが普通ですが、とても面白い進め方です。個人で考えさせた後、グループで相談です。どちらか一方の立場でしか考えられない子どもも出てくるはずです。友だちの意見を聞く必然性が出てきます。どちらが正解かを問うていないので、自分の考えを主張するというよりも、それぞれの考え方を理解し、実際にはどちらが正解となるかを客観的に考えることにつながります。グループ活動を活性化し、深く考えさせることにつながります。
この時、会場も授業を見るのではなく一緒になって考え込んでいたのが印象的でした。優れた発問だったということです。

明るくなる場合は、「電子の動きが活発になるから」。暗くなる場合は、「分子が動いてじゃまをするから」「鉄が酸化鉄になって流れにくくするから」といった意見が出てきました。ここでは、議論はしません。どんな理屈も現実と異なればそれは棄却されるのが理科だからです。
実験の動画を会場も含めて全員真剣に見つめていました。課題が自分たちのものになっているということです。実験は2回続けて確認されました。結果は「暗くなる」です。このことから、「分子が動いてじゃまをする」か「酸化鉄になって流れにくくなった」のどちらかが妥当な理由だということになります。授業者は、暗くなった後、熱するのを止めた時に再び明るくなったことから、酸化鉄の説は棄却されることを説明しました。時間があれば、「この2つのどちらが正しいのかを知るためにどのような実験をすればよいか」と発問したいところでした。授業者は20分の制限がさぞ恨めしかったことでしょう。

最後に、どんどん冷やしていくと超伝導が起こることを説明しました。極限まで温度が下がると分子の運動が止まることと超伝導から、電気抵抗の正体が分子運動であると考えられるようになったこと、それまでは正体がよくわかっていなかったことを話されました。科学の本質を伝える話です。性質や法則を見つけても、その原因や理由がわからないことはたくさんあります(例えば飛行機が空を飛ぶのはベルヌーイの定理で説明されますが、本当のところはよくわかっていません)。あくまでも仮説を積み重ねていくのが科学であることに気づかせるものでした。このような授業を続けていけば、子どもの理科的なものの見方・考え方を育てることにつながると思いました。
授業者が理科をどのような教科であるととらえているかがよくわかる素晴らしい模擬授業でした。

この模擬授業ではICTを活用した授業検討を行います。授業検討者はタブレットPCを持ち、心が動いた時にどこで動いたかを画面のボタンを押して知らせます。今回は、子どもたちのグループ、授業者、黒板をボタンに設定しました。サーバーにはいつ、誰がどのボタンを押したかが記録されます。同時に、それぞれの端末には今どのボタンが押されたかが色で表示されます。一定期間にたくさん押されれば色が濃くなっていきます。時間が経てば消えていきます。端末を見ることで、今授業検討者がどこに注目しているかわかるようになっています。記録されたデータは、1分ごとに集計され、このデータをもとに授業検討を進めます。授業はPCと接続されたビデオカメラを使ってサーバーに録画され、各場面をすぐに呼び出すことができます。
今回は授業検討者の多くの心が動いた部分を中心に協議するにする「3シーン授業検討法」を、このツールを使って行うことになっていました。現在開発中のシステムで、このバージョンを実際に使うのは今回が初めてです。どのように利用して進行するか考えるため、リアルタイムで集計データを見ながら模擬授業を参観していました。ところが、途中から、模擬授業そのものよりもデータに意識がいってしまいました。困ったことに気づいたのです。ツールでは、どのくらいボタンが押されたか1分ごとに集計されます。当然その数が多いシーンをもとに検討を進める予定でした。しかし、押された数の多い時間帯の中身を細かく見ていくと特定の方がたくさん押していたので数が増えていたのです。その一方で、合計はそれほど多くないのですが、ほぼ全員が押している場面があります。また、私的には非常に心が動いた「明るくなる、暗くなる、両方の理由を考える場面」を含む後半は、ボタンが押された総数がかなり少ないのです。これをどうとらえ、どう検討会を進めればいいのか授業検討会を前にして混乱していたのです。

結局、たくさん押された場面と、ほぼ全員が押していた場面に絞って検討を進めることに決めました。このことで頭がいっぱいだったため、ツールの説明を雑にして進めてしまいました。集計画面を見ながら、この場面が多い。一方この場面は、総数こそ少ないがほぼ全員が押していると説明して検討に入りました。会場の方はこの画面を始めてみる方ばかりです。この数字が何を表わしているのか、といった説明をしながら、まずたくさんボタンが押されている場面に注目して、「3シーン授業検討法」の基本的な進め方に則って進行すべきだったのです。事前に私が情報を分析した結果をもとにいきなり進行したため、本来目的とした授業検討ツールの紹介としてはわかりにくいものになってしまいました。せめて、事前に分析をせず、その場で会場の皆さんと一緒にどう進めるかを考えながら行えば、また違ったことになっていたはずです。時間を意識しすぎて失敗してしまいました。

検討の中で、特定の子ども役の様子が話題になりました。その子ども役の様子を追っかけていた検討者が、他の場面での様子を紹介します。ここで、ツールを使うことでその場面をすぐに再生することができました。ダイナミックに授業を振り返るツールとしての可能性を感じましたが、そんなことよりも基本となる部分をまずは会場全体に伝えることが必要でした。後半にボタンが押された数が少ないことに関連して、企業会員の授業検討者から次のような言葉を聞くことができました。「授業をどのように見るかよくわからなかったので、途中からボタンがたくさん押されたところを見るようにした」とのことです。経験の少ない若手に置き換えて考えればなるほど思わせる発言でした。
これは想像ですが、授業検討者がこのツールに慣れていないため最初は勢い込んでたくさん押したが後半は疲れてしまった、後半授業が興味深く進んだため見ることに集中してしまった、もしくはこの両方が、後半ボタンが押されなくなった理由だと思います。へたくそな進行でしたが、授業検討ツールに関して多くのことに気づくことができました。

3つの模擬授業と検討会の終了後、会長の新城市立千郷小学校の校長小西祥二先生を司会として、コーディネーター3人でまとめを行いました。ここで玉置先生からツールが参加者によく伝わっていなかったのでもう1度説明しましょうと提案していただきました。この時間を取っていただいたので、ツールについては一定の理解を得ることができたと思います。ありがたいフォローでした。
しかし、それぞれの授業検討法で心が動いたかという会場への問いかけでは、私の力不足でICTを活用した授業検討法は一番挙手が少ない結果になりました。このツールは開発担当者が連日徹夜でここまで仕上げてくれたものです。この日もうまく動くか心配で会場で待機していただいていました。感謝するとともに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
会場からは、司会者の力量に頼らず、誰もがどの場面に注目して議論すべきかわかりやすくするために、グラフ化したり、見せ方を工夫したりするとよいものになるではないかというアイデアもいただきました。ありがたいご意見です。
アンケートでも、このツールの可能性を認めた上での指摘や意見がたくさんありました。感謝です。

私の力不足を棚に上げさせていただけば、会全体としてはとても充実したものになったと思います。次回に期待する声もたくさんいただきました。
最後に九州から参加していただいた女性の退職者から、「大して期待せず参加したが、とても素晴らしいフォーラムだった。若い先生にとってはICTの敷居は高くない。こういったツールが広がることで先生方の力量も向上するはずだ。未来の光がしっかりと見えた気がする。ぜひ頑張っていただきたい」とノーマイクで会場全体に響き渡る大きな声でエールを送っていただけました。この一言で救われた気がしました。大感激です。
確かな手ごたえと課題、そしてたくさんの元気をいただけた1日でした。
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