愛される学校づくりフォーラム2014 in京都(午後の部)(その1)

愛される学校づくりフォーラム2014 in京都」の午後の部の「楽しく授業研究しよう」は、授業研究を活性化させるための授業検討法の提案です。最初に私から、今回のフォーラムで授業検討法について提案する理由と各授業検討法についての簡単な説明を行いました。

・ほとんど意見がでずに、司会者が順番に指名して無理やり発言させる。
・発言がつながらず、一向に議論が深まらない。
・授業者に対する質問ばかり続き、それに対して「私ならこうする」と持論ばかりが主張される。
・一部の力のある教師が場を仕切り、他の意見を押さえてしまう。
・若手が意見を言うと否定されてしまい、発言意欲を失くしてしまう。
・発言しようにも、何を言っていいかわからない。

私たちはこのような状況を変えるための授業検討法を研究しました。目指したのは、どんな提案授業でも、どんな参加者でも、そしてどんな司会者でも、検討会が焦点化され教師集団が成長することです。
3つの模擬授業に対して、それぞれ異なった方法で検討会を行う形で進めていきました。

最初の模擬授業は一宮市立尾西第一中学校教頭の伊藤彰敏先生の国語の授業でした。中学1年生対象の「俳句を読む」でした。子ども役は、毎回会場と愛される学校づくり研究会の会員から8名ずつが選ばれます。授業検討者は会員のみ8名が務めます。
松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」の句を音読させます。「古池や」でいったん止めてちゃんと全員がしっかり言えているかどうかをチェックします。子ども役の読み方に「元気がない」と挑発します。声が大きくなったところで、順番に指名します。、一人ひとりの読み方をほめて、きちんと評価しています。さすが私たち研究会の国語のエース、こういった基本は外していません。列で読ませたりして、大きな声で読めるようにしてから、「目を閉じてゆっくり読みましょう」と指示をします。このコントラストも見事です。子どもたちが俳句をじっくり味わって読むことになります。
作者を確認しますが、指名した子どもが「小林一茶」とぼけます。「おしい、同じ江戸時代」とポジティブに受け止めます。松尾芭蕉がでてきたところで、どんな古池のイメージが浮かぶかを書かせます。
子ども役は一生懸命書いていますが、時間で切ります。「途中でも書かない」と明確に作業を止めてから、列で発表させました。「たくさん書いているけど、これが1番だと思うものを言ってください」と条件をつけます。ただ書いたものを発表するのではなく、もう一度振り返って吟味をさせるよい働きかけだと思います。最初の発表者が、古池の情景とは違うずれた意見を発表しました。質問とずれていることを指摘するかと思ったのですが、「なるほど」と受け止めて次の子ども役へと続けました。「苔むしている」という意見がありました。すかさず「どういうこと」と切り返します。そのままスルーして進むのでもなく、授業者が自分で説明するのでもなく、発言者に説明を求めます。しかも、「どういうこと」と答えやすい言葉で切り返しています。地味な場面ですが、授業者の実力がよくわかります。
「素敵だと思った」意見はどれかを聞きます。とても上手な聞き方です。「いいと思った」は上から目線に聞こえることがあります。「素敵」は共感的な表現です。子ども同士の人間関係をつくることにもつながります。聞いていれば答えやすい問いかけですが、聞いていなければもちろん答えることはできません。このような問いかけをいつもしていれば、子どもたちは必然的に、友だちの発言を聞くようになると思います。

ここで、五感とは何かを子どもに確認します。子どもの発表に合わせて、準備したカードを貼っていきます。五感を貼り終わったあとに、「他にもある」と第六感という言葉を引き出します。授業者の「第六感を具体的にするのが国語」という言葉から、根拠を大切にする国語を目指していることが伝わってきます。
この句でどんな感覚が使われているか、五感を一つずつ取り上げながら、全体に挙手で確認します。挙手が多いとカードを上にずらし、少ないと下げてどの意見が多かったかをわかるようにします。子どもの意見を視覚化する面白い方法です。「味覚」に手を挙げる子ども役がいました。五感全部の確認が終わったあと、だれの意見を聞きたいか問いかけます。当然、味覚に手を挙げた子どもに聞くことになります。「池の水の味」という言葉が出てきます。「なめちゃったんだ」と受け止めて、「なるほどと思った人」と他の子ども役にたずねます。何人かの手が挙がります。こういったちょっとずれたように感じる意見でも、否定せずに「なるほど」ということばでつないでいるのは見事だと思いました。子どもが安心して発言できる雰囲気づくりにつながると思います。

この俳句はどのような感覚が中心であるかを個人で書かせます。1人の子ども役を指名して発表させました。「書いてあったね」と促して、「心の視覚」という言葉が出させました。子ども役から笑いが起きました。「今、笑うところじゃない」とたしなめます。この言葉がすぐに出てきたということは、変わった意見を言った子どもが恥ずかし思いをしないように日ごろから意識をしているということです。
「心の視覚」とはどういうことかを発言者に確認します。発言者はうまく自分の考えを言えません。「実際には視覚ではなく・・・」といった発言に対して、「どういうこと」と聞き返しながら、言葉を足させます。「水の音だけを聞いて想像した」という言葉を引き出しました。拍手が起こります。授業者は大切な言葉なので、もう一度言わせます。「感動しちゃう」というつぶやきを拾い、「どういことに感動したか」と問い返します。子どもの言葉を大切に受け止めながら、問い返すことで根拠やその内容を常に明確にしようとします。

「どんな音だと思う?大きい音?小さい音?」と聞いていきます。答えられない子どもには「もう一度聞くから、考えておいてね」と、すぐにとばして次の子どもを指名しました。もう一度聞くとしておけば、とばされてもその後集中して参加します。テンポを崩さないよい方法です。「小さい音」から情景が広がっていくことを子ども役の発言から共有しましたが、それで終わりではなく、最後に「俳句を読むときは五感に頼る」と俳句を読むための方法を明確にしました。「古池や」の句を読むことを通じて俳句を読む力をつけようとする授業でした。
20分と短い時間でしたが、子どもの言葉を活かす授業、根拠をもとに考える国語の授業とはどのようなものかが具体的に示されたと思います。

この模擬授業の検討は、「3シーン授業検討法」を用いて行われました。この授業検討会のコーディネーター(司会)は午前の部でもコーディネーターを務めた、小牧市立小牧中学校の校長の玉置崇先生です。「3シーン授業検討法」は、授業検討者が「よかった」「気になった」などと心が動いた場面を、授業の開始から1分ごとに挙手してもらい、多くの人の心が動いた3つのシーン(今回は時間の関係で2つとなりました)に絞り、その場面をビデオで確認しながら検討をする方法です(詳しくは教育コラム「楽しく授業研究をしよう」参照)。

授業検討者の心が動いた場面は、何と言っても「心の視覚」の場面でした。皆さんの意見を聞いていきます。心が動いた場面ですので、どなたもしっかりと意見を発表します。「『心の視覚』という言葉を投げかけることで、共通の問題意識を持ち始めた」「『心の視覚』を『聴覚』に結びつけたことが素晴らしい」といった意見です。「心の視覚」を取り上げたことで子ども役に変化が起きたこと、考えを深めた授業技術が焦点化されていきました。ここで玉置先生は、「心の視覚」が子どもから出てくるとは予想はしていないはずと、授業者はどのような展開を予め予定していたかを聞きます。「静かさを表現している句なのに、なぜ『水の音』と音なの?」という疑問から考えさせるつもりだったそうです。なるほどと思わせる展開です。だからこそ、それをあっさり捨てて子どもからでてきた「心の視覚」を取り上げたすごさが浮かび上がります。「心の視覚」は子ども役からでてきた笑いでもわかるように、「わけわからない」言葉です。「だからこそ、ここから出発することで、子どもに考えさせることができると判断をした」という授業者の言葉から学ぶことは大きいと思いました。授業検討者の意見と授業者の考えを見事につなげる進行です。

もう一つの場面は、古池のイメージを発表させた場面でした。「これが1番だと思う」という言葉のよさ。発表に対する切り返しなどの授業技術について意見が出ました。玉置先生は「どの意見が素敵だと思った」と問いかけたことについて、「素敵」とした意図を授業者にたずねます。「素敵」とすることで、子どもたちの考えが「かきまぜられる」という答が返ってきました。「よかった」は答につながるものが選ばれます。「素敵」とすることで子どもの考えを一度混乱させ、多様な考えを引き出せるということです。ですから、日ごろから「素敵」という聞き方よくするそうです。私の考えとはまた違った意図になるほどと納得しました。

玉置先生は、「司会者の特権で気になるところを聞くのもいいです」と、古池のイメージの発表でずれた答えが出たとき何を考えたかを授業者に質問しました。このように、随所で司会者の意図的なかかわりを解説しながら進めます。授業者は、正直困ったと話しました。机間指導の時にいいことを書いていたので、その子ども役の列を指名したのだそうです。なるほど、受け止めながら、その間対策を考えていたそうです。「他にも書いていたでしょう」などと教師の都合で発言をし直させるのではなく、ここはすっぱりあきらめて、次に進めたということのようです。

多くの人の心が動いたところを取り上げることで、たくさんの発言を引き出すことができます。「3シーン授業検討法」のよさがよく伝わったと思います。そして、司会者がそれを焦点化し、この授業のよさを引き出し、授業者の意図とつなぐことでより多くのことが学べる検討会になりました。「検討会を授業としてみれば、全員参加をさせなければならない」という玉置先生の締めの言葉が司会者の重要性を象徴していると思います。玉置先生の司会者(授業者?)としての実力を見せつける検討会になりました。午後の部の最後のまとめで、3つの授業検討法を見て心が動いたかという問いかけをした時に、「3シーン授業検討法」に会場の手が一番挙がったことでもよくわかります。

次のグループを活用した「3+1」授業検討法については、「愛される学校づくりフォーラム2014 in京都(午後の部)(その2)」で。
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