授業研究に学校の進歩を見る

昨日の日記の続きです。授業研究は、3年生を担任している初任者の算数の授業でした。

小数の大きさの学習です。まず最初に教科書とノートを開かせます。めあてを板書しますが、脱字をしました。それに気づいた子どもが指摘をします。そのとき、「ごめんなさい、ありがとう。よく気づいてくれましたね」と言葉を返しました。とてもよい対応だと思います。以前と比べて、子どもたちとの人間関係がよくなっていると感じたのもこのようなことが影響しているのかもしれません。

黒板に最初の課題、「2.3は1を何こと0.1を何こあわせた数ですか。また2.3は0.1を何こ集めた数ですか」を貼ります。課題を黒板に貼るのであれば教科書を開く必要はありません。黒板への集中を妨げる可能性があります。授業者はノートに答を書き、考えをまとめるように指示をします。子どもが書き始めてすぐに、黒板に数直線を貼りました。ここで、数直線の性質の確認をします。なぜこのタイミングか疑問がわきます。課題に取り組む前にヒントとして提示するつもりだったのを忘れたのかもしれません。子どもか書き始めているということは自分の考えを持てているということです。ここであえて提示するということは、子どもに数直線で考えろと誘導していることになります。もし、違ったことを考えている子どもがいれば、混乱する可能性があります。

できた子どもに、いつものようにしていいと指示します。できた子どもから友だちと確かめ合います。5人のうち真ん中の2人がちょっと手間取っています。端にいる子どもが移動して3人となり、真ん中の子どものすぐ横で確かめ合いが始まりました。ノートを手に、立って話をします。これでは、できていない子どもにはプレッシャーがかかると同時に集中力を乱されることにつながります。人数が少ないので確かめ合うのに移動が必要になるのはわかりますが、それならば最初からグループの形にしておけばいいでしょう。5人ですので、全員の考えを全体で確認することもできます。できた子どもへは、「他の説明を考える」といった別の指示でもよかったかもしれません。

子どもに答を言わせます。「1が2個、0.1が3個」と答えます。子どもたちから「いいと思います」という声が上がります。続いて、考え方を問いました。まず答はあっていると安心させてから、説明させようということなのでしょう。
子どもが説明している間、授業者はしゃがんでいます。教師ではなく、友だちに説明するという意識を持たせようとしています。しかし、黒板の数直線を使って説明している時に、聞いている子どもの視線は発表者を向いているのですが、発表者は黒板の方を向いてしまっていました。ここは指導したいところです。

子どもが説明しをした後に、授業者は余計な説明をしません。次の子どもを指名します。数直線を使って、「0.3は3つの小さい線です」と目盛りを指して説明した子どもがいました。授業者は「図を使って説明してくれところがよかった」と評価して、先に進みます。評価するのはとても大切なのですが、ここで「図」を使ったことをよかったと言うのはちょっと疑問です。算数的な道具である「数直線」を使ったと評価すべきでしょう。また、「小さい線」は用語として「目盛り」に修正する必要があります。「小さい線って何?」「なんて言ったっけ?」と子どもたちに問い返して、確認すべきところです。目盛りという言葉を子どもたちから引き出して、「目盛りが3つなんだ。目盛りが3つってどういうこと?」「目盛り1つはどれだけ?」「何が3つだと目盛りが3つなの」といった問いかけをし、「目盛り1つが、0.1」「目盛りが3つで、0.1が3つ」と数直線の目盛りの意味から、「0.3は0.1が3つ集まったもの」を説明させたかったところです。子どもたちに、ただ続けて説明を重ねさせても考えが深まるわけではありません。教師が子どもに問い返したりして、焦点化することが必要です。昨日の日記にも書いたように、他の先生方と共通する課題でした。
とはいえ、以前に子どもが説明するとすぐに自分で説明を始めていたことを思うと格段の進歩です。発表がよく聞けていないと思えば、子どもにもう一度言わせます。授業者が説明をしないので、子どもは自分たちで積極的に説明しようとします。授業への参加意欲が高くなっています。

1人の子どもが困っています。何がわからないかを言うことができません。「答はわかるけどまとめ方がわからない」というのです。子どもたちは、わかってもらおうとその子に向かって一生懸命説明します。何がわからないかを聞かれる、わかったかを確認されるので、責められているように感じたのでしょうか、わからない子どもの表情が暗くなります。何がわからないかが明確でないまま、いろいろとを言われてもなかなか納得できないようです。こういう状況であれば、とりあえず答はわかったのだからと、納得して見せる子どもが多いのですが、この子どもは「考え方がわからない」と言い続けました。この子どもがわからないと言い続けてくれたので、他の子どもたちは何とかわかってもらおうと頑張ります。この間授業者はしゃがんだままです。子どもたちは互いに見合って、よい表情で話し合っていました。子どもたちのかかわり合う力を感じることができました。そういえば、昨年の担任はグループを活用しながら、教師ができるだけ前に出ないで子ども同士をかかわらせることをしていました。今年度になって、そのような姿を見なかったのですが、授業者がしゃべることを控えたことで引き出すことができたようです。

子どもたちは、自分の説明を繰り返すしかありません。どこがわからないかわからなかったからです。わかっている子どもに説明させるのではなく、わからない子どもに、わかっていること、気づいていることを言わせる発想も必要です。ノートを見ると「1/10の位が3こ」と書いてあります。授業者が位取り記数法しっかり意識して指導してきたことがわかります。このことを説明させればよかったと思います。途中で数直線を出したため、それを使って説明しなければいけないと思ってわからなくなったのではないでしょうか。「1/10を小数に直すといくつ」と問い返し、「0.1は数直線のどこにある」と数直線につなげれば、様子は違ったかもしれません。また、答は「1が2個、0.1が3個」でよいのですが、「2.3は、1が2個、0.1が3個合わさったもの」と言葉を足してやることも必要だったと思います。「数直線のどこに、1が2個、0.1が3個ある?」と数直線とつなぎ、「合わせるとどこになる?」「いくつになる」と問い返すという方法もあったように思います。

わからない子どもが納得してくれないので、授業者も手詰まりになってしまいました。そこで、次の問題をとばして、教科書の類題に取り組ませました。「3.8は1を何こと0.1を何こあわせた数ですか。また3.8は0.1を何こ集めた数ですか」です。子どもたちは先ほどと同じように集まって確かめ合います。最後には全員立って話し合っています。授業者はその様子を後ろから覗いていました。この状態になるのであれば、やはりグループにして話し合わせた方がよいでしょう。あらためて、全体で発表しますが、説明の苦手な子どもが、指で数直線をなぞりながら数を言って説明しました。指の動きも立派な表現手段です。「みんな気がついた。○○さんは指を使ってくれたね。どうよくわかった」といった評価をしたいところです。しかし、類題ですから説明自体は先ほどと大きくは変わりません。結局、「考え方がわからない」といった子どもは最後までわからないと言ったままでした。

以前見た2回と比べると授業者は大きく変化していました。子どもの言葉を大切にしようとしています。授業者がしゃべらなくなっただけ、子どもの発言意欲が増しています。また、友だちとのかかわりを大切にするようになっています。とてもうれしい変化でした。

授業検討会では、この授業をどのように皆さんが評価するかとても楽しみでした。
まず子どもたちがしっかりとかかわっていたことが評価されました。授業者が自分で説明しなかったことも、肯定的に見ています。わからなかった子どもが最後までわからないと言えたことは、とてもすごいことだと評価した上で、どうすればよかったのかに話し合いが集中しました。授業者への批判は一切なく、自分が授業者だったらどう対応しただろう、どう対応すればよかったのだろうと、自分のこととして考えていました。とてもうれしいことです。検討会の場ででた疑問や課題を次の授業研究へ引き継いでいくようになってほしいと思います。

今回授業者が苦しんだのは、どこがわからないのかが明確でなかったことです。子どもは一気に説明します。その説明がわかったかどうかを聞いても、どこがわからないかは明確になりません。説明を途中で止めながら、「ここまで、納得した?」と確認することで、つまずいているところが明確になります。説明を授業者が意図的に区切ることも大切です。
この場面が多様な意見を出させたいのか、数直線を使って説明できるようにしたいのかでも進め方は違ってきます。もし後者であれば、最初に前時の復習をするといいでしょう。定規を使って小数を導入していたのですから、2.3cmを定規をつかってあらわすのです。「2cmだから1cmの目盛りが2つ、0.3cmだから1mmの目盛りが3つ」「1mmの目盛りはcmでいうと0.1cm」「1cmの目盛りを2つ、0.1cmの目盛りを3つ」といったやり取りをしておくのです。こうすることで、最初の課題は自然に数直線に結びつけることができます。

わからなかった子どもは、2.3を序数でとらえていたのではないかという意見がありました。「合わせる」「集める」が強調されていなかったのでその可能性はあります。類題ではなく、教科書の「0.1を28こ集めた数をかきましょう」に取り組ませた方がよかったのではないかと言うわけです。逆の視点で考えることで理解できることはよくあります。「数直線上で、0.1を23個集めることを、数えながらおこなうと、2.3になる」「0.1を10集めると1だから、1を2個と0.1を3個として、数直線上で合わせると2.3になる」「23は10が2つと3を合わせたもので、0.1が10で1だから、2と0.1が3で2.3となる」といった説明をひかくすることで、数直線での考え方、位取り記数法での考え方をつなぐことができたかもしれません。

授業検討会は前向きな意見ばかりで、とてもよい雰囲気でした。授業だけでなく、授業検討会もよい方向に変化してきていると思います。
足かけ2年間のおつき合いでしたが、とても貴重な学びをすることができました。私にとって小規模校でのアドバイスは初めての経験でした。小規模であるが故に、教師が子どもとかかわりすぎてかえって子ども同士のかかわりが弱いということは盲点でした。また、少ない人数ですの、子どもたちの変化もよく見ることができます。先生方の変化がどう子どもたちに影響するのかもよくわかりました。このような素晴らしい学びの機会を得られたことに心から感謝します。
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